アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO! 作:形のない者
四体目の魔女の出現を目撃して、綾野梨花は茫然とする。
「……は? 嘘でしょ────!?」
魔女迷宮の壁が破られた事で、無限階段を支える機構が崩壊を始める。それに巻き込まれた綾野梨花は飛び降りる機会を失って自由落下。叫ぶ間もなく真っ逆さまに落ちていく。頭上からは落石の雨。魔力を肉体に纏わせても足場がなければ逃げられない。コンパクトに魔力を充填し、発射の勢いで落石から逃れようとも思ったが間に合わない。
(ちょ、まって……これ激ヤバ……!!)
万事休す。そこへ畳み掛けるように不運が襲う。四体目の魔女が砕き割った壁の瓦礫が飛び込んできて眼前に差し迫る。あわや直撃か────と目をつぶった瞬間、誰かに抱きかかえられた綾野梨花は凄まじい速度で空を飛んでいた。
「……へ?」
横を見れば誰かの首元。仰げば見知らぬ少年の顔。そこで綾野梨花はまさかと思う。先程から語りかけてきていた声の正体は、十中八九この少年ではないかと。
「いや、というか────お姫様抱っこなんですけど!?」
「ん? そうだな。嫌なら下ろすが。着地はできるな?」
少年は返答を待たず手放し、綾野梨花は地上へ落下。十数メートルを下降したあと、全身に魔力を張っていたため何ともなく着地。辺りを見渡せば────そこには悲惨な光景が広がっていた。
倒れている仲間たち。その中には五十鈴れんがいた。唯一立ち上がって応戦していたのは都ひなの。綾野梨花は何事かと駆けつける。
「そんな……みんな! みゃこ先輩、これは!?」
「梨花か! よし、手伝ってくれ! みんなを岩陰に運ぶ! まずは避難だ!」
「でも、魔女が……!」
「魔女ならアタシが……と思ったが、今はアイツが相手してくれている! とにかく今のうちだ!」
ふと振り返れば、先ほどの少年と見知らぬ小さな魔法少女が、二人で魔女の相手をしていた。少年は両手から橙色の炎を噴射して空中を飛び回り、小さな魔法少女はジャマダハルを奮っている。そして二人の動きは、うまいこと魔女の視界に避難する魔法少女たちが入らないよう誘導していた。
都ひなのと綾野梨花は仲間たちを連れて離れの岩陰に隠れる。
すると上空から少年と魔法少女が降り立った。
「避難は完了したようだな」
「ミィたちのおかげだね!」
そこで都ひなのが反応した。
「いや、おい! あの魔女の相手はどうしたんだ!?」
「幻覚を見せて撤退した。ここに隠れていれば見つかる心配はない。向こうがこちらを探している間に反撃の用意をする」
「幻覚……藍色の魔力か。何をしたかは理解したぞ。だが反撃と言っても……」
都ひなのは振り返る。
そこには負傷した仲間たちがおり、中には立つことも難しい魔法少女もいた。
「くっ……四体目の魔女は想定外だった……完全に勝利を確信して気が緩んだ所を奇襲されてこれだ……死人が出なかったのは幸いと言ったところか……みんな、すまない……」
「……みゃーこ先輩……」
木崎衣美里たちは、責任を感じている都ひなのを見て、なんと言葉を掛けようか考える。
だが少年は容赦しなかった。
「そうだな。これは防げた事態だ。
少年は満天の星空に輝く
それと同じものを見た都ひなのは頷くように俯いた。
一方、少年と都ひなののアイコンタクトに気付かない綾野梨花は、それは少し言い過ぎなのではと口を挟む。
「……! ちょっと、きみ……! 四体目の魔女は分かっていたって、どうしてそんなこと分かるの!?」
「天井に描いてある。一対の双星が見えるだろう。また、ゲート近くでも魔法文字で《四兄弟》《天と地の双子》などと書いてあった。後者は魔法文字が読めない場合、仕方ないが……せめて前者の
「こいつの言う通りだ。
「……!」
綾野梨花は天井を仰ぎ、確かに一対の双星を見つける。
「……責めるつもりはないが、なぜ気付かなかった?」
「気合いが入りすぎたのかもな……目の前のことに集中しすぎてしまった」
「後輩を守る。敵も倒す。両方やらなくちゃいけないのが“ベテラン”のつらいところだな。だが反省は後回しだ。気持ちの整理が付いたら反撃の思考に切り替えるぞ」
「あぁ……そうだな。ありがとう」
まるで歴戦の猛者同士の会話。
それを間近で見聞きした綾野梨花は都ひなのに問い掛ける。
「あの、みゃこ先輩……この人は知り合いなんですか?」
「あぁ、こいつか。えっと、自己紹介する時間はあるか……?」
「いくらでも」
岩陰の後方では魔女が見えない何かと戦っている。おそらく幻覚とやらを見せられているのだろう。
「んじゃあ紹介するぞ。こいつは悪魔だ。今朝出会ったばかりだが、私の後輩たちの命の恩人でもあり、なかなか出来る奴だ」
「えっ────」
悪魔。という言葉の意味合いを考えて絶句する魔法少女が数名。どこをどう見ても人間だが、全くその通りであると悪魔は断る。
「オレは魔法少女ではないが、魔女と戦える人間だ」
そこで小さな魔法少女が抗議する。
「ちょっと、ミィのことも紹介してよ!」
「お前には戦えない魔法少女の護衛を任せる。自己紹介はそこで勝手にやってろ」
あしらうように言った悪魔は都ひなのに向き直る。
「それで、ひなの。一つ提案がある」
「なんだ?」
「オレに五名の魔法少女を貸してくれ。全員別属性がいい。それでケリをつける」
「…………」
悪魔と都ひなのの視線が交差する。
「……すまないが、彼女たちの責任はアタシにある」
「言葉を返すようだが、負傷者にその責任が務まるとは思えない」
「えっ……」
綾野梨花は都ひなのの体を見る。すると彼女の右手は、庇うように左の腹部を守っていた。
「……っ! まさか、みゃーこ先輩! それもしかして、さっきあーしを庇った時に……!」
「衣美里……気にすんな。このくらいどうってこと……」
そこで悪魔が釘を刺した。
「ひなの。状況の報告を頼む」
「……! っ……重傷は保澄雫、毬子あやか、粟根こころ、江利あいみ……軽傷で済んだのはアタシ、木崎衣美里、綾野梨花、五十鈴れん、加賀見まさらだ」
都ひなのは悪魔の顔を見上げる。それは真剣そのものだった。過剰な自信はなく、過ぎた不安もなく、ただ張り詰めた緊張感がある表情だ。
「……任せていいのか?」
「あぁ……信じてほしい」
悪魔の熱烈な視線を受けて都ひなのは頷いた。そして仲間たちに向き直り、指揮権の移譲を宣言する。
「────すまない、みんな。今の結果はアタシの責任だ。だからと言ってリーダーの役割を投げ出すのは無責任なことだ。しかし、ここに
徐々に都ひなのの顔色が青ざめていく。だが魔法少女は魔力を回せば肉体を高速治癒できるはずだ。
「……軽く呪いを受けたな」
「あぁ……四体目の魔女の手下にやられた。仮称・鉄星の魔女……その使い魔ってところか……魔力の色が定例に当てはまらない。きっと特殊な魔力の性質を受けたんだ……」
「あぁ。おそらく銅星の魔女と合わせて宇宙産だ。まぁ……いずれにせよ完封できる。任せてくれ」
悪魔は九名の魔法少女を見渡す。
「よく聞け。これから五名の魔法少女を選抜して四体目の魔女を叩く。作戦はこうだ。まずオレが陣形魔法で魔法陣形を敷く。その陣形の“
ほかの魔法少女の質問も聞かず、悪魔は一人ひとり指差していく。
「まず赤色の魔力保有者。これを火属性の担当とする。お前、名前は?」
「えっ……あたし!? あ、あたしは……綾野梨花……」
「次に青色の魔力保有者。これを水属性の担当とする。お前、こっちに来い」
「……!」
名を聞かれず手招きされた五十鈴れんは、ちょこちょこと悪魔に近寄る。
「緑色の魔力保有者。これを木属性の担当とする。都ひなの」
「あぁ……」
そこで綾野梨花が待ったを掛けた。
「ちょっと待って! みゃこ先輩はけが人だよ!?」
「ほかに木属性の魔法少女がいないんだ。それとも
「……!」
「梨花……心配しなくていい。まだアタシは動ける」
都ひなのは覚悟を決めた目付きで踏ん張る。
それを目にした綾野梨花は止めるのではなく、むしろ自分が守らなければと手に力を入れた。
「次に黄色の魔力保有者。これを光属性の担当とする」
「私だね。こころ、行ってくる」
「まさら……! うん……頑張って!」
加賀見まさらが立候補。悪魔もそのつもりだったため最後の選抜に移る。
「最後は紫色の魔力保有者だ。これを闇属性の担当とする」
「はいはい! ミィに任せて!」
「────いや! ここはあーしにやらせてもらおうか!!」
木崎衣美里は四股を踏むように立ち上がり、鼻息荒く意気込みを語る。
「ごめんけど、これはあーしらが立てた作戦だ! みゃーこ先輩の仇を取るためにも、こればっかりは譲れない!」
「おい。勝手にアタシを殺すな」
「よし、これで集まったな。──梨花。お前の役割は
「っ……っ……!」
「出せるのか。さすがだ。──ひなのは
悪魔は岩陰から外に出て鉄星の魔女を見据える。それに五名の魔法少女が続いた。
「……そうだ。すまないが、誰か魔力を供給してくれないか。オレは魔法少女じゃないから魔力を捻出することが難しい。手をつなぐだけでいいんだが……」
悪魔は振り返る。そこで一番近くにいたのが綾野梨花だった。悪魔は手を差し出し、握手を求める。
「……!」
悪魔と手を繋いだ綾野梨花は、自身の魔力が吸われていく感覚を覚える。それと同時にソウルジェムの濁りが増した。すかさず悪魔は懐からグリーフシードを取り出して、綾野梨花のみならず、五名の魔法少女のソウルジェムを浄化する。
「準備万端だ。覚悟はいいな?」
「うん!」
「……んっ!」
「いつでも来いだ!」
「問題ない」
「ぶちかましてやるぜぇ!」
かくして悪魔は陣形魔法を詠唱する。
「魔法陣形……発動! 迅速なる包囲網────《
刹那、悪魔を起点に魔法陣が展開される。
水 闇
木 光
火
「色の名が付いた陣の上に立つんだ。魔法陣は自動的に動く。常に自分の配置の上に立つよう行動すれば、あとは指示に従うだけでいい。いいか、自分の配置から外れるなよ」
綾野梨花は“火”と描かれた紋様の上に立つ。五十鈴れんは“水”に、都ひなのは“木”に、加賀見まさらは“光”に、木崎衣美里は“闇”に────その中心点に悪魔が立ち、魔法陣はひとりでに動き出す。
「足元の結界に従って移動していれば必然、敵の急所を突けるようになっている! 何度も言うが出遅れるなよ!」
悪魔は逆噴射により発進。幻覚を見せられている魔女に不意打ちの蹴りを与えてダメージを与える。すると幻覚が解けたのか、魔女は悪魔を狙って暴れ始めた。
その間に五名の魔法少女は魔法陣形に引っ張られて動き出す。魔法陣形を使うのは初めてのため、自動的に動き出す陣を追い掛けるような形になるはずが、不思議と五名の魔法少女は
──前に走ってください。──もう少し遅めに。──その調子です。──魔力の充填を開始してください。
(な、なにこれ……! 頭の中にカーナビみたいな指示が飛んでくる!)
魔女は迷宮の地面を布のようにはためかせて攻撃する。それを水属性の陣形に立つ魔法少女が対処。鎮静効果を持つ魔力を放射することで、波打つ地面を停止に近付ける。
そこへ鉄星の魔女の使い魔が群れと化して襲いかかってきた。使い魔は藍色のような、海色のような、緑色のような不可思議な色の魔力を用いて攻撃してくる。それに闇属性と光属性と木属性の陣形に立つ魔法少女が対処。活性と増殖と硬化の性質を合わせて魔力弾を倍増硬化。通常の魔力弾より硬く素早い高性能な魔力硬弾が連射されて、使い魔の集団を一撃のもと次々と撃ち落としていく。
その魔力硬弾は魔女にも命中。魔女は反撃とばかりに触手を振るう。そこで水陣の五十鈴れんが鎮静魔力を放射し、魔女の動きを鈍化させる。続いて木陣の都ひなのが硬化魔力を放射し、それを闇陣の木崎衣美里が増殖魔力で倍増させ拡散、紫と緑が混じる光のオーロラを作り、鉄のカーテンとして自陣を守る壁を築き上げた。
その間に光陣の加賀見まさらが活性魔力を綾野梨花に付与。するとまだ50%だった魔力充填率が一気に90%台に到達し、火陣の綾野梨花は足場の良い所に立ち止まって大魔法発動の準備を整える。そこで綾野梨花は疑問を呈した。
(ダメだ……たとえ100%でも、あの魔女は倒せない。だってまだ、ろくにダメージも与えてないのに……)
──無問題。──協力技で片付けます。──貴女の協力者を信じて。
次の瞬間、綾野梨花の傍らに悪魔が降り立つ。
「────用意はいいな」
彼は綾野梨花に背中を向けて、右手を前に、左手を後ろに、両足を踏み締めるポーズを取る。やがて左手から柔和な炎が噴き出た。その意味は分からずとも良い。綾野梨花は
「────分かった。いつでもオッケー!」
悪魔と綾野梨花は、右手/コンパクト越しに標的を見据える。
────魔力充填率101%。──
「ラピッドで支え、ソニックで撃つ……炎圧1万
────
鉄星の魔女が鈍化状態から解放されて、オーロラの壁を打ち破った次の瞬間。
悪魔と綾野梨花の《
「庫裡于嚏欐戍禽禍────!!!?」
鉄星の魔女の総身を焼き焦がす分解の炎。それは極太の魔力死炎となって塵芥も残さず魔女を滅却した。
世界の景色が揺らぐ。一撃で破壊された魔女迷宮は消滅し、空間位相が歪曲する。そして夕焼けが眩しいビルの屋上に位相を戻された魔法少女たちは、なんともあっさりな勝利の余韻に浸り、驚く者、安心する者、その場にへたり込む者もいた。
「やったやった! 勝った勝ったー! さすが姉ちゃのヒーローだね!」
「そんなんじゃない。……京子ちゃんのお姉さんと恭弥に怒られたから魔力を節約しただけだ」
悪魔に飛びつく八雲みかげ。二人は別れも言わず去ろうとする。
空から四つのグリーフシードが回転しながら落ちてくる中、そんな二人を木崎衣美里が待ったを掛けた。
「ちょい待ちな! そんなクールに去られちゃあ、あーしらの立つ瀬がないってもんさね! ここは祝勝会に招待させてもらおうか! だよね? みゃーこ先輩!」
「おう。だな。魔女退治が終わったら、みんなでファミレスに行く予定だったんだ。お前らもどうだ?」
食事をしない悪魔は断ろうとする。が、八雲みかげが目を輝かせて飛び跳ねた。
「ほんと?! ミィは行きたい食べたい飲みたい! 悪魔はー?」
「オレはいい」
「悪魔も行きたいって!」
「そっちの“いい”じゃない!」
行きたければ一人で行けと悪魔は言う。
そんな悪魔の肩に肘を乗っけた木崎衣美里は馴れ馴れしく寄りかかる。
「まぁまぁ。ほら見てあーしの姿。何かに見えない?」
「……何が言いたい?」
「もー分かってるくせにー! ほら見な、この小悪魔チックな尻尾に衣装! だからここは悪魔仲間としてさー。ほらーなんだっけあれー。そう! サキュバスとインキュバスみたいな! 悪魔同窓会しようぜー!」
「それ笑えない冗談だな。意味わかって言ってないだろ」
インキュバスやサキュバスと言えば、異性の精気を吸い取る悪魔である。悪魔契約の魔法に負い目がある悪魔からしたら非常に嫌悪感を剥き出しにしたがる結び付けだろう。
そこで都ひなのが言った。
「ふむ……いつもは無理に誘うのはやめておけ……と注意する所だが……悪魔には今朝の借りがある。桐野を助けてくれたお礼がしたい。それじゃダメか?」
「…………。……わかった。そういうことなら。ただ割り勘はできないからな。オレあまり金がないから」
「全然いいよー! よーし話は決まりだね! そんじゃファミレスにレッツゴー!」
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