※この作品はR-18です。

アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO!   作:形のない者

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八重奏(オクテット) 暁美ほむら編



八重奏(オクテット) 暁美ほむら編
【まどかマジ天使……】?????


 

 夕暮れの水名区・水名大橋。そこは日沈む大河の上に立ち、新西区と水名区とを結ぶ巨大な赤橋。遠目には水名城が見えて、かつての歴史を思わせる城下町の名残が建ち並ぶ。

 

「ハァ……」

 

 その絶景を眺めて感嘆の溜め息をつく黒髪藍眼の三つ編み少女は赤い眼鏡を逆光で曇らせており、橋の欄干(らんかん)に両腕を置いて神妙な面持ちで黄昏(たそがれ)ていた。

 

「今回は……何もかもが違いすぎる……」

 

          †

 

 時の狭間。天に廻る歯車の盾。逆周りの秒針。分針はⅢの回数を指し示す。

 

(繰り返す……私は何度でも繰り返す……)

 

 時の境界。亀裂の入った因果の窓。目を瞑れば割れた鏡に過ぎ去った廻天体験(ループ)が映し出される。

 

(同じ時間を何度も巡り、たった一つの出口を探る。あなたを、絶望の運命から救い出す道を……)

 

          †

 

 鏡に映る分針は0を指し示す。即ち一週目。それは至って普通の女の子だった時の拙い話。

 

 とある病弱な女の子は、魔女結界という危険な領域に招待されて、危うく魔女とその手下に食べられる寸前だった。そこから救い出してくれたのが、鹿目まどか・巴マミという二人のカッコイイ魔法少女。何の変哲もない女の子は、二人の活躍を一般人として見守り応援する。やがてワルプルギスの夜という大型の魔女が迫り来る。それは見滝原市を襲う災厄の化身。そして戦いの最中、二人は死んでしまった。

 

 何もできなかった女の子は、泣きながら友の死体に寄り添う。

 ────自分なんか助けるよりも、貴女に生きてて欲しかった。そんなことを呟いて、三つ編みの女の子はさめざめと泣く。

 

「暁美ほむら。君はその祈りのために、自分の魂を懸けられるかい? 僕と契約すれば、どんな願いも叶えられるよ」

 

 ただの女の子は、心の中に焔(かくご)を燃え上がらせた。

 ────私は……っ!

 

「私は、鹿(・)目(・)さ(・)ん(・)と(・)の(・)出(・)会(・)い(・)を(・)や(・)り(・)直(・)し(・)た(・)い(・)。

 彼(・)女(・)に(・)守(・)ら(・)れ(・)る(・)私(・)じ(・)ゃ(・)な(・)く(・)て(・)、(・)彼(・)女(・)を(・)守(・)る(・)私(・)に(・)な(・)り(・)た(・)い(・)────ッ!!」

 

          †

 

 別の鏡に映る分針はⅠを指し示す。即ち二週目。それは至って初々しい魔法少女だった時の拙い話。

 

 暁美ほむらは退院前の病室で目覚める。カレンダーのページは半年も前のもの。これから病弱だった少女は無事退院し、見滝原市立中学校に通い、鹿目まどかや巴マミと出会う。

 

「……時間が巻き戻ってる……」

 

 暁美ほむらは魔法少女になった。そして時間を操る魔法を手に入れた。

 固有魔法《時間遡行》によって時が巻き戻り、派生魔法《時間停止》で射程内の時を止める。

 

「この力があれば……」

 

 暁美ほむらはお荷物にならず、鹿目まどかと共に戦える事を喜んでいた。しかし魔法少女の戦いはそう甘くない。魔法少女になったことで病弱な体は魔力でなんとか克服できたが、病気がちだったせいで今まで運動という運動ができなかった弊害で、運動神経が全くない。そのため戦闘では全く役に立てず、暁美ほむらは思い悩んでいた。

 

 そこで暁美ほむらは爆弾の製作を閃く。魔女のような大きな化物を倒す為には、爆弾という大きな火力が必要だ。独学で勉強し、材料を仕入れ、手製の爆弾を作成。それから魔女戦闘ではトドメの爆弾を任せられるようになり、少しは役に立てるようになった。

 

 そして災厄の日が差し迫る。ワルプルギスの夜によって巴マミは死んだが、鹿目まどかと協力することで、なんとかワルプルギスの夜を撃退することができた。しかし鹿目まどかの様子がおかしい。激闘の末、大量の魔力を消費した結果、鹿目まどかのソウルジェムが穢れで濁りきった時……ソウルジェムはグリーフシードに変形し、その中から山のように巨大な魔女が現れた。

 

 ────魔法少女は、ソウルジェムが穢れで濁り切ると、魔女になる。

 

          †

 

 また別の鏡に映る分針はⅡを指し示す。即ち三週目。それは“選択”を失敗した魔法少女の愚かな話。

 

 暁美ほむらは衝撃の真実に打ち震えた。

 

「伝えなきゃ……みんなキュゥべえに騙されてる!」

 

 ……。

 しかし暁美ほむらは考え直す。

 

「でも……私の言うことなんて信じてもらえないかも……」

 

 暁美ほむらは彼女たちをよく知っているが、彼女たちにとって暁美ほむらは初対面だ。そんな人の言うことを素直に聞き入れてくれるだろうか。鹿目まどかは信じてくれそうだが、それでも半信半疑といったところだろう。巴マミはキュゥべえのことを友達だと言っていたから、そう簡単には受け入れてもらえないだろう。

 

 軋轢(あつれき)を承知で打ち明けるか、自分だけで何とかするか。

 その二択は、ほんの少しの勇気の違いと、窓から入るちょっとの風向きで変わる程度の進路変更。

 前者は、仲間との絆を信じる黄金の勇気。後者は、自分の力を信じる孤独の勇気。

 

 暁美ほむらは────窓から入る右に吹いた風になびかれて、後者を選択した。

 

(もし、この判断が間違っていたとしても……次がある……。

 もちろん、そんな“次”は期待しない……今度こそ、絶対に鹿目さんを救うんだ……!)

 

 その後、比較的初期の段階で美樹さやかという魔法少女が加入した。すると佐倉杏子という隣市の魔法少女も登場し、暁美ほむらは事態の変化に戸惑う。

 

 だが悪い事ばかりでもなかった。美樹さやかとは性格的な相性が合わなかったのか、最後まで信用してもらえなかったが……彼女の「爆弾とか危なっかしくて共闘してらんない」という発言から、暁美ほむらは爆弾以外の武器を考え始めた。その結果、違法に銃器を所持している裏社会の事務所から様々な火器を盗むことで、暁美ほむらは銃撃戦という戦闘スタイルを新たに獲得した。

 

 そして巴マミはお菓子の魔女に食い殺されてしまい、美樹さやかは魔女化し、佐倉杏子は人魚の魔女と相討ちになった。やがて災厄の日が訪れる。暁美ほむらは鹿目まどかと二人っきりの最終決戦に挑み、なんとかワルプルギスの夜の撃退に成功する。しかし二人のソウルジェムは穢れで濁り切る寸前であり、共に魔女化する時が近付いていた。

 

 砂塵の雲海を見上げ、天使の階段が降臨し、透明な小雨が降りしきる中、絶望しかかる暁美ほむらは世界の破壊をうそぶく。すると鹿目まどかは、今まで隠していた人魚の魔女のグリーフシードを取り出して、暁美ほむらのソウルジェムを浄化した。

 

「そんな……! なんで私に!?」

「ほむらちゃんには、生きててほしいから……」

「……っ!」

「ごめんね……ずるいよね……でも、やっぱり魔女になっちゃうのは、悲しいことだと思うんだ……」

 

 鹿目まどかは一粒の涙を流して、あの日に失った友(さやか)を思う。

 

「魔法や奇跡があるせいで、自分の本当の願いが諦めきれなくて……だからどこかで歯車が狂っちゃって、絶望して、八つ当たりするように、周りに呪いを振り撒くなんて……そんなの、最初はみんな、そんなつもりじゃなかったはずなのに……」

 

 鹿目まどかは魔女化の前兆である魂の激痛に身悶えする。

 その悲鳴は、聴き続けるのが耐えられないほどの断末魔。

 

「まどか……っ!」

「ほむら、ちゃん……やっと、名前で呼んでくれたね……嬉しい、な……」

 

 魔女化まで十数秒も無い中、鹿目まどかは大粒の涙を笑顔で流して、最期の慟哭(つらさ)を吐き出した。

 

「ほむら、ちゃん……私、魔女になりたくない。嫌なことも、悲しいこともあったけど……守りたいものだって、たくさん、この世界にはあったから……だから、ひとつだけ……お願いしても、いい、かな……?」

 

 鹿目まどかは、穢れ切った自分のソウルジェムを震える腕で持ち上げる。

 

「っ……! ぐぅ……うう゛……!!」

 

 それが、どういった意味を持つ言葉なのか。

 暁美ほむらは、親友の願いを目配せだけで理解し、懐から拳銃を取り出した。

 

「────────────────ッゥ゛ゥ゛ゥ゛ゥ゛ッッッ!!!!」

 

 苦悶の絶叫を上げる覚悟の少女。

 その傍らでは、穏やかな死を待って目を閉じる普通の女の子が横たわっていた。

 

 閃光。銃声────

 

          †

 

 再び別の鏡に映る分針はⅢを指し示す。即ち四週目。それは“今まで”の話。

 

 暁美ほむらは入学初日。既に魔法少女となっていた鹿目まどかに洗いざらい全てを打ち明けた。

 過去に戻れること。歴史を変えられること。

 魔女化のこと。キュゥべえに騙されていること。

 そして或る罪悪感からくる意味不明な謝罪。

 しかし鹿目まどかは当然ながら、その話を心の底から信じることはできなかった。

 

 暁美ほむらも、いくら親友を撃ち殺した罪悪感と親友を救わねばならない使命感で頭の中がいっぱいだったとは言え、およそ賢い行動とは言い難い自己紹介と、最悪で大失敗な挨拶をしでかした。

 

 しかし大らかで優しい鹿目まどかは、そんな暁美ほむら(変人)を魔法少女の仲間として迎え入れた。ただし鹿目まどかは暁美ほむらと約束を交わす。魔女化やキュゥべえのことは、巴マミや美樹さやかには内緒にするようにと……。

 

 ある日のこと。突如として巴マミが失踪した。キュゥべえを捕まえて聞き出せば「巴マミは神浜市に向かった」とだけ話す。鹿目まどかは「マミさんを捜そう」と言うが、美樹さやかは「そのあいだ誰が見滝原市を守るの?」と返す。話し合いの結果、鹿目まどかと暁美ほむらが捜索に出て、美樹さやかが見滝原市を守るという話に落ち着いた。それから神浜市中を探索して一週間が経過したが、特に何の進展もなし。

 

 しかし暁美ほむらは途方に暮れていたわけではない。ワルプルギスの夜の襲来まで時間がないため、それまで自分に何が出来るのか考えていたのだ。

 

(ワルプルギスの夜を倒す為に必要なものは、もっと多くの魔法少女の力。最初マミさんは私たち後輩を守るため独りで戦おうとするけど、そのせいで死んでしまう。だからマミさんが守らなくてもいいと思えるくらい私が強くなれば、きっと一緒に戦わせてもらえる……ただマミさんと共闘すると、佐倉杏子との共闘案が蹴られやすくなる……でも私がマミさんと戦うなら、きっとまどかも声を上げてくれるし、美樹さやかだって黙ってはいないはず。そうして四人で戦えば……なんとか全員無事でワルプルギスの夜に勝てるかもしれない……)

 

 ただし勝利するだけでは敗北と変わらない。大量の魔力を消費して穢れが蓄積するため、グリーフシードの調達が別途必須である。だがそう簡単にグリーフシードが手に入るなら苦労しない。

 

(でも……この神浜市には魔女が多い。よその魔女を狩るのは縄張り争いを生みやすいとマミさんは言っていたけど……でも、もしここで予備のグリーフシードを調達できるなら、あとは私が短期間でどこまで強くなれるか、という話になる……神浜市の魔女や使い魔は見滝原市と比べて強いから、倒すのは苦労するかもだけど、私のレベルアップには最適なのかもしれない……)

 

 今までのループとは、舞台となる街が異なる以上、何から何まで予想がつかない。だが、それに戸惑ってばかりもいられない。ピンチをチャンスに。暁美ほむらは独りでガッツポーズして、さっそく行動を開始する。

 

(まどかには悪いけど、今日は一人で見滝原市に帰ってもらおう……そして私は神浜市に居続けて、神浜市の調査・戦闘トレーニング・マミさんの捜索に精を出そう)

 

 暁美ほむらはスマホを取り出して、鹿目まどかになんて言おうか考える。

 

「うーん……今日は手分けして捜すために別行動していたから……

 『ごめん、まどか。ちょっと用事があって今すぐ帰らなくちゃいけなくなったの。だから先に帰ってて。本当にごめんね!』

 ……いや、でもそれはちょっと感じが悪いような……じゃあ……

 『ごめんね、まどか。急用ができて神浜市に残らなくちゃならなくなったの。だから先に帰ってて! 本当にごめんね!』

 ……って、これじゃあさっきのとあまり変わらないじゃん……ああ、メールって苦手だなぁ……今まで話す相手も居なかったからなぁ……でもまどかだったら、きっと笑顔いっぱいの絵文字で『いいよ! 大丈夫だよ!!』って、優しく返してくれるんだろうなぁ……」

 

 暁美ほむらはメールの文章に悪戦苦闘する。鹿目まどかなら少し下手なメールでも笑って許してくれるだろうが、暁美ほむら自身がそれを許せない。だが時間が勿体無いため、最終的には後者の文章でメールを送信した。すると予想通りの返信があり、加えて────

 

『神浜市の魔女は強いから、本当に気を付けてね! 絶対に一人で戦おうとしちゃダメだよ!! 何かあったらすぐに呼んでね!』

 

 ────と、心配する内容を添えてくれた。

 

(まどかマジ天使……)

 

 暁美ほむらは恍惚な微笑みを浮かべて、高鳴る胸を抑えながら携帯電話(まどかの想いが詰まった文章)を大事に抱く。

 

(まどか……たった一人の、私の友達……あなたのために、私はなんでもするわ……)

 

          †

 

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