アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO! 作:形のない者
大通りを直進する悪魔は地図アプリを開いて神浜市大学附属学校の位置を確認する。進行方向・左方面の大きな建物の中心にポイントマークが発生。それを確認した悪魔は学校までの道のりを記憶してスマホをポケットにしまった。
自動車の合間を縫うように走り、交差点の信号を無視して左折。瞬間、いつの間にか傍らの半歩後ろを白いバイクが併走していた。
「……?」
悪魔の姿は誰にも見えていない。つまり傍らを走る白バイは白昼堂々信号無視をした事になる。
「ヒョウテキ、カクニン。
白バイは左右にゆらゆらと揺れたあと、勢いをつけて悪魔のバイクに激突した。
「!?」
突然の出来事に悪魔は混乱する。横転しないようハンドルをしっかりと握り減速。すると半歩後ろを走っていた白バイと肩を並べて併走することになり、乗り手の姿を確認した悪魔は息を呑む。
「っ……! な……なんだ……お前は……!?」
首がない。白いライダースーツ。スラリとした女性的な体。胸元がはだけて谷間が見える。そして突然の身体発火。全身が白い炎で燃え上がる首なしライダーは再び蛇行を開始。勢いをつけて体当たりをぶちかます。
「ぐっ……!?」
パチパチと燃焼し弾ける火花音。それは悪魔の片脚から聞こえてくる。先ほどの激突で白炎がバイクに燃え移り、悪魔のズボンにも燃え移った。爆走するバイクの上で風にはためく白炎は振り切れそうで振り切れない。徐々に延焼していく。
「くそっ────こんな時に……ッ!!」
悪魔は直感する。これは明らかに
† ♪~Bones~♪ †
「ワガナハ、
悪魔はハンドルを握り締めて全速前進。炎の首なしライダーを引き離しに掛かる。ソウルリングから雨の炎を灯して鎮火作業を開始。だが白炎は鎮静効果を受けても少し弱る程度。風に煽られることでジワジワと燃焼範囲を広げていく。
不意に後方から“ボワッ”と火炎の発射するような音が弾かれる。振り返ると二つの火球が迫り来る。悪魔は交差点に差し掛かった所で走行する一般車両を躱しながら右折。……ふと敵の気配が消える。
「……?」
悪魔は背後を確認。首なしライダーが追跡してくる気配がない。違和感を覚えながらも次の交差点を左折。
「ニガサナイ」
「ッッ!!?」
刹那、遥か後方に居たはずの首なしライダーがすぐ隣を併走していた。
(瞬間移動だと!?)
首の上に火球が出現。悪魔の車輪を見据えながら発射。咄嗟に減速してウィリーした悪魔は緊急回避に成功する。前方の首なしライダーは急ブレーキを掛けながら車体を横に倒して道を塞ぐように
「ナニ!」
霧バイクが匣に収納される中、回転しつつ首なしライダーの真上を通過した悪魔は再び開匣。タイヤのスリップ音を響かせつつ霧バイクに跨って走行を再開。なお白炎は匣に収納しても車体に燻っていた。悪魔の脚が焼けていく。交差点に突入し右折。……また気配が消える。
(────…………)
次の交差点を左折。
「ニガナサイト、イッテイル」
「────」
刹那、遥か後方で完全停止していたはずの首なしライダーが、悪魔の霧バイクと同速度で併走していた。悪魔は急ブレーキを踏みながら脇道に逸れて停車、降りる。首なしライダーも悪魔の行く手を遮る形でスライドブレーキを踏み停車した。
「……攻撃しないのか」
「メイレイハ、アシドメ。コロス、ナイ。コロシ、ナシ」
「……どうやら、お前の本体は“人でなし”ではないみたいだな」
「……」
悪魔は気付く。片脚の白炎が消えている。抵抗しないなら攻撃を中止するようだ。
ならばその隙に考察を開始。スタンドはスタンド使いにしか見えない。だが悪魔には見えている。だが近くの通行人は悪魔や首なしライダーを気にしていない。つまり見えていないのだ。となれば攻撃対象にされた者のみが、このスタンドを認識できるのだろうか。
「左折したら現れる。右折したら消える。タネが分かればコントロール可能だ。お前……能力としては弱いな」
「……ナンダト?」
悪魔は右を見る。何も起こらない。悪魔は右に行こうと考える。何も起こらない。悪魔は右を向いた。首なしライダーが居なくなっている。
「…………」
悪魔は左を見てそれを確認した。消えた瞬間は見えない。敵意も感じない。スタンドが見えないのではなく、確実にそこから消滅していた。悪魔は左に行こうと考える。何も起こらない。悪魔は左を向いた。刹那、悪魔の傍らにブンブンとエンジンを吹かす首なしライダーが出現する。
「……目的はなんだ。なぜ足止めする必要がある」
「……オシエルト、オモウカ?」
超直感は反応しない。それは足止めされることで、こちらに不利益が発生しない事を意味すると悪魔は判断した。
「いつまで足止めされていればいい?」
「……アト、ゴフン……いや、ナナフン……」
「ザ・ミッシング・ファイアフライ……だったか? お前、やろうと思えば一般車両に激突して大事故を引き起こし、オレの気を引くこともできただろう。それをしなかったのは……ひとえに本体の性格ゆえか? それとも本体の命令だったから? あるいは本体の意思に関係せず動くことができる、お前自身の優しさか?」
「…………スタンドハ、ジブンジシン、ダ……」
「そうか。ならばお前はイイ奴だな」
「…………」
悪魔はこれで三体のスタンドと遭遇した。
一体目は性格不明の存在。幸運と不運と破滅の能力を操るスタンド。
二体目は素性不明の存在。列車を操るスタンドで脱線を嫌い交通事故を楽しむ邪悪なスタンド。
三体目は首のない女性型のライダー。左に行けば現れて右に行けば消えるスタンド。本体の意思に忠実で、不必要な殺生を避ける性格。
ここから何か分かることはないだろうかと考える。
共通点を重視すれば、スタンドはある程度、本体から距離を取ることができる……という点に気付く。
「……チコク……」
「……え?」
「アナタ、サッキ、キイタ。アシドメスル、リユウ」
「教えてもいいのか?」
「フツゴウハ、ナイ」
チコク。ちこく。遅刻。そこで悪魔は直感する。
「……なるほど。お前の本体は、オレより先に学校へ着きたいわけだ。そうなると本体はオレの位置を知っていた事になる。そしてスタンドには発動条件がある。コイントスの結果で不運が発動すれば破滅へ導くコインが引っ付く。フルーツガムを食べれば列車が転移する。
「────、……オシエルンジャ、ナカッタ……」
「なかなか間抜けな奴だな。本体もそうなのか?」
「…………、…………」
「だんまりか。スタンドは学習できる……と。さて、そろそろ五分だが遅刻は回避できそうか? 学校まで一緒に行く?」
「…………スキニ、シロ…………」
悪魔は霧バイクから降りると匣の中に収納し、首なしライダーの後ろに飛び乗る。
今は急ぐ必要はない。超直感の反応に従い、無駄な争いは避けることにする。
「遅刻しない程度によろしく」
「……………………」
そして白く燃えるバイクはエンジンを軽く蒸し、安全運転で出発した。
†
一方その頃。夕暮れの新西区・神浜市立大附属学校。
その駐車場に自動車を停めた七海やちよは下車。環いろは、十咎ももこ、百江なぎさ、暁美ほむら、鹿目まどかも車から降りる。
「な、なぁ……やちよさん。本当は何があったのかちゃんと説明してくれよ。レナとかえでがウワサ? って奴に連れ去られたってどういうことさ」
「車の中で説明した通りよ。悪魔から報告があった。彼女たちは絶交して仲直りしたことで“絶交ルールのウワサ”に囚われた。今から救出しに行くわ」
「…………っ」
十咎ももこは疑いの目を持って嫌悪感を表情に出す。
「たしかにレナとかえでに電話を入れても、なぜか音信不通だ。魔力パターンを探っても、なぜか感知できない。でもそれは魔女結界の中に居ると考えれば辻褄が合う。魔女結界の中は圏外になりやすい。魔力パターンも繋がりにくくなるから念話も遮断されやすい。なにより────」
何より“ウワサ”という言葉が気に食わない。人々が口々に流行らせる“うわさ”が現実になったもの? そんなもの存在するわけがない。きっと魔女の仕業だ。そう言いたそうに十咎ももこは歯がゆく堪えている。
「……」
その表情を見つけてしまった百江なぎさは、なんとなくの思いつきでクマ吉の思考と口調を真似する。悪い影響だ。二人の関係性にまで考えは及ばないが、なんとなくの感覚でしれっと口走る。
「ももこ」
「……うん?」
「ももこは、やちよが“うわさに振り回される哀れな女”に見えているのですか?」
「──!?」
「……なんて、クマ吉ならこのタイミングで、そんなことを言うと思っただけなのです」
突然の踏み込んだ発言に十咎ももこはびっくりする。今の発言は陰湿で剣呑な女子なら売り言葉として捉えるセリフだ。喧嘩宣言の煽りと受け取ってもいいセリフだ。しかもそれを出会って半日の日が浅すぎる部外者から言われた。加えて相当な年下から言われた。しかし十咎ももこは温厚で不毛な喧嘩を好まないため買い言葉を使うことはない。それより動揺していた。まるで心を見透かされたような容赦のない不躾な質問に、しばらくうろたえている。
「……そう見られても構わないわ。別に信じてもらう必要はない。どのみち見れば信じることになる。それより問題はレナとかえでを助けること……今はそれが先決よ。だから全員に協力を要請した」
七海やちよはテキパキとした足取りで中等部の校舎に向かう。初等部から在籍していた学校のため道順は体が覚えている。目的地に到着するまでの間、不意に七海やちよは背後から付いてくる新参者に質問した。
「……たしか、鹿目さんと言ったかしら」
「────え? あ、はい! な、なんでしょうか……?」
「どうして付いてきたの? あなたには関係の薄そうな事件だと思うんだけど」
「そ、それは……誰かが困っているなら力になりたいと思って……正直、私もウワサ? とかはよく分からないんですが……邪魔にならないなら、ぜひ手助けさせてください! 足でまといにならないよう頑張ります! 迷惑を掛けない範囲で全力のサポートをしますので!」
「……後半部分は既に聞いたことよ。何度も同じことを言わなくていいわ」
「あ、はい……すみませんでした……」
鹿目まどかはシュンと俯く。その傍らを歩いていた暁美ほむらが耳打ちした。
「まどからしいね。見ず知らずの人の為に動くのは……」
「か、からかわないでよ。ほむらちゃん……」
「からかってないよ。素敵だなって思うよ?」
「ほんと? 邪魔になってない? ぶっちゃけ、これで足でまといになったら立つ瀬がなくて震えてるよ……」
「大丈夫。まどかは強いもの。私が言うんだから間違いないよ!」
実際、鹿目まどかの魔法少女としての資質は高い。それをひと目で見抜いたからこそ七海やちよも同行を許可した。なお環いろはと暁美ほむらは置いていこうとしたが、かたやなかなか頑固で友達を助けに行くと言って聞かず、かたやまどかが行くなら私も行くとかなりの頑固っぷりを発揮して言うことを聞かず、結局時間がないため根負けする形で連れて来てしまった。
「環さんと暁美さんは、鹿目さんと行動してバックアップに専念。前衛は私とももこに任せて」
「なぎさは好きにしてもいいのですか?」
「どうせあなたは言っても聞かないでしょう。でも一応、中距離支援をよろしく、とは言っておくわ」
「了解なのですっ!」
中等部の東塔に到着。北側の通路を渡り、階段を登って四階へ。屋上に行くためには別階段を使う必要がある。廊下を渡る。そこで小さなキュゥべえ、もといリリスが鳴いた。
「モキュ! モキュモキュー!」
「え? 急にどうしたの? 小さなキュ……じゃない。リリス?」
それは“警戒しろ”と訴えかけるような鳴き声。
「────っ!? 全員、止まって!」
『……!?』
突然の警告。七海やちよの指示に驚いた全員は臨戦態勢で立ち止まる。
「ここまで近付いて索敵範囲に引っ掛からなかった……いきなり七つも魔力パターンが現れるなんて……」
「……っ! ホントだ、気付かなかった……! みんな、すぐ前方に魔法少女が沢山いるぞ!」
「術士がいるわね……隠れてないで出てきなさい! これ以上不審な真似をすれば敵と認識するわ!」
七海やちよと十咎ももこは変身。槍と大剣の武器を構える。
直後、藍色の魔力霧が晴れるように、黒いローブを羽織る七人の魔法少女が姿を現した。
「……我らは」
「ウワサの守護者」
「ウワサに近付く者は」
「撃退しろと言われている」
「引き返せ」
「さもなくば」
「痛い目を見てもらう……」
「ももこ。分析」
「今やってる! これムズイから時間が掛かるんだ!」
十咎ももこは火属性の熟練性質・分析効果を用いて魔力を床に張り巡らし、七人の魔力属性を分析する。
「……きっちりそろい踏みだ」
「そう。分かりやすくていいわ」
「でも、これどういう状況だ? ビンビンに敵意を感じる……ウワサの守護者ってなんなんだ……まさか本当にウワサなんてものがあるのか……? ────おい、お前ら! レナとかえでを知ってるのか!?」
守護者たちは十咎ももこの質問に答えない。そこで一歩、七海やちよが足を踏み出す。
次の瞬間、七人の守護者は剣、鎌、鎖といった三種の武器を構えた。
「……同じ武器を持つ子が多いわね。珍しい」
「……七海やちよ。お前は今まで多くのウワサを消してきた。その罪は重い」
「へぇ? つまり目を付けられているってこと? ……
「答える義理はない。今すぐ此処から立ち去れ」
「逃げる気がないのはありがたいわ。答えるまで痛めつけるだけだから」
「っ……総員、戦闘準備」
魔属性の魔力を有する黒羽根……黒橙羽根が、守護者の代表として指示を出す。
「ももこ、お守りは任せたわ」
「……え? まさか一人でやるつもりか……?」
「あら、そんなに心配すること? ────力を隠して戦おうなんて舐めた真似する輩は、一人一秒で終わらせるわ」
†