アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO! 作:形のない者
【……私が守らないと。私が……】七海やちよ
七海やちよ。海のように深い髪色と空のように青い瞳を持つ美女。
彼女は神浜市の西側一帯を取り仕切る“まとめ役”であり、魔法少女歴七年の大ベテランである。
大学生でありながらモデル業もこなしており、祖母から受け継いだ下宿施設・みかづき荘に住んでいるが、現在は閉店中。
そんな彼女は消灯された一室でパソコン画面と向き合っており、神浜市に広まる“うわさ”について調べていた。
「……“キュゥべえを連れた男の子のうわさ”……まさか魔法少女しか意味が分からないうわさがネットに出回るなんてね……近頃の魔法少女は身バレとか気にしないのかしら? 世も末ね……」
近頃、神浜市に数々の異変が起きるようになった。その中で七海やちよが初めに遭遇した異変は“ウワサ”と名乗る怪異である。それは明らかに魔女とは異なり、その一切が不明の存在。魔法少女にとっては、新たなる敵の登場と言っても過言ではない。
「……“キュゥべえを連れた
ウワサに共通する特徴としては、魔女に類似する能力を持つことである。魔女結界に似たウワサ結界。魔女の
「……“魔法少女をやめられるうわさ”……? 悪魔のうわさを調べていたのに、なぜこんなものがサジェストされるのかしら? 随分と都合のいいうわさだけど……魔女化の真実を知った魔法少女が流したのかしら……だとしたら気の毒な話ね……」
そして魔女と一線を画する特徴としては、倒してもグリーフシードを落とさない事と、神浜市に存在する“うわさ”が現実になったかのような能力を使う点である。
ただし、既に存在するうわさを現実のものと具現化させるのか、はたまたウワサの存在そのものがうわさとして広まっているのかは、まだ判別が付かない。
「……“魔法少女を食べちゃう悪魔のうわさ”……? これは発展系というより融合系ね……内容は“魔法少女を元の人間に戻す代わり、その魔法少女を食べてしまう”というもの……だとしたら《食べる》とは、いったいどういう意味なのかしら……? もしこれが魔法少女の殺害を意味するなら、ウワサの可能性が高くなってくるわ……もっと調べてみないと……」
七海やちよは“神浜うわさファイル”を開く。それは神浜市内のうわさや都市伝説の中でも、特にウワサとしての信憑性が高いものをまとめてプロファイリングした手帳である。そこに記した情報を元にして、彼女は“悪魔”に関する情報を類推する。
「ふむ……もしこの“悪魔”とやらがウワサだと仮定した場合、分類としては“無条件で出現するウワサ”に該当するわね。昨日から神浜市の各地で目撃情報が確認されている」
七海やちよによれば、ウワサには三つの分類がある。
無条件で出現するウワサ。特定の行動で出現するウワサ。特定の場所に出現するウワサ。
「……あら? 検索候補の下方に何かあるわね……“キュゥべえの素首を腰に吊るした魔法少女を食べちゃう悪魔のうわさは嘘で実は名君だったうわさ”“追い剥ぎ牛のうわさ”……ちなみに発信者は竜城明日香。ならこれは無視でいいわ。あの子そそっかしくて思い込みが激しいから適当なことばかり書き込むのよね……」
七海やちよは西側の代表者である。故にその権限を使って西側の魔法少女たちに、何か妙な“うわさ”を聞けば報告するようお願いしている。そのため昨日から魔法少女専用のチェイングループのみならず、なぜかネット上のSNSでも“キュゥべえを連れた男の子のうわさ”や“魔法少女をやめられるうわさ”……そして“小さなキュゥべえのうわさ”が、やけに目に入るようになった。
「……“小さなキュゥべえのうわさ”……発信者は十咎ももこ、水波レナ、秋野かえで……ハァ……またあの子たちったら……私はうわさを教えてと言ったはずなのに……あえてうわさとして広めることで情報提供を誘うんじゃないわよ……紛らわしい……」
十咎ももこ・水波レナ・秋野かえでの三人は、チームももことして活動している。そしてチェイングループにおける彼女たちの会話履歴を見る限り、どうやら環いろはという魔法少女のために小さなキュゥべえを探しているらしい。そんなものが本当にいるのかどうかは知らないが、あえてうわさとして広めることで、ほかの魔法少女たちに興味を持ってもらい、小さなキュゥべえに関する情報を掴むチャンスを上げようとしている。これは彼女たちの常套手段だ。故にウワサである可能性は低い。
だからといって放置していい案件ではない。なぜならキュゥべえもといインキュベーターは人類の敵だ。少なくとも魔法少女を利用して魔女化サイクルを生み出し、宇宙の公益を優先するという謳い文句で悪徳業を続けている。故にこれ以上、神浜市に災いが及ばないよう、キュゥべえを見つければ殺害も厭わない。しかしキュゥべえが減れば魔法少女も減り、魔女が増えてしまう弊害が発生する。故に安易にキュゥべえを追い出せないのが実情だ。現状の対策としては、新米魔法少女を育成し、なるべく多くの魔女を狩ってもらうしか、インキュベーターに対抗する手段がない。といってもインキュベーターからすれば産業廃棄物の処理はありがたい話なので、きっとお礼を言ってくるだろう。そこもまた癇に障る。
「……あら? “小さなキュゥべえを連れた悪魔のうわさ”……これはももこが流したうわさと悪魔のうわさの融合系かしら? まったく……この有様だとネットの情報だけではここで手詰まりね。そろそろ腰を上げるとしますか……現場百回……」
七海やちよは休息を取るためコーヒーを飲む。その片手間に画面をスクロールしていると、妙に技術的な情報が目に入った。
「……“六つの魂を持つ悪魔のうわさ”……内容は“悪魔と名乗る少年が六つの魔力パターンを持っている”というもの。……これは……」
悪魔。キュゥべえ。魔法少女契約解除。食べる。小さなキュゥべえ。六つの魔力パターン。
七海やちよは上記の収集した情報から仮説を組み立てる。それは先入観を自覚しない憶測の積み重ね。
「……直近の目撃情報は水名区と参京区と北養区……目撃された場所から推測するに、悪魔は神浜市をぐるりと一周している? だとしたら、まだ新西区には来ていない……つまり残るは新西区……もしかしたらすぐ近くにいるかもしれない……」
七海やちよは魔力感知を開始。水属性の熟練性質・発散を用いて、新西区全体に行き渡るように魔力を発信する。
その時、八つの魔力パターンの塊を捉えた。早朝の時間帯に八名の魔法少女が集うのは考えにくい。近くに大きな魔女反応を感じ取れないため、どういった目的で集合しているのか分からない。
「急がないと……」
七海やちよは焦るように支度を始める。
その表情は余裕のなさが如実に表れており、強烈な使命感を発していた。
「……メル……かなえ……みふゆ……」
不意に七海やちよは、食器をしまうタンスに目が行く。
「……私が守らないと。私が……」
海色のソウルジェムを取り出した七海やちよは変身。胸下に三日月型のソウルジェムを光らせて外出。みかづき荘の屋根に飛び移り、八つの魔力パターンの追跡を開始する。
しかして七海やちよは思う。
キュゥべえに魔女、さらにはウワサという脅威が現れた今、もうなりふり構ってはいられない。
神浜市の西側を守る。魔法少女も一般人もまとめて守る。
そのためには少しの不穏分子も放置できない。排除する。
悪魔。小さなキュゥべえ。
それがウワサでなくとも、ウワサに匹敵する存在であれば抹殺する必要がある。
「っ────」
紫色の残像を残し、緑色の電撃を迸らせて、海色の魔法少女は雷光のように突き進む。
手の届く範囲の全てを守るために。もう二度と仲間を失わないために。
故に孤高を約束する。殺意を固めて。大切な物を守るために。
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