アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO! 作:形のない者
【時雨華心流 攻式・五之型────《
夜の参京区・水徳商店街。完全に日が落ちた街並みを照らすは古めかしい電灯の明かり。それ以外は暗闇に包まれた空間。悪魔と暁美ほむらは、またたくように明滅するレンガ道を歩む。右を見れば巨大歯車が回る文字盤の時計塔。左を見れば二本の尖塔が青く峙つ古城のような施設。古い歴史を感じさせる街並みを観光するように練り歩く悪魔は、不意に問い掛けた。
「なぁほむら。魔力の属性については熟知しているか?」
「え? あ、はい……性質や相性については丸暗記しています。
ずっと前。その表現は何もおかしい点などないが、悪魔は大きな含みがあるように直感した。
「……ほむらは魔法少女になって何年だ?」
「え? えっと……、……まだひと月も経っていなくて……」
「そうか」
悪魔は“嘘”を直感する。暁美ほむらの魔法少女歴に関しては既に数ヶ月の域だ。それを隠す意図が掴めず、悪魔は思考を巡らす。だが詮索して関係が悪化するのは避けたい。故に今の嘘に関しては、またの機会があれば訊くことにしようと悪魔は決めた。
「……丸暗記したと言っていたよな。復唱できるか?」
「あ、はい。魔力は全部で七つの属性があって、それぞれに基本性質と熟練性質があります。属性の名称は────」
「……ですっ!」
「その通りだ。しかしルビに関しては黒歴史だな……」
「?」
「いや、言語がバラバラだろ? フレイム、フォレスト、ライト、ダーク、アンノウンは英語だが、ディアヴォロはイタリア語、アクアはラテン語だ。別名はオレと佐倉とマミが相談して決めたと話したろ? そこでオレと佐倉は分かりやすさ重視で英語を推したんだが、マミはイタリア語とラテン語を決して譲らなかった」
「そうだったんですか……だから言語がバラバラなんですね」
「まぁ黒歴史とは言ったが、今ではイイ思い出だな。一番楽しかった時期だよ」
悪魔から振った話題で始まった世間話が終わる。
静けさの戻った徒歩の中、沈黙に耐えられなかったのか暁美ほむらが口を開く。
「あの、ところで……」
「?」
「その、別に歩いて行くのも構わないんですが……電車の方が早くないですか?」
なぜ電車を使わないのか。悪魔はマミ捜索に必死のように見えたが、その割には急ぐ気配があまり見えない。その矛盾に悪魔が答える。
「すまない。全ての区を見て回りたいんだ。どこかで困っている人がいるかもしれない」
「でも、それでマミさんにもしものことがあったら……」
「それなら超直感で判明する。もしもの時は空を飛べば必ず間に合う。それにマミは死んでいない」
「え? どうしてそんなことが分かるんですか?」
「もしマミが死んでいるなら助太刀魔法は発動しない。妨害されて弾かれたということは少なくとも生きている。それは確実だ。そうやって諸々の判断をつけて急いでいない。……いや、これでも水名区は飛ばしたんだがな……参京区もこの商店街を抜ければ電車に乗るつもりだ」
「……」
確かに悪魔の足取りは駅方面に向かっていた。参京区の観光場所を商店街にしたのも、そこが一番人が多い────つまり魔女が現れやすいからだろう。
「あの……そうやって悪魔さんは、いつも人助けをしているんですか?」
「あぁ。それに魔女を探していれば魔法少女とも出会いやすい」
「魔法少女と?」
そこで悪魔は思い出す。暁美ほむらに振り返り、例のうわさを流した。
「そうだ、ほむら。お前、“魔法少女をやめられるうわさ”って知ってるか?」
「────え?」
暁美ほむらは目を見開いて反応する。それは興味があるリアクションであり、今最も求めている情報のような食いつき方だと悪魔は直感した。
「……うわさでは、願い事を無かったことにするのと引き換えに、元の人間に戻れるらしい。眉唾だがな」
「…………そう、なんですか……」
悪魔は踏み込む。
「どうした。魔法少女を辞めたいって思ったことでもあるのか」
「……いえ。私は別に……ただ……」
暁美ほむらは、誰かの顔を思い浮かべるように俯いている。とても不安げで心配するような慈愛の表情だ。
おそらく暁美ほむらは、自分の友人である魔法少女を元の人間に戻したいと考えているのであろう。そのことを悪魔は直感する。
レンガ道の光量が増す。駅に近付くにつれて、建物の窓明かりや照明ライトが増えてきたのだ。それはまるで暗黒に包まれた絶望の道の先に、一縷の希望とも言える光が灯ったように感じられる。暁美ほむらは噂という不確定な情報に対して、どうせ嘘かも知れないと思う。勝手に期待して勝手に裏切られるのはもうゴメンだ。それはキュゥべえに騙された時に思い知った感情だ。だからあまり信じない。でも本当だったら? 調べてみる必要がある。調べてみる価値はある。
「…………っ」
暁美ほむらは胸が苦しくなったのか手のひらで押さえつける。
「それじゃあ意味がない」
ふと悪魔は懐からグリーフシードを取り出し、暁美ほむらのソウルジェムを浄化した。
「え……」
「気をつけろ。ソウルジェムは暗い感情になると穢れが増すんだ」
「あ……」
暁美ほむらは感謝するように頭を下げる。その表情には謝罪の色が含まれていた。貴重なグリーフシードを二回も使ってもらって申し訳ないと考えているのだろう。その時点で悪魔は別のことを直感していた。
(暁美ほむら……彼女はやはり、魔女化のことを知っている……?)
巴マミですら知らない情報を、なぜ暁美ほむらが持っているのか。経歴はひと月と嘘をつき、実際は数ヶ月。悪意ある嘘ではないが、やはり気にかかる。キュゥべえに聞けば、暁美ほむらがどういう魔法少女なのか教えてくれるだろうが、それを本人の目の前で聞くのは些か憚られる。故に、また今度の機会に。
『…………、…………』
沈黙の歩み。閑静なレンガ道は雑踏の噴水に代わり、眼前に駅が見えてくる。
『────っッ!』
その時、悪魔の片目に痛みが走り、暁美ほむらのソウルジェムが魔女反応を感知した。
†
参京区・水徳駅。明かりに満ちた駅前から少し離れた夜道の路地裏。そこに到着した悪魔と暁美ほむらは魔女結界へのゲートを発見する。だが既に先客が居たようだ。ゲートに刀傷と弾痕のような亀裂が入り、パリンと音を立てて鏡のように割れる。空間位相が元に戻り、蜃気楼のように揺らめく空間から一人の魔法少女が姿を現した。
「時雨華心流 攻式・八之型────《
「……なに?」
紅髪赤眼の魔法少女。和洋折衷の衣装を着た容姿端麗の美女は、長短の異なる二本の刀を器用に振って鞘に戻す。そしてチャームポイントの白い花の髪飾りのズレを修正した彼女は、鋭い眼光で悪魔と暁美ほむらを射抜き、責め立てるように問いただした。
「さて、あなた方はいったい? まさか私たちの縄張りを荒らす厄介者では?」
「そんなつもりはない。グリーフシードを横取りする気はないから安心してくれ。単に助けになればと思って駆けつけただけだ。既に魔女を狩ってくれたならそれに越したことはない」
「……最近、グリーフシードの漁夫の利が横行しているといううわさがあります。その弁明だけでは信じられませんね」
悪魔は懐からグリーフシードを取り出す。
「こちらは既にグリーフシードを持っている。これならオレの言葉に説得力を持たせられるかな?」
もし悪魔がグリーフシードを持っていなかったら、そう疑われても無理はない。だが持っているなら、ただ人助けのために駆けつけたという言葉に少しは信ぴょう性が生じる。それでも強欲にグリーフシードの強奪を企んでいると疑われたらどうしようもない。そのため悪魔は、相手がそこまで疑心暗鬼に陥っていないことをただ祈る。
「……、一理はあります。────えぇ、そうですね。すみません。私も気が立っていました。あなた方の言葉を信じましょう」
「ありがとう。あと先に倒してくれてありがとな。じゃ」
問題が解決したのなら用はない。悪魔は駅前に戻ろうとし、暁美ほむらも付いて行く。
和洋折衷の魔法少女は変身を解除し、赤茶色の制服に戻って眼鏡を掛ける。そして両目に魔力を込めると、彼女は固有魔法を行使した。見つめる先は悪魔と暁美ほむらの背中。それにより彼女は知る。目の前の二人は、彼女の敵にはならない存在だと。
「……ちょっとお待ちなさい」
『?』
「私の名は常盤ななか。以後よろしくお願いします」
呼び止められた悪魔と暁美ほむらは、振り返るといきなり自己紹介をされた。それだけなら特に問題はない。二人は挨拶を返す。
「オレは悪魔だ」
「あ……暁美ほむらと言います……」
常盤ななかは“悪魔”という単語に眉をひそめる。
「ふざけているわけじゃないぞ。ただそう名乗るに相応しい男というだけさ」
「あ、あの、悪魔さん! そんなこと言ったら、またさっきの時みたいに誤解されて攻撃されるんじゃ……」
その可能性は無いと踏んだ上で悪魔は発言している。常盤ななかという頭脳明晰な少女は、竜城明日香というそそっかしい少女とは違い、人を見る眼がある。だが────
「別に気にしませんよ。魔法少女の世界を知っている殿方となれば、それが非常に珍しい存在ですから、本当に悪魔であっても不思議とは思いません。しかし十中八九、ごくごく普通の青年であることは見抜いておりますが」
「理解の早さに助かる。それで、呼び止めた理由は? ただ自己紹介するだけじゃなさそうだが」
「そちらの理解も早くて助かります。というのも私は現在、ある魔女を討伐するため同志を募っているのです。そこであなた方に誘いを掛けたいと思いまして……」
「……なるほど。それは是非とも協力したいが、すまない。今は立て込んでいる。急ぎの用でなければ先を急ぎたいんだが」
「構いません。敵はどこにいるともしれない影の如き存在。お力添えが叶うというのなら、私は待ちます」
ならばと悪魔は先を急ぐ。暁美ほむらも会釈して追随。
その去り際を眺める常盤ななかは、ひっそりと路地裏に姿を消した。
「…………」
「……あの、悪魔さん。あの人、何か困っているみたいでしたけど、立ち去って良かったんですか?」
「あぁ。急ぎの用じゃないと言っていたからな。なんでもかんでもすぐに首を突っ込むほど八方美人じゃないさ。今はマミが先決だ」
「そうですか……ありがとうございます……」
「礼を言われるようなことじゃない」
悪魔は急に立ち止まると、暁美ほむらの手を取って固く握る。
「────えっ!?」
「悪い。少し魔力を貰うぞ」
魔法一回分の魔力が吸われて悪魔の体に流れる。そして青い刀剣が生成された次の瞬間、一つの影が右の路地から姿を現し、雑踏の合間を縫って高速で通り過ぎた。甲高い金属音が鳴り響く。すると悪魔の体は攫われるように、左の路地に吹き飛ばされた。
「────!?」
暁美ほむらの動体視力では、それを捉えるだけで精一杯。一拍置いて分かったことは、悪魔が何者かに襲われたという事実。通行人は甲高い金属音の正体に疑問符を浮かべて辺りを見渡すが、すぐに興味を失って前に向き直ったり歩きスマホに視線を戻したりしてその場を立ち去る。そんな雑踏を掻き分けて、急ぎ左の路地裏に飛び込んだ暁美ほむらは、そこで目を見張るほどの剣戟を目撃した。
†
青い炎を灯す一本の打刀と、青い魔力を煌めかせる二本の刀剣。どちらも鎮静の効果を駆使して刃を合わせる。
「ッ……! なんの真似だ、常盤ななか!」
「ハァアアアアアア────ッ!!」
薄暗い路地裏にて斬り合うは悪魔と常盤ななか。
それを見守る暁美ほむらは、何が起きているのかと困惑していた。
「時雨華心流 攻式・五之型────《
それは守勢崩しの欺剣奥義。変幻自在の斬撃奥義は悪魔の守りを打ち崩して全身に鎮静効果を流し込み、次の斬撃で首を獲らんと刀を振るう。
対する悪魔は黄色いソウルリングに炎を灯し、活性効果を調和させて鎮静効果を打ち消し、突撃奥義を披露する。
「時雨蒼燕流 攻式・壱の型────《
「なっ────!?」
同じ“時雨”の名を冠する剣術。それを返された常盤ななかは狼狽し、鎮静効果を打ち消された事にも動揺。一筋縄で行かぬ相手だとたった三合の剣戟で見切ると、二本の刀を鞘に収めた。
「────実に見事な剣術でした。相当な手練ですね。流派の名前をお伺いしても?」
「時雨蒼燕流。オレはその十代目継承者だ。おそらく宗家に位置する。そちらは亜流だろう。時雨蒼燕流を元にした薙刀術の時雨竜真流然り、二刀流の時雨華心流然り……」
「なるほど。確かに華心流の武道における歴史では、剣術の発祥が時雨蒼燕流にあるという記載を古文書で読んだことがあります。お隣の竜真流も薙刀術に関しては、当時その師範代が時雨蒼燕流の影響を受けたともありました。技が似るのも納得です」
悪魔は臨戦態勢を解いて刀を消滅させる。常盤ななかも変身を解除して眼鏡を掛け直した。
「で、今のはなんだ。ケンカを売っているのか?」
「いえ、お詫びを申し上げます。あなたの実力を確かめたかったのですが、そのためにはやむなくこの方法しか……」
「普通に手合わせを願えばいいだろう。まさか奇襲に対応できないようじゃあ、その時点で落第だとでも?」
「……察しが良いですね。まさにその通りです」
そこで初めて悪魔の眉間がピクリと反応した。
「なんか……いけ好かないな」
「────はい?」
常盤ななかは目を点にして聞き返す。
「オレ……今のお前のこと、あまり好きになれないかもしれない」
「……!」
常盤ななかも乙女である。別に好かれる気もないが、直球でそんなことを言われれば動揺もする。無論、そう言われても仕方のない身勝手な振る舞いをしたのは事実なのだから是非もない。
その一方で、こういった毒を吐く悪魔は非常に珍しい。普段は温厚で優しい悪魔はどうしたのか。何かを直感したように眉をひそめている。
「……無礼は謝罪します」
「いや、突然斬りかかられた事に怒っているわけじゃない」
「……? ではなぜ……」
「…………────」
そのとき悪魔は、命輪に言われたことを思い出していた。
†
────私はとんだ勘違いをしていたようだ! アンタは黄金の精神なんか持っちゃいない! 目的の為なら手段を選ばない! そんな“漆黒の意志”をその眼に宿しているッ! そういう奴は悲惨な末路を迎えるんだ! このボクみたいに!────
†
……漆黒の意志。目的の為なら手段を選ばない。だが悪魔は今まで本当の意味で“手段を選ばなかったこと”があっただろうか。苦渋の決断はいくらでも経験したが、決定的に道を踏み外すような真似はしたことがない。それは正真正銘とことんまで追い詰められたことが無いという幸運でもある。
しかし眼前の少女は異なる。彼女は艶のある漆黒の髪を靡かせているのか、それとも腹の中は邪悪とも言うべき真っ黒さなのか。悪魔は判別が付かなかった。
「……なんでもない。とにかくこっちは先を急いでいる。何か困ったことがあれば、オレのことを強く念じてくれ。手が空いていれば可能な限り助太刀する」
「そうですか。ご迷惑をおかけしました」
悪魔は足早に立ち去り、暁美ほむらに「行くぞ」と伝えて駅に向かう。
「あ、あの、悪魔さん……大丈夫でしたか……?」
「問題ない。しかし此処は喧嘩っ早い魔法少女が多いな……」
「……悪魔さんは、なんだか巻き込まれ体質ですね?」
不意に悪魔は懐からグリーフシードを取り出し、暁美ほむらのソウルリングを再び浄化する。
「あ、そんな……! 私は大丈夫です……! 魔力もちょっと使っただけなので……」
「なに、遠慮するな。オレは魔法少女じゃないから穢れを気にする必要がない。グリーフシードを持ち歩いているのは、こういう時に使うためだ。ここで使わなきゃいつ使う」
「……えっと、はい。ありがとう、ございます……」
歩みを再開。そのとき二人の視界端に常盤ななかの横顔が映った。それは綺麗な平行移動。なぜ付いてくるんだと言いたげに見つめていると、彼女はおっとりと首をかしげた。
「何か? 私は帰りの駅に乗りたいだけです」
「あ、そう……」
常盤ななかの歩みは遅くもなく、早くもなく。間隔は空いているが、不思議と肩を並べて駅構内に入る。どちらかが先に進むか、少し遅れてもいいのに、歩幅が一緒。妙に気まずい移動時間。悪魔は速度を落とす。その後ろを付いて歩く暁美ほむらも自然と背中にぶつからないよう速度を落とす。しかしなぜか常盤ななかは傍らを歩く。
「お前……」
「たまたまです。ところで私の組織は現在、三名の同志がおります」
「結局勧誘か……穏やかに見えて意外と食い下がるんだな」
「死活問題ですので」
「悪いがオレは勢力とか派閥とか組織とか、そういう集まりは好きじゃない。困っていたら手を貸すと約束するから、自分勝手に巻き込まないでくれ」
常盤ななかのスカウトを再三断った悪魔は駅ホームに到着。しかし彼女は未だ傍らに立っている。帰りが一緒というのは事実なのだろう。まさかホームまで同じとは思わなかったが。
『…………』
傍らの不審者を気にかける悪魔。少し警戒して悪魔の陰に隠れる暁美ほむら。泰然と電車を待つ常盤ななか。
やがて木製の電車は汽笛を鳴らして駅に到着する。蒸気を噴出して両扉が自動で開き、乗客が降りて利用者が乗り込む。
「ほむら、そこ空いてるぞ」
「あ……」
暁美ほむらは車内端の優先席に促されて座る。その目の前に悪魔が立って吊り革に掴まる。
一方の常盤ななかは扉近くに立ってポールに掴まっていた。きっとすぐに降りるからだろう。
『発車します。閉まるドアに気を付けてください……』『次は参京西二駅。参京西二駅……』
機械音と共にドアが閉まり、蒸気を噴出して列車が進み出す。ガタンゴトンと音が立つ中、暁美ほむらはスマホを開いて駅ルートを検索した。
「えっと……このあとは参京中央駅で乗り換えて、北養方面の……東と西、どっちに行けば……」
「西だ。ただの直感だが」
「西なら……北養中央駅方面ですね! どこで降りますか? 中央駅を除けば三駅ありますけど……」
「新西区の手前で下車する。だから北養西一駅だな」
「それなら……ここから61分で着くみたいです」
「……マジか? これ、徒歩の方が早かったんじゃないか?」
「でも暗い山道を登ることになると思うので、列車で良かったと思いますよ?」
「そうか。それもそうだな」
そんな話をしていると、既に乗車から三分が経過していた。参京西二駅に到着し、客の顔ぶれが入れ替わる。仕事帰りのサラリーマンがなだれ込み、あっという間に満員に。空席がなくなって吊り革に立つ客が多くなる。
そこへ一人の老婆が優先席に向かって歩いてきた。
†