アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO! 作:形のない者
────懐かしい夢を見た。
深夜。日付を跨いだ頃。悪魔は目を覚ます。傍らでは百江なぎさが寝息を立てている。その目と頬には涙の跡があった。
なるべく静かに起き上がり、テントの外に出た悪魔は、川に入って体を洗うことにした。
衣服を脱いで装備を置き、突き刺すように冷たい川に入る。滑らかな水を浴びて心地が良い。
「…………」
百江なぎさ。彼女はソウルジェムが魂であることや、魔女化の真実を知っている。巴マミや佐倉杏子は知らないことだ。
悪魔契約を交わした者は、悪魔の過去を覗くことがあるため、その二つの真実を知ることが多い。
しかし契約後の彼女は泰然と振る舞っており、特にショックは受けていない様子だった。
(……『魂とか魔女化とか、そんなものは今更どうでもいいのです』……か)
百江なぎさは今、自由なのだろうか。
ただ孤独なだけなのでは? ただ孤立しているだけなのでは?
孤高を矜持とする恭弥アーデルハイトも、人間関係の大切さは理解していた。
「……いつもはマミが一緒に居るからいい。でも今はマミが居ない……」
先ほど目にした涙の跡。悪魔が目を覚ましたのも声を聞いてしまったからだ。
────……マミ……どこにいるのですか……────
その寝言で目が覚めた。
しかしソウルジェムの穢れが少ない。それは生来の我慢強さのおかげだろうか。
「…………荷物が増えたな」
失笑した悪魔は水を被り、髪と顔を洗う。
その時、青色のソウルリングがまたたき、赤色と藍色のソウルリングが呼応した。
†
助太刀魔法で瞬間移動してきた二人は、悪魔の後方に着地。
砂利の音を弾かせて、悪魔の裸体を確認すると顔を赤くして下を向いた。
「なっ!? す、すみません! 十代目!! まさか沐浴中だとは知らず! 大変失礼しました!」
「寝ている奴がいるから静かにしろ。あと十代目はやめてくれ」
「あっ! も、申し訳ありません! 悪魔様っ!!」
銀髪灰眼の美少女は黒と赤を基調としたファッションに身を包み、十代目と呼んだ悪魔に対して礼を尽くす。
彼女はシトピ隼人。今まで作業中だったのか眼鏡を掛けており、手元には髑髏があしらわれた真っ黒なトランクを提げている。
「ボス……お久しぶりです。夜遅くにごめんなさい」
「ボスもやめろ。……って言っても聞かないよな……」
紺髪紺眼に髑髏柄の眼帯を付けた美少女は、カーキ一色で染め上げられた黒曜中の制服を着ている。
彼女はジュリー凪。またの名をクローム髑髏。
悪魔が嫌う“ボス”呼びは、凪が崇敬する六道骸が呼ばせている呼称だ。それが六道骸の嫌がらせであることに凪は気付いていない。加えて六道骸からボンゴレファミリーにおける霧の守護者の代理になるよう命令されているため、凪は純粋に悪魔を慕う意味で“ボス”と呼んでいる。その尊敬を無下にすることはできないため、悪魔は強く言えない心境にある。
「それで、何しに来た?」
「はっ! 例の物が完成しました!」
「……いや、まずその
「これを見てください! オレたちが造ったニューアイテム一式です!」
隼人はトランクを献上するように差し出す。そこで凪が補足した。
「あと……雲の人も手伝った……強くなったボスと戦いたいって理由で……」
「そうか。恭弥が関わっているとなれば、もしかして匣兵器関連か?」
「はい! その通りです! さすが悪魔様! ささっ! 防水加工なので気にせずジャンジャン触ってください!」
悪魔は裸体のため、川から上がろうと思えない。
一度肌を合わせた相手とはいえ、恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。
「悪い。こっちを見ないでくれ」
「あっ……もちろんです!?」
「私は……あまり気にしない……」
「いや、オレが恥ずかしいから……」
俯く隼人と凪を見て、悪魔は川を上がってトランクを開ける。
そこで最初に目にしたのは衣服。次いで数々の
「これは……」
「はいっ! これらは全て悪魔様の為に用意された新兵器────《SISTEMA C.A.I.ver.D》です!」
「スィステーマ・シーエーアイ・バージョン・ディアヴォロ……」
「はいっ!
「スィステーマ・カンビオ・アルマ・イスタントァネオ・バージョン・ディアヴォロ……」
「はいっ! コンセプトは“ベルト上に連結された複数の
「……あー。だから悪魔バージョンなのか」
悪魔は棒読みで答える。
対する隼人はメガネをキランと光らせながら、ウキウキのテンションブチアゲ状態で紹介を続けた。
「まず用途ごとにシリーズが異なるんですが、《標準戦闘装備シリーズ》の特徴としては、匣の外側に“オプションスイッチ”が付いていまして、それがオフの状態で開匣した場合、コンタクトスコープとキャノンレーダーは開匣されず、ほかの装備が一斉開匣される仕組みです。また、開匣された匣兵器は全て自動で使用者に装備される仕組みで……」
「隼人」
「次に《状況対応装備シリーズ》なんですが、こちらは標準戦闘装備シリーズでは攻略できない戦闘状況に陥った時、開匣するもので、悪魔様が免許皆伝なされた時雨蒼燕流用の日本刀も用意してあります! ほかにもチョーカッケー髑髏印の火炎放射器がありまして、これが一番のお勧めですね! 悪魔様に一番似合うと言っても過言ではなく、それ以外の拳銃やハリネズミ、充電器やバイクなんかより数倍いや数十倍お役に立つと思います!」
「隼人ー」
「そして《バッテリー匣シリーズ》ですが──以下
「便利だな。でも隼人~」
「お褒めいただき光栄です! 最後に《栄養ドリンクシリーズ》は、匣の中に真水を注ぎ、各属性の死ぬ気の炎または魔力を注入することで栄養剤を作成することができます!」
「助かる。だが隼人ぉ……できれば理解が追い付く
「スミマセンッ!! では最後に“まとめ”としましては、《C.A.I》だけでも腰に巻き付ける匣の数は18個となり最低二本のベルトが必要になります! ほかにも保管用の匣を幾つか用意しておりまして、食料品や日用品、ソウルジェムの破片、魔法で生成したダイナマイトや日本刀など、とりあえずなんでも保管しておけます!」
「日常生活にも対応しているのか。本当に便利だな。そんなすごいものをオレのために……いいのか?」
「は、はいっ! 悪魔様のためですから! 右腕として当然の働きですっ!」
悪魔はトランクの中身を検めて再認識する。
(この人、本当にこういうの凝りだすんだよなぁ……いや、マジでありがたいんだけどさ……)
不意に悪魔は青いソウルリングから雨の炎を灯すと、発散効果によって全身の水滴を跳ね飛ばす。
そうして体を乾かして衣服を手に取り、その場で《天空霧のカモフラパーカー》に着替えた。
「そちらは霧の構築効果によって作られたパーカー型の戦闘服です! 迷彩効果を備えており、少量の霧の炎を出すことで、大抵の人間の肉眼や工学的な
「要は戦闘を一般人に見られないための戦闘服ってことか」
「はい! また、大空の調和効果により、ある程度の物理耐性と魔力耐性、死炎耐性を有していますっ!!」
悪魔は着替え終わると、今度は《天空霧のバトルグローブver.R.S.C》を両手に装着する。
「そちらは霧の構築効果によって作られたグローブ型の武器です! それぞれのグローブの手の甲には《ラピッドクリスタル》と《ソニッククリスタル》を嵌め込む場所があるので、どうぞ今の構築グローブから付け替えてください! 繊維は企業秘密ですが、戦闘服同様、ある程度の物理・魔力・死炎耐性を有しています!」
「企業秘密ってなんだ。……まぁ霧の構築だけでグローブを作っていたから、あらかじめ素材が存在するグローブはありがたい」
しかし悪魔の両腕は既に炭化している。今更な話だが、それは隼人たちには言わないでおくことにした。
次に悪魔は赤いヘッドフォンに興味を示す。
「そちらは《天空嵐雨のマジカルヘッドフォン》です! 通称“魔力意識接続機器”と言いまして、魔力パターンの受信時、嵐の分析効果によって、魔力パターンの
(これ使い方がよく分かんないな……もしかしたら一生使えないかもしれない……)
「また、受信した魔力パターンが
また、念話を受信したい場合は────
要するに常時、電話のスピーカーモードみたいなもので……拡声器とも言えますね。だからあまり内緒話には向いてないっす!」
(ヤバイ。つい無意識に聞き流しちまった……もう頭の中パンクしそうなんだが……)
それから隼人は《嵐のコンタクトディスプレイ》とその付属物である《晴のコンタクトスコープ》や《嵐雷空雨のホバーシールド》とその付属物である《雨のキャノンレーダー》を紹介する。その中で悪魔はホバーシールドに興味を持った。
「ふぅ……何回も練習した説明セリフ、全部噛めずに言えたぜ……」
「嵐の人、すごい……」
「……。なぁ隼人。さっき話してくれたホバーシールドなんだが、これは乗り物としてもシールドとしても両方使えるってことでいいんだよな?」
「はいっ! 空飛ぶ円盤みたいな感じです! スケボーを乗りこなす感じで行けますよ!」
(オレ、スケボー乗れたことないんだよなぁ……片足を乗せるだけで滑って転んで頭を打つか、膝を擦りむくかだったから……まぁ常時死ぬ気の今なら練習あるのみか)
「隼人」
「はいっ!」
「あとは超直感で察する。残りのアイテムの名前だけ教えてくれ」
「はいっす!」
それから隼人は匣兵器の名称を
《天空霧のバトルグローブver.R.S.C》
《天空霧のカモフラパーカー》
《天空嵐雨のマジカルヘッドフォン》
《嵐のコンタクトディスプレイ》
┗《晴のコンタクトスコープ》
《嵐雷空雨のホバーシールド》
┗《雨のキャノンレーダー》
《天空霧のカモフラ黒スーツ》
《嵐の腕固定型火炎放射器in髑髏印》
《
《
《雷の電圧変換充電器》
《
《
《
《大空のバッテリー匣》
《嵐のバッテリー匣》
《雨のバッテリー匣》
《雷のバッテリー匣》
《晴のバッテリー匣》
《雲のバッテリー匣》
《霧のバッテリー匣》
《嵐のスタミナドリンク》
《雨のフォースドリンク》
《晴のエナジードリンク》
《雲のパワフルドリンク》
その他《保管用匣》が数個────
悪魔は二本のベルトを腰に巻き、二十数個の匣を取り付ける。
全兵器装備完了。空っぽとなったトランクは隼人が回収する。
「かっ……かっこいいっす! 悪魔様!」
「あ……ボス……最後に、これ……」
凪は髑髏をあしらった眼帯を渡してくる。
「ん? これは……」
「その……ボスの左目、真っ黒だから……」
「────……そうか。そういうことか。凪は術士だから見抜けるよな。うん、ありがとう」
「もし、その左目で困ったら使って……」
悪魔はさっそく保管用匣を開匣し、その中に凪のプレゼントを詰めて収納する。
「凪。骸は元気か」
「……! …………」凪は嬉しそうに、こくんと頷いた。
「そうか」
「────あ、それとボス……雲ハリネズミの匣兵器に、雲の人の手紙が付いてる……あとで読んでね……?」
「そうなのか。分かった」
凪は振り返って隼人の下に戻ると、隼人は助太刀魔法の刀剣を携えていた。
二人は悪魔に手を振って別れの挨拶をする。
「ではまた! お元気で! 悪魔様! 旅の安全とご武運を毎日お祈りしております!」
「またね、ボス……」
「隼人。凪。オレのためにありがとう。またな」
二人は瞬間移動で並盛町に戻る。
ちょうどそのとき、遠い空が白み始めた。
†