※この作品はR-18です。

アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO!   作:形のない者

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【なんだか“死ぬ気で燃え上がれ”って感じがしてイイじゃないか】悪魔

 

 大河の向こうに沈む夕陽。河川敷の奥には水名城の天守閣が望める。

 その絶景を見納めた暁美ほむらは、さっそく行動を開始した。

 

 街に入れば夕陽が建物に遮られて暗闇が多くなる。

 城下町の看板には《逢魔が時》と書かれてあり、夕方のみ開店する老舗の饅頭屋さんがあるようだ。

 

 逢魔が時とは、昼と夜が移り変わる瞬間の時刻を指す言葉で、夕方の薄暗くなる時を意味している。そして“魔”に“逢う”という漢字から察する通り、こういう黄昏時は“魔物に遭遇しやすい”と大昔から信じられてきた。つまり幽霊や妖怪といった怪しい存在に出会いやすい時間帯である。

 

「かれはだれ、かはたれどき……だれぞかれ、たそがれどき……」

 

 暁美ほむらは唄うように呟きながら、歩行者天国の通りの脇に建ち並ぶ露天を眺めて歩く。

 すると前方が疎かになり、遠目で饅頭屋を眺める少年の背中にぶつかってしまった。

 

「いたっ! ──あ、ご、ごめんなさい……!」

「いや、こっちも立ち止まっていて悪かった。大丈夫か?」

 

 眉間にシワを寄せた目付きの鋭い中学生くらいの少年。パッと見の印象で(幽霊でも妖怪でもなく悪魔!?)と驚いた暁美ほむらは、その見かけだけで怯え竦んでしまう。既に謝罪はしたのだから再び会釈して通り過ぎれば良いだけのはずが、もし不良だったら脅されるのではと焦りに焦って変にその場に留まってしまう。

 

「……そんなにビビらなくてもいいぞ。強面(こわもて)でごめんな」

「えっ」

 

 まるで心中を見抜かれたかのような労わり方に驚いた暁美ほむらは、その柔和な話し方から、そこまで怖い人ではない事を察する。

 

「あ、いえ、こちらこそ……失礼しました……」

「…………」

 

 暁美ほむらは会釈して斜めを向き、少年を避けて先に進もうとする。

 

「────ちょっと待った」

「えぇ!?」

 

 が、不意に少年の手が伸びて、暁美ほむらの腕を力強く掴んだ。

 

「あ、あの、本当にすみません……! ちゃんと前を見て歩きますので……!」

「…………?」

 

 暁美ほむらの顔付きを注視する少年は、懐からスマホを取り出して写真アプリを開く。

 

「すまん。ちょっと待ってくれ」

「……へ?」

 

 そして少年は一枚の写真を見つけた。日付は一週間以上前のもの。それは四人の少女が笑顔でポーズを決めた集合写真。元々はメールと一緒に送付されてきたもので、スマホの機能で元のメールを辿り、『差出人:巴マミ』のメールを開く。

 

『悪魔さん。私に後輩ができました。しかもいきなり三人も!

 とても可愛い後輩たちです。いつか会いに来てくださいね。

 待っています。巴マミより』

 

「……おい、この写真を見てくれ」

「え? えっと……」

 

 少年から一枚の写真を見せられた暁美ほむらは、目を点にして固まった。

 なんと少年のスマホ画面には、鹿目まどか・巴マミ・美樹さやか・暁美ほむらが立ち並ぶ集合写真が写っていたのだから。

 

          †

 

 水名区・水名城の城下町にて、悪魔は運命的な出会いを果たした。

 

 饅頭屋の匂いに釣られて足を止めていたら、ある少女が背中にぶつかり、その子が巴マミの後輩だったのだ。

 

「でもよく気付きましたね。マミさん以外の顔は、顔文字で隠されていたのに」

「髪型や背格好で直感したんだ。まさか本当に当たるとは思わなかったけどな」

 

 悪魔と暁美ほむらは公園のベンチに座り、自己紹介を交えて巴マミについて語り合う。

 

「オレは悪魔だ。君は?」

「え、悪魔!? ──あ、私は、その……暁美ほむらと言います……」

「ほむら(焔)……なるほど。いい名前だな」

「そんな……すごく、変な名前って思いませんか……?」

「そうか? なんだか“死ぬ気で燃え上がれ”って感じがしてイイじゃないか」

「……!」

 

 暁美ほむらは、まだ魔法少女なんて知らなかった頃の、入学初日の出来事を思い出す。

 

          †

 

 ──「私、鹿目まどか。“まどか”って呼んで」

 

 ──「いいって。だから、私も“ほむらちゃん”って呼んでいいかな?」

 

 ──「えー? そんなことないよ。なんかさ、燃え上がれー! って感じでカッコいいと思うなぁ」

 

 ──「うん? そんなのもったいないよ。せっかく素敵な名前なんだから、ほむらちゃんもカッコよくなっちゃえばいいんだよ!」

 

          †

 

(……この人、まどかと同じことを言ってる……)

 

 暁美ほむらは一瞬の安堵を覚える。だが今はそれどころではない。彼は巴マミと知り合い。ならば巴マミの失踪について何か知っているのではないか。

 

「あの……悪魔? さんは、マミさんとはどういう……」

「友達だ。そして、共に魔女と戦う戦友であり、切磋琢磨した師弟でもある」

「え? 魔女……戦友、師弟って────えぇっ!?」

「あ、そうか。まだ魔法関係の知り合いだとは名乗っていなかったな。すまん。だが写真に写っている子は全員魔法少女だろ?」

「……あ、確かに……」

「“魔法少女の後輩として紹介した”と認識していたんだが……そっちが逆に驚いている辺り、間違っていなかったようだな。シルバーリングも嵌めているし」

「あっ……」

 

 ソウルジェムは日常的に持ち運びがしやすいよう銀色の指輪に変形させることができる。ほかのアクセサリーに変形させる魔法少女もいるが、大抵の魔法少女はシルバーリングを嵌めており、それは暁美ほむらも例外ではなかった。

 

「え、えっと……色々と驚きの連続で、聞きたいことが山ほどできたんですが……」

「構わない。なんでも聞くといい」

「じゃあ、まず……師弟というのは?」

 

 悪魔は腕を組み、思い出すように夕空を見上げる。

 

「オレが見滝原市に立ち寄ったのは去年のことだ。そこで巴マミ・佐倉杏子と出会い、マミの家でしばらく一緒に暮らした」

「一緒に暮らした!?」

「あの時はオレも含め全員、強くなる為に必死だったから修行することになった。そこで魔法学問的なことはオレが教師を務め、戦闘学問的なことはマミが教師を務めた。だからオレとマミは、ある分野に限っては師匠でもあり弟子でもある。そういう関係だ。だからまぁ……結局は“切磋琢磨したことがある仲間”ってことでいいんじゃないかな?」

「はぁ……まさか、そんな過去がマミさんにあったとは……」

 

 そこで暁美ほむらは「少し踏み込んだことを言いますが」と前置きした上で質問した。

 

「それなら最初から“仲間”ってことで良いのでは?」

「そう思うだろ? というのもマミが“イタリア語”を教えようとしてきたからなんだ。それで“イタリア語教師”の肩書きが付いたから、その流れで勢いのままにどんどんと師弟の肩書きが増えて……あとは想像に任せるよ」

「イタリア語……たしかに私も教えられそうになったことがあります!」

「はは。そうか。まだイタリア語好きは健在だったか」

 

 悪魔は懐かしそうに笑う。

 

「それで、マミは元気か?」

「あ……」

 

 暁美ほむらは言いづらそうに俯く。どうやら失踪の件は知らなさそうだ。ではどう答えたものか。

 

「その……実は、先月から行方不明で……」

「────なんだと?」

 

 悪魔は立ち上がり、青いソウルリングから炎を灯す。

 

「まだ見つかっていないのか?」

「はい……キュゥべえによれば“神浜市に行った”らしいんですが、捜しても捜しても手掛かりさえ見つからなくて……」

 

 次の瞬間、悪魔は腰の匣を乱暴に取り外して顔の前に近付けた。

 

「キュゥべえ」

「なんだい?」

 

 匣の中からキュゥべえの声が響く。

 それに目を見張った暁美ほむらは驚いていた。

 

「オレの知り合いに何かあれば報告しろと言っておいたはずだが」

「何かあれば、だろ? 巴マミは失踪したんじゃなくて、ま(・)だ(・)調(・)査(・)中(・)なんじゃないかな?」

「巴マミに何を言った」

「最近、多くの魔女が神浜市に引き寄せられている。その理由を調査してほしい。そう依頼したんだ」

「そうか。それで? まさか友(・)達(・)と(・)し(・)て(・)頼(・)む(・)よ(・)とでも言ったのか?」

「当然だ。友達とは、志(・)を(・)共(・)に(・)す(・)る(・)同(・)等(・)の(・)相(・)手(・)を指す言葉だろう?」

「宇(・)宙(・)の(・)公(・)益(・)に(・)な(・)る(・)と(・)い(・)う(・)志(・)の(・)下(・)に(・)、(・)取(・)引(・)の(・)上(・)で(・)は(・)対(・)等(・)に(・)扱(・)う(・)……という意味の間違いじゃないのか?」

 

 悪魔は怨嗟を込めた瞳で匣の中のキュゥべえを射抜く。

 それを見た暁美ほむらは驚いたように竦み、寒気のする身震いを覚えた。

 

「……分かった。助太刀魔法で飛んでみよう」

「助太刀、魔法? 悪魔さんは魔法を使えるんですか!?」

「あぁ。転移系の魔法だ。オレが助けたいと思う友人の所まで一瞬で移動できる」

 

 悪魔は手のひらを差し出す。

 

「?」

「すまないが魔力を分けてもらえないか? オレは魔法少女じゃないから魔力を捻出するのも一苦労なんだ」

「あ、はい! 分かりました……!」

 

 握手した悪魔の体内に、暁美ほむらの魔力が流れ込む。

 

「ソウルジェムを出してくれ。今の消費分をオレのグリーフシードで浄化しよう」

「あ……ありがとうございます……」

 

 そして悪魔は、さっそく助太刀魔法を行使する。

 しかし次の瞬間、青い日本刀は音を立てて砕け散った。

 

「!?」

「なにっ!? 刀が割れた……? 妨害されたってことか!」

 

 悪魔は歯噛みしたあと、ほかに効率的な捜索方法がないか考えるが何も思い浮かばない。

 

「おいキュゥべえ。巴マミはどこにいる?」

「そんなの知らないよ。ただマミが任務を放棄するとは思えないから、神浜市に居るのはほぼ確実だと思うよ。それに助太刀魔法が発動しないなんて、まさに今の神浜市を象徴する異常事態としては、実に有り得そうな現象じゃないか」

「キュゥべえ。知っていることを話してくれ」

「たとえば?」

「っ……魔女は神浜市の“どの地域”に向かって集まっている?」

「僕らの予想では北養区方面かな」

 

 暁美ほむらは「北養区……」と呟き、悪魔は地図アプリを開く。

 

「……途中で参京区を跨ぐのか。深夜には着きそうだな。だが人気のない山中に魔女が集まるものなのか?」

「だから不思議なんだよ。誰かが意図的に操作しているとしか思えない。もちろん魔女が好む何かがそこにあるという可能性も捨てきれないけどね」

 

 そこで悪魔は暁美ほむらに向き直る。

 

「ほむら。付いてくるか?」

「……! は、はい! ぜひ!」

「ただ、魔法少女ならオレより早く北養区に着ける。だが一人では危険だと思うから同行を提案した。オレのペースに合わせてくれるか?」

「それは……はい。まどかも、神浜市は魔女が強くて危ないから、一人で無理はしないでって言っていましたから!」

「そうか。良い仲間がいるんだな。────それじゃあ行くか」

 

 悪魔と暁美ほむらは北に向かって歩き出す。

 一方、その二人の後ろ姿を睨む何者かが居た。

 

          †

 

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