アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO! 作:形のない者
恭弥アーデルハイト。黒髪黒眼の美青年。肩に漆黒の学ランを羽織っており、左腕には“風紀”の紋章を掲げている。彼女は中性的な外見から誤解されがちだが女性である。肩書きは並盛中学校の風紀委員長だが、その実態は不良の頂点に君臨する
叛逆と逆転勝利の概念が味方する悪魔をも、一度は完膚無きまで叩きのめした年齢不詳の超中学生級トンファー使い。
「恭弥……なんで……」
「“さん”を付けなよ。先輩に対して失礼じゃないかい? また咬み殺されたいの?」
「い、いや……こっちとしては、敬意を払うに値しないお方と思っておりまして……」
「ワオ。まだ引きずってるのかい? 意外と女々しいんだね。君の初めてを強引に奪ったのがそんなに嫌だったかい?」
「…………」
これが惚気けているように見えた者は、恭弥アーデルハイトという人物の恐ろしさをまだきちんと理解していない。
「君は唯一、僕と対等に戦えた強者だ。だから君を抱いていいのも、咬み殺していいのも僕だけだ」
それは果たして、彼女なりの愛情表現なのだろうか。どう受け取っても汲み取っても戦闘意欲と殺気殺意しか感じられない純粋な興味と期待と歓喜と好奇心は、恭弥アーデルハイトの異常性を端的に表していた。
「……あぁ、そうそう。君の姉から伝書鳩が来てね。君に伝言だよ」
「────っ! 姉さんが!?」
「今はイタリアにいるみたいだ。姉弟揃ってどんどん強くなっているようだね……次に戦うのが愉しみで仕方ないよ」
「……そんな……姉さんが、イタリアに……? それじゃあ、まさか……ボンゴレと……?」
久しぶりの再会ゆえ世間話に花が咲く。
そこで蚊帳の外にいた智珠らんかが激昂した。
「おい……アンタ、誰なんだよ……」
「僕かい? 僕は、そこの小動物がつまらない死に方をしないよう、風紀委員長として取り締まりに来ただけだ。彼が死ぬと並盛の風紀が乱れる」
「ざっけんな……アタシの邪魔すんな……」
「嫌なら実力で排除しなよ。群れるだけの輩ってのは、威勢だけはいっちょまえなんだ」
「────ッ!」
智珠らんかは掌を掲げて無言の合図を送る。次の瞬間、彼女たちの一斉攻撃が始まった。
「────ロール」
恭弥は雲系リングに炎を灯して匣兵器を開匣。雲ハリネズミが回転射出されて前方一列を吹き飛ばし、数名の魔法少女を錐揉み回転させた。
「なっ……!」
刹那、いつの間にか一対のトンファーを握っていた恭弥は、トンファーに内蔵された仕込み鎖を解放し────そこからは一方的な蹂躙が始まった。どんな魔法を使われようと、どんな奇策を講じようと、その全てを機転の良さ・脊髄反射・生物としての性能が異なる炎の純度と炎圧で対処し────完封。それが意味することはただ一つ。彼女は死ぬ気の炎だけを使って勝利した。魔法も魔力も、あまつさえ魔法少女の身体能力向上も使わず……ただ人間状態の身体能力で、つまり本人の“才能のみ”で、魔法少女の集団を相手に完勝を飾ったのであった。
戦闘開始から九秒が経過。智珠らんか率いる集団は一人残らず地に伏している。
「……飽きた。これじゃあ満足できないから悪魔が相手してよ」
「えっ……」
「……と思ったけど、ボロボロすぎるね。ボクシング部主将から無理やり聞かされていたけど……いいかい? それ以上無茶をするなら……風紀委員長として“執行措置”を執る必要がある……だから、次は僕と殺し合う為に休んでいることだ。じゃあね」
「ア、ハイ……」
ひとしきり説教を終えた恭弥は、敵が弱すぎて飽きたらしく、助太刀魔法の刀を拾って並盛町に帰還した。
そして悪魔は沈殿した沼地から脱出する。一方、智珠らんか勢力は痛みに悶えており、その隙に黒いローブの魔法少女集団は撤退を始める。
────その時、再び乱入者が現れた。
†
ふと空から降り立ったのは、純白の軍服を着込む白髪の灰眼の美少女。右目に純黒のモノクルを嵌めており、その手には馬上鞭を携えている。
「……これはどういう事態だ。大量の魔力パターンを感知したから急遽飛んで来てみれば……とんでもない戦闘跡だ。黒いローブの集団は……見覚えがあるぞ。顔を隠していても佇まいで分かる。心を読むまでもない。大東区の魔法少女だろう。なぜお前たちがこんなところに……そして全く見覚えのない集団は……よそ者か? 奇天烈な格好をしおって。友好的ならいざ知らず、ただの外敵なら容赦はしない。だが────」
純白の魔法少女は、泥だらけの悪魔を見据える。
「最もこの場にそぐわぬ者がいる。貴様は────なんだ。魔法少女ではないな」
「……オレは……悪魔だ」
「……悪魔だと? とてもそうは見えないが……」
「ただの通称だ。魔法少女の味方である点は信頼してほしい。ただ今は……少々ごたついている」
「そのようだな。説明を願えるか。まず……これは貴様が引き起こしたことか」
「それに一言で答えるには語弊が多くなる。だがオレが元凶である点はその通りとしか言い様がない」
「詳しく聞かせろ」
「それは黒いローブの魔法少女たちに聞いてくれ。そこに倒れてる魔法少女はオレの知り合いだ。敵対的だから起き上がれば戦闘が再開される。だから今すぐこいつを連れ立って離脱したい。そうすればこいつを慕う部下たちも追わざるを得ないはずだ」
「…………そうか。では行け。疫病神」
「恩に着る……そして、すまない……」
彼女は先ほど「心を読むまでもない」と発言した。それを聞き逃さなかった悪魔は、彼女が読心を使える事を見越し、心中で出来事の一部始終を回想した。それで全てが分かったわけではなさそうだが、悪魔が嘘をついていないことは分かってくれたのか、逃げ道を開けてくれる。
悪魔は激痛に悶える智珠らんかの腕を取る。
その時、純白の魔法少女は悪魔に語りかけた。
「……本来であれば、大東の仲間が襲われた以上、こちらもケジメとして一発殴り返してやるところだが……」
「それはまたの機会にしてくれ……頼む。たぶんこいつらは神浜市から離れない。オレもこいつらを今すぐ止めることはできない。このあと逃がすつもりだ。そうすることで大変なことが起きるかもしれないが、そうしなければ大変なことが起きてしまうんだ」
「……なんだと?」
彼女は読心を図る。すると悪魔の言いたいことを察した。
────智珠らんか達はこのあと逃がす。そのせいで再び神浜市の魔法少女と激突するかもしれない。それは大変なことだ。
────しかし智珠らんか達を逃がさなければ、そのせいで彼女たちはソウルジェムに穢れが溜まりきってしまう恐れがある。それもまた大変なことだ。
────両方を救いたい。神浜市の魔法少女は殺させない。だが二木市の魔法少女も殺させない。その両立はとても難しいことだが、悪魔なら可能だ。よって、そのためにやるべきことは決まっている。
「ぐっ……悪魔……!」
「らんか、ちょっと話がある」
次の瞬間、悪魔は智珠らんかを連れて飛び上がった。
片手の逆噴射で空を飛び、どこへなりと去っていく。
「なっ────姐さん!」「ゴラァ! 姐さんを返せ!!」「ぐっ……体がいてぇ……畜生……!」「オラ、すぐ追うぞゴルァ!」「野郎、今度こそはブッ殺してやらァ!」「あねさーん!!」
智珠らんかを慕う部下たちは、ボロボロの体でツラそうに起き上がり、トボトボと悪魔たちを追いかける。
一方、純白の魔法少女は振り返り、逃げ出そうとしていた黒いローブの魔法少女たちへ詰問を始める。
「では、話を聞かせてもらおうか。逃げようとしても無駄だ。一人は捕まえて無理やり吐かせる。お前たちの内情まで聞こうとは思わない。ただ出来事の流れさえ教えてくれればいい。それが賢明な判断だと思うが?」
黒いローブの魔法少女たちが、純白の魔法少女に勝てる可能性は万に一つもない。故に彼女たちは従った。
自分たちがどの勢力に属しているのかは語らず、ただ“魔法少女をやめられるうわさ”について悪魔に声を掛けたら、突如として現れた魔法少女の勢力と争奪戦になった……ただ、そのことだけを。
†