アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO! 作:形のない者
未明の川辺。夜空が白み始める頃。
百江なぎさのキャンプ地で朝食を取る魔法少女たちは、悪魔から事の次第を聞かされていた。
「何か違うと思っていたら、新しいパーカーを着て、ベルトを二本も付けて、大量の匣を提げていたのですか。納得なのです」
「魔法生物……そんなのもいるんですね。初めて知りました……」
「ランボさん野菜きらーい。クシュが食べてー」
「……ちゃんと食べないと大きくなれないよ?」
寝ぼけ眼で髪がボサボサな百江なぎさ。
対する暁美ほむらは髪を三つ編みにしており、ようやくランボから取り戻した眼鏡を掛けていた。
ランボは嫌いな野菜をクシュの皿に移すが、クシュはマヨネーズを付けて「あーん」とランボの口に持っていく。
そうして入名クシュとの邂逅と子ライオンとの戦いについて説明し終えた悪魔は、次の話題に移る。
「さて、巴マミの捜索についてだが、ひとつ策がある。だがもし失敗すれば、それで捜索は打ち切りだ」
「えっ……どうしてですか!?」
「その策というのが、理論上はほぼ確実に巴マミを発見できる方法だからだ。それが無理となればお手上げだ。どうしようもない。無理な捜索続行は徒労に終わるのが目に見えている。どうしても見つけたければ、事態の変化があるまで神浜市を張っているしか方法がない」
「…………」
暁美ほむらは気になった。まるで悪魔は失敗する前提で話しているみたいだと。理論上では、ほぼ確実に発見できると言う割に、あまり自信が無いみたいだ。
それも無理はない。悪魔は直感していたからだ。この方法では巴マミは見つからない。だが、なぜ見つからないのかは、やってみるまで分からない。故に挑戦はする。
悪魔は立ち上がり、百江なぎさの頭を撫でる。そこから魔力を吸収した悪魔は、刀剣作成魔法で日本刀を生成。さらに両目の奥に回るソウルジェムとグリーフシードを振動させて、逆転勝利魔法と叛逆魔法を発動する。
「行くぞ。これで妨害効果を突破して巴マミの所に行けるはずだ」
最後に助太刀魔法を行使する。妨害効果の突破を実感。瞬間移動が発動────しない。
「────なん……だと?」
悪魔は絶句する。こんなことは初めてだと言いたげに。
助太刀魔法とは、困っている友人の下に馳せ参じたいと強く思う願いから生まれた魔法だ。
しかし今、それがどういうわけか
『────!!!??』
次の瞬間、悪魔の脳内に暴力的な念話が接続される。
その念話の余波を受けた四人の魔法少女も、悪魔に向けた念話の内容が脳内になだれ込んできた。
(悪魔くん……貴方ね? 今、お得意の助太刀魔法で、私の所に来ようとしたわね?)
(マミ!? 今どこにいるんだ! どうして助太刀魔法を拒否した? いや……
(悪魔くん……私は、貴方を恨むわ。次に会った時は殺し合いになるかもしれない。それはこの声を聞いているほかの子たちも同じことよ。だから私のことは、もう捜さないで……)
(────なんだと? おい、マミ! マミ……!)
乱暴な魔力の衝突により接続された念話が、再び乱暴に断ち切られる。
「あ、悪魔さん……! 今の声は、マミさんですよね……?」
「……マミ……いったいどうしたのです……?」
「どういうことだ……叛逆と逆転勝利の性質さえ凌駕する力だと……?」
もっと出力を上げれば、無理やり飛ぶことは可能だ。
しかし巴マミは言った。次に会えば殺し合いは避けられないと。故に今すぐ飛ぶのは得策ではないかもしれない。悪魔の十八番である叛逆と逆転勝利の性質を一瞬とはいえ無効化する謎の力が巴マミにはある。それがどういう状態を意味しているのかは見当もつかないが、まず間違いなく今そこに飛べば
「……クマ吉はこれを直感していたのですね。これで巴マミの捜索は打ち切りなのです……」
「そんな……せっかくマミさんの声が聞こえたのに……」
「だが捜して会えば殺すと言っていた。ほむらも感じただろう。アレは本気だ」
しかし暁美ほむらは信じられない。
「でも……あのマミさんが、私たちを殺すなんて……」
「…………」
「それで? クマ吉は本当に諦めるのですか?」
百江なぎさは問い掛ける。悪魔は無論と言うように口を開いた。
「捜すなと言われて“はいそうですか”と返すわけがない」
「……!」
その言葉に暁美ほむらは瞠目する。
「オレはまだ神浜市に用がある。助太刀魔法は無効化されたが、拒否されるまでの一瞬でおおよその位置は掴めた。ここからそう遠くない場所に巴マミはいる。だが途中に強力な結界が張られていた。それを見つけるのは困難を極めるだろう。巴マミ自身にも尋常ではない力が宿っていたように感じられる。少なくとも現状の戦力と情報で突き進むのは文字通り死を意味すると直感した。今回ばかりは大人しく引き下がるべきだ」
「つまり巴マミの捜索は一時中断ということなのです?」
「そういうことになるな。実際、手詰まりなわけだし……ハァ……」
悪魔は溜息をついて椅子に落ち着く。食卓に頬杖を突いて思索。悪魔の言動は非常に合理的だが、よくよく見れば意外と内心にダメージを受けていることが分かる。そう百江なぎさと暁美ほむらは察した。
「……、……オレは神浜市の観光を続ける。残るは新西区だ。お前らはどうする?」
「なぎさはクマ吉に付いて行くのですよ。マミが居ないのでは見滝原市に戻っても独りでつまらないのです」
「私は……まどかに報告したいので、一旦おうちに帰りたいと思います……」
「そうか。なら連絡手段を取っておこう」
悪魔と暁美ほむらは連絡先を交換する。
「大丈夫だ、ほむら。神浜市に居れば、いつかマミと会えるはずだ」
「はい……」
「だが気を付けろ。この街では何か大きな陰謀が渦巻いている気がする。その渦中に巴マミが関わっているのであれば、いつか必ず激突するはずだ」
故に悪魔は神浜市に留まることにした。望まぬ激突で、巴マミとの再会を待ち望むために……。といっても、そもそもアリナ・グレイの結界魔法が目的なので神浜市には留まる予定だったが、旧友の巴マミが不審な状態となれば放っておくわけにはいかない。
「……よし、じゃあ出立するか。ランボ、お前は並盛町に帰れ」
「えー! もっとほむらと遊びたいー!」
「母さんが心配しているんじゃないか?」
「あっ! ママン! ランボさんママンに会いたいんだもんね! じゃあ帰る!」
悪魔はランボの手を掴んで魔力を貰い、助太刀魔法を宿した日本刀を生成してランボに持たせる。
「またな」
「バイビー! アッカンベー! お尻ペンペーン!」
「さっさと帰れ……」
瞬間移動でランボは並盛町に帰還した。
百江なぎさはキャンプ用品を指パッチンで片付けており、入名クシュが席を立つ。
「それじゃあ私もこれで。朝食美味しかった。またね」
「あぁ。またな」
「またなのです!」
「あ、また……!」
入名クシュは跳躍して街方面に去っていく。
それを見届けた三人は下山を開始。
一方、暁美ほむらは見滝原市行きの電車に乗るため、途中まで悪魔たちと同行することになった。
かくして一行は新西区へ。謎に満ちた神浜市の冒険は、始まったばかりである。
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