※この作品はR-18です。

アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO!   作:形のない者

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【それはね。未来予知系は、より強い因果の前には無力なんだ。だから未来予知は参考程度にしといた方が身の為だよ。基本的に予知とは外れるものだからね】Dキュゥべえ〔パラレル〕

 

「へへん……これでトドメだ! 行くぜ、スペル・オブ・アイアン!」

 

 命輪は一枚のコインを投げる。すると出た目は“幸運の表”だった。

 

「あーっと! 残念! ここで“幸運の表”とはァ! ……でも安心! なんと対象は私でしたぁ! さぁどんな幸運がやってくるのかなぁ?」

 

 わざとらしい口ぶりで、命輪は鼻歌を歌いながら手のひらを掲げる。

 

 上空には大型の鳥が飛んでいた。その鉤爪には何かを包んだ風呂敷が捕まえられている。しかし不運なことに、鳥はそれを落としてしまい、自由落下した風呂敷の塊は、なんと命輪の手のひらの上に落っこちた。

 

「おーっと! これは誰かの弁当だぁ! あの鳥はワシかなぁ? 南凪区あたりの海浜公園から、誰かの弁当をひったくってきたのかなぁ? ラッキー! これで今日の食費が浮くぜぇ!」

「…………」

 

 命輪は固有魔法《未来誘導》による力で、この十分間に何が起きるのか全て把握している。故に驚いているのは全くの演技であり、ふざけた狂言者である。また、未来誘導と未来予知は異なる能力だが、おそらく《未来予知》は派生魔法の一種として開発したのだろう。

 これはあくまで悪魔の独断と偏見だが、ベテラン魔法少女の条件とは、三年以上生き残っているか、魔力の七属性に気付いた魔法少女か、派生魔法を開発した魔法少女のいずれかが、ベテランと呼ぶに値すると思っている。

 

「……下手な演技はよせ。こっちはさっさと“不運の裏”を出してほしいんだ」

「……ハァ? あのさぁ。そういうこと言っちゃっていいの? 何か狙ってんのは分かるが、私の能力は無敵だと確信しているが、それでも万が一って時には逃げることも視野に入れてんだぜ?」

「だったら今のうちに逃げることだな。まぁそれすらもできないか……お前の見た未来に、お前が逃げる光景は映っていなかっただろうから」

「────瀕死の重体で悪態つくとは、よほどの馬鹿か死にたがりか、煽りに生涯を費やす酔狂か……」

 

 命輪は三枚のコインを取り出す。

 

「予言するぜ。次のコインは、またまた三つとも“不運の裏”だ」

「……そうか。オレは相当に運が悪いな。あるいはそのコイン、裏が出やすいように細工されているのか?」

「へっ……ボケた真似はよせよ。《未来誘導》を使えば、出た目を操作することができる。未来予知の中で未来誘導を発動させれば、魔力の消費はデカいものの、想定通りの順番で“不運の裏”は出てくれる」

「そうか。ところで言葉を返すようで悪いが、二回も同じことを喋っていて疲れないのか?」

 

 未来予知で見た以上、命輪にとってこの会話は二回目にも感じられるはず。

 そんなどうでもいいことを指摘した悪魔は、次の三つの不運に備える。

 

「……おっと、ごめん。実は使うコインは四枚でしたぁ!」

「!」

 

 命輪は四枚目のコインを取り出す。

 

「へへん……アンタの言う通り、決められた未来ってのは面白くない。だから最後の一枚は実(・)力(・)で(・)裏(・)を(・)出(・)す(・)と決めているんだ……ま、ルーティーンってやつだな」

「……なるほど。良い心懸けだ。ということは、やはりそのコイントス……詐欺師のように、手首の返し等で、ある程度はコインの出目を操作できるのか?」

「ご名答。だから次の出目は全て“不運の裏”だぜ……前三回は未来誘導によって運命づけられた結果だが、後一回は私自身の実力で作り出した結果になるはずだ。まぁ裏が出ることは分かりきってるが、ちょっとした“もしも”を期待するスリルってやつだ……だからお前のために表が出て外れちまう未来を期待してやるぜ……へへ……だ(・)が(・)裏(・)が(・)出(・)る(・)。それによって貴様は破滅する……我がスペル・オブ・アイアンの“最悪の不運”によって!」

「…………」

 

 悪魔の額に汗が滲む。その一瞬を命輪は見逃さなかった。

 

「…………」

 

 しかし命輪は何も言わない。その気付きは未(・)来(・)予(・)知(・)に(・)無(・)か(・)っ(・)た(・)出(・)来(・)事(・)だ。故に気付かなかったフリをする。そうすれば決まりきった未来がズレる可能性を避けることができるから。

 

「────さぁて……運命と技巧のコイントスだ」

「────あぁ。そのようだな……信じるぜ、命輪(お前)の腕を」

 

 命輪は四枚のコインを投げる。

 

「これで終わりだ! 破滅しろォ! スペル・オブ・アイアン────ッッ!!」

 

(四……縁起の悪い数字だぜ……もしかしたら命輪は、最後の実力のコイントスを失敗して“幸運の表”を出してしまうかもしれない。そうなれば負けは必定だ。奴は不測の事態に戸惑い逃走を図るだろう。この致命傷では追跡は不可能。だからこそ、こんな危険な能力者は、ここで確実に仕留めておきたい。人殺しを愉しむ存在を、みすみす逃がすことはできない!

 これは覚悟だ! どんな手を尽くしても絶対に奴を始末する……その覚悟を、既にオレは決めているッ!!)

 

 地に落ちて跳ねる四枚のコイン。その全てが地面と平行に静止する時、悪魔の“不運の裏”は運命づけられた。

 

「出た! 圧死だ! 地面に気を付けろよ! 地割れにハマって貴様は死ぬ! それは避けられぬ運命だから教えたッ!!」

「ッ!」

 

 ①暗雲が立ち込めてゲリラ的な豪雨が降る。②地響きが起きる。③芝生に亀裂が走る。④悪魔は亀裂の上から逃れようとしたが、運の悪いことに地響きで体がよろけて、雨水の溜まった窪みに足を滑らせてしまった。悪魔は地割れの中に落下する。続く地響きは地割れの亀裂を塞ごうと閉じようとしていく。

 

「悪魔さん!」

 

 叫ぶような理子の呼び声。直後、悪魔は片腕の逆噴射で急上昇し、地割れに挟まる寸前の所で脱出を成し遂げた。

 

「ハハァ! スゲェぜ! とんだ生命力だ! ゴキブリ並みの生き汚さだなぁ!? だがいいぞ! これで私の人生の中で、初めて人の破滅が見られる! 今までブチ殺してきた奴らはみんな“不運の裏”で死んじまったからなァ! さぁ、何が起きるのか見せてくれ! “最大の不運”ってのは何が起こるんだ!?」

 

 新たに四枚のコインが悪魔の体に浮き出る。

 合計十枚のコインが引っ付いたことで────“最悪の不運”が発動した。

 

「…………」

 

 悪魔は空中で炎が途切れて地表に落下する。が、途中で縦回転して華麗に着地。しかし満身創痍のため着地後すぐ頭から倒れてしまう。だがそれで首の骨を折るだとかは起こらない。

 

「…………?」

 

 悪魔は起き上がる。その瞬間、血圧が爆発的に上昇して脳漿が破裂する。なんてことは起こらない。

 まだ“最悪の不運”は発動していない。

 

「…………? ? ??」

 

 命輪は悪魔の破滅を待ち望んでいる。だが一向に破滅らしきものはやって来ない。これはいったいどうしたことか。

 

「かはっ……ぐっ……っ……あ、アシュリー……手はず通りに、固(・)有(・)魔(・)法(・)は(・)発(・)動(・)さ(・)せ(・)た(・)の(・)か(・)……?」

「…………??????????」

 

 命輪は困惑している。徐々に汗が噴き出してくる。なぜなら命輪が見た未来予知では、悪魔が着地時に頭から倒れたことで首(・)の(・)骨(・)が(・)折(・)れ(・)て(・)頭(・)部(・)が(・)上(・)に(・)弾(・)け(・)跳(・)び(・)、(・)雨(・)雲(・)の(・)到(・)来(・)と(・)い(・)う(・)気(・)圧(・)の(・)変(・)化(・)に(・)耐(・)え(・)切(・)れ(・)ず(・)血(・)圧(・)が(・)急(・)上(・)昇(・)し(・)て(・)脳(・)漿(・)が(・)破(・)裂(・)し(・)て(・)死(・)ん(・)だ(・)のだから。

 

 そしてその後はとても愉快な虐殺ショー。金髪の魔法少女は体中の穴という穴から血を流して奮闘するが、四回目の“不運の裏”で外れクジを引いてしまう。運悪く建物の金属板が弾け飛んで命中し、胴体の上下を切り分けてしまった。泣き喚く青く幼い魔法少女は果敢にも挑みかかってくるが、早くも二回目の“不運の裏”で足を挫き、転倒した先に鋭い杭があった。先ほど地面に深々と突き刺さった金属板である。それが幼女の左胸を一突き。おお哀れかな。将来有望な魔法少女たちは肉体の高速再生能力を知らずにソウルジェムが割れてこの世を去る。高笑いする命輪は満足し、次なる標的を占い(探し)に行く。それで十分。

 

 ────そ(・)う(・)い(・)う(・)筋(・)書(・)き(・)に(・)な(・)る(・)は(・)ず(・)だ(・)っ(・)た(・)。

 

(……ま、ま、ま……まさか、まさか、まさかとは思うが……

 本当にあの野郎(悪魔)は、何(・)か(・)を(・)成(・)し(・)遂(・)げ(・)や(・)が(・)っ(・)た(・)の(・)か(・)……?)

 

 悪魔は何事もなく起き上がる。大量に出血してはいるが、今すぐ息絶えるような感じはしない。

 

「アシュリー……教えてくれ……血を流しすぎて……前が、暗い……目が見えないんだ……」

「────ッ! は、ハイ! 言われた通り、ワタシの固有魔法《スイッチ》を発動させマシタ!」

 

 命輪は絶句する。

 

(……スイッチ? それは電流を止めたり流したりする装置のことか? 鉄道のポイントを切り替えるやつのことか? それとも時代遅れのゲーム機のことか?)

 

 悪魔は意識が朦朧とする中で直感した。眼前の命輪が、わけわからないと言いたげな顔をしていることを。

 

「言ったはずだ……同害報復。目には目、歯には歯。……魔(・)法(・)に(・)は(・)魔(・)法(・)」

「────ッ!!」

「アシュリー・テイラーの固有魔法《スイッチ》……それは“受け止めた力を逆転させる”奇跡。対象に掛けることで、対象に反転の性質を付与する魔法だ。……黒魔術的には、呪い返しの一種だな」

「……受け止めた力……逆転……だと?」

 

 命輪は驚きのあまり、首がピクピクと痙攣する。

 自らの運命が破られた怒りに打ち震えているのか、眉間の血管が膨れ上がっていく。

 

「最初はお前のコインに《スイッチ》を掛けて“幸運の表”が出た時に発動させてやろうと考えた……そうすればお前は“幸運の表”が出る時と知っているため自らを対象にするわけだから、《スイッチ》の効果で出目は逆転し“不幸の裏”になる……お前に一度の不幸を浴びせて、一枚のコインを引っ付かせることもできたわけだ……」

「っ……! だ、だが、ならなぜ、そうしなかった……!」

「簡単なことだ。オ(・)レ(・)は(・)お(・)前(・)を(・)逃(・)が(・)さ(・)な(・)い(・)」

「────ッ!?」

「お前の性格的に未来予知が外れた時点で、臆病風に吹かれて逃走を図ることは目に見えていた……戦闘前から満身創痍だったオレの体では追跡は不可能。だから目(・)先(・)の(・)攻(・)略(・)法(・)は(・)捨(・)て(・)て(・)、(・)遥(・)か(・)先(・)の(・)勝(・)利(・)を(・)見(・)据(・)え(・)た(・)」

 

 命輪の首が強制的に45度、回る。

 命輪の眉間から血管が浮き出し、毛細血管がはちきれて血を撒き散らし始める。その音は命輪の荒く細い息遣いに合わせて、隙間風のような悲鳴と出血の二重奏を奏でていた。

 

「ヒュー(ピュー)…ヒュー(ピュー)…!!」

「……アシュリー。もうひとつだけお願いがある。理子の目と耳をふさいでやってくれ」

「────も……もう、やっていマス……」

 

 アシュリーの胸の中に抱かれる理子は、これから破滅に向かう人の死に打ち震えている。

 初めて明確にぶつけられた殺意。その状況に放り込まれた人間の精神状態は並大抵のストレスではない。

 

「……い、イツだ……イツから……そんナ打ち合わせ……ヲ……!」

「キュゥべえからお前の正体を聞いた時だ。そのときアシュリーと理子に命令は終えていた」

 

 悪魔は打ち明ける。

 

          †

 

(────安名メル。固有魔法は未来誘導。ただし……彼女は約一年前に魔女化したはずだ)

(未来誘導……だがそれでは説明が付かない。アイツは明らかに未来を予知している)

(派生魔法の一種だろう。固有魔法から派生させて新たに開発した魔法……君だって佐倉杏子の派生魔法開発に協力したことがあるから分かるだろう?)

(ロッソ・ファンタズマのことか……そうだな)

(それより僕はスタンドというものが気になるんだけど……)

(考察は後回しだ。千秋理子とアシュリー・テイラーの固有魔法も教えてくれ)

(千秋理子は《誘導》……アシュリー・テイラーは《スイッチ》だ)

(スイッチ?)

(君の逆転魔法と似たようなものさ。転換、変更、分岐、切り替え……その中でも彼女は“逆転”の概念をよく使う。肌に合うのかな。使いようによっては反射や流動・停止もできるんだけどね。少なくとも応用性は抜群だよ)

(要するに、受けた力を逆転させることが得意なわけか。下手なことをさせて失敗は避けたい。その線で考えよう……)

 

 例えば、自身に《スイッチ》の魔法を掛けていたとする。攻撃を受けた時、その攻撃で受けた衝撃を逆転させて相手に返すことができる。

 例えば、対象に《スイッチ》の魔法を掛けていたとする。その対象が攻撃を受けた時、魔法を発動させることで、受けた攻撃の効果を逆転させて相手に返すことができる。

 

(そんな感じか?)

(おおむねその認識で構わないかな。今の例で不可能な事象は少ないと思うよ)

(……よし、キュゥべえ。アシュリーに念話を繋いでくれ。……ついでに理子にもだ)

 

 キュゥべえを介して、悪魔とアシュリーと理子の念話回線(テレパシー)が繋がる。

 

(アシュリー。ひとつだけ頼みがある。オレに《スイッチ》の魔法を掛けてくれ。そしてオレが“最大の不運”とやらで破滅しそうになった瞬間、オレに掛けていた《スイッチ》の魔法を発動するんだ。もちろん逆転先は……分かっているな?)

(……! し、しかし……それは、もしかしたら……!)

(……っ!)

(……あえて言うまでもないが、敵は本気で殺しに掛かってきている。オレが死んだら次は君たちだ。協力に応じない場合はそれでも構わない。独りでケリをつける)

(────! い、いえ! 協力しマス! だってアナタの戦いは、ワタシたちを守ろうとしてのことだから……)

(……アシュお姉ちゃん……)

 

 悪魔は感謝する。だが懸念は残る。もし敵の未来予知が、自分より先に理子やアシュリーを倒す展開だったら? この作戦は水の泡となる。

 

(まぁ……その時はその時か)

 

 二人を守るため、逆転勝利魔法も辞さない。

 

(キュゥべえ。二人とも……礼を言う。懸念点はさておき、今は生き残ることが先決だ。そ(・)の(・)固(・)有(・)魔(・)法(・)が分かれば攻略可能だぜ)

 

          †

 

 悪魔は念話での一端を語り、破滅していく命輪を悲しそうな瞳で見つめる。

 

「……は、ハハハ……おいおい、あんまり馬鹿にすんなよ……おかしいだろうがァッ!! 私の未来予知は絶対で、私の未来誘導は絶対なんだぞ! たかがそこにへたり込む魔法少女の魔法ひとつで、私の魔法とスタンドが破られるワケがねぇだろォオオオオオオ────!! ちゃんちゃらおかしいぜ! ぼくはこ(・)ん(・)な(・)未(・)来(・)は(・)見(・)て(・)い(・)な(・)い(・)ッ!!」

 

「ならば……こう言った方が分かりやすいか? 魔法とは奇跡。すなわち概念。スタンドも似たようなものだろう。対(・)象(・)に(・)自(・)分(・)の(・)ル(・)ー(・)ル(・)を(・)押(・)し(・)付(・)け(・)る(・)。それが魔法戦闘の常識だ。ジャンケンで例えるなら“後出しアリ”の勝負だな。

 つまり魔法バトルでは、後(・)出(・)し(・)の(・)方(・)が(・)勝(・)つ(・)ん(・)だ(・)よ(・)。ただしこれは極論だ。なぜなら概念勝負になった時、より魔力係数の強い方が優先される法則がある。故に、スタンドまで持っているお前の場合、《スイッチ》は《未来誘導》の前に勝てず、破滅の逆転は無効化、あるいは逆転先がズレていただろう……」

 

「そ、そうだ! そうなるはずだ! なのになぜそうならない!?」

「運命だ」

「…………」

「お前は、オレたちの運命を切り開く力に負けたんだ」

「……………………」

 

 運命を数値化した概念を魔力係数と称し、運命を具象化した概念を因果の糸と称する。

 今回は悪魔と千秋理子とアシュリー・テイラーの運命が、折れぬ三本の矢のように束ねられたことで、目の前の邪悪なる運命を打ち破ることができた。

 

「運命(確定した未来)を過信する奴は、運命(不確定な未来)に溺れる」

「未来という過去にあぐらをかいた結果だね。未来予知能力者の典型的な末路だ」

 

 悪魔とキュゥべえが言う。だが命輪は認めたがらない。

 

「まだ……信じられないか? ならトドメを刺してやる。お前と似たような固有魔法を持っている娘(こ)が……もうひとりいるだろう?」

「────ハッ!」

 

 命輪は90度まで達した首の中、血走る眼球を限界まで動かし、視界の端に映る千秋理子を見つめる。

 

「ま、まさか……」

「《スイッチ》だけでは魔力係数……もとい、魔法の威力・出力・魔力が足りない。ならば《誘導》も掛け合わさればどうか? 誘導とは“そうなるように仕向ける奇跡”だ。《スイッチ》が命輪の能力に勝てるよう《誘導》する……相性はバッチリだ」

「まさかッ! 貴様は……! あ(・)ん(・)な(・)子(・)供(・)に(・)!(・) (・)人(・)殺(・)し(・)を(・)加(・)担(・)さ(・)せ(・)た(・)の(・)か(・)!(・)!(・)」

「…………、……そうだ。ただし、それでも少し足りなかったから……最後はオレの《逆転勝利》魔法を、ほんの少しだけ使わせてもらったがな……」

 

 命輪の首が135度まで回る。血が鼻から垂れ始め、耳から血を噴き、口からボトボトとよだれのような粘状の血糊が吐き出されていく。競馬場の観客席の屋根から破裂音。金属が弾けて折れたような轟音が響く。キュルキュルと旋回し宙を舞うような音に驚いた命輪は足首を挫いて膝をつく。

 

 そうして徐々に差し迫る破滅の中、命輪は気が狂ったかのように嗤い始めた。

 

「アガッ────ガ……ア、アハハハハハハハハ!! 私はとんだ勘違いをしていたようだ! アンタは黄金の精神なんか持っちゃいない! 目的の為なら手段を選ばない! そんな“漆黒の意志”をその眼に宿しているッ! そういう奴は悲惨な末路を迎えるんだ! このボクみたいに!」

 

「……だろうな。もとより死者蘇生や復讐という、およそ世間では憚られる禁忌に手を出す気でいる。いまさら黄金のような光になるつもりはない。だからロクな死に方は期待していないし、最期は魔法少女の悪いシステムをブッ壊せたらいいなって思うくらいだ。さぁ……これで満足したろう。お前は同じ穴の狢に殺られたんだ。最期まで報われない接ぎ木の存在とやらは、成仏できたのか?」

 

 接ぎ木の存在とは何か。

 悪魔は超直感により、なんとなく彼女達の在り方の出発点を見抜いていた。

 

「────嗚呼……本当に末恐ろしい奴だ。気に入ったよ。もし君がトップに立てば、僕のような複製魔法少女たちは、みんな君に従うというのにね……」

「悪いが、マフィアごっこのような組織作りは遠慮願ってる」

「そうか……残念だなぁ……」

 

 命輪の首が180度、回った。次の瞬間、脳漿が炸裂し、血肉の小雨が降る。それを炎燃える片手で払った悪魔は、体を汚す罪の血液がアシュリーと理子に掛からないよう燃やし尽くした。だが二人を血の雨から守るため、悪魔の全身はポツポツと返り血に濡れていく。

 

 そして命輪の死体は地に倒れ、「ゲボッ!!!」……空から降ってきた円盤状の金属板により胴体が真っ二つに分かたれた。

 

「……!」

 

 最期に命輪の肉体は、緑の淡い魔力の残滓となって消え去り、気付けば跡形もなくなっていた。

 それはとても気になる現象だが、もはや今の悪魔に考える体力は残されていない。

 

「……っ。なぁキュゥべえ……もしオレが独りで戦っていたら、勝てていた相手だと思うか……?」

 

「さぁね。厳しいんじゃないかな。今のコンディションでは良くて相討ちだろう。もし君がスペル・オブ・アイアンに勝つため《叛逆》の魔法を使っていたら、その段階で突然意識不明になっていた可能性が高い。それで命輪を仕留めることができたとしても、スペル・オブ・アイアンの破滅から逃れるためには、さらに魔法を使うしかなかっただろう。それにより笹川京子のソウルジェムが自動的に《逆転勝利》の魔法を行使した結果、君の魂は限界を迎えて……今朝のような気絶なんてレベルじゃない。永眠だって有り得たかもしれないよ」

 

「そうか……つまりオレは、我が身かわいさに……」

 

 ────ふたりの女の子に、人殺しの罪を背負わせてしまったという事か。

 

 勝利に安堵して力が抜けたのか、悪魔の体が大きくよろける。

 

「!」

「悪魔さん!」

 

 アシュリーと理子が駆け寄ろうとするが、距離がありすぎて届かない。

 そのまま悪魔は地面に叩き付けられるように倒れるだろう。

 

 次の瞬間、悪魔の黄色いソウルリングが激しく輝いた。それは悪魔の窮地を感じ取って馳せ参じる意思の表れである。彼女は水野むくから助太刀魔法の日本刀を借りて瞬間移動してきたようで、突如として悪魔の傍らに現れた白髪の美女は、ガッシリとした腕で悪魔の体を支え受けた。その両拳には包帯を巻いている。

 

「……まったく。いつ見てもボロボロではないか。無茶をしおって……また誰かに気を遣って助けを呼ばなかったのだな。困った沢田だ……」

 

 優しい声色で呟く白髪の美人は、悪魔の肩を担いで振り返る。その鼻には絆創膏が貼ってあり、あけっぴろげな胸元にはサラシを巻いていた。

 そこで美人と理子たちの目と目が合う。

 

「! おお。お前たちは沢田の仲間か? すまんが休憩できる場所まで案内してほしい。こいつは活性の治癒を嫌がるからな。寿命が減ると言って聞かんのだ」

「……えっと……あなたは……?」

「すごい……筋肉デス……」

 

 白髪の美人はボクシングをやっているのか、その肉体美は頑健にして柔軟。完成された筋肉を輝かせていた。

 

「む? オレか? オレは笹川もみじ。極限、こいつの義姉になるかもしれん漢(おんな)だ!」

 

          †

 

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