※この作品はR-18です。

アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO!   作:形のない者

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【右手に心臓、左手に魂。お前の負けだ。地獄に堕ちろ】悪魔

 

 老婆は言った。“お前らは一生脱出できない”と。それは墓(・)場(・)の意味だったらしい。列車と列車の正面衝突で死ぬことを示唆していたのか。否、それだけではない。“お前らのような善人は最後まで乗客を助けようとするから脱出を考えられない”……そんな皮肉も含まれていると察した。それは直感するまでもない。

 

 自分だけ助かるような真似はしない。そんな黄金の精神を持つ者の心理を突いた邪悪な攻撃。

 悪魔は炎燃え盛る手で錠前を焼き切り、運転席に侵入する。傍らには恐怖のあまり白い泡を吹いて倒れる車掌がいた。そして運転席にはもう一体。姿の見えない何かが、確かに情報表示器の前に座っており、ブレーキハンドルに足を掛けていた。

 

「……お前か。スタンドという奴は。喋れるのか?」

「おうよ。おれさまの声はスタンド使いじゃなくても聴こえるぜ。で、さっきのはどうだった? ビビったか? チビったかぁ↑?」

「…………」

「アヒャヒャ! 殺意の塊だねェ!?」

 

 刹那、悪魔は音速に及ぶパンチで運転席の設備を破壊する。粉々に壊れた速度計やら圧力計。だがそれらはみるみると修復されていく。

 

「無駄な攻撃ご苦労様! おれさまは攻撃力が無い代わりに無敵なんだぜ忘れたのか? それはつまりオレの能力の対象も無敵になるってことなんだぜ馬鹿なのか? おれさまは列車を操るスタンド……だから何があっても、おれさまが操る列車は壊せない。さぁどうする? 殴って解決なんて楽勝な作戦は無意味だぜェ!」

「……………………」

 

 蒸気音。扉が閉まる。見えない何かがブレーキハンドルと運転ハンドルを動かして列車を進ませる。

 

「ハァ、ハァ……悪魔さんっ!」

「何か分かりましたか?」

 

 遅れて暁美ほむらと常盤ななかが到着。

 対する悪魔は無言のまま、運転席の上に座る見えない何か────スタンドを睨み付けていた。

 

「……額が汗で滲んでるぜ? 攻略法が思い付かねぇんだろう? 列車と列車とが正面衝突して全てが破滅する瞬間は刻一刻と迫っているぜ? 悠長に考え事してていいのか? 肩の力を抜けよ。どうせテメェは誰も助けられない。これは運命だ」

「────…………」

「……あ、悪魔さん……この声は……?」

「もしやスタンドという存在の声ですか? しわがれた汚い胴間声……神経を逆撫でするレベルで非常に不愉快な声ですね。醜悪極まりない顔付きであることが容易に想像できる……」

 

 悪魔は状況を報告する。

 

「このスタンドは凶悪だ。列車の転移を利用して、わざと逆方向の進路のレールに列車を転移させることで、正面から向かってくる別の列車と激突させる。そうやって大規模な衝突事故を引き起こす事を楽しんでいる。とんだテロリストだ」

『────っッ!!』

 

 暁美ほむらと常盤ななかの表情が強張る。そんな彼女たちが今まで助かっていたのは、まさにその絶望の表情をこのスタンドが拝みたかったからである。そして拝めば用無し。次からは列車の速度をマックスにして衝突させるのみ。

 

「……ほむら」

「っ! はい!」

「前方に列車が見えたら時間停止の魔法を使ってほしい。電磁的誘導力を用いて列車を浮かばせて衝突を回避する」

「────っ! 木属性の熟(・)練(・)性(・)質(・)……分かりました。でも、それじゃあ……」

「あぁ。根本的な解決にはならない。スタンドはスタンドでしか倒せない。スタンドを消滅させる為には本体を倒すしかない。だがその本体は行方知れずだ。……ななか、お前の使える魔法を教えてほしい」

「私は固有魔法《見敵》を使えます。それは“真の敵を見極める”奇跡……おそらく、お役には立てないかと……」

 

 そこで悪魔は直感した。《見敵》魔法とは、すなわち“探す”タイプの魔法だ。ならば派生魔法として“敵を見つける”魔法を開発できるかもしれない。だが派生魔法の開発には修行が必要だ。そんな時間はない。ただし悪魔の《潜在能力解放》魔法を使えば……。

 

(────ッ!?)

 

 その時、悪魔は直感した。常盤ななかは手段を選ばない。真の敵を見極める魔法を手に入れたということは、おそらく願い事はそれに関するもの。そう、例えば復讐だ。常盤ななかは倒したい敵がいるから、その敵を見つける願い事を叶え、結果としてそのような魔法を手に入れたのではないのか。ならば、常盤ななかに“真の敵を見つける”魔法を習得させてはならない。習得自体は良いことでも、もし彼女がそのような力を手に入れれば、どんな無茶をやらかすか分からない。この案は得策ではない……悪魔は超直感に従い、ほかの方法を探し始める。

 

「……クソッ。ほむら、準備だ」

「!」

 

 前方から警告を発するような甲高い汽笛が何度も何度も吹き鳴らされる。時速90kmを超える電車同士の衝突。その被害は計り知れない。

 

 すかさず悪魔は緑色のソウルリングを奮わせて爆発的な炎を生み出す。それは死ぬ気の炎における雷の炎。基本性質は硬化。熟練性質は誘導、またの名を電磁的誘導力。

 

「い、行きます! 固有魔法《時間停止》っ!!」

 

 暁美ほむらの盾が回転し、砂時計が流れを止める。射程内の空間流動が全停止する中、悪魔の肩に触れた。

 

「────あと何秒持つ?」

「じ、十秒ですっ!」

「ダメだ。二十秒は持たせろ」

「魔法の範囲を伸ばして、無理やり列車全体に掛けたから、効果時間が……!」

「泣き言を言うな! やらなきゃみんなが死ぬんだぞ!」

「っ────はいッ!!」

 

 悪魔の全身から噴き出す大量の炎。無理を強いる出力は肉体に軋みを上げる。

 

「ッ────ウォオオオオオオオオオオッッッ!!!」

 

 雷の炎が全車両に浸透。

 すると列車全体が緑色の電撃を散らせながら徐々に浮かび上がり、やがて前方車両の屋根を超えた。

 

「げ────限界ですッ!!」

 

 時間停止が解かれる。次の瞬間、浮遊する列車の真下を快速列車が通過した。

 

「ぐあああああああああぁ────ッッ!!」

 

 膨大な死ぬ気の炎を消費した悪魔は全身が悲鳴を上げて膝を衝く。

 すると列車は電磁的な浮遊効果を失って落下を開始。

 

「クソッ! 着地が────ッ!!」

 

 時速80kmを超える列車は不時着する。────と誰もが思った瞬間。

 

「アー、それはツマラネェ」

 

 スタンドパワーが列車を浮かばせて、一切のズレなくレールの上に着地させた。

 列車は激しい揺れに襲われたものの、依然問題なく走行を再開する。

 

「クソガァッ!! 今のどうやったんだよアァン!? まさか回避するとは思わなかったぞゴラァ!! おれさまの楽しみを返せやァ!! 次こそは絶対に正面衝突してやるからな覚悟しとけよクソ野郎がァ!!」

「っ────」

 

 どうやらスタンドたるフルーツガム・トレインは、列車の転倒事故では納得できないようで、よりド派手な正面衝突を望んでいるようだ。そのこだわりに助けられた形となった悪魔は本来、不時着の瞬間、今朝のように“死ぬ気の零地点突破・凍結(コールド)エディション”を使うことで乗客を不壊の氷で守ることを考えていた。しかしフルーツガム・トレインのこだわりによって、その分の魔力(生命力)を節約できた悪魔は、即座に根本的解決策を探し始める。

 

(どうする……今のをもう一度は難しい……オレもほむらも限界だ……クソッ……まさかコイツ、マジで無敵なんじゃ……)

 

 刹那、常盤ななかが刀を引き抜き、運転席に斬撃を浴びせる。すると列車全体に魔力が浸透。それは鎮静効果で列車の速度を落とす作戦だった。が、単なる魔力の性質では、魔法と同程度のパワーを有するスタンドには敵わない。列車の速度は変わらず、多少速度を落とした程度で、すぐに列車は最高スピードに再到達する。

 

「くっ……! ダメですか……!」

「おいおいスタンドに勝ちたいなら魔法でも使わなきゃな! まぁスタンドはスタンドでしか倒せねぇから、魔法でも意味ねぇんだけどよ! アヒャヒャヒャヒャ!」

 

 そして車窓の景色が移り変わる。前方から突然の汽笛が鳴り響く。

 

「オルァ! テメェらが考えあぐねている間にまた転移させたァ! さっそく次が来るぜェ!!」

「ッ……!! ほむら!」

「は……はい……ッ!!」

 

 時間停止魔法が発動する直前、悪魔は先を見越して常盤ななかに指示を飛ばす。

 

「ななか! 最後尾の車両に鎮静を浴びせろ!! 窓から飛び出せ!」

「────!?」

 

 時が止まる。常盤ななかは言葉の意味を咀嚼する為に時間を使った状態で止まっている。

 列車全体という範囲が広い魔法の強制行使に苦しい表情を浮かばせる暁美ほむらは、ソウルジェムが軋みを上げる中、震える体で手を伸ばし、なんとか悪魔に触れた。

 

「ほむら! 無茶を言うようだがなんでもいい! ななかにも触れてくれ!」

「っ……!」

 

 悪魔は再び莫大な死ぬ気の炎を生成し、雷の炎による電磁的誘導力によって列車全体を浮遊させる。だが先程より浮遊力が弱い。

 対する暁美ほむらは大規模な魔法行使で魂の激痛に顔を歪ませながら、制服の胸元に付いているリボンを解き、それに魔力を通して常盤ななかの足首に絡ませた。

 

「────はっ! これは……!」

「ほむら! あと何秒だ!?」

「っぁ────アァッ!!」

 

 次の瞬間、暁美ほむらの盾がバチッと火花を散らして魔法が解けた。明滅するは左手の甲にある紫色のソウルジェム。

 

 刹那、浮遊する列車の車輪と、対向車両の屋根が激突した。

 鼓膜をつんざき、擦り切れるような轟音が響き渡る。

 

 その中で常盤ななかは足首の紐を切り裂き、臆せず窓を割って車外に飛び出した。

 

「時雨華心流 攻式・八之型────《飛雨(ひう)》!!」

 

 それは八代目・常盤ななかの父が開発した技。雨が風に吹かれて激しく散るが如く。刀の鋒で水面を切り上げて散弾銃のように鋭く固い水滴を飛び散らす散弾奥義。されど今は魔法少女としての戦闘スタイルと融和させて、無い水面は水属性の魔力で代用し、二本の刀で飛ぶ斬撃を実現させる。

 

 交差する二つの列車。

 浮遊列車は火花と共に車輪が弾け飛んで落下を始める。

 対向車両は全ての屋根が剥げて金属片が中空に飛び散った。

 

 そして浮遊列車の最後尾下部と、対向列車の先頭上部が衝突。その勢いで最後尾の車両は浮かび、先頭車両は脱線しかかる。そこへ水の斬撃が飛んだ。激突した二つの車両に命中することで鎮静効果が緩やかに浸透。最後尾の車両は激突の勢いが殺され、先頭車両も奇跡的に脱線を免れた。

 

「ハッハー! 今の見たか!? 対向車両の屋根が剥げたぜ!? 絶対あそこに乗ってる奴ら悲鳴を上げてビックリしてたよなァ~! アー、その顔が見てみたかったぜェエエエエエ!!!!」

 

『────ハァ、ハァ、ハァ……』

 

 間一髪。本当に間一髪の生還と救出だった。

 ふと、屋根の上で足音がする。常盤ななかは無事だった。

 

「でも次は無理だろ? 次で終わりだ! この次にテメェらを殺せる! その死に顔を特等席で拝んでやるぜェ!! アヒャヒャヒャヒャ! アァー……イイネェこのスリルゥ!!!!」

 

 姿なき精神体は狂ったように高笑いを上げる。

 

 その下で這いつくばる悪魔と暁美ほむらは、息も絶え絶えの様子で滝のような汗を流し、過呼吸を起こしていた。

 

「あ、あ、悪魔さん……ごめんなさい……私、限界で……魔法が、途中で途切れて……」

「…………」

 

 暁美ほむらは謝罪を口にするが、その表情はどちらかといえば懇願に近かった。

 

「ど、どうすれば……次は無理です……次は、もう……!」

「…………────」

 

 暁美ほむらのソウルジェムが濁りを増す。

 それを制するかのように悪魔は口を開く。

 

「なぁ、ほむら……そういえばあの老婆は、オレにフルーツガムをくれたよな?」

「……え?」

「オレはとある事情で断食している。そんなオレにとって腹に入れる必要がなくて味を楽しめるガムは、ジュース以外の食事の中で唯一の楽しみなんだ」

「あ、悪魔さん……? な、なんの話を……」

「だからさ……そんなイイ奴はさ……。────オ(・)レ(・)の(・)友(・)達(・)だ(・)よ(・)な(・)?」

 

 暁美ほむらの表情が呆ける。

 同時に常盤ななかが窓の破片を蹴り割って戻ってきた。

 

「っ……! 悪魔、残念ですが、もう対処の仕様がありません……! 今、乗客を逃がそうと第二車両の連結器を破壊しましたが、すぐに修復されました……! 時間停止を再び使うことができても、その間に乗客の全てを外に逃がす方法がない限り……っ!」

「それでこの列車に乗る人を助けられても、対向車両の人たちは全滅だ」

「ですが……! これは取捨選択です! 助からない方は仕方ありません! 助かる方だけでも助けるべきです!」

「道理だ。だが────どちらも助けられる方法があるとしたら?」

「……なんですって? そんな方法が、本当に……?」

 

 悪魔は覚束無い足取りで立ち上がり、常盤ななかに向き直る。

 

「ななか。オレに魔力を分けてほしい。魔法少女ではないオレは魔力を生成できない」

「っ……どうすれば?」

「ソウルジェムを渡してくれ。じかにさわれば、手を繋ぐより遥かに素早く魔力を吸収できる」

「────」

 

 常盤ななかの表情が強張る。そこで悪魔は直感した。彼女はソウルジェムの真実を知っている。ソウルジェムが魔法少女の命に関わる代物であることを知っている。故に悪魔という先ほどあったばかりの人間に、自分の命を預ける勇気が無い。預けるほどの信頼がない。その葛藤が見て取れた。

 

 車窓の景色が変わり始める。問答の時間はない。説得の時間もない。

 

「分かった。それはやめよう。ならばこれは拒否るなよ」

 

 悪魔は強引に常盤ななかの腕を取り、腰に手を回す。

 

「なっ!」

 

 距離が近い。顔が近い。そして────

 

 

 

 ────常盤ななかは、ファーストキスを奪われた。

 

 それだけでなく、舌を入れられてディープキスまで交わされた。

 

「んっ! ──……な、何をするんですか!?」

 

 赤面する常盤ななかは乱暴な青年を突き放す。

 次の瞬間、相手の口から多量の魔力を吸い取り、青い刀を召喚して握っていた悪魔は、一個のグリーフシードを暁美ほむらの前に投げ捨てて、忽然と姿をかき消した。

 

          †

 

 残された時間は十秒もない。視界の端に映った看板は《北養西一駅》────視界の中央に映ったのは虚空。そこにフルーツガム・トレインの本体が透明化していると直感した。

 

 すかさず嵐の炎を放射。熟練性質たる瞬間的分析力の効果により、透明人間の輪郭が赤い炎によってなぞられていく。これで姿は捉えた。

 

 続けて大空の炎を噴射。熟練性質たる爆発的噴射力の効果により、音を置き去りにする超速立体機動で対象の胸部に手刀を入れる。肉を抉り骨を潜り、心臓を抜き取って通り過ぎる。

 

 衝撃波(ソニックブーム)の発生。周辺の木々がたわむレベルの爆風が発生。

 

 本体は何が起きたのか理解できず振り返る。

 

「────オレは、お前を友達と思うことにした」

 

 心臓を奪われた? だからなんだ。魔法少女はソウルジェムが本体だ。頭部を破壊されようが心臓を握り潰されようが、魔力を回せば肉体は高速再生される。

 

「そうか。だったらしてみろよ」

 

 本体はソウルジェムに魔力を回そうとする。瞬間、愕然とした。左足の太股にある青色のソウルジェムがどこにもない。それどころか風穴が空いている。まるで胸部に空いた穴のように。心臓が抜き取られたように、ソ(・)レ(・)がない。見えるのは穿たれた筋肉と折れた骨と鮮やかな流血のみ。

 

「右手に心臓、左手に魂。お前の負けだ。地獄に堕ちろ」

 

 心臓を握り潰す。本体はやめろと絶叫を上げる。

 

「最後に名前くらいは聞いてやる」

 

 ソウルジェムを握り潰す。本体は目の光を失って人形のようにバタリと斃(たお)れた。最後に呟いた言葉は「サラマ」……最近どこかで会ったような顔をしていたが、言動や雰囲気から別人に近いため、悪魔は気のせいだと判断する。

 

 そして悪魔は青い刀を生成。暁美ほむらの下へ転移した。

 

 この間、十秒にも満たない結末だった。

 

          †

 

 悪魔は強く、強く想う。思い浮かべる情景は北養西一駅。すると車窓の外に映る景色は、先ほど悪魔が立っていた森の一本道が通り過ぎる。そこには蒸発して消えゆくサラマの死体があった。運転席に座っているはずのフルーツガム・トレインは「ア…アァ゛…ソンナ、バカ、ナ……」と呻き声を上げて消滅する。そして悪魔はブレーキハンドルを力いっぱい入れて電車を停止させた。

 

 やがて山の向こうから汽笛の音色がこだまする。やまびこのように聞こえるが、それは対向車両の警告だろう。

 

「……もう安心して良さそうですね。基本的に電車とは、常に管制室によって位置が捕捉されています。こちらは止まっていますから、向こうも既に減速を始めているでしょう。よって向かい側から走ってくる列車とは衝突することがなく、お見合いは避けられるはずです」

 

 聡明そうな常盤ななかがそう言うのであればそうなのだろう。

 悪魔は力尽きて尻餅を搗く。

 暁美ほむらは、悪魔がもしもの為に残したグリーフシードを返す。

 

 そして、なおも息を切らす悪魔と暁美ほむらは、絶体絶命の窮地から生還した心地を存分に味わっていた。

 

「……私たち、生きてる……」

「……あぁ、生きてるぜ……」

 

          †

 

 山岳地帯の麓。森林に囲まれた山道。電灯もなく真っ暗闇の北養西一駅ホームにて、常盤ななか、悪魔、暁美ほむらは立っていた。

 

「……不思議ですね。なぜ乗客は降りてこないのでしょう?」

「オレが先頭車両に向かっている時、無属性の熟練性質・有機的夢現力を列車全体に浸透させて全ての乗客を眠らせた。激しい戦闘になり列車が揺れるなら、下手に立っているより床に倒れていた方が怪我が少なくて安全だからな」

「……あの一瞬で、そこまで考えていたんですか……?」

「ただ範囲が広すぎて、眠らせるまでに時間が掛かったみたいだ。最初に列車を浮かばせた後くらいで眠りに就いたんじゃないか?」

 

 遠くからパトカーのサイレンが鳴り響く。

 

「……悪魔さん。今回はあなたのおかげで多くの命を救うことができました。感謝します」

「それを言うならお互い様だろ。……ほむらも無理させて悪かったな。ソウルジェムにヒビとか入ってないか?」

「あ、大丈夫です……!」

 

 悪魔は懐からグリーフシードを取り出して、暁美ほむらのソウルジェムを浄化する。そしてグリーフシードを常盤ななかに投げ渡す。

 

「それで浄化しろ」

「……ありがたく」

 

 常盤ななかのソウルジェムが完璧に浄化されて、グリーフシードを投げ返す。

 

「ところで、私たちを襲った、あの魔法少女は……」

「オレが殺した。正体については分からない……なぜ人を襲うような真似をするのか……」

「……っ。私、怖かったです……途中までは、いい人だと思っていたのに……」

 

 考える常盤ななか。悩める悪魔。怯える暁美ほむら。

 

「……分からないことは仕方ありません。なにはともあれ生き残ったことを喜びましょう」

「そうだな。それじゃあオレたちは行くよ」

「あ……常盤さん。一緒に戦ってくれて、ありがとうございました……!」

「ふふ。礼には及びません。お互い様のようですから。──では私は乗客たちを見送ります」

「そうか。気を付けろよ。何かあればオレのことを強く念じてくれ。助太刀魔法で加勢できる」

 

 常盤ななかに別れを告げた悪魔と暁美ほむらは、ホームを降りて山道を下る。

 完全に暗闇で危険な悪路だ。二人はスマホのライトで道を照らし、少しずつ山を下りていく。

 

 そこで悪魔は、手のひらに握られた血の滲む黄色いソウルジェムの欠片を見つめて話し始める。

 

「…………なぁ、ほむら」

「はい?」

「あの老婆……サラマって名乗ったんだけどさ。あいつ、なんで北養西一駅に居たんだろうな」

「……」

「これはただの勘なんだが、もしかしたら……この辺りがサラマの故郷だったんじゃないかと思うんだ」

「……え?」

「つまり、この近くにテロリスト共の本拠地があるのかもしれない」

「────えぇ!?」

「だから気を抜くなよ。思ったよりマミ捜しは大変そうだ」

「そ、そうですか……わ、分かりました……がんばりますっ!」

 

 かくして悪魔と暁美ほむらは、北養区の真夜中の山林に入り込んでいった。

 

   †

 

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