アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO! 作:形のない者
夜明けの新西区。川沿いに歩いて下山していた悪魔一行は、北養区と新西区とを結ぶ橋を渡っていた。橋の下には川が流れており、隣の橋には電車が走っている。駅が近いようで、暁美ほむらとの別れも近い。一方、百江なぎさは頭の上に雲ハリネズミを乗せて走り回り、一人と一匹は楽しそうに遊んでいた。
「あ、ところでクマ吉。このハリネズミに名前は付けないのですか?」
「考え中だ」
「それならなぎさが名付けるのです! えーっと……カマンベールから取って“ベール”が良いのです!」
「キュー?」
「あまりピンと来ていないようだぞ」
「えー! それなら……それなら……シンプルに“チーズ”で良いのです!」
「キュー!」
雲ハリネズミは語感が気に入ったのか甲高い声を上げる。
「クマ吉、チーズはなんと言っているのです?」
「特に不満はなさそうだ」
「そうなのですか! ではお前はこれからチーズなのです!」
「キュキュー!」
名前が決まって喜ぶ百江なぎさとチーズは、その場でくるくると回転する。
「────あ! それならクマ吉。あの、子ライオンを見せるのです!」
「今は睡眠中だ。死んだように寝ているからそっとしてやってくれ」
「そうなのですか……名前は何にするのです?」
「考え中」
「なら“モッツァレラ”や“ゴルゴン”や“ゾーラ”はどうなのです? “リコッタ”でも“ペコリーノ”でも良いのですよ!」
「全部チーズじゃないか……。それにこいつの名前はオレが考える。長い付き合いになりそうだからな」
悪魔と百江なぎさの会話。
それを一歩引いて聞いていた暁美ほむらは、ふと進行方向に奇妙な物体を見つける。
「……? あ、あの! 悪魔さん、百江さん。あれは……」
暁美ほむらが指差す先を、悪魔たちは目で追い掛ける。
橋の奥から疾走してくる白い小動物。それはウサギのように飛び跳ねており、桜色に輝くまんまるな瞳は一直線に悪魔を見据えていた。
「────あれは……」
キュゥべえ。それに似ている。だが普通のキュゥべえとは明らかに異なる。ふた回りほどサイズが小さい。キュゥべえは端末体であるため自然発生的に個体差は発生しない。悪魔の口付け等によって個体の識別番号を付けられたキュゥべえなら話は別だが、それは単なるマーキングだ。基本的な肉体の構造から異なるキュゥべえは悪魔も初めて見た。何者かに改造された可能性が脳裏をよぎる。だが、だとしたらなんのために?
「モキュモキュ! モキュー!!」
「鳴いた! あの小さなキュゥべえ、鳴き声を上げたのです!」
「…………喋れないのか?」
「────…………」
百江なぎさはただただ驚き、悪魔は驚きつつ考察し、暁美ほむらに至ってはわけがわからないと絶句していた。
「モキュー!」
一生懸命、橋の始まりから中央まで走ってきた小さなキュゥべえは、悪魔の胸に飛び込む。
そこで悪魔は直感した。やけに友好的であり好意的。さらに助けを求めるような感情を直感する。
(────待て。
通常のインキュベーターは、年相応の少女に不信感を持たれないよう、可愛らしい言動を心がける。
しかし、この小さなキュゥべえは違う。チーズのような動物と同様、百江なぎさのような人間と同様、確かな感情と共に素直な言動を取っている。それは超直感により判明した純然たる事実。
「……悪魔。小さなキュゥべえとやらが見つかったのかい? 僕にも見せてくれないかな」
「…………見て、どうするつもりだ?」
「興味深いから調べたいのさ」
「どうやって」
「……安心しなよ。いきなり解剖なんてしないさ。まずは会話から」
「……そうか。だけどお前、外に出たら機能停止するだろ。あとで外部に展開できる結界を作るから、その時にな」
「それもそうだね。分かったよ」
悪魔はスマホを取り出して環いろはに連絡する。
その間、小さなキュゥべえは悪魔の腕の中でモゾモゾと動き、座り心地が良さそうな場所を探していた。
「……キュゥべえのくせにかわいいのです。それにしてもクマ吉は動物にモテるのです」
「オレにもよく分からん」
「やっぱり優しいからじゃないでしょうか? ランボちゃんも懐いていましたし……」
優しい。その褒め言葉を素直に受け取れない悪魔は苦い顔をする。脳裏によぎるは昨夜の情事。悪魔は無意識に百江なぎさを視界から外す。
その時、通話が繋がった。環いろはの声がこもる。
『もしもし、環いろはです』
「いろは。小さなキュゥべえを発見した」
『えっ! ホントですか!? 今どこにいます!?』
「新西区と北養区を結ぶ橋の上だ」
『分かりました! すぐに向かいます! 実はもう新西中央駅にいますから、すぐに行けると思います!』
「いや、待て。オレたちもその駅に用があるから────って、切れちまった……」
不通音が鳴る。悪魔は入れ違いになっては困るため、橋の上で待機することを余儀なくされた。
その旨を暁美ほむらに説明する。
「そうですか。では私は駅に向かいます」
「あぁ。送れなくて悪いな」
「いえ、そんな……! ……」
暁美ほむらは何かを言いたげにモジモジしている。
それはあまり人と話し慣れていないが故だろう。
「ほむら?」
「あ……その、今回は本当にありがとうございました。悪魔さんが居なかったら、マミさんが今どうなっているのか分かりませんでしたので……」
「そんなことか。こっちも道中は助けられた。というかオレの悪名? のせいで迷惑を掛けたな。列車の時は怖かっただろう」
「いえ……いい経験になりました」
「そう言うか。ほむらは強い魔法少女になりそうだな」
暁美ほむらは会釈する。別れの挨拶だ。
「またな。もしマミのことが分かったら報告する」
「はい!」
百江なぎさと手を触り合った暁美ほむらは振り返り、背中を見せて歩き出す。
「────待ちなさい」
次の瞬間、上空から降り立った海色の魔法少女は、青い槍の切っ先を向けて暁美ほむらを制止した。
「あなた、神浜市の魔法少女じゃないわね? 後ろの子もそう……そして“小さなキュゥべえを連れた少年”……あなたが“悪魔”かしら?」
「…………そうだ。知らない間に随分と有名になっているようだが、オレになんの用だ?」
「私は七海やちよ。この街を脅かす不穏分子を排除する者よ」
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