アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO! 作:形のない者
【だって悪魔と暁美ほむらは恋人でしょ?】羅宇らん
北養区・北西付近の山中。深夜の森林。二つのライトが道なき道を照らす。仰げば満天の星空。天の河が煌く夜空もほのかな灯りとなって頭上を照らす。辺りには小川のせせらぎと野鳥の声。星灯り降る森の奥地は幻想的な雰囲気が漂う。
不意に緑色のソウルリングが光る。それは呼応のようにまたたくと、青い刀と共に羅宇らん……ランボが降ってきた。
「あくまー!」
「うおっ!?」
いきなり助太刀魔法で帰ってきたランボは、悪魔の頭上に落下して肩車をしてもらう。
「おかえり。遊び疲れたか?」
「うん! あのねーランボさん明日香とささらといっぱい遊んだよ!」
「そうか」
「肉まん食べてる間に爆竹を髪に結んだり、鬼ごっこしてる間に手榴弾のピンを引き抜くワイヤーを足に引っ掛けたり……あっ!」
「どうした」
「明日香のやつバカなんだぜー! ランボさんのこと本物のアクマみたいって言うんだ! たしかにランボさんはチョーカッケーマフィアだけど? 本物のアクマは悪魔なのにな!」
「そうだな。ところで全然疲れてなさそうだが、もう眠いんじゃないか?」
「うーん。あともうちょっとで眠い! 今日はいっぱいお昼寝したから夜更かしできる!」
「そうか。ならもうちょっと喋るか」
悪魔は非常に慣れた様子でランボをあやす。今まで幼児を相手にしてきたことが多いのだろうか。いつもより声色も温かく柔らかく、穏やかで和やかで、普通の少年っぽい優しい雰囲気をまとい始める。
「────それでねー! ランボさん優しいから、明日香のおむねの包帯を取って治してあげようとしたの! でもなんもケガしてなかった! あいつ仮病使いだぜ! あとめっちゃおっきかった!」
「ランボ。たぶんそれはサラシって言って、まぁ……ブラジャーみたいなものだ」
「サラシ?」
鼻をほじるランボは、ふと背後に気配を感じて硬直する。
「……悪魔」
「なんだ」
「……う、後ろ、誰かいる……」
「ん? あぁ……そういえば紹介が遅れたな。大丈夫だ。お化けとかじゃない」
悪魔は振り返る。ランボは「ギャッ!」と両目を小さな手で覆うが、指の間からチラリと覗き込む。
「あっ……えっと、ランボ……ちゃん? はじめまして……暁美ほむらです……」
「────────」
鼻に指を突っ込んだまま、ぼへーっと呆けるランボは、暁美ほむらの顔をジッと見つめる。
「あれ? ほむら? 今ほむらって言った? なんでメガネしてんの? メガネしてたから気付くの遅れたー!」
「……なに?」
「え?」
まるで暁美ほむらの事を知っているかのような言動をするランボは「とう!」と言って、悪魔の肩から暁美ほむらの腕の中に飛び込む。
「ねぇねぇなんでメガネ付けてるの? メガネない方が可愛いよ! ランボさんいつものほむらがいいー! 髪もなんで三つ編みなの? さっきまでは下ろしてたのに! ねぇねぇランボさん解いてもいーい? ランボさん積み上がってる積み木を見ると崩したくなっちゃうタイプの女の子なのよね」
「え、ちょ、うわわ……きゃあ!?」
暁美ほむらの肩まで登ったランボは、メガネを取り上げたり三つ編みを解こうとしたり、「ぎゃはぎゃは」と笑って懐いている。
その様子を見守っていた悪魔は、ランボと暁美ほむらの関係性に、ひとつの可能性を見出した。
「……おいランボ。お前まさか……十年後の暁美ほむらを知っているのか?」
「え? ランボさんとほむらは友達だよ! いつもバズーカを使うとほむらがいるの。だからいつも遊ぶんだよ! でもすぐに居なくなっちゃうの」
ランボは、十年後バズーカを使うと十年後の自分と入れ替わるというシステムを知らないため、目の前の暁美ほむらが十年後の暁美ほむらとはパラレルワールドの別人であることに気付かない。まだ五歳児のため説明しても難しいだろう。だが今の話で悪魔の予想は当たった。
「そうか……まさかランボと十年後ほむらが知り合いだったとは……そんなに長い付き合いになっていたのか」
「え? なに言ってんの悪魔」
「うん?」
「だって悪魔と暁美ほむらは恋人でしょ? 長い付き合いになるのは当然じゃん」
────悪魔と暁美ほむらの目が点になり、頬が微かに紅潮する。
『!?』
「でも三角関係だって、白い髪の怖い人が言ってた! そいつ顔に青い刺繍してる変態なんだぜ!」
「い、いや……なんの話をしてんだよ!? ランボ!」
「え? ランボさんおかしなこと何も言ってないよ?」
気恥ずかしさ故か戸惑う悪魔。突然の恋人認定に困惑する暁美ほむら。対するランボは、なぜ二人が動揺しているのか分からなくて首をかしげる。
「……あ、あれですよ。悪魔さん。きっと今のは子供によくある想像のお話で……私は、特に気にしていないので……」
「えー! ランボさん嘘吐きじゃないもん!」
暁美ほむらは十年バズーカを知らない。故にランボの話が真実であると信じられないのは仕方ない。子供のデタラメな話だと思うのは当然の反応だ。
だが悪魔は直感できる。ランボは嘘をついていない。何か認識の違いがあって、悪魔と暁美ほむらが恋人だと思い込んでいるだけかもしれないが、それを確かめる術はない。実際に十年後に行ってみないことには……。
「ランボさん嘘つきじゃないー!」
「あ、ご、ごめんね! だから髪を引っ張らないで~!」
「わ……わかったわかった。ランボ、ちゃんと信じるから。それよりほむらが困ってる。こっちに戻って来い」
「うー……なんか今日のほむら変! いつものほむらじゃない! いつもはクールビューティーでカッコイイのに、このほむらはオドオドしててダメダメだ!
不満を漏らすランボだが、かといって暁美ほむらから離れようとしない。十年後ほむらと何かが違うことはなんとなく分かったようだが、それはそれとして一緒に居たいらしい。ずっとくっついている。
「……仕方ない。ほむら、ランボを頼む。なに、特別なことは要らない。ただ一緒に居てやってくれ」
「あ……はい……」
ランボはムスっとした表情で暁美ほむらの頭頂に寝そべる。するとモジャモジャのアフロから飴玉やら手榴弾やらが落ちてくるため、暁美ほむらは慌ててそれを拾い集めて盾の中にしまう。盾の中は四次元ポケットのようになっており、無限に物を収納できるのだ。
「ランボさん眠い~ほむら~子守唄うたって~」
「え、えぇ!? えっと……」
暁美ほむらはうろ覚えの子守唄を歌う。
すると沈みかかるランボのまぶたが閉じられて、すぐにスヤスヤと寝息を立てた。
「──……ぐぅ……ほむらってば、子守唄へたっぴなのね……ぐぅ……」
「……あっ……!」
一瞬目覚めたランボは、暁美ほむらの眼鏡を取り上げて、モゾモゾとアフロの中にしまい込む。どうやら最後までメガネが気に入らなかったらしい。やはり十年後ほむらの姿の方が良いのだろうか。三つ編みは解き方が分からないため諦めたのか、そのまま寝入ってしまう。
「ど、どうしよう……悪魔さん、ちょっと待ってください!」
「ん?」
後ろで起きていた出来事を知らない悪魔は振り返る。
そこには眼鏡を外した暁美ほむらが身を竦ませて立ち尽くしており、頭上には鼻水を垂らすランボが海老反りで爆睡していた。
「あの、ランボちゃんに眼鏡を取られちゃって、何も見えないんです……」
「……そうか。ちょっと待ってろ」
悪魔は来た道を戻ってほむらの所に戻り、ランボのアフロ頭に両手を突っ込んで眼鏡を探すが、出てくるのは肉まんを包む紙切れだったり包帯だったり拳銃や手榴弾、お菓子の箱や飴玉やペロペロキャンディーやら何やらと、なかなか見つからない。
「……こいつの頭は四次元ポケットか。すまないがランボが起きるまで眼鏡は諦めてくれ。どうしてもほむらから眼鏡を取り上げたいようだ」
「そ、そうですか……スペアの眼鏡も家に置いて来ちゃったし、どうやって歩けば……」
「手をつなぐか?」
「!」
「……いや、両目に魔力を通して視力を強化しろ。魔力コントロールのいい練習になるはずだ」
手を繋ぐ。普段ならそれはなんてことのない提案なのだが、先ほどの
「────両目に魔力を通しました。すごい……眼鏡を掛けている時より、周りがよく見えます!」
「上達すれば数キロ先のタイルの枚数も数えられるようになる。あと、視力を強化した分の穢れの蓄積も忘れず計算に入れておけよ」
「はいっ!」
行動再開。二人は順調に山道を降りて行く。
やがて崖の向こうに二つの河が合流して大河になっている地点を発見。さらに悪魔は明かりの点いたテントを発見する。
「ほむら。あのテントを見てくれ。何か分かることはあるか?」
「……かわいいチーズ柄のテント、ということ以外には特に……あ、いま人影が見えました!」
「チーズ柄のテント、マミの失踪……まさかな。……なぁほむら。百江なぎさって知ってるか?」
「はい? いえ……」
「え、知らないのか? マミの友人なんだが……まぁいい。魔力パターンを感知してみてくれ。あのテントに魔法少女がいるはずだ」
「……あ、ホントだ! 魔法少女が一人います!」
「よし、行くぞ。たぶんオレの知り合いだ」
†