アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO! 作:形のない者
水名区・廃墟街。悪魔と暁美ほむらは北へ向かってまっすぐ進んでいると、人気のない寂れた区画に入り込んだ。水名ホテルという大きな建物が見えるが、鬱蒼と蔓草植物が繁茂しており、廃ホテル跡として残っている。
「なんか……夕暮れなのもあって、少し暗くて怖いですね……」
「そうか。すまない。道のりを間違えたな。ただここを抜ければ参京区だ」
足早に進む悪魔と暁美ほむら。
そこで二人の前方に見知らぬ少女が現れた。
「やぁやぁ見つけたぞ! お前がうわさの“キュゥべえの素首を腰に吊るした魔法少女を食べちゃう悪魔”かァ!」
「いやそれどんなうわさの広まり方だよ!? なんの根拠もない尾ひれが付きすぎだろ! あと素首を腰に吊るすとか武将じゃあるまいし!」
思わずツッコミを入れてしまった悪魔は、突然ケンカを売ってきた相手の姿を確認する。
紺髪紺眼の胸にサラシを巻いた和装の美少女。その手には薙刀を携えており、キュゥべえの名を知っていることから、明らかに魔法少女と分かる。
「むむっ! 確かに腰にキュゥべえを付けてない!」
「ある意味つけてるけどね」
「むむむっ!? どこからともなくキュゥべえの声が! まさか妖術か!」
「お前……あとで覚えてろよ」
キュゥべえがわざと声を発して茶々を入れなければやり過ごせた相手だった。いや、それはどうだろう……と直感する悪魔は、非常に面倒な子とあいまみえたことだけは正しく直感していた。
「なぁ、よく聞いてほしい。一応オレは人間だ。悪魔と名乗ってはいるが、悪事を働く存在じゃない」
「嘘をつけ! 悪魔とは悪い魔物のことだ! 貴様、あちこちで魔法少女を喰っていると聞いたぞ! 最近の情報では中央区で魔法少女をパフェのように食べたとの報告だ!」
「それあのギャルの中の誰かが発信したろ。衣美里か? 梨花か? 衣美里だな……」
「なに! なぜその名前を! まさか衣美里と梨花を喰ったのか! ぬおおおお二人の仇ぃいいいい!」
「ほむら。ちょっと離れてろ。あいつは話を聞かないタイプだ」
「あ、はい……」
暁美ほむらは距離を取る。
そして悪魔は呆れ眼で問い掛けた。
「で、お前の名前だけは聞いておきたいんだが」
「私の名は竜城明日香! 最近神浜市に名を轟かす悪魔を成敗しに来た正義の魔法少女だ!」
「最近も何も、オレはこの街に訪れて一日も経っていないんだが?」
「問答無用! 押し通る!」
「っ……!」
突然の魔力放出で急接近してきた竜城明日香は、確実に斬り殺す意図で薙刀を奮う。
悪魔は難なく両手の炎の逆噴射で空を飛び回避したが、さて。この問題児をどう片付けるか悩んでいた。
「おーい! 降りてこーい! 卑怯だぞー!」
「……お前、もしオレが一般人だったらどうするつもりだったんだ……」
「えっ!? それは……自害あるのみ!」
「それは責任を取るとは言わねぇぞ?」
呆れ果てた悪魔は、荒事に巻き込まれないよう避難していた暁美ほむらと視線を合わせる。
「ほむら。オレは先に空を飛んでいく。
「……! わ、分かりました!」
境目とは、水名区と参京区の境目の事である。あるいは参京区と北養区の境目でも良いかもしれない。いずれにせよ悪魔の機動力があれば、境目で待つ暁美ほむらを見つけるのは容易い。────が、そうは問屋が卸さなかった。
「隙有り!」
青色の魔力放出で天高く飛び上がった竜城明日香は悪魔に斬りかかる。
「オレの弁解を聞く気は?」
「皆無!」
それを難なく躱した悪魔は、放物線を描いて落下していく竜城明日香を見下ろして境目に向かう。
「くっ……ならば! 固有魔法《規律順守》────許可なき飛行は認めませんっ!」
「────ッ!?」
突然、悪魔の両手から炎が消える。自由落下を開始。地面に激突する直前、すかさず着地用の炎を蒸かすと、
「……戦闘が避けられなくなるぞ。それでもいいのか?」
「もとより討伐する所存! さぁ、正々堂々勝負です!」
悪魔は額から一粒の汗を流す。空中戦が縛られた。これはかなりの痛手である。魔法少女の機動力を上回る得意の戦闘スタイルを封じられたのは厳しいものがある。このまま死ぬ気の炎で魔法少女と渡り合うためには、一回だけ魔法を行使するしかない。
「──《刀剣作成》……」
悪魔の右手にひと振りの日本刀が生成される。
それを構えて青いソウルリングから炎を灯し、時雨蒼燕流の構えを取った。
「刃物を取り出しましたね! 正体を現しましたか!」
「その言葉、そっくり返すぜ。妖怪辻斬り薙刀女」
「なっ! 誰が妖怪ですか! この悪魔!」
「辻斬りは否定しないのか……」
見合う二人。そこに暁美ほむらの声が響く。
「……! あ、悪魔さん!」
「! ほむら!」
暁美ほむらは先へ急がず、屋上に落ちた悪魔を心配して追い掛けてくれたようだ。
そこへ竜城明日香が飛びかかる。
「今だ! 覚悟ォッ!」
「いや不意打ち上等かよ! 正々堂々はどこいった!?」
魔力放射の突進が差し迫る。
それにより水属性の魔力が辺りに飛び散り、水滴となって窪みに溜まる。
(時雨蒼燕流 守式・四の型────《
対する悪魔は敵の呼吸に合わせた体運びで回避し、刀を返して峰打ちを叩きつけた。
「ぐっ……!」
急所を突けば気絶させることもできたが、相手も中々の手練。そうは簡単に決定打を与えてはもらえない。
「くっ……なぜこうも容易く躱されるのかっ!」
「それは水属性と魔力放出の組み合わせが悪いからだ。魔力の噴射力において、魔属性は随一の特性を有しているが、水属性は鎮静効果が邪魔をして七属性の中で最も弱い噴射力と言われている」
「なっ! そ、そうなんですかぁ!?」
「水属性は元々
「ぬっ! ぐぬぬぬぬ……!」
「今度はこっちの番だ。一撃で眠れ」
疾走する悪魔は峰打ちで昏倒させようと刀を振る。
それに対応しようと竜城明日香は薙刀を振るった……はずだった。
「なっ! 体が……動か、ない……!?」
「さっきの峰打ちの時、鎮静の性質を流し込んで体動を鈍化させた。終わりだ」
一撃。峰打ちを受けた竜城明日香は気を失うように両腕をだらりと下げる。
「────!?」
が、何かを直感した悪魔は即座に後退した。
次の瞬間、窪みの水溜りが槍のように鋭く尖って悪魔を狙う。
「時雨竜真流 攻式・五之型────《
「なんだと!?」
時雨
(時雨蒼燕流 守式・七の型────《
それは刀で水を回転するように巻き上げて攻撃を防ぐ防御奥義。
水面から水の穂先が次々と突き立ってくるのを、別の水溜りから巻き上げた水の回転で防いだ悪魔は、眼前の少女を驚きの目で見つめる。
「痛覚を遮断して昏倒技を無効化したのか? だが今の峰打ちは神経系にダメージを与えて失神させる技だ。無痛だとしても昏倒は避けられない。となれば魔力の高速治癒……? いや、今さっき学んだ鎮静の効果で、自分の神経を鈍らせたのか……!」
「っ……ご名答! ちょっとクラクラしますが、まだ戦えます!」
「……厄介な性格の割に戦闘センスはピカイチだな。タチが悪いぜ……」
「むっ! いま私を馬鹿にしましたか!?」
「一応褒めてるよ」
「ならばよし!」
ふざけた魔法少女との戦いは続く。
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