アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO! 作:形のない者
悪魔と竜城明日香の戦い。
雨水舞い散る刀と薙刀の交差は、いよいよ佳境を越えんとしていた。
「なぁ明日香……オレの剣技を見て不思議とは思わないのか?」
「はい?」
「時雨蒼燕流……どこかで聞いたことはないか」
「いえ! 全く存じ上げません! なんですかそれは? まさかウチの時雨竜真流のパクリですか!?」
「いや、まさかの源流だよ……」
「んなっ!? そんなの信じられません! ──ハッ! まさか今のは悪魔の甘言!? くっ……今度はその手で来ましたか!」
「いや、何も来てない来てない。単にお前が盛大な誤解を、この廃ホテル並みに積み上げているだけだ」
悪魔は冗長な会話の中で作戦を練り上げる。気絶が不可能となれば、いよいよ傷を与えて倒すしかない。命までは取らないよう細心の注意を払って戦闘するのは骨が折れるが、そうでもしなければどうにもならない状況だ。
「力尽くで説得するしかないか……」
「それはこちらのセリフです!
「なにっ!?」
いきなりの大技。悪魔は渾身の十の型で迎え撃とうとするが、次の瞬間。
「────ッ!!!」
視界が明滅し、気付けば片膝を突いていた。一瞬の意識の喪失。それは覚えがある。
(さっきの刀剣作成魔法の代償か……!)
もはや精根尽き果てている心身。それでも立ち上がっていられるのは死ぬ気であるが故。
「我が流派の真髄、お見せします!
時雨竜真流 必殺奥義────《
技名の末尾に必ず付く“雨”の要素はどこに行ったのか。
どこからともなく現れた水龍と共に跳び上がった竜城明日香は、瀑布のごとし勢いで突っ込んでくる。
「悪魔さん────っ!?」
暁美ほむらの叫びが聞こえた刹那、屋上にいたはずの悪魔は、ふと気付けば────
「……なに?」
────後方から爆発音。振り返って廃ホテルの屋上を見上げれば、滝のような水量が爆発して周囲に小雨を降らしていた。
「なんだ……何がどうなっている……?」
「ハァ、ハァ……間一髪、でしたね……」
そこは廃墟街の路地の一角。
傍らでは暁美ほむらの荒い息遣い。
「ほむら。まさかお前が助けてくれたのか? 何をしたんだ」
「じ、時間……です。……私、時間を止められるんです……」
「────」
「でも、止まった時間の中で私に触れている物体は動き出すので、すぐに悪魔さんに触れたんですが……意識が朦朧としているようでしたので、急遽おんぶして屋上から飛び降りて、なんとかここまで走ってきました……! ハァ、ハァ……疲れた……」
時間停止。それはなんて強力すぎる魔法だろうか。もし戦えば対策の立てようはあるのか。
そんなことをまずはじめに考えてしまう悪魔だが、すぐに自らの頬を叩いて意識を鮮明に醒ます。
「すまない。助けられたな。ほむらは命の恩人だ。ありがとう」
「そ、そんな……言いすぎですよ……それより早く逃げないと……」
「それは難しいな。たぶんほむらの魔力パターンを探って追い掛けてくるぞ」
「あっ……じゃあ、どうすれば……」
「今のうちに対策を考えて迎撃するしかない」
悪魔は考える。そこで暁美ほむらのソウルジェムに目を付けた。
「霧の構築効果で、魔力パターンをカモフラージュできるだろうか……」
「……あ、あの! 私が説得してみるのはどうでしょうか!?」
「やってみてもいいが、たぶん悪魔の仲間として斬りかかられるだけだぞ」
「うっ……それでも、やってみます!」
悪魔は藍色のソウルリングに炎を灯して、暁美ほむらのソウルジェムにカモフラ効果の霧を掛ける。
「ならば、ほむら。もし説得に失敗したら、時間停止の魔法で此処に戻って来い」
「わ、分かりました……! でも、そのあとは……?」
「魔力パターンの探知を妨害する術を掛けた。それで逃げ切れるかは賭けだが……追い付かれたら迎撃戦だ。なに、ほむらには傷一つ付けないから安心してくれ。さっき殺られかかった奴のセリフは信用ならないだろうが……」
「……と、ともかく、行ってきます!」
暁美ほむらは通りに出て廃ビルの屋上を見上げる。
すると魔力パターンを探知した竜城明日香が跳躍して、まっすぐと向かって降り立ってきた。
「いつの間にここまで逃げたんですか!?」
「あ、あの……私、暁美ほむらと言います……あなたと同じ魔法少女です! それで、悪魔さんは私の先輩の友人で……」
「むっ! 同じ魔法少女なら、どうして悪魔の味方をするのですか!」
「いや、だから、そうじゃなくて……」
「まさか悪魔の手先に成り上がった闇堕ち魔法少女!? こうしてはいられません……早く目を覚ますのです! 陽の光に満ちた道を走るためにも今すぐ戻ってきてください!」
「あれ……ホントにこのひと話が通じない!?」
悪魔は超直感によって早々に気付いていたが故、説得は端から放棄していた。
そして暁美ほむらの虚しい説得が失敗に終わった、そのとき。
「明日香ァアアアアアアアアア!!」
茶色い長髪をなびかせて赤い眼を光らせる白騎士風の魔法少女が天空より降り立った。
彼女は暁美ほむらを庇うような位置に立って、竜城明日香を叱咤する。
「あなた……何をしているのかと思えば、また勘違いを積み重ねて人様に迷惑を掛けて!」
「えっ! もしかして勘違いなんですか!?」
「まぁ……今回は“悪魔”っていう尤もらしいキーワードがあったから情状酌量の余地があるかもしれないけど……まずは事実確認でしょう!」
「しかし今こうして目の前に悪魔の手先が居るんです! さっきは悪魔も居たんです!」
「そんなの言い訳にならない!」
白騎士風の魔法少女は頭を抱えて振り返ると、暁美ほむらと目が合って会釈する。
「えーっと、色々と申し訳ないわ……私は美凪ささら。あなたは?」
「あ、暁美ほむらです……」
「それで、たぶん明日香は悪魔を成敗とか言ってたんでしょうけど……もしかして、あなたががその
「い、いえ……悪魔さんは、別にいて……」
暁美ほむらはチラリと背後の路地を見る。
すると悪魔の声が前方から聞こえてきた。
「オレはここだ」
「なぬっ!? 背後を取られるとは不覚!」
「あれ、悪魔さん……!」
「……って、嘘でしょ……どう考えてもただの一般人じゃない……」
魔力パターンを感じない。魔女反応も感じない。つまり一般人の少年に迷惑を掛けたと察した美凪ささらは、卒倒しそうになるくらい頭が痛くなってくる。
「これは衣美里ちゃんにお願いして、魔法少女のことは記憶捏造魔法でなんとか誤魔化すしかないかしら……?」
「それには及ばない。オレも魔法界の関係者だ。衣美里とも先刻知り合ったばかりだから、話せばオレの話題が出てくると思うぞ」
「えっ……でもあなた、男の子よね……?」
「確かに男だが、何も魔法少女の世界に男が関われないわけじゃあるまい。妙な先入観は捨てることだな」
「あっ……え、えぇ、そうね……確かにそうかも……」
悪魔は事態の一段落を察して刀を消滅させる。
(っ────今の戦いで、かなり炎の残存量が低下した……次の戦闘は死ぬ気の炎だけでも、かなり厳しいかもしれない……)
「明日香。オレに掛けた魔法を解いてくれ」
「えっ……それは……事実確認をしてからです!」
「……ハァ。ごめんなさいね。こういう所はきっちりやろうとする子だから……」
「あ、はは……」暁美ほむらは苦笑い。
竜城明日香はスマホを取り出して木崎衣美里に連絡する。
「あ、もしもし? 竜城明日香です、衣美里さん!」
『おー! あすきゃんじゃん! どったのー?』
「実は、先ほど悪魔によってパフェのように食べられたとの通報があったのですが!」
『んー? ファミレスで悪魔がパフェ頼んで、あーしらに恵んでくれた話?』
「え?」
『確かにSNSで発信したよーん。“悪魔と名乗るイケメンがパフェを無理やり食わせてきた件について”ってね!』
「……えーっと、では衣美里さんと梨花さんが、悪魔と名乗る不審者に食べられたという話は?」
『アハハ! それどっから出てきた話なんだ!? もしかしてあすきゃん、また一人で突っ走っちゃった感じ?』
「…………」
滝のような汗を流す竜城明日香は、世界が終わったかのような表情で、悪魔に振り返る。
「……その顔を見るに、どうやら誤解は解けたようだな」
「────……お、おっ、おわ、お詫びを……」
「いや、紛らわしい名前をしているオレにも非はあった。だが、お詫びと言うなら魔法を解除してくれ」
「解除しました……」
「ありがとう。さよなら。二度と思い込みで暴走するなよ」
悪魔は疲れた様子で立ち去る。
暁美ほむらは美凪ささらにお辞儀したあと、彼女に深々としたお辞儀を返されて、悪魔の後ろを追いかける。
「……ぐうっ! すみません! ちょっと待ってください! やはり私は自分が許せません! どうかお詫びをさせてください!」
「…………」
一応、悪魔は振り返る。放置したら危険だと直感したからだ。
実際、竜城明日香は衣服を片肌脱いで短刀片手に正座していた。
「……お詫びは要らないと言ったはずだ」
「いえ! こうも恥を晒しては、もはや自害以外に詫びの余地なし!」
「……えぇ!?」
「だからそれやめろ!」
まさかの自害発言に驚く暁美ほむらと、制止しようとする美凪ささら。
それに対して悪魔が忠告した。
「明日香。お前どうせ自害する気ないだろ」
「ッ!? そ、そんなことは断じて……!」
「短刀で腹を十文字にカッ捌いたあと、オレが許しの言葉を吐けば、魔力で肉体を高速再生する。そうだろ?」
「そ、それは……! しかし、自害は竜真流の家を継ぐ私なりの礼儀であるので……!」
そこで竜城明日香は思った。
(魔力で肉体を再生……そうか、その手があったか……!)
(────こいつ、マジか……)
対する悪魔は、本当にヤバイ奴に会ったと思った。
「ならこちらの礼儀も尊重してもらおうか。痛覚を遮断しない心意気は買うが、女の悲鳴を聞いて満足する下衆じゃない。あまりオレを馬鹿にするな」
「……!」
「というわけで自害は禁止だ。分かったな?」
「名君か……」竜城明日香はほろりと涙をたたえる。
「分かってくれたか。ではこちらの礼儀を尊重してくれた代わりに、そちらの礼儀も尊重しよう。竜城明日香にとっての詫びは、自害に等しい所業なんだよな? ……よし、それならしばらくコイツの遊び相手になってくれ」
「?」
悪魔は緑色のソウルリングに炎を灯して語りかける。
「────羅宇らん。今からお前の遊び相手になってくれる人がいるらしいぞ。どんなおやつもくれるらしい。どんなにこき使っても怒らないから理想の遊び相手だ。さぁ興味を持ったなら早く来い。相手が逃げても知らないぞ」
十秒後。水野むくの助太刀魔法が入った刀剣を貰って飛んできたのか。
突如として悪魔の傍らにモジャモジャ頭の五歳児が瞬間移動してきた。
「なになに!? ランボさんと遊びたい奴がいるの? どこー?」
「あそこのサラシ巻いた危険人物だ。ムカついたらバズーカ撃ってもいいぞ。魔法少女だから死にはしない」
「えっ……」
「あら、ちっちゃくて可愛らしいわね。あ、鼻水が垂れてるわよ……はい、チリ紙」
「バズーカ……?」
羅宇らんに対して、竜城明日香は呆然としており、美凪ささらはティッシュを一枚手渡し、暁美ほむらはモジャモジャ頭を物珍しそうに見つめていた。
「ズブブブブ! ……ありがとーキレイなひと。さぁオマエ、ランボさんと遊べー!」
「え────えぇっ!?」
「羅宇らん。遊び終わったらむくを呼んで帰るんだぞ。もし無理そうだったらオレの所に戻って来い。じゃあな……」
悪魔は竜城明日香の終焉に祈りを捧げて黙祷する。
後方で雷鳴に次ぐ雷鳴。銃器の乱れ打ちと手榴弾の乱発。竜城明日香と美凪ささらの悲鳴。最後は暴れすぎてすっ転んで頭を打ったのか、「が・ま・ん~~~っ!!」と泣き喚く羅宇らんは十年バズーカを自らに打ち込み、十年後の羅宇らんが登場してナンパを始める。そして五分が過ぎたら羅宇らんは元に戻るため、きっと竜城明日香とそれに巻き込まれるであろう美凪ささらを連れ回して水名区を遊び回るのだろう。暴走族も顔負けの蹂躙具合で。
「あ、悪魔さん……あの子は……?」
「羅宇らん。あだ名はランボ。ところかまわず雷撃魔法と銃火器を乱射する五歳児の魔法少女だ。罰としては持って来いの奴だろう。きっと竜城明日香は今回の経験で、良いベビーシッターになれるはずだぜ」
「……あ、はは…………悪魔さん、澄ました顔をしていますけど……もしかして、かなり怒ってますか……?」
悪魔は目を伏せて沈黙を貫く。
かくして二人は廃墟街を抜け、区の境界を越えることで参京区に入った。
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