アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO! 作:形のない者
いつの間にか放り投げられていた三枚のコインが地に落ちる。
その出目はなんと────どれも“不運の裏”を見せていた。
「バカなッ!」
「フハハ喰らえッ! 我がスペル・オブ・アイアンの恐ろしさを────ッ!!」
悪魔の頭上に落石が降り、理子の背後に脱走した馬が駆け寄り、アシュリーの側面に近くで隠れていた使い魔が高速接近する。それは転移ではない。偶然なる必然として、不運の事象を
悪魔は回避のため曲線を描いて空を飛ぶ。だが落石は、悪魔に命中するのが運命だというように、対象を上回るスピードで激突してきた。すかさず悪魔は雷の炎を放射して即席の盾を作る。激突。大岩の炸裂。弾けて散逸したいしつぶてが顔を掠め、皮膚に小さなコイン(二枚目)が浮き出てくる。
「理子、危ないデス!」
「え……?」
馬の後ろに立ってはいけない。
突如、興奮した馬は後ろ足を蹴り上げて、理子の背中を強打して突き飛ばした。
「理子……!」
「…………ッ!」
間髪を容れずアシュリーの側面から迫り来る使い魔。
「この……!
アシュリーの魔法によって操作されるテディベアの熊乃介が迎撃に出る。熊乃介の拳による
「っ!」
「ア……アシュ……おねえちゃん……」
「理子! ワタシは大丈夫デス! それより理子は背中のケガを……! いま魔力を回しマス!」
アシュリーは理子の体に魔力を回すことで高速治癒を促す。
一方、命輪は現在、悪魔の不運にしか興味がないのか、アシュリーと理子から目を離した。この戦闘に怯えて何もできない、驚異にならない存在と判断したのだろう。
「……さっきの魔女はな。テメェらがちんたら使い魔と戦っている間に、私がとっくに占っていたんだ。コイントスの一回目は不運の裏だった。二回目も、三回目もそうだ。四回目は幸運の表だったが、その対象者は私自身だった。結果、私は
着地した悪魔は牽制の構えを取りながら、静かに心の内で問い掛けた。
(────キュゥべえ。もしオレに念話を繋いでいるなら応答してくれ)
(なんだい? 黙れと言ったのは君じゃないか)
(今は冗談を言い合っている場合じゃない。命輪は魔法少女だ。だとしたらアイツの固有魔法を知っているはずだろう。教えてほしい)
(……残念ながら、僕は命輪なんていう人間と契約した覚えはない)
(……なんだと?)
(だが、彼女と似た人物となら契約した覚えがある。でも、これはどういうことだろう? 顔も虹彩も声紋も全くの同一人物。なのに性格が面白いくらい真逆だ)
(どういうことだ)
(ボクにもさっぱりだよ)
(憶測でもいい。その似ている奴とは誰だ)
キュゥべえは簡潔に答える。
(────
†
(……礼を言う。懸念点はさておき、今は生き残ることが先決だ。
悪魔は念話を切って命輪を睨む。
「……おっと。腰のキュゥべえちゃんとお話して、完璧な作戦でも立てたのかな?」
「あぁ。今から答え合わせと行こう。それからぶちのめし、冥土に送り返してやる」
背後では嗚咽する理子と、それを庇うアシュリーがいる。
彼女たちを守りながら戦闘したい悪魔は、命輪に歩み寄りながら、彼女の能力を暴き立てる。
「固有魔法《未来誘導》……スタンド《
悪魔は暴く。
──理子とアシュリーが使い魔の群れと戦闘している間……命輪は自身を対象に固有魔法《未来誘導》を発動して、十分先の未来を占った。その結果、命輪は知った。
「そこから
つまり命輪は、次のコイントスの出目を知っているわけだから、“幸運の表”が出るのなら対象は命輪自身に……“不運の裏”が出るのなら対象は悪魔たちに……このように
「……で? だからなんだって話だよ。表が出れば私の有利。裏が出ればテメェの不利。その上で私をどう倒す?」
「倒せない。どう転んでも利益はそちらに、不利益はこちらに舞い込むのだから」
悪魔の足取りは一定だ。あと十歩で命輪の──不可視の存在の──射程距離に入る。
「ならば……負けを認めるのか?」
「あぁ。
あと五歩。
「古代の刑罰には「目には目、歯には歯」という言葉がある……同害報復という意味だ。ギリシア神話の英雄テセウスも、棍棒で殺そうとしてきた奴には奪い取った棍棒で殺し返し、八つ裂きにして殺そうとしてきた奴には八つ裂きで殺し返し、溺死させようとしてきた奴には溺死で返礼し、レスリングで殺そうとしてきた奴にはレスリングで殺し返し、足を切り落とそうとしてきた奴の足を切り落として殺し返した……クレイジーだがクレバーな奴だぜ。────この意味が分かるか?
故に問おう。殺すつもりがあるのなら……殺されるつもりも、当然あるんだろうな……」
最後の一歩を踏み締めた瞬間「オラァ!!」という雄叫びと同時に、命輪の前方に空気の圧力が生じた。それは不可視の存在が腕のような物を振るってきた証だと悪魔は直感する。そこで思う。不可視の存在の行動心理を超直感で感じ取れるということは、スタンドとは生命的な、あるいは精神的・霊的な存在なのだろうと推理した。
「コインを振れよ」
「!?」
悪魔は超直感により敵スタンドの攻撃箇所を読み、完璧なガードで防いでいた。
「お前は未来に縛られている。コインを振らない理由は、固有魔法《未来誘導》の中で見た
「ッ……」
「怯えるなよ。仕方ないさ。もし未来予知の映像から外れた行動を取れば、そこから先の出来事は命輪にとって未知数になる。それが怖くてコイントスを避けているんだ。未来予知の内容に逆らえば、せっかく知った運命が水の泡になるからな……」
「オラァ!!」
軽い衝撃音。敵スタンドの攻撃を片手の炎で防いだ悪魔は、もう片方の腕を振るって命輪の顔面を殴り抜いた。
「ぶげぁああああああああ!!?」
「……物事というものは等価交換で成り立っている。お前のスタンド、能力の破壊力は高いが、スタンド自体の破壊力はあまりないみたいだな」
競馬場の芝生を抉って地を転がった命輪は、頭から血を流しながら、くつくつと嘲笑うように立ち上がる。
「ハハハ……何を勝ち誇ってやがる……全く事態は好転してないぜ……なぜなら私が殴られたのも……」
「固有魔法《未来誘導》で見た決定事項だから、だろう?」
「…………」
「気になるか? オレが何を狙っているのか。ただ自暴自棄になって虚しい余裕をぶっこいてるわけじゃないぜ。決まりきった未来から外れることに怯えているお前と違ってな」
悪魔は歩き続ける。命輪に向かって。
「……ハン! どんなに煽られても、私が余計なコイントスを振ることはないぜ!」
「だろうな。それでいい。
「……! なに? オイ、それはどういうことだ!」
「どうした? まさかもう自信を失くし始めたのか?」
悪魔は足を止めた。命輪が指の間に挟んだ
「へへん……今度は一点集中だ……予言してやるよ。四枚とも“不運の裏”が出る……」
「信じよう。さっさと振れ。
命輪の眉間の血管が広がって膨れ上がる。
「糞が! あの煽り屋に喰らわせろ! スペル・オブ・アイアンッ!!」
四枚のコインが地に落ちる。そのどれもが“不運の裏”を見せていた。
「言っとくがなぁ! たった一回の不運でも死ぬ確率はあるんだぜ! 十回目の後の“破滅”が絶対の死を意味するだけで……はたして四連続の不運に、貴様のその既にボロボロの肉体は耐え切れるのかな!?」
「耐えなければ勝てないのなら、耐え切るしかないだろう」
神浜競馬場に響く轟音。芝生に散乱する魔女の肉片がピクピクと痙攣を始め、ひとりでに動き出し、集合し始める。どんどん合体していく肉片は、やがて生前の魔女と同様の形を象り、紅蓮の触手を乱舞させて、その全てを悪魔に向かわせた。
「出た! 魔女復活の不運だ! 怒涛の刺し傷で抉られろォ!」
悪魔は逆噴射で回避行動を取る。大空の炎の噴射力を活かした超高速の立体機動。
しかし四つの不運は実力の勝利を許さない。悪魔のスピードを上回る速さで、一本目の槍が悪魔の右肩を貫通する。激痛に顔を歪ませてスピードが落ちた悪魔に向かって、二本目の槍が差し迫る。悪魔は更にブーストを掛けて引き離すが、運の悪い事に別の触手にぶつかって軌道を変えた二本目の槍が悪魔の左脚に命中する。立て続けに三本目の槍が悪魔の頭部を抉るように掠め、四本目の槍が悪魔の右脇腹を貫通した。
「チクショウ! 運のイイ奴だぜ……!!」
「ぐっ……がはっ……!」
右腕と左脚は使い物にならなくなった。右腹部貫通により胴体の動作もままならない。なにより頭部の一撃がまずかった。脳震盪を起こしているのか視界が回転し明滅する。喉元から込み上がる熱さを吐き出し、瘴気混じりの血だまりが足元に広がった。
そして悪魔の体には、四つのコインが浮き出て引っ付く。これで合計六枚。あと四枚で破滅の時が訪れる……。
「……そんな……」
「あ、悪魔さん……」
致命傷を喰らった悪魔を目にし、アシュリーと理子が青ざめる。
「よしよし……」
命輪の笑顔は、次なるコインに向けられている。それは安心の感情。敵を倒す喜びではなく、自らの利益に安堵する喜びだと、悪魔は直感した。
「ッ……!」
その時、アシュリー・テイラーは我慢ならず立ち上がろうとした。
しかし、それを千秋理子が制す。
(────そうだ。まだだ。まだダメなんだ。全てを水の泡にするつもりか? 全てはお前に掛かっている……)
†