アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO! 作:形のない者
立て続けに重なる轟音。火炎と水流が逆巻き激震。あらゆる
「
数万に及ぶ硬雷槍が豪雨のように降りしきる。それを魔王こと悪魔は殴り砕き、蹴り壊し、調和による石化で粉砕、噴射で躱し、されど全身が十数の穂先に刺し貫かれる。だが悪魔は動きを止めない。活性で肉体を瞬間再生。硬化で肉体を防御。鎮静の放射で槍の雨を止めると、分解の放射で消し飛ばす。さらに増殖の効果なのか背中に黒い翼が生えて飛翔を開始。穢れを含む霧の炎による構築で分身を大量に生成。怒涛の猛撃で暴風のごとし槍の雨を気にせず敵性存在に攻撃する。
「クマ吉!」
呼び声虚しく響く百江なぎさの声は悲鳴と共に蹴り捨てられる。時間停止。暁美ほむらの視力強化でも捉えきれない速度は、仲間が被弾する前に助けること叶わない。
「悪魔さん……!」
大量に分身した悪魔のどれが本体なのか見当が付かない。ともかく一体に狙いを定めて引き金を引く。火薬の炸裂音。連射した弾丸は中空に停止。さらに悪魔が密集する空中に爆弾を投擲。これで死なないよう願い、これで終わるよう願いながら、時は動き出す。命中する弾丸。爆発する爆弾。
「
戦闘域から離脱した遠距離から自動追尾の光矢が射出。最初は極太の光線だったそれは対象の移動に合わせて分裂し着弾。されど悪魔にダメージの気配なし。圧倒的な活性力で、どれだけの血と肉を撒き散らしても弱る気配が一向に見えない。
「もう化け物だわ……」
既に殺すつもりで戦っている七海やちよは冷や汗を流す。このままでは全滅だ。想定外の強さに舌打ち。まだ一人なら相討ちに持ち込めたのにと、どうしても過ぎたことを悔やんでしまう。
────ふと、悪魔の腰でガタガタと震える匣。ベルトから外れたそうに暴れる匣は勢いよく中で突進したのか、パチンと外れて落下する。着水。水没。匣の中は結界で守られているため浸水はしない。だがこのまま誰にも見つけてもらえないと非常に困る。
「モキュ!」
環いろはのそばで戦闘を見守っていた小さなキュゥべえがそれに気付いた。小さなキュゥべえは走り出し、危険を承知で戦闘空間に侵入する。
「えっ!? ダメ、キュゥべえ!」
「キュ……モッキュ!!」
河川敷を走って近くまで来た小さなキュゥべえは水の中に飛び込み、水没した匣を咥えて回収。水面を穿って水底に突き刺さる槍の中を掻い潜り、なんとか土手まで生還する。
「キュゥべえ! どうして、危ないでしょ!?」
「モキュ! モキュモキュ!」
「え……? この箱を……開けて……?」
「モッキュ!」
環いろはには、小さなキュゥべえの言葉がなんとなく分かるのか。だが開けろと言われても開け方が分からない。くぼみに指を引っ掛けて開けようとしてもびくりともしない。
「モキュ!」
「え? ソウルジェムがどうかしたの……?」
「モッキュッキュ!」
「……え? 魔力を流すの……?」
環いろははピンク色のソウルジェムに魔力を回し、匣に流し込む。すると匣のくぼみから橙色の光が漏れて扉が開かれた。
「ガオ!」
「わっ! ちっちゃなライオンが出てきた……!」
「モキュ?」
「ガフガフ……ガオ!」
「モッキュ!」
子ライオンもとい天空ライオンは礼を言っているのか、続けて“自分に任せろ”と言いたげに上空の悪魔を見上げて構える。
「────GYAOOOOOOOOOOOOO────!!!!!」
突然の咆哮。それには調和の魔力が織り込まれていた。数百の分身体は咆哮の衝撃波を受けて石化し爆発。霧の炎が霧散する。残る数十体の分身体は槍の雨がトドメを刺し、消滅。一体の悪魔が残り、必然それが本体だと判明する。
「わっ……すごい! ありがとう!」
「ガオ!」
────刹那、殺気を感じる。上空から睨み付けるは悪魔の黒い眼。
「ギャ……ギャオ……」
天空ライオンは怯え、環いろはの背後に隠れる。
「まずい、逃げないと……!」
天空ライオンと小さなキュゥべえを抱っこした環いろはは遁走を開始。が、突風と共に前方に現れた悪魔の拳が迫る。
「チーズ! なんとかするのです!」
「キュー!」
ずっと百江なぎさの頭の上で待機していたチーズは魔力を受け取り回転して突撃する。悪魔の拳と激突。雲ハリネズミのトゲが悪魔の拳を抉り取り、腕までもを穿ち抜く。片腕を失った悪魔。畳み掛けるように七海やちよの刺突が心臓を貫通する。
「これで逃がさない!」
鎮静効果を込めた強烈な一撃。悪魔の体は完全停止に追い込まれる。だが悪魔はこの状況を事前に直感していたのか。あらかじめ増殖効果で心臓を複製していた悪魔は、同時に熟練性質の遮断を用いて鎮静効果を防いでいた。だが二つ目の心臓以外は身動きが取れないはず。何もできないはず。────その認識は甘かった。
突如として悪魔の心臓が爆発する。頭部胴体四肢の肉片が飛び散り、即座に穢れ混じる活性の炎で肉体を高速再生。鎮静効果を受けている肉片は辺りに飛び散っても血が広がらない。新たな肉体で復活した悪魔は縦横無尽に飛び回って周囲に居る全ての存在を殴り飛ばし蹴り飛ばす。
「モベホーン! 遮断の泡で悪魔を捕まえるのです!」
百江なぎさは遮断効果を込めた人間大のシャボン玉を大量に吹き出す。が、密集するシャボン玉の合間を縫って百江なぎさに一撃。首を掴んで地面に叩き落とし、トドメに心臓を抉ろうと手刀を繰り出そうとした刹那────
「百江さん!」
時が止まる。暁美ほむらは百江なぎさに触れて脱出。その際、ひとつの疑問が生じた。
(今……百江さんを殺そうとした時、一瞬だけ悪魔さんの動きが止まったような……)
時は動き出す。悪魔の手刀は土手を砕いて亀裂を走らせる。刳り貫かれた地面。ゆらりと立ち上がった悪魔は獲物を探すように辺りを見渡す。その瞳は汚濁のように黒ずんでいた。
倒れている環いろはと小さなキュゥべえ。怯えながらも吼える天空ライオン。起き上がる七海やちよ。鳴き出すチーズ。負傷した百江なぎさを背負う暁美ほむらは瞳が恐怖で揺れている。
「────やちよさーん!」
その時、橋の方から
固有魔法《激励》────使い手は十咎ももこ。金色のポニーテールと薄桃色の瞳を持つ大剣を構えた魔法少女。その場にいる全ての味方の勇気を奮い立たせて魔力の性能を向上させる。
「まったくなんだってのよ! ヤバイ魔力を感じて来てみたら、やっぱりロクでもないことになってるじゃない! 小さなキュゥべえが見つかったって話じゃなかったわけ!?」
文句を言いつつ環いろはを庇うように現れたのは水波レナ。水色のツーサイドアップと海色の瞳を持つトライデントを構えた魔法少女。
「あれ……? もしかして、あれって悪魔さん……? なんか……うちはサ〇ケのキモイ姿の一歩手前みたいになってますね!」
悪意なき無自覚煽りを繰り出したるは秋野かえで。赤髪茶眼の木の杖を持つ魔法少女である。
「ももこ、レナ、かえで! あなたたち、ここは危険よ!」
「だからって、はいそうですかと逃げられるか! やちよさん、これはどういう────」
十咎ももこは不信感を抱いていた。彼女にとって悪魔は二人の後輩を助けてくれた恩人である。それが七海やちよと戦っている。だが一概に七海やちよが一方的に喧嘩をふっかけてきたような状況には見えない。悪魔の全身から放出される瘴気。それは魔女が放つ穢れと同じものだとすぐに分かる。だから七海やちよにも激励魔法を掛けた。また、あまりにも大きい魔力反応を感知したため、ここが危険であることも重々承知している。それでも水波レナと秋野かえでを連れて来たのは、彼女たちも一端の魔法少女であり、戦力になると信じたからにほかならない。
刹那、悪魔の炎拳が大剣の峰で受け止められる。かかとは土を穿ち、十数メートルも押し込まれた。
「ぐっ……マジか……アンタ、あの悪魔だよね……?」
「ももこに何すんの!」
レナの攻撃。それを躱した悪魔は背後に回り込み裏拳で後頭部を狙う。瞬間、槍が投擲された。ボンッと逆噴射の音を爆発させて音速旋回した悪魔は七海やちよに的を絞る。
「レナとかえでは攻撃しないで! コイツは攻撃してきた奴をターゲットにする傾向にあるわッ!」
「だってさ。二人ともサポートよろしく!」
十咎ももこが飛び出す。槍と拳の交差に大剣が乱入。高速の剣戟を捌くは悪魔の拳と翼。黒い翼は雷の炎によって硬質化し、電磁的誘導力によって金属の穂先と鋒の軌道が意のままに逸らされる。
「なっ────!」
「こいつ、戦いの中で学習している……!」
最初は本能のままに振る舞う野性的な戦闘が、徐々に徐々に熟練した戦闘を思い出すようにヒートアップしていく。それは良い兆候なのか、はたして悪い兆候なのか。どちらもだとキュゥべえは推測する。
「叛逆と逆転勝利の魔法が勝ってきた。半魔人化が鎮まりつつある。────!」
そこでキュゥべえは不可思議な現象を知覚した。悪魔の体から発される瘴気が上空に昇る。それはまるで何かに吸い寄せられるように、神浜市の中央区方面に飛び去った。
「……あれは、どういうことだ……?」
悪魔の瘴気が吸われている。それが半魔人化の鎮静を助けていた。
「────…………グ……ガ……ァ……ッ……!!!」
「────っ! 悪魔さん……!?」
環いろはの呼び声。爆撃と爆風。七海やちよと十咎ももこは爆煙から逃れ、たたらを踏む。頭を抱えて苦しみ出す悪魔は、生え伸びた牙の間からよだれを垂らし、必死に魔人化に抵抗していた。
「ガ…………! ナ、ナッ……ツ……!」
『……?』
ナッツ。確かにそう言った悪魔は振り返り、天空ライオンの方を向く。
「グ────ウ、ウて……もう、イチド……!」
「────! ガウ!」
天空ライオンは全てを了解したと言いたげに構え、魔属性の魔力を口内に収束させる。
「……っ! 全員、悪魔から離れなさい!」
七海やちよの警告。咄嗟に十咎ももこは射線から飛び出し、環いろはは水波レナに腕を引っ張られて後退する。
「────GYAOOOOOOOOOOO────ッッッ!!!」
次の瞬間、天空ライオンの咆哮が悪魔の全身を浚った。圧倒的な爆風が辺り一帯を巻き込む。あまりの魔力放射の強さにチーズは吹き飛ばされそうになり、小さなキュゥべえは環いろはの衣服を掴んで激しくたなびく。
『────ッ!!?』
そして爆発。多量の瘴気が膨張したかと思えば、爆煙の中で収束し────巨大な魔力反応は一瞬にして消滅、沈黙した。舞う砂塵。風が吹く。土埃が晴れた場所には悪魔が立ち尽くしていた。全身に呪印は刻まれたままだが、今まで感じていた害意は無くなっている。
「あ……悪魔さん……?」
「待ちなさい、環さん」
近寄ろうとした環いろはを七海やちよが制する。まだ油断ならない。
「く、クマ吉……」
「…………」
次の瞬間、悪魔の額に橙色の炎が灯る。
『────ッ!?』
全員身構えるが、悪魔に攻撃の前兆は見られない。
「────…………迷惑を掛けた」
『……!』
「────
悪魔は呪印を刻まれた状態で普通に喋り始める。両目の間には十字の黒印。全身には勾玉のような黒印が鎖のように繋がって体中を巡っている。背中には黒い翼が生えており、本物の器官のように羽ばたいている。それでも悪魔は正気に戻った。だが雰囲気は違う。精神暴走は鳴りを潜めているが、攻撃本能は微量ながら刺激されているのか、どことなく好戦的な顔付きでにやけている。
「────驚いた。穢れの汚染による心身の侵食を敢えて、大空の調和で馴染ませたのか……」
キュゥべえは思いも寄らない解決策に驚嘆する。
つまり悪魔は、半魔人化による呪印状態をコントロール下に置こうとし、瀬戸際でそれを成功させていた。それもこれも逆転勝利の賜物か。
穢れは肉体と精神、果ては魂まで蝕む。蝕むということは裏を返せば、蝕まれないよう心身と魂が抵抗しているという事だ。であれば抵抗しなければいい。だが抵抗しなければ攻撃本能に囚われて暴走する。よって不抵抗のやり方を変えた。
────受け入れたのだ。否定するのではなく、穢れとの調和を選んだ。今の悪魔は存在そのものと穢れの瘴気が調和している。だがそれは薄氷を履むが如しバランスだ。調和の均衡が崩れれば、いつ暴走するか分からない。
「……キュゥべえ。今度こそ上手く行くと思ったか?」
「……そうだね。とっておきの作戦だったのだけれど」
悪魔は開匣。以前、凪から貰った髑髏印の眼帯を左目に取り付ける。それは凪が、左目の黒々とした変色を隠すために作ってくれた眼帯だ。もしも霧の構築で顔面の化粧が出来なくなった時のために用意してくれた品物だ。
「それをまさか、こんな使い方で付ける羽目になるとはな……」
髑髏印の眼帯に雲の炎の遮断効果を織り交ぜる。それは穢れの自動吸収を防ぐための応急処置だ。
悪魔は魔人化の際、穢れを吸収する意図がないのに、周囲のソウルジェムから勝手に穢れの吸収を始めてしまった。それは穢れによって汚染された心身が言うことを聞かず、無闇矢鱈に暴れまわったせいだ。自分の体のコントロールが利かなくなるというのは、かなりの
眼帯を取り付けると悪魔の呪印が薄くなり、やがて消滅する。黒い翼も背中の中に隠れて、元の人間らしい姿に戻った。
悪魔は眼帯を取り外す。何事も起こらない。一旦呪印状態が解除されれば安定化し、眼帯は不要になるようだ。
「つまり、今度は意図的に呪印状態になる場合、暴走のリスクを考慮すると、眼帯の着用は必須になる……というわけか」
悪魔は直感する。呪印は危険な能力だ。しかし圧倒的な力が簡単に手に入る。暴走のリスクは承知だが、それさえコントロールできれば使い物になると確信する。といってもそれは最終手段だ。まさに命懸けの死闘になった時くらいしか使うメリットがない。あまり乱用すれば本当に魔人化してしまうだろう。
「…………ふぅ。まずいな……また、たおれ────」
「悪魔さん!」
半魔人化の影響で魂が摩耗し、心身が疲弊しきっていたのか。満身創痍の悪魔は直立不動のまま後ろに倒れ、思いっきり後頭部を地面に打ち付けて気を失った。多くの呼び声がこだまする。冷え切った体。悪魔は深淵より深い眠りに就いた────
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