アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO! 作:形のない者
「
「不躾だな。
ふと悪魔の前に現れたのは、黒いローブを着込む少女だった。顔は目深のフードに隠れて見えない。悪魔の直感によれば、素性を隠す必要がある魔法少女らしい。戦闘力はかなり低いため、露骨に警戒はせず温和に対処する。
「……お話したい事があります。私に付いてきてくださいますか?」
「……いいだろう」
†
大東区の北側には《観覧車草原》と呼ばれる廃遊園地跡がある。ちょっとした森林を抜けると辿り着ける場所で、観覧車草原の裏側には湖が広がり、水面には古びた観覧車が映る。その手前には二十人程度の魔法少女と思しき集団が待っていた。全員漆黒のローブで身を隠し、悪魔の到来を待ち望んでいるようだった。
「……っ!」「あれが……」「本当に男の子だ……」「でもキュゥべえは連れてないよ?」「ほんとだ……」「じゃあやっぱり嘘なの?」「でもあまり驚いてないよ……」「付いてきたってことは、魔法少女のことを知ってるってことでしょ?」「それは聞いてみないと分からないよ……」
ボソボソと会話が聞こえる。半信半疑といった感じで悪魔を見つめる少女たち。それに囲まれる悪魔は、彼女たちに悪気がない事は分かっていても、あまり良い気はしなかった。二木市でのトラウマが蘇り、悪魔の額に冷たい汗が滲む。
そこで悪魔は直感する。彼女たちは弱小魔法少女の集まりだ。一人では魔女を狩る事もままならないため集団化する魔法少女は少なくない。だが妙なことにリーダーらしき人物が見当たらない。彼女たちはどういった人物に率いられているのか悪魔は気になった。
その時、悪魔をここまで連れてきた魔法少女が振り返り、礼を言うように頭を下げる。
「驚かせてごめんなさい」
「いや……大丈夫。それより本題に入りたい。確認のため聞くが、君たちは“人間に戻りたい魔法少女”の集まりで構わないのか?」
『────ッ!!』
どよめきが広がる。半信半疑は確信に近いものへと変わり、中には悪魔を救世主のように見つめる魔法少女もいた。
「……そうです。私たちは魔法少女。こうやって群れないと魔女も倒せない弱小の集まりです。そして魔法少女であることに絶望し、
「……聞きたいことは多いが、まず
「! そのことまで知っているのですね……」
「分かった。やはり
ふとした悪魔の申し出に、魔法少女たちは互いの顔を見合わせる。なぜかソウルジェムを見せることを少し躊躇しているようだ。警戒とは異なる。まるで仲間内でソウルジェムを見せ合うことを気にしているようだ。
「……? 変なことを聞いたか? もし穢れが蓄積しているなら、手持ちのグリーフシードで浄化しようと思っただけだ。あと感情の揺らぎが強い子も来てもらう。ソウルジェムの波動を診断すれば、どの程度で穢れが蓄積するのか判断できるんだ」
「…………分かりました。私のソウルジェムを見せましょう」
悪魔を連れてきた魔法少女が橙色のソウルジェムを見せる。すると周囲は驚き、ならばと勇気を出して次々とソウルジェムを見せようとする。
「いいの? これルール違反じゃ……」「穢れが溜まっても大丈夫だし……わざわざ見せることないんじゃ……」「そ、そうだよね……」「でも溜まると苦しくなるよ? だから私は……」「ルール違反って言っても、ソウルジェムを見せるだけでしょ? 別に固有魔法が知られるわけじゃないし……」
その会話に聞き耳を立てていた悪魔は、少数ながら集まってきたソウルジェムを浄化しつつ、どうやら彼女たちは集団化する上で何かしらのルールがあるのだと察した。
「……既に見せてもらった人がいる手前、こういうことを言うのは野暮ってもんだが……もしこの行為のせいで君たちがリーダーに叱られるのであれば、無理に見せる必要はない」
そう断った上で、悪魔は気になっていた点を聞き出す。
「ところで、どうやってオレを見つけたんだ?」
「……私の固有魔法で見つけ出しました。内容は言えません」
「ふむ……」
悪魔を連れてきた魔法少女が答えた。おそらく彼女は《捜索》のような魔法を有している。だがそれを仲間内に明かすのはタブーらしい。
(この子たちは仲間じゃないのか? 仲間内で固有魔法を明かさない決まりなんて、戦闘では足枷だ。コンビネーションが取れない。となると戦闘の効率化の為に結成した集団ではないのか……? ならば、いったいどういう目的で集まった魔法少女なんだろう……)
しかしそれを訊くのは憚れた。不躾に質問しても構わないが、余計な摩擦は生みたくない。
やがて悪魔は穢れの浄化を終えて、ある程度の感謝と信頼を募れた所で本題を切り出す。
「そういえば自己紹介がまだだったな。オレは悪魔だ。といってもそう恐れなくていい。ただの人間だ。ただ、そう名乗るに相応しい魔法を持っているというだけだ」
悪魔。その名を聞いた魔法少女はどよめく。だが悪魔が何かしらの魔法を持っている事を知ると、今度は期待のどよめきが広がった。
「それは……私たちを人間に戻してくれる魔法なのですか?」
「そうだな。オレは悪魔契約という契約魔法を持っている。それは、より厳密に言い換えれば
「で、では……その魔法があれば、私たちは……?」
「魔女化の正体を知っているなら、ソウルジェムの正体も知っているな? 君たちの魂は元の場所に戻る。つまりソウルジェムを失い、魔法を失い、インキュベーターと契約する前の状態に戻るというわけだ。つまり
そこで悪魔は、一気に猜疑心が募る数名の魔法少女を直感した。当然の反応である。詳しく聞くまでは情報が足りないので信頼するも警戒するもない。だが情報が集まれば、縋り付く者は容易に信頼するし、縋り付きたい者は二度と失敗したくないが故に警戒する。
故に悪魔は力強い語気で条件を告げた。それは場の主導権を握る為の威圧であり、無用な混乱を避ける為の
「ただし! みんな期待しているところ悪いが……悪魔契約には
『────!?』
「それが悪魔契約と呼ばれる所以だ。契約内容を知って辞退する者は多い。そこでオレは、君たちのような魔法少女に心の準備期間を設けるため、この手の話は複数回に分けることにしている。では……心して聞いてくれ」
場が静まる。全員が悪魔の言葉を待っている。
「もし悪魔契約を受けたい者がいる場合、まずオレはそいつと一対一で話がしたい。これは絶対に譲れない条件だ。
ただし一回目の話は相談のみ! そこで悪魔契約の内容を伝える。さらに契約内容の他言を一切禁ずる。そしてほとんどはここで脱落することだろう。あまりの契約内容のゲテモノさに吐き気を催すはずだ。
だが、もし! 契約内容を聞いた上で、それでも悪魔契約を受けたいと思うなら……もう一度、オレの前に現れてほしい。それをオレは
そして三回目……もしオレの前に三回も現れるなら……三度目の正直という言葉があるように……
────以上が条件だ。質問は受け付けない。聞きたいことがあるなら一対一の相談の際に聞いてほしい」
悪魔は悪魔契約に関する条件を告げる。
そこで橙色のソウルジェムを持つ魔法少女が言った。
「……では、相談場所は?」
「近くにホテルはあるか? その一室を借り受けて相談所としたい。……ただしオレは長居をしない。同じ街に一週間以上留まることは稀だ。故に手っ取り早く済ませたい。一回目の相談は、一人につき一時間程度で済ませよう。そこで今日の話は終わりだ。悪魔契約の度し難い条件について大いに悩み、数日、数週間、数ヶ月を掛けて進路を決めるといい。そして覚悟が決まれば二度、三度と会いに来い。覚悟が伝われば悪魔契約を実行する。その手はずで構わないな? 申し訳ないが異論は許さない」
悪魔はスマホを取り出して近くのホテルを検索する。寂れた旅館を発見。密談にはもってこいのルームを見つけ、そこを相談場所とすると伝える。
「まず誰から訪れるかは各自で相談して決めてくれ。────ではな」
悪魔は背を向けて立ち去る。そこで一人の魔法少女により待ったが掛けられた。
「ちょっとまって! あーだこーだ言ってくれたけど、まだ私は信頼できないわ!」
「……その信頼を相談所で築き上げようと言っている。話を聞いていたのか?」
「っ……だから、そういうことじゃなくて……!」
彼女は震えていた。それは悪魔に怯えているわけではない。得体の知れない相手をどこまで信じて良いものか。できれば確証のようなものがほしい。警戒心は解けなくて構わない。ただ勝手に期待して勝手に失望して絶望が極まる胸の苦しみを避けるために、何か大きな安心がほしい。
その気持ちを直感した悪魔は、なるほどと思って匣のキュゥべえに話しかける。
「だ、そうだ。キュゥべえ。お前が証人になってくれ。お前は嘘はつかないが本当のことも言わない。やり手の詐欺文句で魔法少女を騙した実績は誰からも認められるところだろう。そんなお前だからこそ、その言葉には一定の信頼もあるにはある。お前の言葉に嘘はないが、真実もまた覆い隠されていることを知った上でよく聞けば、これ以上の判断材料は無いからな」
「……ふむ。いいだろう。つまり僕はこう言えば良いわけだよね? ────
『きゅ……キュゥべえの声……!?』「ってかどこから……?」「あ、見て! あの人の腰にある箱が震えてる……」「ほんとだ……」「え、でもなんで?」「そ、そうだよ! キュゥべえはこの街に入れないはずなのに……!」「ちょっと! それは言っちゃ……!」
(────?
悪魔は敢えて聞かないフリをする。
だがインキュベーターは、空気を読むという行為を知ってはいても実用化することはできなかった。
「ん? 僕がこの街に入れないはずって……それはどういうことだい?」
『あっ────』
悪魔と口を滑らせた魔法少女たちの声がハモる。
「……キュゥべえ。それに関しては後で聞き出そう。今は深掘りするべき時ではない。今までの交渉が破綻する恐れがある」
「そう直感したのかい? ふむ……どうやらそのようだね。こちらも悪魔契約について、現状は隠し事をしているも同然だし。一回目の相談の中で、お互いに赤裸々に事情を打ち明けることができれば良いのだけど……それまでは我慢しようか」
ならばと悪魔は立ち去る。
黒いローブに身を包む魔法少女たちも黙って見送る事にしたようだ。
「────ッ!?」
次の瞬間、悪魔は有り得ざる人物を目の前に見つけて驚きと共に立ち止まった。
黒いローブの魔法少女たちも、突如として現れた
「はぁい。悪魔……アナタのお命、頂戴しに来たわ」
「……
†