アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO! 作:形のない者
時雨蒼燕流 両式・十の型────《
それは時雨蒼燕流の十代目たる悪魔が開発した攻守万能奥義。
悪魔は川を斬り、水を巻き上げる。
刹那、剣気を浴びた水流は、鋭い牙と硬い鱗を持つ龍の姿に変わり、剣士の周囲にとぐろを巻く。
それを目にした七海やちよは息を呑む。
「この水龍は、
「────お望みとあらば、喰らいなさい。
上空に浮かぶ数百本の槍が一斉に降下を開始。容赦のない槍の雨が降り注ぐ。しかし悪魔は守りを捨てて駆け出した。そして頭上に迫る硬槍が激突する瞬間、悪魔の代わりに守勢を保っていた龍の鱗が徐々に削られながらも幾本もの硬槍を弾き飛ばす。
「!!」
(時雨蒼燕流 攻式・壱の型────《
悪魔は守りを任せて攻めに集中。水底の地面を強く踏んだ悪魔は勢いよく突進。突撃奥義はあらゆる守りを貫通する。硬化性質による魔力放射バリアを鎮静効果によって鎮めて突破。轟音を上げて鱗を砕き、無数の槍が川に突き立つ中、緑色のバリアがパリンと割れる。しかし七海やちよの後退が一歩速く、刀の鋒は肩口に届かない。
(時雨蒼燕流 攻式・参の型────《
奇襲奥義。間髪を容れず蹴り飛ばされた刀は後一歩の距離を縮めて肩口に突き刺さる。それを手で掴み引き抜いて放り捨てた七海やちよは武器を手放した悪魔に槍を奮う。
「隙だらけよ!」
「それはどうかな?」
(時雨蒼燕流 守式・六の型────《
剣士が守勢に転じた故、今度は水龍が攻勢に転じる。龍の牙は水中に沈む刀を呑み込み体内を通して悪魔の手元に送り届ける。柄を掴んだ悪魔は水を斬り、巻き上げた水で天蓋を作成。厚みのある水の層に雨・嵐・雷の炎を混ぜ、硬槍の勢いを鎮静化、先端を鈍らせ、半球状の天蓋に沿って金属音を上げながら槍の雨が滑走する。
「水の傘の防御……!」
「GUOOOOOOOOO────!!」
咆哮と共に噛み砕かんと迫る龍は七海やちよの体を攫う。上顎と下顎の牙は橋の支柱を噛み砕いたが、当の七海やちよは水龍の体内に囚われる形で無事だった。垂直に立てた槍がつっかえ棒となり噛み合わせを阻害したのだ。
「……」
水龍は鋭く硬い牙と鱗を持つが、体内は激しい水流が発生するのみでダメージは微量。しかし脱出が難しい蛇の体内に囚われた事に変わりはない。膨らませた頬で槍を奮うが硬い鱗に弾かれる。槍の雨は標的に自動追尾して術者に当たらないよう動くため当たる心配はないが、このままでは術者を避けるあまり標的への命中精度が落ちてしまう。
「それは失策だったな」
突如、悪魔は爆発的な雲の炎を放出する。咆哮を上げる水龍。やがて波打つ川の水底から、もう一頭の水龍が浮かび上がる。二頭の水龍は、かたや天に昇り、かたや地へ降り、互いに頭突きする形で激突し、爆発した。水圧と水圧に挟まれる暴力。水の圧迫力に打ちのめされて蹂躙された七海やちよは、流し込まれた鎮静効果によって身動きが取れず自由落下を始める。
「────!」
直感。刀で巻き上げた水に映る悪魔に向かって残る槍の雨が刺し貫く。だがその全てが不発に終わり、最後の一本が斬り飛ばされた。
(時雨蒼燕流 攻式・九の型────《うつし雨》)
水に映るは悪魔の影。本物の悪魔はその場に居なく、橋の下を走っていた。自由落下する七海やちよの体が、ただの水に変わって破裂する。あれは偽物。ならば本物はどこに。悪魔は見上げる。橋の天井に七海やちよの姿あり。無数の槍が天井からぶら下がっており一斉掃射。
(時雨蒼燕流 守式・四の型────《
それは敵の呼吸に合わせて攻撃を躱す回避奥義。超直感と組み合わせれば、理論上はあらゆる攻撃を回避できる。踊るように身を揺らす悪魔はそれだけで数十本も槍の雨を躱し、かすり傷一つなく生存。そこから一息も置かず、先ほど斬り飛ばした槍の先端を回収して後ろ手に隠し持っていた悪魔は投擲。目を見開いた七海やちよはそれを躱して壁を蹴り突進。刀と槍の鋒が交差しぶつかり合う。
(時雨蒼燕流 攻式・五の型────《
左から右へ流れる払い斬り。見え透いた斬撃を易く喰らうほど盲目ではない七海やちよは最小限の身の揺らしで躱す。だがそれは守勢崩しの欺剣奥義。斬撃の瞬間、右手に構えた刀を手放し、一拍置いて左手に掴んだ刀で斬り直す。
「っ!?」
変幻自在の斬撃により回避のタイミングを狂わされた七海やちよは腹部に一文字の切り傷を負う。だがそれは峰打ち。衣服が破れて肌が露出しただけ。殺意なき攻撃は七海やちよの気概をも狂わせる。
「お前、手を抜いてるだろ」
「……!」
「さっきのマギア……本当に本気なら数百なんて数じゃない。数千、数万の豪雨に及んだはずだ」
「……だからなに?」
「戦って確かめたいのか? ならこれを受けてみろ」
「──!?」
突然、悪魔は刀を捨てた。槍の穂先が胴体を袈裟斬りにする。鮮血が舞う中、悪魔は歯を食いしばれと言った。
「────《
超圧縮して螺旋回転させた死ぬ気の炎を腕に纏い、高火力の一撃が繰り出される。爆発と爆風。辺り一帯の川の水が干上がり、大規模な波が発生し、橋の高さを越すほどの水柱が昇り立つ。
────もし、その一撃を頭部に受けたのなら、彼女に命はない。
だが、七海やちよは立っていた。眼前で寸止めされた炎の拳。その先に立つ悪魔の顔を見据えて────
†
環いろははビルの屋上から屋上へと飛び移ってとにかく走っていた。
小さなキュゥべえが見つかった。その報告を受けたとき心臓が高鳴った。小さなキュゥべえとは何か。それは行方知れずの妹である環ういの手掛かりにほかならない。なぜそう思うのか確証はない。だが忘れていた記憶が必要な事だと告げている。きっと環ういと小さなキュゥべえは切っても切り離せない関係だ。そのはずだ。だから急ぐ。早く会いたい。急ぐ理由と会いたい理由。それを考えた時、いつも妹の顔が思い浮かぶ。これを人は愛と呼ぶのだろうか。一度しか見たことがない小さなキュゥべえに対して、愛情を感じる? それは常識的に考えればおかしいことだと分かる。でも事実そうなのだから仕方ない。
「ハァ、ハァ、ハァ────。……っ!?」
その時、進行方向から巨大な魔力反応を感じた。魔女反応ではない。必殺魔法に匹敵する大規模な魔力量が発散されている。
「い、いったい、何が……!」
次の瞬間、突然の爆発音と共に二股の水柱が立ち上がり、山々を背景に大きな火炎が上空に翻って燃え散った。
「…………い、急ごう……!」
何か嫌な予感がする。環いろはは息せき切って駆け出した。
†