※この作品はR-18です。

アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO!   作:形のない者

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【やっぱり人間が絶望する瞬間の顔面は最高だなァ~!】新手のスタンド使い(賀加見サラマ)

 

 満員電車の中に、空席を探す腰の曲がった老婆が入ってくる。

 

「あっ……」

 

 それを見た暁美ほむらは立ち上がると吊り革に掴まり、老婆と目が合い会釈。すると老婆はニコニコと有り難そうに会釈して、暁美ほむらが座っていた席に落ち着いた。

 

「ほむら、ごめんな。優先席を取っておいた方がいいと直感していたんだ」

「あ、いえ……、……?」

 

 暁美ほむらは“直感”というワードの意味が分からず疑問符を浮かべる。が、きっと悪魔は老婆のような人が乗ってくるだろうと予測して、わざと優先席を取る意図があったのだと推測した。

 

「優しいんですね」

 

 悪魔は瞑想するように目をつむっており微動だにしない。

 ふと暁美ほむらは目の前に座る老婆と目が合い、ついつい何度も会釈する。

 

「……ありがとうねぇ。お嬢ちゃん、フルーツガムいるかい?」

「あ、いえ……えっと……」

「遠慮しなくていいよ。美味しいから、ほら。席を譲ってくれたお礼のしるし」

 

 シワシワの手のひらに包まれた四角い銀紙。暁美ほむらは「あ、ありがとうございます……」とお礼を言って受け取る。

 

「ほら、そこのお兄ちゃんも。食べな」

「……。ありがとう」

 

 目を開けた悪魔は素直に受け取る。その場で銀紙を開き、フルーツガムを口に放り込んでジューシーな果汁の味を堪能する。ガムなら後で吐き出すしかないため、断食している悪魔にとっては唯一、様々な味を楽しめる、非常に噛みごたえのある食べ物だ。

 

「ほら、お嬢ちゃんも」

「あ、でも……行儀が悪くないでしょうか……?」

「だいじょうぶだよ。パクッと食べちゃいな」

 

 暁美ほむらは押しに弱く、老婆の好意を無下にするわけにも行かないのでフルーツガムを口に入れる。すると口の中にジュワッと多種多様なフルーツの味わいが広がり、酸味と甘味がイイ具合に舌を刺激して目を瞑る。

 

「ん……! これ、とても甘酸っぱくて美味しいですっ!」

「そうかいそうかい!」

 

 老婆は嬉しそうに喜ぶ。

 

「それはね。思い出のフルーツガムなんだよ」

「……?」

「お嬢ちゃんも頭の中に思い浮かべてみな。帰りたい場所……いつか絶対に辿り着くべき駅……」

 

 そう言われて暁美ほむらと悪魔の脳裏によぎったのは、それぞれの故郷の風景だった。

 

「帰りたい、場所……」

「ふふっ。お嬢ちゃんは若いから、郷愁の念に駆られるなんてことは、まだ無いかねぇ?」

 

 その時だった。

 悪魔の両目がいつになく鋭く開き切って、驚くように、睨むように、恐れるように……静かに老婆を見つめていた。

 

「っ────おいおい、冗談だろ……ッ!?」

「ほらほら、お兄ちゃん。そんな怖い顔せんで、ちょっとは帰省を楽しみな」

 

 耳元まで口角が釣り上がる老婆は、金歯銀歯の乱杭歯を剥き出しにして不気味に嘲笑う。

 

「人生の終着駅に向かう時の気分ってのはねェ────とてもとても、甘酸っぱいもんなんだよ……ねェ?」

 

          †

 

『まもなく並盛~並盛~』『お降りの方はドア付近までお進みください』

 

「……えっ?」

 

 そのアナウンスを聞いて最初に耳を疑ったのは暁美ほむらだった。次の停車駅は参京西三駅のはずだ。並盛なんて駅名は知らない。

 

「────、っ……!」

 

 一方の悪魔は超直感が激しく反応していた。いつになく超直感の反応が遅れたのは何故か。考えても分からない。だがインキュベーターの言葉を借りるなら、おそらく因果の力によって超直感の発動が阻害されたと見るべきだ。つまり、これはそういう運命。本来なら超直感で気が付くべきはずの事柄に気付かなかったのは、そういう“運命”……そういう“因果”の導きだったのだ。

 

 悪魔は直感する。この身の毛が弥立つ感覚は────命輪と対峙した時と同じ感覚であると。異常な精神性。それは老婆の放蕩(ほうとう)とした口調からも感じる人間性の違和感。加えて見(・)え(・)な(・)い(・)何(・)か(・)が(・)そ(・)こ(・)に(・)あ(・)る(・)。その感覚も覚えている。なんせ今日の出来事だ。

 

『並盛~並盛に到着~』『ドアが開きま~す』

 

 蒸気を噴出してドアが開く。アナウンスを聞いていなかった乗客は慣れたように降りた途端、ふと風景の違和感に気付いてハッと面を上げた。スマホに目が夢中でなければ下車する直前に気が付いたはずだ。窓の向こうは悪魔にとって見慣れた景色。そこは確かに並盛町の中心に位置する故郷の駅だった。

 

『ドアが閉まりま~す』

 

 蒸気音。ドアが閉まる。アナウンスは何事も無かったかのように次の駅を述べ上げる。

 

『次は見滝原~見滝原~』『お降りの方はドア付近までお進みください』

 

「……えっ……?!」

 

 暁美ほむらの驚く声。それに合わせて車内の一般乗客の間にも動揺が広がる。

 

「おい、なんかおかしくないか?」

「あぁ。なんか変だなぁ?」

「まぁ聞き間違いだろ」

「あーそーか。そーいや電車で変な事といえば、今朝、宝崎市から新西区に向かう電車が一本丸々どっかに消えたんだってよ」

「はぁ? そんなのありえねぇだろ。都市伝説だって。耳鼻科にでも行ってくれば?」

「でも消えた電車に乗ってた乗客が、新西区の廃墟街から出てきたって情報もあるんだよ」

「はいはいデマデマ。電車が空を飛ばない限り、そんなことあるわけないっての。眼科にでも行ってくれば?」

「でもよぉ。その電車が高所から墜落したとしか思えない破損具合なんだって。それにさぁこれ見ろよぉ……実際にさぁ、廃墟街に電車が横たわっている写真があるんだよぉ。しかも北極にいたのかってレベルで列車が冷たかったんだとよ」

「今時CGでそんなもん作れるんだから何も珍しくねぇだろ。フェイクニュースに騙されすぎだって。お前の毎日ふしぎなことだらけで楽しそうだなぁ。オレも頭の中からっぽにして夢を詰め込みたいぜ。まぁサラリーマンにそんな暇ねぇけどな! ギャハハ!!」

「定時帰りの俺達が社畜の辛さを語れるとは思えないけどな」

「ところで今どこだ? おれぁ次の次の次の駅で降りなきゃいけないんだけど」

「なみもり? だってよ。次はみたきはら? なんだと」

「ギャハハハハ!! どこだよそこ知らねぇ! あーお腹いてぇ! 笑いすぎるぅ! 何がどうなってんのかワケワカンネェ!」

「まだ着かねぇのかなぁ? 参京中央駅ぃ……」

 

 酒気を帯びた乗客はトロンとした目付きで思考放棄をしており笑い転げている。

 

「あ、悪魔さん……これはいったい……!」

「ッ……! まずい……ほむら、構えろ! 今オレたちは────ス(・)タ(・)ン(・)ド(・)攻(・)撃(・)を(・)受(・)け(・)て(・)い(・)る(・)ッッ!!」

「す……スタンド!?」

 

 悪魔はキッとした目付きで老婆を睨む。そして胸ぐらを掴み問いただす。

 

「おい……これはお前の仕業だろう!! お前は命輪とおんなじだ……接ぎ木の存在……魔法少女! いったい何が目的だッ!?」

 

 シミだらけの顔でニヤつく老婆は、しわがれた声で笑い泣く。

 

「キヒヒッ! だからどうした? これがあたしゃの仕業だからなんだ? ぶちのめすのか? このおいたわしい老婆をぶん殴って解決するのか? できるもんならやってみな!」

「────っ! 悪魔さん!!?」

 

 匣兵器を開匣した悪魔はグローブを身に付けて橙色の炎を燃え上がらせる。それから攻撃モーションに移るまで一秒と掛からなかった。藍色のソウルリングに光る霧の炎に紛れて、猛炎の拳打が老婆の顔面を穿つ────かと思われた悪魔の拳は、やはり見えない何かに食い止められていた。

 

「くっ……!」

「あたしゃのスタンドは無敵だよ! 一切の攻撃が出来ない代わり、一切の攻撃を受け付けないのさ!」

「それは能力の話ではなく、単にスペック(ステータス)の問題だな……! スタンドの破壊力が最低の代わり、耐久力や持続力が最高値と言ったところか……!」

 

 悪魔の攻撃と打撃音は、不思議と周囲の乗客に不審に思われていなかった。それは霧の炎の構築効果によって風景に幻術を掛けていたからである。さらに悪魔の周囲に存在する暁美ほむらと老婆が起こす物音は、構築で築き上げた防音霧壁によって、激しい戦闘音が外に漏れないよう施されている。

 

『見滝原~見滝原に到着~』『ドアが開きま~す』

 

 蒸気音。ドアが開く。またしても何も考えていない乗客が次々と降りては混乱する声が聞こえる。そして乗客が降りる駅を間違えたと戻ろうとするも、ドアは固く閉じて多くの人だかりがホームに閉め出される。人々は叫び声を上げて扉を開けるよう懇願するが、アナウンスの声は緩い声で冷たく突き放した。

 

『駆け込み乗車はおやめくださ~い』

 

 蒸気音。発車した列車はガタンゴトンと音を立てる。窓の外に映る景色は見滝原のものだが、徐々に景色が歪んでアハ体験のように別の場所の景色に変わっていく。

 

『次は黒曜~黒曜~』『お降りの方はドア付近までお進みください』

 

「つ、次は黒曜……? い、いったい何がどうなって……!?」

 

 訳の分からない状況の連発に、暁美ほむらの理性が追い付かない。

 

 一方、悪魔は考察する。これは人間社会に打撃を与えるタイプのスタンドであって、人の命を奪うような危険性は無いと見ていい。スタンド自体の攻撃力が皆無であるため、戦闘に関して恐れることは何もない。ただ気を付けるべきことは、スタンド使いはスタンドがなくても戦える術を持っているという事実だ。────魔法少女。目の前で嘲笑するようにニヤける老婆は、少なくとも固有魔法を有している。

 

「────と、思っているんだろう?」

「!?」

「残念だが、その固有魔法を使ってさよならだ。あたしゃ脱出するよ。ただしあんたらは一生脱出できない。車内で飢えてくたばることだね」

「────、…………なにっ!?」

 

 気付けば、老婆の姿が忽然と消えていた。一秒前まで目の前に座っていたのに、なんの兆候もなく悪魔の前から姿を消したのだ。まるで透明になったように……否、まるで透き通ったように。物理世界の法則を破って、老婆は座席の背もたれに沈んでいき、そのまま転がり落ちるように列車の壁を幽霊のように抜けて消えていった。その際、自分のスタンド名を言い残して────

 

「フルーツガム・トレイン(甘酸っぱい帰り道)」

 

 刹那、老婆の座席に一本の長剣が深々と突き刺さった。悪魔の横に割り込んで必殺の一撃を叩き込んだのは常盤ななか。異常事態に困惑していたが、悪魔と暁美ほむらが姿を消していることに気付き、咄嗟に両目に魔力を通して霧の幻術を見破り、悪魔と老婆の会話を盗み聞きしていたようだ。

 

「チッ……逃した……!」

 

 常盤ななかは状況の理解が追い付かず出遅れた事を悔やむ。固有魔法《見敵》によって、常盤ななかにとって真の敵を見極めた結果、老婆が吐き気を催す邪悪であることは突き止めたが、それまではただの一般人と思っていた為に老婆を攻撃する発想が無かった。どちらかといえば悪魔と暁美ほむらの仕業か、あるいはどこかに魔女がいるのではと疑ってばかりいた。

 

 その失態を戒めるように、常盤ななかは悪魔に問い掛ける。

 

「悪魔さん。状況を教えてください」

「目的不明の魔法少女に襲われた。老婆が元凶だが、あれはおそらく変装だ。年齢はオレたちとそう変わらない」

「では、列車が目的地に到着しないのは、その元凶が使う魔法の仕業ですか?」

「いや、スタンドという不思議な能力だ。原理は不明。魔法とは似て非なる力。精神力から成り立つエネルギーの塊。そして老婆が消えた今でも、オレたちはスタンドに目を付けられているッ!」

「対策は?」

「考察中だ。────ななか。魔女退治の際に、魔法文字を見つけたりして弱点を探るか?」

「は?」

 

 その反応で悪魔は察する。常盤ななかもゴリ押しタイプだ。魔女に弱点があることは理解しているようだが、それの見つけ方までは知らないらしい。

 

「ならば謎解き係は必然オレか……背中を任せてもいいか?」

「一時共闘ですか。この事態では是非もないでしょう」

 

 さっそく悪魔は車窓を開ける。

 

(あの老婆は“一生脱出できない”“車内で飢え死にしろ”と言っていた……あの発言がスタンド能力に関係しているのなら……)

 

 悪魔は窓の外に腕を伸ばす。すると悪魔の腕は窓の外に突き出されて切るような風を浴びた。

 

「────なに?」

 

 てっきり悪魔は、スタンド能力の対象になった自分たちは脱出できなくなるものと思っていた。ならば“一生脱出できない”とは、どういう意味なのか。特に意味のない発言ならば手のひらの上で踊らされている事になる。だが悪魔の直感が囁いていた。あの発言は決して無視できない言葉であると。

 

「……あ、悪魔さん……」

 

 暁美ほむらは不安な様子で悪魔を見つめる。

 窓から腕を引っ込めた悪魔は、このまま外に脱出することはできるようだが、それでは乗客を見捨てることになると直感して振り返る。

 

「大丈夫だ、ほむら。オレたちで解決しよう。この列車と乗客を助けるんだ」

「……! は、はい……! ……でも、どうすれば……」

 

『黒曜~黒曜に到着~』『ドアが開きま~す』

 

 黒曜駅に停車。既に車内の乗客は異常事態に困惑しており下車しない。だが何も知らない黒曜ホームに立つ人々は列車に乗り込んでくる。すると帰宅ラッシュなのか一気に車両が満員に近くなった。このままでは身動きが取りにくくなる。早めに動かなければ。

 

「……運転席に向かおう」

「そこに何かあるのですか?」

「いや……確証はないが、なぜかそこに向かった方がいい気がするんだ」

 

 直感が弱い。だがそれは裏を返せば因果に邪魔されているという事だ。そして因果を邪魔する存在がスタンドであるとするならば、逆説的に運転席にはスタンドがいる可能性が高くなる。そう悪魔は考察した。

 

「急ぐぞ! やっぱり嫌な予感がする!」

 

 悪魔は迷惑を顧みず、密集する乗客の中を突っ切って先頭車両に急ぐ。

 

『次は神浜市~神浜市~』『お降りの方はドア付近までお進みください』

 

 車窓の風景は見覚えのある中央区の街並み。今日の夕方頃、八雲みかげ・和泉壮月と一緒に下車した神浜市駅である。

 そこで悪魔は違和感を覚えた。

 

「────ほむら。あの老婆は言っていたな? たしか“郷愁の念”と……故に、おそらくこのスタンドは、あのフルーツガムを食べた対象が“帰りたい”と思っている場所に、乗っている列車を転移させる能力と見た」

「……あ! だから見滝原市に……じゃあ、並盛町って……」

「あぁ。オレの故郷だ。そこでなんだが……オレは神浜市駅にそこまで愛着はない。ほむらは?」

「私もです……」

「となれば、オレたち以外にフルーツガムを食べた奴がいる。あるいは────」

 

(このスタンド能力の対象が、本体にも無条件に適用されるなら……神浜市駅は、スタンド使いにとって“思い入れがある場所”ということになる)

 

 だがそれはスタンド使いの素性を洗う考察であって、この能力の突破口になる気がしない。そのため今の考察は切り上げて、全力疾走する悪魔は運転席に急ぐ。やがて先頭車両に到着。運転席が見えた時、悪魔は目を疑い絶句した。

 

「ウワァアアアアアアアアア────ッッッ!!!?」

 

 車掌の絶叫。列車の進行方向から迫り来る、対(・)向(・)列(・)車(・)の(・)存(・)在(・)と(・)汽(・)笛(・)、(・)そ(・)し(・)て(・)目(・)が(・)潰(・)れ(・)る(・)ほ(・)ど(・)の(・)眩(・)い(・)ラ(・)イ(・)ト(・)。

 

 あと一秒で激突する。

 

 大事故に繋がる列車と列車の正面衝突は間一髪────スタンド能力による不思議な転移によって何事もなく、神浜市駅に到着した。

 

「────っッ!!!?」

 

 全身の毛という毛が総毛立った悪魔は、絶対の死を一瞬でも目の当たりにしたことで恐怖に身が竦む。同時に、人の命をなんとも思わない所業に対して怒りに打ち震える手を……運転席の把手に伸ばした。

 

『神浜市~神浜市に到着~』『ドアが開きま~す』『──……アッヒャヒャヒャヒャ! ビビった? ビビったか? やっぱり人間が絶望する瞬間の顔面は最高だなァ~! だが次はねェぜ? 頑張ってなんとかしろよ? アッヒャヒャヒャヒャヒャ!!』

 

          †

 

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