※この作品はR-18です。

アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO!   作:形のない者

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【時雨蒼燕流 両式・十の型────《蛟竜雲雨(こうりゅううんう)》】悪魔

 

 橋の上にて、ピリピリとした空気(まりょく)が張り詰める。それは魔法少女にだけ分かる臨戦態勢だが、悪魔も直感していた。眼前の魔法少女は、明らかに敵意を向けていると。

 

「……本気か? 確かにオレは部外者だが、縄張りを侵す気はない。魔法少女じゃないからグリーフシードも必要ない」

 

 そこで七海やちよは、暁美ほむらと百江なぎさに視線を投げた。

 

「そこの二人は下がりなさい。巻き込まれたくなければ」

「おい……」

「動かないで。動けばそれが合図となるわ」

「……そうか。分かった。だがオレが何をした?」

 

 七海やちよは魔力パターンを感知する。

 その結果、確かに悪魔の体から六つの魔力パターンが発信されている事実を突き止めた。

 

「……驚いたわ。本当に六つの魂を宿しているのね……」

 

 そして七海やちよは、ふと目にした悪魔の指輪を見て愕然とする。

 

「────ちょっとまって。なにそれ……あなた……その指輪は……!?」

 

 刹那、悪魔は直感した。

 眼前の魔法少女の殺意が、しっかりと凝固したことに。

 

「──っ! 待て、落ち着け! 誤解するな。これは……!」

 

 瞬間、七海やちよの姿が消えた。咄嗟に霧の構築でグローブを作成。防御行動を取った直後、首元を守るため開いた右手に孔が空けられた。銀の穂先が血に染まる。雷の炎が間に合わなかった。ふいに青い衣装がはためいて鋭い蹴りが小さなキュゥべえを狙う。すかさず悪魔は炎の逆噴射で小さなキュゥべえを吹き飛ばしつつ、みぞおちに命中した蹴りの威力を軽減、橋の外にダイブした。散らばる鮮血は尾を引いて放物線を描く。

 

「モキュ!?」

「ぐっ……!?」

「逃がすか!」

 

 魔属性の炎に焼かれたはずの小さなキュゥべえに火傷の跡はない。それは悪魔に傷付ける意図が無かったからだ。

 そして悪魔は川に落下し、それを追い掛ける七海やちよ。

 橋の上に残された百江なぎさは叫び、暁美ほむらは手すりに乗り上げる。

 

「クマ吉!?」

「悪魔さん!」

 

 宙に散らばる鮮血は霧の炎となって掻き消える。それを見た七海やちよは即断した。

 

「無属性の構築効果で人間に化けている……!?」

「ただの義手だ!」

「信じられないッ!」

 

 後ろ方向に回転して浅瀬に着地した悪魔は、頭上から一閃された槍の一撃を逆噴射により退き躱す。川に引かれる両足の跡。すかさず槍を引き抜いて持ち直し、突撃してきた七海やちよは、紫色の魔力を用いて四本の槍を生成する。

 それは増殖効果による物体の増加。一つの物体のサイズを大きくする増大タイプとは異なり、物体そのものを複数に増やす増数タイプの熟練技。悪魔は直感する。眼前の魔法少女は戦い慣れている。巴マミに匹敵する魔法戦闘の達人であると。

 

「教えなさい! そのソウルジェムはどこで手に入れた!!」

「知りたいなら戦闘をやめろ! 頭を冷やせ!」

 

 悪魔は直感する。七海やちよは焦燥している。

 激しい動揺は心眼の狭窄を孕み、どんな言葉も疑惑の念が押し潰す。

 

(戦闘は免れないのか……!)

 

 霧の炎で右手の風穴を修復しつつ、標準戦闘装備シリーズを“オン”の状態にして一斉開匣。

 

「────《SISTEMA C.A.I.ver.D》────」

「────ッ!!」

 

 グローブ、ヘッドフォン、コンタクトレンズ等が自動的に装着される。ホバーシールドを背後に携えて完全武装状態となった悪魔は臨戦態勢を維持。対する七海やちよは警戒態勢を取って、浮遊する四本の槍の穂先を悪魔に向ける。

 

『────…………』

 

 風が吹く中、悪魔は直感した。もはや対話は不可能。こうなっては倒して頭を冷やさせるしかない。

 刹那、七海やちよの突撃と共に、浮遊する四本の槍が一番槍を飾る。

 

(X格闘術(イクスアーツ)────《天を射る放炎(コロナフレイム)》ッ!!)

 

 大空の炎を蓄えた両手を突き出し前方に放射。カッ飛んでくる四槍は石化し中空で脆くも崩れ去る。その中を掻い潜る魔法少女の手には緑色に光る槍。硬化によって貫通力を増した硬槍の一撃が悪魔の心臓を貫く。が、手応えがない。

 

「残像!?」

「《天を落す蹴打(ジェットスクリュー)》!」

 

 七海やちよの後頭部に蹴りの一撃が入る。死炎噴射による急上昇から槍の穂先を指先でつまんだ悪魔はかかと落としを喰らわせた。衝撃は頸部に伝わり意識が断絶する──はずが、咄嗟に鎮静効果で神経を鈍化させていた七海やちよは身を翻して廻し蹴りを繰り出した。が、その蹴りはホバーシールドによって防がれる。自動的に主を守る盾が機能し、すかさず悪魔は反撃。

 

「《天を突く拳打(ジェットフィスト)》ッ!」

 

 威力は低いが初速に優れた最高速度の一撃が顔面に入る。殴り飛ばされた七海やちよは水切り石のように水面を数度跳ねたのち、川底の砂利に両足と石突きを穿って吹き飛ばされる体を緩やかに静止。口の中を切ったのか血を流し、悪魔を睨みながら手の甲で拭き取った。

 

「……終わりよ」

「?」

 

 悪魔の足元。水底に沈むは増殖し隠された十本の槍。それが一斉に突き上げて悪魔の体を串刺しの刑に処した。

 

「ガハッ!?」

 

 大量の吐血。四肢は当然、腹部と心臓も貫かれた。

 

「く────クマ吉ィ!!」

「そ、そんな……っ!?」

 

 が、七海やちよは眼球を震わせた。悪魔の体がボヤけていく。目をこする。ゴミが入ったわけではない。

 刹那、バシュンという破裂音と共に悪魔の体────否、悪魔の体に化けていた霧の炎が爆発霧散した。

 

「な……構築によるハリボテの体……! じゃあどこに!?」

 

 背後から気配。振り返ると無防備な悪魔が立っていた。

 

「どうした? やる気はないのか? オレはずっとここにいたぞ」

「っ……!!」

 

 眉間の血管が浮き上がり歯を噛み締めた七海やちよは駆け出す。

 怒りに任せた一撃は拙い。槍の刺突を捌いて柄を握り離さない。

 

「三重属性か。戦闘で複数の魔力を実用段階に持っていけるとは……お前、魔法少女歴は何年だ?」

「答える義理はないわ」

「だそうだ。キュゥべえ」

 

 腰の匣が震える。

 

「彼女は七海やちよ。魔法少女歴は七年だ。彼女の素晴らしい才能を見込んで十二歳の時に契約を交わした。ちなみに本来人間は加齢と共に感情の揺らぎが少なくなっていく。つまり魔力が弱くなるんだ。彼女もその例に漏れないが、そもそもの魔力係数が高いため腕が衰えにくい。七年という経験豊富な面が基盤となる土台を支え、戦闘面での弱体化を免れているとも言える」

「……! キュゥべえの声……まさか、その腰に付けた小箱から……?」

「さて、どうする。魔法少女の力なら、簡単にオレを振り払えるだろう。それをしないということは、まだ迷っているんじゃないか?」

 

 そんなことはないと言い聞かせるように、七海やちよの魔力が爆発する。片手の払いは川の水を吹き枯らし、突風は河川敷の土手に激突して芝を刈る。それは直撃すれば家屋さえ粉砕するだろう威力の表れ。咄嗟に槍から手を離して距離を取った悪魔は、魔法少女を相手に筋力勝負を挑むのは無謀だと再認識する。

 

「っ────次は本気で行くわ」

「そうか。大ベテランは慢心が得意なんだな」

 

 音速突破。衝撃波が川の一帯を吹き飛ばす。

 超速移動。槍術と体術を死炎闘法で捌いて躱し、両者の攻撃が激突するたび爆発が起きる。

 

「は……速すぎて見えないのです……!」

「…………!」

 

 暁美ほむらは眼鏡を外して眼球に魔力を流す。視力強化によって高速戦闘に追いすがり、なんとか二人の姿を捉えた。

 

「ハァアアアアアアアア────!!」

「天を穿つ轟炎(インパクトフレイム)》ッ!!」

 

 叩き込んだ凝縮の炎は、七海やちよの木属性の魔力放射によって形成されたバリアに防がれる。放出系のX格闘術は隙が大きい。その間隙を突いて七海やちよは槍を奮うが、それは悪魔の右腕に固定された硬い金属音と共に弾かれた。

 

「《収束・赤炎の矢(フレイムアロー)》ッ!」

 

 悪魔の片腕に固定された火炎放射器は鈍い銀色を放つ。共有魔法《ダイナマイト作成》により自動装填された火炎放射器は引き絞った顎から収束ボムを撃ち出す。それは低範囲だが高威力の直線的死炎放射。ただちに七海やちよは槍に力を込める。狙いが逸れた顎先。射出された収束ボムは彼女の片腕ではなく片脚を貫いた。肉片と血液は蒸発し、流血が滴って川を汚す。

 

「なるほど────こんな感じか」

「ッ……!」

 

 悪魔は一日に数回しか魔法を使えない。生命力を魔力に転換するため、魔法の乱用は死に直結する。だが昨夜のうちに百江なぎさから魔力を供給したので余裕はある。その分を使って試運転した結果、一発撃つごとに魔法を使って装填しなければならないコスパの悪さから使用率を控えようという答えが出た。

 

「隼人には悪いが、やはり時雨蒼燕流の方が使い勝手がいいな……対魔法戦闘用に編み上げられた剣術なだけはある」

 

 片脚を失った七海やちよは魔力の高速再生で肉体を治癒する。本来なら水属性の鎮静効果が邪魔して治りが遅くなるものだが、それを増殖効果でカバーすることで治癒力を増強。あっという間に片脚が生えてしまった。

 額に滲む汗。それは激痛をこらえている証。七海やちよは痛覚を遮断していなかった。それはなぜか。痛覚の遮断は戦闘センスの低下を招く。それを避けるため、彼女は戦闘行為による負傷への覚悟は疾うに決めている事が明らかとなった。

 しかしいきなり片脚が吹き飛べば激痛のあまり失神していてもおかしくはない。汗が滲む程度で苦悶の表情をこぼさないという事は、ダメージを受けた瞬間に痛覚を部分遮断し、治癒と同時に痛覚を取り戻すという、器用な芸当をこなしている可能性を悪魔は直感する。

 

「開匣────《雨刀・獄寺》────」

 

 それは雨の炎に適性がある日本刀。シトピ隼人が設計し、ジュリー凪が施術して作成した武器型匣兵器。銘には“G”の字が刻まれている。おそらく“ゴクデラ”と読むのだろう。しかし実際に鍛造したのはジュリー凪であるためか、柄の端っこに小さく“なぎ”と刻まれている。

 

「これが本気か。────オレも相応の覚悟を決めなければ、ならないようだな……」

「……なんですって?」

 

 悪魔は見抜いていた。敵が高速戦闘の最中、誰にもバレないよう、遥か上空に数百を超す槍を増殖させていたことに。

 

「槍の雨か。加えて槍には硬化性質を織り交ぜている。しかも────ゴフッ!」

 

 突如として吐血した悪魔。額に汗を滲ませながら、腹部を押さえてたたらを踏む。

 

「……これは《装甲無視》の魔法か……? 火炎放射器で槍を受け止めた時だな……防いだはずなのに、内臓に直接ダメージが流れた……」

 

 魔法戦闘において、魔力という名の回復手段を持っている魔法少女の被弾と、魔力なんて持っていない人間の被弾は、明らかに後者の方が不利である。つまり悪魔は魔法少女との戦闘において、一回もダメージを受けてはならないのだ。

 無論、悪魔の場合、晴の炎による活性を用いた治癒は可能である。しかし活性は無理やり細胞の促進を図るため、肉体の寿命を短くする。寿命問題を気にする悪魔からすれば、晴の炎による治癒は、あまり使いたくない回復方法である。

 

(────たとえ一回でも被弾は命取り。故に次の一撃で終わらせる)

 

「時雨蒼燕流 両式・十の型────《蛟竜雲雨(こうりゅううんう)》」

 

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