※この作品はR-18です。

アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO!   作:形のない者

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【空間位相をこじ開ける! ────《完全無欠の迅速槍(アブソリュート・ラピッズ)》ッ!!】七海やちよ

 

 一方その頃。悪魔は炎の首なしライダーの後ろに乗って、神浜市立大学に到着した。正門を入って駐車場に停車。悪魔が降りた途端、スタンドが解除される。何らかの精神エネルギーが乗り手とバイク全体から上空に昇るように消えて、見ず知らずの女性と一般的な黒いバイクが現れる。

 

「────……あら? 私はこんなところで何を? たしか幼稚園のお迎えに行くためにバイクで走って……それでなんで懐かしの学園なんかにいるのかしら? あれぇ?」

 

 悪魔は霧の炎で姿を隠し、中等部の校舎に走りながら考察する。

 

(憑依型のスタンドか……おそらく人間のバイク乗りにスタンドが憑依することで一般人にも見えるようになる。だからオレにも見えたんだ。だが同時に姿を消す能力もあるんだろう。オレ以外の一般人に見向きもされなかったのは、きっとそのためだ。だがロックオンした対象には見えてしまう……だからオレにだけ見えた。そう考えれば一応の説明は付く)

 

 人間のバイク乗りに憑依して出没するスタンド。悪魔は直感する。

 

(スタンドを叩けば、おそらく憑依された人間にもダメージが入る。だが本体を叩けばスタンドにダメージが入るだけで憑依された人間にダメージは入らないはずだ。右を向けば消えると分かればすぐに対策できる点では戦いやすい相手だが、一般人を傷付けたくなければ本体を探さねばならないというのは中々に厄介な能力と言える。────まぁ友人だと思えば助太刀魔法で本体の下まで飛べるから、オレには形無しだが……)

 

 校舎に入った段階でバトルグローブを開匣。炎の逆噴射で建物内を飛行。一気に四階の屋上まで続く廊下まで辿り着く。

 

「────!」

 

 そこで悪魔は、見知った魔法少女たちの背中と、無双の限りを尽くした七海やちよの雄々しい立ち姿を目にした。

 

「答えなさい。あなたたちは何を目的に集まり、ウワサなんていう危険な代物を守っているの」

「ぐっ……」

「……どうしても口を割らないのね。なら水波レナと秋野かえでがウワサ空間の中に居るかどうかは答えてくれるかしら?」

「っ……し、知らない……」

「────チッ。やはり末端には何も知らされていない……この様子じゃあウワサが中で何をしているのかも知らないのね……本当に愚かな子達だわ……」

「…………」

 

 七海やちよは根っこの本質が邪魔して尋問を取りやめる。拷問してまで情報を吐かせる気は起きないようだ。武装を解除して背中を見せる。それを隙だらけの背中と捉える者は居ない。強者の余裕、その貫禄を見せつける。

 

「去りなさい。ここまでコテンパンにされて戦い続けろと言うほど、そっちの頭(ボス)は非情じゃないでしょ」

「っ……全員、退散せよ……」

 

 黒橙羽根は最も打たれ弱い黒藍羽根に肩を貸し、ほか五人の守護者も立ち上がって撤退する。

 

「やちよ!」

「追わなくていいわ、ももこ。どうせ直属の上司が出てきて撒かれる。それよりウワサの攻略に入りましょう。──ところで、遅かったわね。悪魔」

「すまない」

『────!』

 

 七海やちよの台詞に驚いた全員は振り返り、ズボンの片脚が焦げた悪魔を見つける。なぎさは「クマ吉!」と呼んで抱き着き、悪魔はその頭をひと撫でする。

 

「やちよ。さっきの連中は……」

「黒羽根と名乗る魔法少女集団よ。ウワサの守護者をしている」

「……そうだったのか。オレも一度遭遇したことがある。その時はウワサとは無関係の出来事だったが……弱小の集まりであることは理解していた」

「そうね。どの子も魔力係数が低い子ばかりよ。加えて頭も弱いし心も弱い。……でも白羽根には気を付けて。白いローブを着た魔法少女は黒羽根を束ねる上司らしいわ。一筋縄じゃ行かないわよ」

「──……そうだな」

 

 悪魔は直感する。もしや先ほどのスタンド攻撃が、その白羽根とやらの仕業だったのではないか、と。

 

「みんな、こっちよ」

 

 七海やちよは屋上に続く階段に移動。ぞろぞろと付いていく魔法少女たち。それを見送る悪魔は後方周囲を警戒する。

 

「……悪魔さん?」

「モキュ?」

 

 悪魔だけ付いてこない事に気付いた環いろはは立ち止まって振り返る。首をかしげるリリス。

 

「……ストップなのです、まどか、ほむら」

「うわっ」

「も、百江さん……?」

 

 百江なぎさは途中で立ち止まり、両手を広げて鹿目まどかと暁美ほむらの進行を阻止する。それは巴マミの代わりに後輩を守ろうとする彼女なりの考えだった。

 

「やちよ。ちょっと待つのです。そろそろハッキリ教えるのですよ。なぎさはその階段に、あまり近付きたくないのです」

「これから説明するわ。じっくりとね。そろそろ“ウワサさん”も出てくる頃合でしょうし……たとえ出てこなくてもウワサの内容は覚えている」

 

 階段手前に七海やちよと十咎ももこ。通路の中央に百江なぎさ・鹿目まどか・暁美ほむら。通路の後方に環いろは・リリス・悪魔。ちょうど三分割できる等間隔の距離。それは敵(・)にとって絶好のチャンスだった。

 

《アラもう聞いた? 誰から聞いた? 絶交ルールのそのウワサ!》

 

 突如として悪魔たちの周囲を取り囲むように群れて現れた人型のナニカ。

 

『────っッ!?』

「こいつは……!」

 

 それに困惑する魔法少女たちだが、悪魔は見覚えがある。昨日の早朝、南凪区の学園にて遭遇した正体不明の未知なる存在“ウワサさん”……奇天烈な色合いと形をした彼女たちは、ただひたすらウワサを流すために語り出す。

 

《知らないと後悔するよ? 知らないと怖いんだよ?

 絶交って言っちゃうと、それは絶交ルールが始まる合図!

 後悔して謝ると、嘘つき呼ばわりでたーいへん!

 怖いバケモノに捕まって、無限に階段掃除をさせられちゃう!

 捕まった子に戻ってきてほしいって、謝ってもさぁたいへん!

 ケンカをすれば、最後には誰もいなくなっちゃうって

 新西の地域じゃもっぱらのウワサ

 オッソロシー!》

 

 ウワサを語ったウワサさんは煙のように掻き消える。

 

「な、なんだ……今のは……やちよさんっ!」

「今のが“ウワサさん”よ。特に危害は加えてこないわ。彼女たちの役割は“うわさを流すこと”だから……誰かを攻撃するようには出来ていない。ただし注意よ。彼女たちが出てきたということは、近くにウワサの正体が潜んでいる可能性が高い。全員、固まって行動するように。孤立した方からやられるわよ」

 

 七海やちよは脅すような口調で注意喚起する。それを聞いた十咎ももこは大剣を構えて警戒。一方、鹿目まどかと暁美ほむらは身を寄せ合い、百江なぎさは周囲を見渡す。

 

 しかし悪魔は違った。そうと聞けば誰かが先陣を切らねばなるまい。どうせ攻撃は始まる。安全に攻撃を受けて対策を立てられるのは強者の役目だ。環いろはがリリスを抱き締めて、前方(悪魔)か後方(暁美ほむら)か、どちらに近付こうか悩む隙を突いて、悪魔はバックステップで後退する。

 

 次の瞬間、悪魔の傍らに不可視の存在が通過したと直感する。ブンッと奮うような風切り音の後、爆発したような打撃音が発生し、白い壁に亀裂が迸った。

 

「ノート・ペルドゥーテ(追憶の断片)……我は建物に刻まれた記憶を読む」

「…………!!?」

 

 不可視の存在の声(名乗り)が響く。爆発した壁から濁流が発生。押し流された悪魔は反対側の全面窓ガラスに背中を強打。水圧の激しさに耐え切れないガラスは立て続けに割れていき、濁流は滝のように落下する。

 

「きゃあ────!?」

「モキュー!?」

 

 土色の濁流に足を取られた環いろははリリス共々、激流に引っ張られて足を滑らし転倒、廊下の外に押し流されて地上に落下。

 

「環さん!」

「危ない、ほむらちゃん!」

 

 立て続けに壁が爆発して亀裂が走る。直後、濁流の上に二人の女子生徒が現れた。彼女たちは濁流に足を取られず泣きそうな顔で真っ赤になっている。二人の会話が激流の音に邪魔されず聴こえる。

 

『絶交よ!』『こっちこそ!』

 

 再び壁が爆発したように強打されて亀裂が迸る。時間が空いたように廊下の装飾が移り変わり、再び二人の女子生徒が相対する。

 

『ごめん……』『うん……』

 

 刹那、二人の女子生徒は神隠しに遭ったように忽然と消えた。同時に不可視の存在の気配も掻き消えて、過去を映したような激流と廊下の立体映像も消失する。

 

「…………なに……? 今のは…………!」

「────っ! い、いません! 地上のどこにも、悪魔さんと環さんの姿が見えないですっ!!」

 

 七海やちよの動揺。割れた窓ガラスから下を覗いた暁美ほむらの報告。

 そして異変は息も吐かせず連続する。

 

 廊下の天井が爆発。破壊された屋根から二人の黒羽根が落ちてきた。不可視の声が響く。その声色は、先ほどの声とはまた異なる。

 

「オイ……仕事しない下っ端は要らないんだよ……ちゃんと働かせてやるから言うことを聞け……聞くんダ……!」

「ヒッ……! ご、ごめんなさい……! ごめんなさい……っ!!」

「や、やめて……ガハッ……!?」

 

 二人の黒羽根は足をバタバタとさせて地(・)面(・)か(・)ら(・)浮(・)い(・)て(・)い(・)る(・)。口から白い泡を吹き出し、苦しそうに喘いでおり、喉が押し込まれたように変形している。その変形した形は、まるで人の手のように見えた。

 

「アルテフォーラ(芸術群像)……《立体:生きるモノクロ》……」

 

 突如、空間に立体物が出現。それは人間の脇腹を模した骨格のような形をしており、色彩豊かに着色されている。その脇腹骨格模型からサイケデリック(渦巻く極彩色)な光線が黒羽根の顔面に投射された。

 

「ア────アガッ!!」

「アァ……ヤメテ……!」

「さぁ言え! 言うことを聞くんダッ!」

「ア……ゼッコウ……」

「ッ……ゼッコウ、ダ……」

「そうダ! さぁ続きを言え! 言うんダ!」

「ゴ、ゴメン……」

「ナサイ……」

「────よくやった。これで三人は貰ったゾ!」

 

 刹那、黒羽根の近くにいたはずの鹿目まどか・暁美ほむら・百江なぎさの姿が忽然と消え去った。二人の黒羽根と骨格模型も消えている。

 

「っ……!?!?」

「────ッ……! や、やちよさん……! これはっ……いったいっ……!!?」

 

 有り得ない怪異を目撃した十咎ももこは勇気を振り絞って口を開いた。すると嫌悪感を抱くほど生暖かい吐息が漏れ出て、高鳴る心臓を抑えるためには、恐ろしいほどに新鮮な息を吸い込むしかなかった。

 

「────まったくあいつらはバカだ。誰を連れ去ってもランダムに飛ばされるんだから、自分の獲物なんて決め付けることはできないのに……だから、出会った奴が獲物なんだ。お前らは……どうだろね?」

 

 不可視の存在。その三体目の声が、二人しかいない廊下に響き渡る。

 

「なっ……なんなのよ、あなたたちは……ッ!?」

「みんなをどこにやった! 出てこい、クソッ……!!」

「アハハ! ────知りたい? 私はスタンド使い。選ばれし魔法少女の新たな能力……せっかくだからお前らも招待しよう。だって上からの命令だもの。七(・)海(・)や(・)ち(・)よ(・)は(・)壊(・)し(・)て(・)も(・)構(・)わ(・)な(・)い(・)と……」

「なんですって────」

「グギッ!? ウワァアアアアア────!!!」

 

 突然絶叫を上げた十咎ももこは倒れるように膝をつく。手放した大剣が床を跳ねて滑り、驚いた七海やちよが視線を運べば、そこには────

 

「ももこ!」

 

 ────片脚に蛇の牙のような噛み傷。血管が浮き上がって黒に近い紫色に変色しており、それが急速に膝の血管まで到達し、股まで登ろうとしていた。次の瞬間、七海やちよは槍を奮って十咎ももこの片脚を斬り飛ばす。

 

「ッィギ……ッ!?」

「ももこ! 痛覚遮断ッ! 早く! 高速再生も!」

「アハハ! 躊躇なく仲間の脚を斬り飛ばすなんて! 七海やちよは血も涙もないわねェッ!!」

「……ッ、────」

 

 十咎ももこは痛覚遮断が間に合わず激痛のあまり失神。否、激痛だけではない。毒のせいでもあると七海やちよは察した。

 

「不可視の毒性存在に襲われている……まさか、これが悪魔が言っていたスタンド……!」

「だからそ〜言ってんだろ! テメェの耳は節穴なのかクソヤロォ~!!」

「────なっ!?」

 

 七海やちよは愕然と見下ろす。十咎ももこの姿が消えている。思考が追いつかない。相手の能力が全く予想できない。

 

「そりゃそうだ。人間の分際じゃあひと咬みで天国送り。だが今は違う意味で天国送りにしてやるよ。殺しはしない。それは捕らえてからだ」

「なにを────言って────ももこを返してッ!!」

「返すわきゃネッだろバァッカァッ!!」

 

「ガ……ガオッ!」

 

 不意にナッツの鳴き声が廊下にこだまする。七海やちよは咄嗟に目をやると、先ほど激流が発生していた遥か後方に怯えるナッツが居るのを発見した。悪魔は濁流に流される瞬間、ナッツを開匣していたのだ。

 

(────でも、なぜ……?)

 

 ナッツは駆け出す。

 

「アァン? なんだこの獅子っころはヨォ~!? 毒殺しろ、シャイニング・ブラック(黒き輝き)!」

「GYAOOOO────!!」

 

 ナッツの咆哮。それは索敵のための火炎放射。空中の酸素を燃焼していく中、ひとまとまりの空間に孔が開く。つまり、そこに不可視の存在がいる。スタンドは精神生命体ゆえ質量を持たないが、調和効果により物質世界と精神世界の溝を馴染ませた。それは悪魔の入れ知恵。空間に充満する魔力に乱れが生じる。突撃してくる蛇のような形の透明存在を躱したナッツは七海やちよに吼えながら抜き去り、屋上へ続く階段を昇っていく。

 

「っ!」

 

 考える暇はない。七海やちよは追い掛ける。

 

「逃がすかァッ!!」

 

 背後から追い立ててくる不可視の敵性存在。

 

「ナッツ! 何するつもり!?」

「ガウ、ガウッ!」

 

 ナッツは七海やちよの瞳を見つめる。瞳。眼。そこからナッツが何が言いたいかを勘付いた七海やちよは瞳に魔力を流して視力強化を行った。

 

「────!?」

 

 七海やちよの視界に一つの色彩が増える。それは藍色の構築物。霧のような塵が点々と段差を飛び越えるように続いている。振り返れば先ほどの廊下にも塵のような構築物の痕跡を見つけた。屋上に飛び出す。藍色の粉塵は屋上にも続いており、徐々に空に昇っていく。やがてそれは屋上の外へ伸びていき、霧の炎の構築効果によって遺されたダイイングメッセージは、遥か上空の或る地点で不自然に途切れていた。

 

「ガウッ!」

「────まさか……道しるべとして残していたの……?」

「ガオ!」

「そう……通常の手順とは全く異なるけど、もしみんなが消えた理由が絶交ルールのウワサ空間に閉じ込められた所為だったら────あそこで途切れている場所が、空間位相の異なる結界……すなわちウワサ空間の出入り口ってことね……!」

「ガオ!」

 

 ナッツは柵の上に飛び乗り、自分の体をしっかり持てと合図する。

 

「なに? 何が言いたいのか分からないわ……!」

「ガオッ!」

 

 ナッツは全身から魔力の放出を始め、出力のギアを上げていく。

 それを見ていた七海やちよは、ナッツが飛び上がる気だと察した。

 

「シャアアアアアア────!!」

 

 背後から這い寄る絶対の死。

 

「お願い、ナッツ!」

「GYAOOOOOOOOO────!!」

 

 魔属性の熟練性質・噴射によって天高く飛び上がったナッツ。彼の兜に捕まって一気に上空へ打ち上げられた七海やちよは大魔法(マギア)を行使する。

 

「空間位相をこじ開ける! ────《完全無欠の迅速槍(アブソリュート・ラピッズ)》ッ!!」

 

 早業の橙槍超速連射。ナッツの調和効果の助けを得た硬槍は爆発的噴射力でかっ飛び、藍色の塵埃が途切れている中空を刺し貫く。

 

 刹那、上空の空間が歪み、捻じれ、轟音を上げながら、隠されていたウワサ空間が現実に現れた。

 

「絶交ルールのウワサ内部は、魔女結界と同様の空間位相を持つ……ただしウワサ空間の入り口を果たす絶交ルールのウワサ自体は、空間を歪ませる程度の、ただの強力な結界魔法……! 正規のルートじゃないけど、正面から殴り込む主義でもないから、壁からカチコミ、失礼するわよ!」

「ガオッ!!」

 

 轟音を上げる絶交ルールのウワサ空間は、孔を開けられた部分を魔力で修復しつつ閉じていく。

 

「チッ……追いかけろ、シャイニング・ブラック!」

「シャアアアアアア────ッッ!!」

 

 不可視の存在と姿を現さぬ本体も追いかけ、閉じかかるウワサ空間に侵入する。

 

 かくして大乱闘は幕を開けた。

 ウワサを破壊したい者、ウワサを守護したい者。

 二大勢力の激突は、想像を絶する死闘であると────絶交ルールの鐘は開戦の合図を鳴り響かせた。

 

          †

 

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