アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO! 作:形のない者
神浜競馬場。魔女反応の出処を探しに走っていた悪魔は、闇雲ながら直感に従ってそこに辿り着いた。真昼間で
今までの経験から、競馬場内で起こっているであろう事態の内容を推測する悪魔は中に入る。
消灯された屋内。暗闇を突き進むと、不意に腰の匣が震えた。
「悪魔。ドクターストップだ。君は今、魔女と戦おうとしているね? これ以上は君の体が持たないよ」
悪魔は無視して競馬場の真っ暗な通路をひた走る。
「一昨日まで二木市で拷問を受けており、昨日は宝崎市で悪魔契約魔法を行使、それにより著しく生命力を消耗した。今朝も新西区で無理を押して魔女と戦い気絶。南凪区では魔女ガタリという正体不明の新種とも戦い、さらには助太刀魔法と逆転勝利魔法を敢行した。ゲーム風に言えば、君のHPバーは常に赤ラインだ。もはや歩行もままならないはずだよ。また意識を失いたいのかい?」
悪魔は目の前が揺らぎ、ふらっとよろけて通路の壁に肩がぶつかり、なんとか体勢を整えるため寄りかかる。
「なぜそこまで? まさか
「……」
「わけがわからないよ。個体を助ける為に個体が犠牲になろうとするのは、どういう損益で物事を判断しているんだい?」
「……人の命に損も得もない。お前こそ何度同じ質問を人類にすれば気が済むんだ」
「なるべく理解しようと努めているんじゃないか」
「勤めるの間違いだろ。その努力は利用する為の理解であり、同情と救済の為の理解ではない」
平行線の話を切り上げて悪魔は突き進む。通路の先に光が見える。一歩を踏みしめて外に出れば緑の芝生と眩しくも暖かな陽光。そして競馬場の中心点に魔女結界のゲートを確認。その手前には一人の少女が立っていた。
「あれは……」
見覚えのある髪型。黒髪の両端を青いリボンでまとめている可愛らしい女の子は、先ほど千秋屋という弁当屋で見た看板娘だ。
「────おい。魔法少女だったのか……」
「え……?」
悪魔の呼び声に振り返った女の子は、とても驚いた様子で悪魔の顔をまじまじと見つめる。
「オレは悪魔だ。名前は物騒かもしれないが、基本的に魔法少女の味方と思ってくれていい。それで、君の名前は?」
「えっと……千秋理子、と言います……」
「今から魔女退治か? 魔女の口付けを受けた人々はどうした」
「あ、今アシュお姉ちゃんが保護してて……わたしは、アシュお姉ちゃんが戻ってくるまで待機ってことになって……」
どうやら千秋理子には「アシュ」という仲間がいるらしい。そして話を聞くに、魔女の口付けを受けた人々は結界の中に入る前に保護されたようだ。それを聞いて悪魔は安堵する。人の命が掛かっている状況でなくなれば、あとは冷静沈着に動いて魔女に対処するだけだ。
「良い判断だ。オレの出番は無さそうだな」
「…………」
千秋理子は何かを訊きたそうにしている。その思考内容を直感した悪魔は応えた。
「なぜ魔女の口付けを受けていないのか気になっているのか?」
「えっ!? あ、はい……で、でも、それだけじゃなくて、もっと色々と……!」
「構わない。仲間が戻ってくるまで好きに質問するがいいさ」
すると千秋理子は、少し考えてから口を開いた。
「その……悪魔? さんは……魔法少女なんでしょうか……!?」
「あいにくただの人間だ。そもそもオレは男だぞ」
「あっ! そ、そうでした……」
悪魔の姿を見れば当たり前のことを、驚きのあまりとはいえ忘れ去っていたことに、千秋理子は顔を赤くする。
そのとき、競馬場の屋根を飛び越えて、空から金髪の魔法少女が降りてきた。
「理子! お待たせしましたネー!」
「あ! アシュお姉ちゃん!」
金髪緋眼の美少女。赤と黒やアシンメトリーを基調としたゴシック的な衣装を着ており、傍らには紫色のクマのぬいぐるみが浮遊している。
対する千秋理子は黒髪青目の美少女。白い服に青と水色のラインが走るワンピースとエプロンを合わせたような可愛らしい衣装を着ている。手元には不思議な槍のような物を携えているが、まさかアレは弁当のウインナーとかに刺すピックだろうかと悪魔は思案する。
「What? 理子……こちらの殿方はどちらサマなのデショー?」
「あ、えっとね……アシュお姉ちゃん。この人、悪魔さんなんだって!」
「────
「あ、でも! いい悪魔さんだよ!」
まだ何もしていないのに善良な存在と判断するのは、千秋理子が純心だからか、はたまた優しすぎるのか、その両方か。
「悪魔だ。よろしく。もし魔女退治に苦戦するようなら加勢する。特に報酬は期待していない。単なるボランティア活動とでも思えばいい」
「ボランティア! 本当にイイ人そうデス! よろしくお願いしますネ! ……あ! ワタシはアシュリー・テイラー デース!」
「……理子とアシュリーか。では、お手なみ拝見と行かせてもらおうか」
理子に限らず、アシュリーも「悪魔」という単語を聞いておきながら完全に信用体勢に入っている。もう少し人を疑う心があっても良いのではないかと思うが、信頼してくれる分には都合が良いため悪魔はツッコミを放棄した。
「それでは理子! アシュお姉ちゃんと行きマスヨ!」
「うん!」
アシュリーと理子がゲートに飛び込む。そのとき後方から犬の鳴き声が聞こえてきた気がした。そういえば理子はマメジと呼ばれる犬と散歩していたはずだ。魔女退治に連れて行くわけには行かないから、どこか遠い公園で紐につなぎ止めているのだろうか。
(心配そうな鳴き声だな……マメジはなんとなくだが、自分の
悪魔もゲートに飛び込む。すると真昼間の競馬場は、黄色と紫が混じる空へと変わり、水晶と四葉のクローバーが舞い散る光景へと様相を様変わりさせた。多くの使い魔たちは侵入者たちに気付いてないのか、おもちゃのボールに体当りしたり、小さめのボールをバットのような棍棒で打ち飛ばしたり、ボールをバウンドさせて走ったりと、どこかスポーツでもやっているかのような動きをしている。
悪魔は傍らに青色の水たまりを発見。人差し指を浸けてペロリと舐めるとラムネの味がした。
(魔女結界の光景が一色に染まっていない……おそらく多重属性タイプの魔女か。これは強敵だぞ……)
「やー!」
「ウラァアアア!」
前方では理子とアシュリーが使い魔の群れと戦闘開始。武器と魔力弾のゴリ押しで突破しているが、その突破力が凄まじい。悪魔は感心していると、匣の中からキュゥべえが語りかけてきた。
「さっきの声は千秋理子とアシュリー・テイラーかな? 千秋理子はかなりの魔力係数を秘めている。才能があるのは当然だ。きっと数年後には神浜市でも随一の魔法少女に育っている事だろう」
「つまり最大の魔女に成長すると言いたいわけか。ではアシュリー・テイラーは?」
「至って普通かな。ただし有用な魔法少女ではある。彼女が何らかの要因で絶望または死亡した時、千秋理子の感情は大きく揺さぶられて、より
「黙れ」
そんなことだろうとは思っていた悪魔だが、いざ感情のない声色で淡々と、滔々と、彼女たちが魔女化するまでの計画を聞かされると吐き気を催さざるを得なかった。
理子とアシュリーは難なく使い魔の群れの一団を撃破。遠くに見える魔女まで近付いていく。悪魔もはぐれ使い魔の一匹二匹を死ぬ気の炎の噴射で燃やし尽くしながら悠然と歩いていく。
(ふむ……)
二人の戦いぶりを見守る悪魔は「惜しい」と思い始める。それはどの魔法少女にも言えることだが、彼女達は魔力放出のゴリ押しで戦闘するのが常識となっている。それは非常に燃費が悪い戦い方で、節約や効率というものを知らない。それではソウルジェムに無駄な穢れが溜まる一方だ。しかしそれも仕方ない。魔女との戦闘について最初に教えてくれるのは、(魔女化を促したい)キュゥべえなのだから。
しかし一部の賢い魔法少女──例えば巴マミや佐倉杏子──は、魔力の節約と戦闘の効率化を図るため修行し、長期戦に耐える戦闘スタイルを確立している。それを知る悪魔からすれば、新米魔法少女の命を守る為にも、魔法のいろはを叩き込みたい欲望が芽生えるのは自然な発想だった。実際、今までの旅路の中で、悪魔が家庭教師を務めた魔法少女は長生きしている。だが悪魔の目的は別の所にある。いつまでも他人に関わっていられるほど余裕はない。……と言いつつ、妹の蘇生やキュゥべえへの復讐という目的を棚上げしてこんなところにいる時点で、彼はどうしようもないお人好しであることを自覚していた。
(……オレが家庭教師か。これまた自惚れが過ぎる妄想をしてしまったな……)
悪魔は失笑する。そんなことを考えているうちに理子とアシュリーは魔女の目前まで到達。決戦が始まる。
(────ッ!?)
その時、悪魔の全身が悪寒により総毛立った。彼の超直感が“これから先の死闘”を予見したのである。
†