アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO! 作:形のない者
大東区の南側にあるコンテナターミナル。
人気のない所に悪魔は降り立ち、智珠らんかをコンテナの壁際に下ろす。
「らんか……」
「チッ……そんな目で見るなよ……」
今も智珠らんかの部下たちが必死になって追いかけて来ている。悠長に話している余裕はない。
「単刀直入に聞く。どうやってオレの居場所を突き止めた」
「占術や搜索の魔法で見つけ出した。部下にいるんだ。索敵に優秀な魔法少女が。ゲーマーだから思い付いた追跡法だ。ほかの連中はまだ二木市で手をこまねいているはずだよ」
「……それでも一日二日で来られる距離ではない。ワープ系の魔法があっても、ここまで大人数を一度に運ぶのは至難の業だ。いったいどういう手を使った? まさか初めから神浜市と二木市の間にワープゲートがあるわけでもなし……」
「────ハッ……そんなの、教えるわけないじゃん?」
悪魔と智珠らんかの視線がぶつかる。
「……キュゥべえ。お前の仕業か?」
「僕かい? 僕は神浜市に入ってから、ほかの
「可能性は高いと思うか?」
「君の安否が気になって、君に執着している二木市の魔法少女を送り込んできた……というのは、少し有り得るかな」
その時、追跡してきた部下たちが到着した。
「姐さん!」「無事ですか!」「野郎……! 姐さんに何もしてねぇだろうな!」
悪魔は二木市の魔法少女たちに向き直る。すると部下たちは悪魔の気迫に押されて一歩足を引いた。
「……オレの悪魔契約を狙っているなら分かる。だがなぜオレを殺そうとする。二木市の連中は悪魔契約の独占支配を狙っているはずじゃないのか」
「────ハァ……あのねぇ。そう簡単な話じゃないんだよ。分かるだろ?」
「……今ここで全員と悪魔契約をしても構わない。そうすれば全員の気は収まるか?」
────…………逡巡する静寂の中、海辺のさざ波が少女たちの感情となって打ち鳴らす。
ひとり、またひとりと、部下たちが本心を吐露していく。
「そりゃあ……あたしたちだって人間に戻りたいさ……」
「だけど、人間になって二木市に帰った時、“抜け駆けした”とか言われて殺される……そうでなくても締められる……パシリに使われて、最底辺の扱いをされるのは目に見えている……」
「だから……人間に戻っても、帰る場所がないんだ……」
それは切実なジレンマだった。大勢の魔法少女に顔が割れている者は、もし人間に戻れば他の魔法少女から嫉妬を買う。学校の階級社会が根付いている以上、普通の人間に戻れば魔法少女に逆らうことはできず、魔女からも身を守れなくなるため他の魔法少女に守ってもらう必要がある。たとえ悪魔の口付けで魔女に襲われずとも、治安の悪い二木市なら魔女ではなく
それを思えば“悪魔契約だけで万事解決”とは行かない事くらい、悪魔はこの一年の旅路の中で嫌というほど知っていた。
「……それに、私は両親を生き返らせる願いを叶えたから……悪魔契約はできないよ……」
「あなたに命を預けるだけの信頼も覚悟もないし……」
「私も……好きな人がいるから、あんたと肉体関係を結ぶことはできない……」
魔法少女を辞めるだけでは救われない子もいる。その例は上記のように幾つもある。
「……なら、悪魔契約を受けるつもりがない子も、なんでオレを狙うんだ?」
「そんなの、仲間だけでも救ってほしいと思ってるからに決まってるじゃんか!」
当然の返答だ。無名のその子は、なんとも友達思いの少女である。
「…………らんか」
「……なによ」
悪魔は芝居の最中だと言うのに、突然本心を混ぜた。
「すまない、ありがとう」
悪魔は礼を言って、炎の噴射で飛び去った。
「……姐さん。追わなくていいんですか……?」「あいつ、なんで謝って礼を言ったんだ……?」
「ふふふ……あんたたちは分かんなくていいのよ」
「あ、分かりました! あいつと姐さんは一度
「こーら。余計な邪推はしない! ったく……別にそんなんじゃないんだから……」
智珠らんかは負傷した片腕を抱えて立ち上がる。
「いいか。今回は大敗を喫したが、次は確実に悪魔の首を獲る。アイツがいるから二木市は混乱したんだ。だからアタシたちが悪魔を倒して、悪魔を巡る争いにピリオドを打たなきゃいけない……」
「おっす!」「っす!」
「……ただ、さすがに全員ボロボロだね……仕方ない。予定変更。拠点を見つけて傷を癒す。そして次にかち合うため、グリーフシードを集めたり、連携を強化したりして、しっかりとボス戦に向けて準備する。……そのために、この街は格好の餌場だ。ここの魔法少女は弱い。縄張り争いは簡単に勝てるはずだ」
「了解です!」「まずは拠点づくり!」「魔力が勿体ないから怪我は自然治癒に任せて……」「まだ元気な奴は魔女を狩って狩って狩りまくってグリーフシードの独占だ!」
「おバカ。そんなことしたら、あの
「! なるほどっす!」「さすが姐さん!」
「それじゃあ行動開始。あとごめんけど、誰かアタシおぶってくんない……?」
「おまかせっす!」「いや、ここは私に任せてください!」「いや私が!」「いいや私だ!」
和気藹々とする智珠一派。部下におんぶされて運ばれる智珠らんかは、先ほどの悪魔の言葉を反芻する。
────すまない、ありがとう。
あの言葉の意味は完璧に理解できる。
────(今すぐ助けられなくて)すまない、(だけどこいつらを助けてくれて)ありがとう。
(……チッ……)
智珠らんかは思う。悪魔には、全てを包み込んで受け入れてくれる度量と器がある。だからついつい、みんなはそれに頼ってしまう。
山賊の例えを出そう。十個の村があり、百人の山賊があり、一人の親玉がいた。
百人の山賊は統率が取れていないため無差別に村を襲い、犯罪を犯して十個の村に迷惑を掛ける。山賊どもは加減を知らないため、あっさり十個の村を潰してしまうだろう。そこで一人の親玉が立ち上がった。百人の山賊を束ねて、略奪を働く村を一個に固定する。その結果、一つの村は多くの損害を受けるが、やりすぎて滅ぼしたりすることがないよう絶妙に調整する。すると、標的にされた村は可哀想だが、ほかの九個の村は平和でいられる。だが標的にされた村にも限界がある。もし標的の村が潰れたら、また別の村を標的にするしかない。それでもまだ八つの村は安泰だ。
つまり親玉は世界の平和を守るため、いわゆる“必要悪”の役割を果たしている。
これはそのまま智珠らんか達の関係に当てはまる。標的にされた村は悪魔で、山賊は部下たちで、親玉は智珠らんかだ。
(悪魔……アンタが
そして、そのために
智珠らんかは悪役を演じる。
(だってアタシが率いないと、この子たちは絶望に囚われて無差別に暴れまわってしまう……殺人・強盗・無差別テロ……二木市は
そして悪魔は……アタシが必要悪としての役割を全うしているのを超直感で見抜いたから……きっと「ありがとう」と礼を言ったんだ。そして「すまない」と、そんな役割を背負わせてしまって申し訳ないと謝ったんだ……)
智珠らんかは、寝ずに悪魔を追跡して戦ったからなのか非常に疲弊しており、睡魔に襲われてまぶたが落ちかかる。
(……でもね、悪魔……もしアンタが、この子たちの無念を晴らしてくれた時……アタシは、今までの恩返しとして……あることを決めているんだ……。それはね……)
智珠らんかは目を閉じて眠りに就く。
(────
沢田綱吉……アナタのために……。
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