※この作品はR-18です。

アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO!   作:形のない者

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【────“リリス”とかでいいんじゃないか?】悪魔

 

 木漏れ日の窓際。香り立つ毛布の匂い。オレンジ色に満たされた空間。年月を経た古い木材が夕陽に焼かれてほのかに薫る。

 

「────────……、…………?」

 

 悪魔は寝台の上で目覚める。天井の大きなシミを一個数えて数秒。

 

「……キュゥべえ。今は何時で、何時間寝ていた」

「時計はないのかい? 十時間ほど眠っていたよ」

 

 壁掛け時計を見つける。時刻は十六時。夕暮れ時だ。

 

「半日も寝ていたのか……ここはどこだ?」

「七海やちよの家らしい。二木市みたいに起きたら拷問部屋……とかじゃなくて良かったね」

「そうだな。あれは本当に驚いた」

 

 悪魔は寝台から降りて床を引き締める。キィイ……と軋む床。相当な年代物だ。しかし嫌な古さは感じない。長年大切にされ続けてきた憩いの一室のように感じられる。

 

 部屋を出る。階下への階段を発見。ほか定間隔に数部屋の扉がある。間取りからして普通の一軒家ではない。

 

(下宿屋か……?)

 

 階段を下りる。一階に到着。廊下を抜けると広い居間に出た。

 

「あら、起きたのね」

「……やちよ。どうして……」

 

 台所でコーヒーを淹れていた七海やちよは、互いのスタンスを明確にする。

 

「あなたは危険人物。まだ信用もされていない。もしこれで本当に魔人みたいな化け物だったら始末していた。けれど一応ただの人間でもあると言うのなら殺すのは寝覚めが悪い。それでも危険である事に変わりはない。ということで始末しようとしても周りが邪魔をする。────なら折衷案として、西側の代表者がお目付け役になる。そんな感じで私が預かることになったのよ」

「勝手に話が進んだな。オレが単独行動を希望したり、神浜市を出て行くと言ったら?」

「それはそれで構わないわ。少し散歩に行く程度ならまだしも、ほかの街を守る余裕なんてないもの」

「……嘘はあまり良くないぞ。殺すなら殺すとハッキリ言った方がいい。少なくともオレに対しては……。意思に反して嘘を見抜けるんだ。ほぼ百パーセントの確率で」

「あらそう。それじゃあ遠慮なく。……もしあなたが人類の敵になると言うのなら今度こそ排除するわ」

「あぁ。そうはならないから安心してくれ」

 

 悪魔は七海やちよに対して初めて笑顔を見せた。

 調子が崩された七海やちよは溜め息をついてコーヒーを嗜む。

 

「……ほかの奴らは?」

「百江さん……いえ、なぎさならお手洗いよ。暁美さんは一旦見滝原市に帰って、また戻って来るみたい。環さんは学校があるから、それが終わったら様子を見に来ると言っていたわ」

「そうか。伝言どうも」

 

 悪魔は台所のカウンター前の席に座る。

 

「コーヒーにする? それとも紅茶?」

「────、……水でいい」

「あら、ジュースが良かった? ブドウならあるけど……」

「いや、じゃあエスプレッソコーヒーで。喉が渇いたから綺麗な水も欲しい」

「オーケー」

 

 作業の音が聞こえる。和やかな空気が漂う居間は、ただそこに居るだけで居心地がいい。

 廊下の扉が開く。軽重異なる二つの足音。百江なぎさと小さなキュゥべえ。

 

「……あ! クマ吉が起きたのです!」

「モキュー!」

「なぎさ。心配かけたな」  

「まったくなのです! ほむらが助けてくれなかったら、今頃なぎさは魔人化したクマ吉に首ちょんパされていたのですよ!」

「…………悪い……」

 

 悪魔は半魔人化していた間のことはよく覚えていない。だが下手したら自らの手で仲間を殺していた可能性は理解している。

 

「……そんなに落ち込んでも仕方ないのです! それよりやちよのクッキーを食べるのですよ!」

「モッキュー!」

「まだ用意できていないわ。みんなが揃ったら食べましょう」

 

 噂をすれば影がさす。呼び鈴が鳴ってドアが開く。

 

「あの……お邪魔します……」

「モキュ!」

 

 小さなキュゥべえは来客たる環いろはの胸に飛びつく。

 

「わ、キュゥべえ……!」

「いろは。その……今朝はすまなかった」

「悪魔さん……! 無事で良かったです。あと魔人化については気にしないでください。みんなが魔女になるのを防ごうとしてくれていたんですよね?」

「……! ……それを知って、大丈夫なのか?」

「……はい。ちょっと驚きましたけど……あのあと、やちよさんから色々と教えてもらいましたから、もう大丈夫ですっ!」

 

 環いろはの言葉に嘘はない。

 

「そうか。それはなによりだ」

「はい!」

 

 そこで悪魔は七海やちよに質問する。

 

「やちよ。オレの扱いに関しては分かったが、小さなキュゥべえはどうなんだ?」

「あなたと同じよ。要監視。小さなキュゥべえは環さんとあなたから離れようとしないから、ちょうどいいと思ってね」

「オレから……?」

「モキュ?」

「そうなんです、悪魔さん。小さなキュゥべえは基本的に私と一緒に居てくれるんですけど、なんでか神浜市から出たくないみたいで……」

「そうなのか。……お前、神浜市に用でもあるのか?」

「モキュー?」

 

 悪魔は直感する。小さなキュゥべえに目的意識はない。ただ強い衝動を抱えている。何かをしなければ。環いろはと一緒に居なければ。自分を完璧に守ってくれて、それら全てを叶えてくれる頼もしい人の所に居なければ。

 そこに悪意はない。善意もない。ただ純粋な本能がそう言っている。

 

「……感覚としては、記憶喪失に近いな」

「えっ? 小さなキュゥべえが……? そんなことも分かるんですか?」

「あぁ。超直感というスキルで、心があればなんでも読めてしまうんだ」

 

「やちよー! なぎさはお腹がペコペコなのです! 早くチーズクッキーを寄越すのです!」

「少しは待つことを覚えなさい、なぎさ。あとあなた初対面なのに本当に図々しいわね……」

 

 再び呼び鈴が鳴る。開かれた扉から顔をちょこんと出して中の様子を窺うは暁美ほむら。

 

「あ、えと、こんにちは……!」

「ほむら。今朝は迷惑を掛けたな」

「いえ……それより、お体の具合は?」

「平気だ」

「ほむら! いろはも揃ったのです! やちよー!」

「だからまだ待ちなさい! これからももこたちも来たいと言っているのよ!」

 

 悪魔は呆とする。

 

「……なんだ。やちよは何を準備しているんだ?」

「……なぎさに聞きなさい」

「チーズクッキーパーティーなのです! 悪魔の快気祝いなのですよ!」

「オレの? なんでだ?」

「なぎさはやちよに謝罪を要求したのですよ! うわさなんて言うつまらない情報に踊らされてマイダーリンを傷付けた極悪魔法少女に損害チーズを申し出たのです!」

「…………やちよ、無視しても良かったんだぞ?」

「そうね。でもこれは私なりのケジメだから。なぎさの言うことも一理あるし……」

「なぎさは常に正しいのです!」

「いやいや、昨夜とかは明らかに間違えただろ。人として」

 

 悪魔は昨夜の情事を思い出して、自ら突っ込んだくせに赤面する。

 

「……それで、いろはは小さなキュゥべえに会いに来たってことで分かるが……ほむら、お前は?」

「私は……もうしばらく神浜市に居ようと思っていまして……というのも、その……」

「マミ関連……だよな?」

「はい。それは当然の前提で……あの、えっと……」

 

 暁美ほむらは何かを言いたげにモジモジとする。何か迷いがあるようだが、明確な言葉が浮かんでこない限り直感しても何も分からない。分かるのは悪魔に何か言いたいことがあるという事だけだ。

 

 その時、三回分の呼び鈴が鳴り響く。

 

「おじゃましまーす! やちよさん、遊びに来ましたよー!」

「お……お邪魔します……」

「おじゃまします……!」

 

 十咎ももこ・水波レナ・秋野かえでが入ってくる。

 

「やちよー!」

「あーもう! そんなに急ぎたいなら、お盆を持って自分で運びなさい!」

「了解なのです!」

「────あ、つまみ食いしちゃダメだからね」

「なんでバレたのです!? やちよも超直感を持っているのですか!?」

 

 それに悪魔が答えた。

 

「ソウルジェムのまたたき具合を見て心を読んだんだろう。ベテラン魔法少女なら使えて当然の技だ」

「なるほどなのです! 七年の経歴は伊達ではないのですね!」

「さぁ、みんな食卓に集まって」

 

 全員は大きな食卓に移動する。そこで腰の匣が二つガタガタと震えた。悪魔は開匣する。

 

「ガオ……」

「キュー!」

「ナッツ。チーズ。クッキーを食べたいのか? ならオレの分を食え」

 

 二匹を抱えた悪魔は席に落ち着く。そこで水波レナが疑問を呈した。

 

「動物にクッキーとか大丈夫なの?」

「魔法生物なら問題はないだろう」

「魔法生物? ……って、え!? その二匹から魔力パターンを感じるんだけど!?」

「わーほんとだー!」

 

 水波レナと秋野かえでは興味を示す。それはキュゥべえと契約した動物というだけではなく、単なる可愛さ目当てだ。

 

「さ……さわりたい……どっちもモフモフしてそう……」

「だってさ」

「キュ~!」

「ガウ……」

 

 明るいチーズは自ら撫でられに行く。だが天空ライオンことナッツは臆病なのか悪魔の背後に隠れてしまった。

 

「そういえばクマ吉は、その、子ライオンの名前をナッツに決めたのですか?」

「あぁ」

「いつなのです? 橋の上では考え中と言っていたのです。そんな余裕は無かったように思うのです」

 

 悪魔は思い出す。

 

「それが……魔人化しかかっていた時、なぜかナッツの声が聴こえたんだ……」

「……ガオ?」

「そのおかげでギリギリ……誰も殺さず踏みとどまることができた。それで分かったんだ。お前……何を願ったのか、どんな固有魔法を持っているのか知らないが……たぶん主(・)と(・)認(・)め(・)た(・)奴(・)の(・)感(・)情(・)と(・)同(・)化(・)す(・)る(・)能力を持っているんじゃないか?」

「……」

「だからあの時、オレはお前で、お前はオレになっていたんだ。普段はこんなにビビリのくせに、ここぞって時は勇気を出して助けてくれた。本当にありがとな……ナッツ。お前はオレに似ているよ。だからナッツって名前にしようと思ったんだ。気に入ってくれたか?」

「…………ガウ!」

 

 ナッツは応えるように悪魔の肩に飛び乗る。それからクッキーが気になって、ほかの魔法少女の存在も気になり始めたようだ。

 

「キュー!」

「ガ、ガオ……」

 

 チーズの先導に助けられて、ナッツは魔法少女たちと触れ合いに行く。

 

「っ……! やだ……なにこれ、かわいすぎる……」

「ね~! ライオン撫でたの初めてだよ~」

「……アタシも、ちょっといいかな……?」

 

 チームももこと触れ合うナッツとチーズは、クッキーを分けてもらいむしゃむしゃと食べる。

 

「ん……! これ美味しいです、やちよさん!」

「モキュキュ~!」

「そう。環さんのお口に合って良かったわ」

「……! 美味しいです……!」

「あっ! なんで全部チーズクッキーじゃないのですか!」

「なんでって……チーズ味だけじゃ寂しいじゃない」

「そんなことないのです! こうなったらなぎさに全てのチーズ味を寄越すのです!」

 

 和気藹々とする食卓。

 その様子を眺める悪魔は、ふと七海やちよと目が合った。

 

「……どうした?」

「いえ……悪魔はなんの目的で神浜市にやって来たのか聞こうと思って。でもそんな空気じゃなかったから」

「そうか。でもそれ答えろと言っているも同然だろ?」

 

 大勢の前で言えないことなら、七海やちよの中で警戒度が跳ね上がる。別に後で七海やちよにだけ伝えれば良いとも思ったが、悪魔は謝罪も兼ねて簡潔に話すことにした。

 

「特に隠すようなことじゃない。オレは復讐の為に旅をしている。復讐相手はインキュベーターだ。それとは別に……三人の女の子を生き返らせたくて旅をしている。復讐はそのついでみたいなものだ。いや……復讐することで三人が生き返る計算だから……そうだな。どれも同じ一つの目的になる」

「……その三人って?」

「────愛した妹と、好きな人と、大切な友人だ────」

 

 ……──場が静まり返る。

 

「そう。至って凡庸な願いね。で、具体的な復讐計画は?」

「……それを口にしたらインキュベーターに対策される。すまない。だが少なくとも誰かに迷惑を掛けるようなものじゃないはずだ」

「いえ……今は構わないわ。それだけ分かれば」

 

 七海やちよは目を伏せてクッキーを頬張る。

 そこで水波レナと秋野かえでが首をかしげた。

 

『インキュベーターって?』

「孵卵器。……魔女より悪質な怪物の名前さ」

 

 その悪魔の返しに、暁美ほむら・百江なぎさ・環いろは・七海やちよ・十咎ももこがが反応する。

 

「ふーん……悪魔も大変なのね」

「壮大な旅だね。ドラマみたい」

 

 やや気まずくなった食卓。のはずだが、百江なぎさにはテンションの調整なんて関係ない。

 

「やちよ。ひとつ文句があるのです」

「なにかしら」

「なんでチーズクッキーの中にブラックペッパーを入れたのですか!? それが数枚だけなら分かるのです! でも全部は邪道なのです! 純粋なチーズクッキーを作らず振舞うとは、謝罪のつもりはあるのですか!?」

「人が作ったものに文句を言わないの! それにこれはあなたに対する謝罪でもないでしょ!」

「気に食わないのです! 今すぐ作り直しを要求するのです! コショウ臭くてかなわんなのですぅー!」

 

 百江なぎさと七海やちよの口論。そのおかげで食卓に笑いの花が返り咲く。

 

「まったくもう……あ、空になった皿は取り下げるわ」

「あ、ありがとう。やちよさん」十咎ももこが言う。

 

 七海やちよは空になった皿を手に持つ。そこで目を見張った。

 

 装飾がないはずの真っ白な皿に『telepathy(テレパシー)』と紫色の文字で記されている。ふと悪魔を見やると、彼は人差し指で自分の頭をコツコツと叩いた。目に魔力を通せば、霧のようなものが悪魔の頭部に掛かっており、本当はヘッドフォンを身に付けているのに、それを隠していることが分かる。食卓には見合わないから隠しているのだろう。七海やちよは台所に戻りながら悪魔の脳内に念話を接続する。

 

 しかし悪魔のヘッドフォンによる念話は拡声器のようなもの。そのため悪魔は周囲の魔法少女たちが談笑に夢中で念話に気付かないうちに内緒話を進める。

 

(なに?)

(おっ。本当に繋がった。このヘッドフォン便利だな。まさか魔法少女と念話できるようになるとは……)

(……まさか、それを試すためだけに?)

(いや、もう少し話したいことがあってな。だがそれで、また食卓の空気が沈んでしまうのが嫌だったから……)

(……そうね。それで?)

(“魔女ガタリ”という存在を知っているか? 魔女とウワサが融合した存在らしい。一度遭遇して襲われた。なんとか倒したが、あれは魔女より危険だぞ)

(……詳しく聞かせて)

(魔女ガタリは、自分の生前または自分と同じ境遇の魔法少女の生前を語るらしい。そして生前を語るということは、魔女化のことも語るということだ)

(……なるほどね。いきなり魔女化の存在を知った魔法少女が、普段通りに戦えるのかどうか……戦闘中に魔女化のモノガタリを知ってしまうのは勘弁願いたいわね……)

 

 七海やちよは皿を水に浸して戻ってくる。

 

(あと……道中でおかしな魔法少女に襲われた。二回もだ)

(……おかしな?)

(人殺しを厭わない。虐殺に愉悦を感じる。そして“スタンド”という不可視の精神生命体を操る魔法少女だ)

(スタンド? それは魔法か何かじゃないの?)

(オレの直感では、おそらく魔法ではない。魔法を使って創り出された存在か、魔法を使って異世界から召喚した存在か……そのいずれか、あるいは両方であると見ている)

(…………)

(そこで確認したい。ウワサ、魔女ガタリ、スタンド……この手合いは最近になって神浜市だけに現れた存在……そう思っていいんだな?)

(────えぇ。そうね。今までそんなの居なかったから……正確には数ヶ月前から、この街は異変が頻発するようになったわ)

(数ヶ月前……)

 

 悪魔は熟考する。

 

(……あくまでオレの推測だが、こういう異常事態は複数の魔法少女が手を組んで、魔法と魔法を掛け合わせることで、何らかの概念を新たに創り出そうとしている可能性が高い。いわゆる組織犯罪ってやつだ。魔法少女は縄張りがあって徒党を組むことは少ないが、この神浜市は比較的ナチュラルに魔法少女が共闘している。下地はばっちりってわけだ)

(そうね。キュゥべえは魔女化を促進させるため新米魔法少女に縄張りの件を必ず伝えて単独行動を取らせるけど、私は場合によっては共闘する柔軟さを身に付ける必要があると昔から口を酸っぱくして言っていたから、いつの間にか共闘が当たり前になっていったのかもね)

(おっと。やちよの功績だったか)

(褒められるようなことじゃないわ。どのみち縄張り争いは意識しておかないとグリーフシードは不足する。常に仲良しこよしとは行かないのが魔法少女の実情よ)

(……そうだな)

 

 魔法少女の生存競争。その過酷さを知識でしか知らない悪魔は、安易な物言いをしない。

 

(……話は変わるが。オレを監視するということは、ここに住むってことでいいのか?)

(正味な話、寝首を掻かれる危惧もしてあるけど……好きにすれば?)

(意外だな。得体の知れない存在を住まわせるとは)

(得体の知れた存在が居なくなるよりはマシよ)

 

 悪魔は直感する。七海やちよは長い経験を持つ。その中でいったい何人の仲間を失ったのだろうかと。

 

(……なら、オレも居ない方がいいかもな)

(バカ言わないで)

(それは心配か? それとも一生信用しない宣言か?)

(後者よ。あまり自惚れないことね)

 

 悪魔は直感する。七海やちよも、なかなかのお人好しであると。

 

(……というか、そうなるとなぎさも自動的に……)

(それは嫌よ。なんとか説得しなさい)

(だがなぎさは家なし子なんだ。よろしく頼むよ)

(…………ハァ。分かったわ……でも、そうなると対価が欲しくなるわね……ただで住まわせるのはゴメンよ)

(魔法少女としての戦闘知識なら授けられるが)

(それより心のゆとりがほしいわ。そのうちみかづき荘がチーズだらけになりそう)

(それは……ありえるな。なぎさの固有魔法からして実現可能だ。いつでもな)

(悪夢ね……)

 

 その時、百江なぎさの声が響いた。

 

「毎回毎回、小さなキュゥべえって呼ぶのは長いのです! うざったいのです! なので名前を決めるのです! カマンベールチーズの“ベール”はどうなのです? もじって“カモン”でも良いのですよ! 呼び掛けと名前で一挙両得なのです!」

「うーん……名前、どうしよっか。キュゥべえ?」

「モキュ~?」

「マル……とか?」

「シロとかいいんじゃないかしら?」

 

 暁美ほむらと水波レナが候補を挙げる。

 すると百江なぎさはやれやれと呆れたように溜め息をついた。

 

「もっと真剣に考えるのです! 小さなキュゥべえは犬か猫じゃないのですから!」

「そういうお前はチーズじゃねぇか」

 

 悪魔のツッコミで笑いが起きる。

 

「そういう悪魔はどうなのですか!」

「オレか? うーん……。────“リリス”とかでいいんじゃないか?」

「えっ……たしかリリスって悪霊の名前だろ?」

「モキュ!?」

「あっ! キュゥべえがショックを受けた!」

 

 十咎ももこによってリリスの由来を教えられた小さなキュゥべえは“悪霊”呼ばわりされたことに涙目となる。その頭をよしよしと撫でる環いろは。

 

「私はリリスに一票」

「え、やちよさん!?」

「なぎさも一票なのです」

「なぎさちゃん!?」

「あ……私も……」

「ほむらさん!?」

「あー……じゃあアタシも一票で。悪いね、いろはちゃん……」

「嘘ですよね、ももこさん!?」

「モ……モキュ~……」

 

 小さなキュゥべえの精神ライフはゼロだ。机の上で不貞腐れたようにうつ伏せで伸びきって涙を流している。その涙をナッツとチーズが舐めて慰める。

 

「ど、どうしてみなさんそんなにキュゥべえが嫌いなんですか!? いえ、確かにキュゥべえはちょっとひどかったですけど……いや、かなりひどかったですけど……それでもキュゥべえが居なかったから、私は妹の病気を治すことができませんでした! それを差し引いても、この小さなキュゥべえは、普通のキュゥべえとは違いますので!」

「なに? みんなキュゥべえのこと嫌いなの? なんで?」

「何かあったのかなぁ?」

 

 キュゥべえを恨んでも小さなキュゥべえを恨むのは筋違いだと力説する環いろは。

 一方の水波レナと秋野かえでは、なぜみんなして小さなキュゥべえをいじめるのか不思議がる。

 

「……小さなキュゥべえ」

「モキュ?」

「リリスという名前が嫌なら、これから信用を取り戻していけ。オレも同じ立場だからな」

「……モキュ!」

「ということでリリスに決定だ。よろしくな、リリス」

「あ、悪魔さん! 勝手に話を進めないでください!? 悪霊なんてあんまりですよ! そもそもメスかどうかも分からないのに!」

「じゃあいろはは何かあるのですか?」

「えっ……いえ、特に思い付かなくて……」

「じゃあリリスだな」

「モキュ!」

「…………まぁ、キュゥべえがいいなら、それでいいですけど……」

 

 かくして小さなキュゥべえはリリスという名前に決まった。

 環いろははやや不服そうだが、小さなキュゥべえは名前をもらって喜んでいるようだ。それを見て「まぁいっか」と納得する。

 

 そうしてクッキーパーティーは完食して閉幕。環いろはと暁美ほむらは洗い物と後片付けを手伝い、悪魔と百江なぎさは割り当てられた部屋を確認しに行く。

 

 ────やがて、みかづき荘の中で、水波レナと秋野かえでの言い合う喧騒が響き渡った。

 

          †

 

 

 

 序章・完

 

 

 

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