※この作品はR-18です。

アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO!   作:形のない者

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【さぁ、ももこは死んだぞ! 水波レナ~ァ!】機械仕掛けの詐欺師(パーフェクト・マスィーン)〔幽波紋(スタンド)〕

 

 一方その頃。そこは絶交ルールのウワサ空間の内部ではあるが、具体的なウワサの名称が存在しない虚無の空間。

 

 何もない霧深き地平の上に立つ七海やちよと、その肩に乗るナッツは、途方に暮れていた。

 

「どこまで歩いても出口となりうる光明が見当たらない……これはかなり参ったわね」

「ガウ……」

 

 まるでゲームのバグで侵入できてしまった裏世界の如し虚空間。

 

「そりゃあそうだろ。アタイたちは招待されていない不法侵入者、なんだからよォ……」

 

 不意に側面から聞き覚えのある声が響く。同時に不可視の存在の気配も殺気立って感じる。

 

「……毒蛇使い」

「違う違う。スタンド使いだ……毒ってのは合ってるが、蛇は少し違う。コイツは……ツチノコだ」

「────は?」

「ツチノコだよ。未確認モンスターだ。聞いたことくらいあるだろ? そんでアタイのスタンドは、そのツチノコを操る能力だ」

 

 七海やちよと目に見えぬスタンド使いが対峙する。

 

「……なるほど。そういうことね……」

 

 いつの間にか周辺空間に魔力を浸透させていた七海やちよは、透明な本体と不可視の存在、双方の位置を見抜く。

 

「熱帯に生息する或る海洋生物は、光の反射によって透明化し、敵から身を隠すと同時に、反射角によってはキラキラと輝いて異性にアピールするそうよ。……スタンドはスタンド使いにしか見えない。でもツチノコが現に存在し、それを操るのがあなたのスタンド能力だと言うのなら────これほど相手にしやすいスタンドはいないわ。さすがに不可視の存在とやり合うのは時間が掛かるから」

「……アァ~?」

「十秒も要らないと言っているのよ。さっさとみんなを捜さなくちゃならないから」

 

 刹那、上空から七本の槍が降り注ぎ、何もない場所に突き刺さる。激しい出血。ゴロンと丸いものが落ちて転がり、パリンと割られた壊れ物が落ちて散らばる。

 

「……そうか。上は盲点だったわ。無数の階段が絡まっている……奥に見えるアレは鐘かしら?」

「…………ガ……ガウ…………!!」

 

 七海やちよは宙に浮かぶ槍の柄に跨り、穂先から噴射する魔力によって飛行する。さながら魔女が箒に跨って飛ぶように。

 対するナッツは、一切の容赦がない淡々とした結末に、莫大な服従心と恐怖心を抱いていた。

 

 眼下ではツチノコの光学迷彩の恩恵に預かって透明化していたスタンド使いの姿があらわとなり、首からボトボトと大量の血液を垂れ流している。胴体を貫く槍によって倒れることはなく、やがてその体は魔力の残滓となって消え去った。

 

 その傍らでピクピクと震えるツチノコは、地面に広がる血を啜っていた。透明な体に赤い胃の管が浮かぶ。その後、ねじまきのような尻尾をドリル回転させて穴を掘り、ウワサ空間の地中に潜っていく。猛毒の牙は餌である出血を促すため、反射光で透明化するのは争いを好まないため。スタンドによって殺気立つよう操られていたツチノコは、今や穏やかな雰囲気を漂わせて穴の中にねぐらを作り、その場で就寝した。

 

 それを見下ろす七海やちよは考察する。

 

(あの魔法少女(スタンド使い)、ここら辺じゃ見ない子だった。でも新米というには貫禄がある。それに、どこかで見たような顔立ちなのが気にかかる……)

 

 死体のソウルジェムを確認。七海やちよはソウルジェムから心を読む術を持つため、それを見るだけで吐き気を催す。

 

(なんて邪悪な心なの……まるで生まれつき“そうであれ”と定められたような……でもこの感覚、昔に覚えが……)

 

 七海やちよは過去に、魔法少女を複製する魔女に挑んだことがある。

 

(……まさかね……)

 

 それより七海やちよは歯切れ悪く呟いた。

 

「……それにしても。いくら生(・)存(・)競(・)争(・)とはいえ、殺(・)ら(・)な(・)き(・)ゃ(・)殺(・)ら(・)れ(・)る(・)からといって……魔女にもなっていない人を殺したのは、これが初めてよ……。────だから、いつか地獄で会いましょう」

 

          †

 

 一方その頃。絶交教室の廊下にて。

 

 お喋り好きな不可視の存在(パーフェクト・マスィーン)に押し返される炎の首なしライダー(ザ・ミッシング・ファイアフライ)……悪魔はX格闘術でマスィーンを攻撃し加勢。押し切られないよう膠着状態を維持する。

 

 その間、水波レナは苦悶していた。自分のせいで敵スタンドが強大化したこと。自信を持てと言われてもどうすればいいのか分からないこと。とにかく迷惑は掛けられない。だが何をしても無駄な気がした。マスィーンが語りかけてくるたび耳を塞ぐ。聞かなければ何を認めることもない。だがそれでは根本的な解決にはならない。悪魔と炎の首なしライダーは今にも押し切られそうだ。既にパワーで負けている今、勝てる見込みがなく、勝利の活路が見つからない。

 

「────レナちゃん!」

「!?」

 

 汗だくで焦り疲弊している表情。そんな水波レナの顔を見た秋野かえでが大声で叱咤する。

 

「私……今からレナちゃんの“いいところ”を挙げるね!」

「────は……はぁ? こ、こんな時に、何を言って……」

「まず……レナちゃんは面倒見がいい!」

「……!」

 

 誰だっていいところは一つくらいある。

 だが……

 

「次は……、…………、……………………え、えっとねぇ……」

「────っ! ちょ、そこで止まる!?」

「だ、だって! そのくらいしか思い付かなかったんだもん!」

「じゃあ何よ! ほかは全部悪いってこと!? そんなこと分かってるわよ! 悪かったわね!!」

「逆ギレしないでよ!」

「いきなりいいところを挙げられて一個しか出されなかったらそりゃキレるわよっ! かえでのバカ!」

「バカじゃないもん! 本当のことを言っただけだもん!」

「アァ゛ア゛!!?」

 

 水波レナは口から火を吹くがごとく苛立ち、わきわきと手指を動かし、わなわなと体が震える。

 

「────っ……でも、ありがと。レナに自信を付けさせようとしたんでしょ?」

「うん! レナちゃんはいいところより嫌なところの方が多いけど、誰かを見捨てるようなことは絶対にしないから、そこは誇りに思っていいと思うよ!」

「なんか言い方がムカつくわね……」

 

 長所。それは往々にして他人から評価してもらうことで気が付くもの。そして自らの長所を理解した時、それが自信に繋がりやすい。だが親友の言うことでも自信を持つことが難しいなら、それはどこかに問題点があるという事だ。実際、水波レナは面倒見が良いという評価を貰っても、すぐにそんなことはないと一蹴してしまう。それは秋野かえでの言葉を信用していないからか。否、どちらかといえば、自己肯定感の圧倒的な低さが問題だろう。

 

 一方で、水波レナは自己を俯瞰し客観視することに長けている。故に合理と感情を切り分けることで、今は何が重要かを選び取ることにした。今すぐ自分に自信を持てというのは難しい。だが今だけは絶対の自信を持ったフ(・)リ(・)をすることは可能だ。

 

「レナちゃん! 自信持とうよ!」

「……こういう時、レナは“自信って何?”とか言っちゃうタイプの人間なんだけど……今はそんなこと言ってらんない状況だもんね。────えぇ、わかったわ。レナ……自信が欲(・)し(・)い(・)! そのためには────かえで、さっきのもっかい言って!」

「……! うん! レナちゃんは面倒見がいい!」

 

 水波レナは一念発起する。が、次の瞬間。どことなくマスィーンがニヤケたような気がした。

 

「水波レナ……今お前は欲(・)し(・)い(・)と口にしたな?」

 

 水波レナは《貪欲》だった。

 

「貪欲の罪だ! 貴様を断罪する! おれが欲しいものを強制的に奪い取らせてもらうぜェ!」

『────っッ!?』

 

 ふと、マスィーンの傍らに秋色のソウルジェムが浮かび上がる。

 

「……え? あれって、わたしの……?」

「あと二つゥ!」

 

 それは秋野かえでの魂の形。悪魔は焦る。しかしてマスィーンは十個の罪のうち八つを手にした。精密動作性能が向上し、的確なラッシュが首なしライダーに叩き込まれる。

 

「……ッ! マズイ……コノママ、デハ……!」

 

 悪魔は残像を作る勢いでソウルジェム奪還に向かう。

 

「捉えたァ!」

「ぐっ……!?」

 

 しかし防がれた。大空の爆発的噴射力。それをもってしてもマスィーンのスピードに捕捉されて精密な迎撃を喰らってしまう。

 

「絶望しろォ! 神に祈れェ!」 

「っ……! やめろォオオ────!!」

 

 本能が危険を察知して明滅するソウルジェムは、圧倒的なパワーで握り締められて圧迫されていく。

 

「ッ……! イ……痛い……! なにこれ、イヤだぁ……!!」

「え────かえで!?」

 

 橙炎乱舞。激しい業火が逆巻いてソウルジェムに手を伸ばすが、あと少しの所でマスィーンの乱打に防がれる。

 

「いろは! レナ! 全力で攻撃するんだッ!!」

『────ッ!!』

 

 光矢の連射。トライデントの投擲。その全てが一息のうちに叩き落とされて、悪魔の腹部に剛速のパンチがめり込む。

 

「ガハッ……!?」

「無駄だァ! 今のおれさまの力に真っ向から敵う奴なんていねェぜェ────!!」

 

 秋野かえでのソウルジェムにヒビが入る。

 

「アァ゛……アアアアア゛────!!?」

「ウソ……かえで……!? どうしたの、しっかりして!! かえで!!」

 

 殴り飛ばされた悪魔の体は遥か後方の廊下の柱に激突して跳ね、壁と床を跳ね飛び床に転がる。

 

「これで終わりだァ────!」

 

 ────ピキッという音が鳴り、ヒビから魂の欠片が零れ落ちる。

 

「────ちょおおおっとまったァアアアアアア────ッッ!!」

 

 刹那、朱色の魔力が一閃。マスィーンの手首を斬り飛ばし、金髪の魔法少女が秋色のソウルジェムをキャッチした。その後、旋回して着地。床を滑ってレナとかえでを庇うように立ち上がる。

 

「────ふぅ! なんか今のは危なかった気がする! これはグッドタイミングだったんじゃないかな!?」

「っ……! ももこぉ!!」

「ぐわァあああああ~?! な、なんでおれの腕が斬られ……おかしいだろォ~!?」

 

 マスィーンのスタンドパワーに変化はない。ダメージは与えられていない。だが死ぬ気の炎や魔力は、スタンドにダメージは与えられずとも、物理的な干渉力を有する。故に十咎ももこの分解効果を宿した大剣は、スタンドパワーの構造を削り取ることに成功した。しかしダメージ自体は与えられないため、マスィーンの腕はすぐさま元通りになる。

 

「いや、ベストタイミングだ! ももこ! スタンドが見えないのによくやった!」

 

 なぜそのことを直感しなかったのか。

 悪魔は、本体の心と完全に切り離された遠隔自動追跡型のスタンドにやりづらさを覚える。

 

「マジで? 嬉しいねぇ。……でも本当にベストなのは、最初からここにいることだった。……レナ、かえで。遅くなってごめんね!」

「……っ!」

「うっ……ももこ、ちゃん……?」

 

 十咎ももこは秋色のソウルジェムを秋野かえでに返し、レナの頭を撫でて不可視の存在に振り返る。

 その傍らに悪魔が飛んできて着地。バトルグローブに炎を灯して肩を並べる。

 

「悪魔、いったい何がどうなってるんだ?」

「目に見えない存在が水波レナを中心としてオレたちを狙っている。首なしライダーは味方だ。敵は魔力で傷を付けることができない。唯一ダメージを与えられるのは首なしライダーだけだ」

「げっ……じゃあどう倒すんだよ……たしかに透明とはいえ、斬った手応えが全くないからおかしいとは思ったけど……」

「首なしライダーを援護するしかない。だがジリ貧だ」

 

 二体のスタンドは相撲を続けている。互いに押し合うことしかしないのは馬力勝負に全てのパワーを注いでいるからだ。マスィーンは単純な打撃攻撃しかできない。対する首なしライダーは火球や熱線を射出することができる。特殊な攻撃の戦いになればマスィーンの分が悪い。現状も炎のタイヤを受けて全身に白炎が燃え移り大やけどしている。それでも耐えていられるのは強大なスタンドパワーで圧倒的な持久力を手に入れているからだ。

 

 マスィーンは首なしライダーを抑え込む。首なしライダーはマスィーンに致命打を与えられない。この膠着状態の先にあるのは、どちらの気力が先に崩れるか────その点で言えばマスィーンの方が優勢だった。

 

「まだまだァ~! 一度に複数の条件を満たしても、一気に成長することができないのがおれの弱点だァ~! だがもう一度目の成長は完了したッ! ──オイ! 水波レナ! おまえ……さっき心の中で割り切ったな!? 今(・)す(・)ぐ(・)自(・)信(・)を(・)持(・)つ(・)の(・)は(・)難(・)し(・)い(・)…(・)…(・)で(・)も(・)合(・)理(・)的(・)に(・)考(・)え(・)て(・)自(・)信(・)を(・)持(・)つ(・)こ(・)と(・)が(・)勝(・)利(・)に(・)つ(・)な(・)が(・)る(・)。(・)そ(・)れ(・)な(・)ら(・)理(・)性(・)と(・)感(・)情(・)を(・)切(・)り(・)離(・)そ(・)う(・)と! ────知ってるか? そういう合理的な考え方を、即(・)物(・)的(・)って言うんだぜェ~!!」

 

 水波レナは《即物的》だった。

 次の瞬間、首なしライダーが吹き飛ばされる。圧倒的なパワーに殴られたことで憑依が解除されスタンドは引っ込み、ヒュウガと霧バイクが分離して宙を舞い、地を転がり滑る。

 

「なに────!?」

「もうムカついたぜ! よくもおれの腕を斬り飛ばしてくれたなァ!? まったく痛くなかったけどスゴクスゴク最高にイラついたぜェ! だからコロス! ももこ、と呼ばれていたなァ? 今度はテメェのソウルジェムを盗むッ!!」

「なっ……!」

 

 胸元にある十咎ももこのソウルジェムが強制転移し、マスィーンの手元に握り締められる。それがマスィーンの遥か後方に投げ捨てられた瞬間、十咎ももこは意識を失って倒れ込んだ。

 

「ももこ!?」

「距離、百メートル超過ァ! さぁ、ももこは死んだぞ! 水波レナ~ァ!」

「────っ!! う、うそよ! ももこ、何もされてないのに死ぬわけないじゃない!!」

「ならばなぜ倒れた? 死んだからに決まってるからだろうがヨォ~!! さぁどおする? 神に願うか? あとひとつだから教えてやるぜ! おれの能力は嘘を具現化させる! だから聞くぜ! お前は神(・)を(・)信(・)じ(・)る(・)か(・)? 神が居ないと言えば神は現れ、神は居ると言えば神は現れない。救いの神を求めるか? さぁどおする? お前は《神がいると思うか》!?」

「────!!」

 

 刹那、悪魔は開匣と同時に空間を切り刻んだ。

 

「────答えは沈黙だ」

 

 時雨蒼燕流による乱れ斬り。格子状に細かく斬られた床は崩落を始め、パーフェクト・マスィーンだけが落下を始める。

 

「な……なにィ~~~~~~!?」

「────……考えを克服しても、それが条件達成に繋がるのか……つくづく隙がない能力だ……このスタンドは強すぎる……」

 

 夕暮れの奈落に落ちていくパーフェクト・マスィーン。ついぞ倒すことができず、搦手で距離を突き放した悪魔は、即座に朱色のソウルジェムを回収し、十咎ももこの体に触れさせる。

 

「────ッ!!?」

 

 息を吹き返した十咎ももこは、悪魔に命を救われた事を理解する。

 

「っ……アイツは?」

「一旦奈落に落とした。またどこで遭遇するか分からない」

「そうか……礼を言うよ。でも、またアタシより先に二人を助けられちゃったなぁ……先輩として情けないや」

「…………」

 

 十咎ももこは立ち上がり、目に涙を浮かべる水波レナと秋野かえでをまとめて抱き締める。

 

「レナ! かえで! よく頑張った!」

「……っ!」

「ももこちゃん……!」

 

 悪魔は三人のそばを通り過ぎて、ヒュウガを治癒する環いろはの下に向かう。途中で霧バイクを回収。そこで床に一枚のカードを見つけた。拾おうとして屈み込んだ────そのとき。

 

「グッ……アガッ……!」

「そ、そんな……! グリーフシードの吸収が間に合わない……! あ、悪魔さんッ!!」

 

 悲痛な環いろはの叫び。

 それを聞いて急ぎ駆けつけた悪魔は、ヒュウガのソウルジェムを目にして目を見開く。

 

「なんだと!?」

 

 既に穢れの溜まり具合が99%に至ろうとしている。すかさず懐からグリーフシードを取り出した悪魔は、環いろはのグリーフシードと合わせて、二個で穢れを吸収する────が、なぜか間に合わない。

 

「ガグ……ッ! ────す、スタンド、は……すさまじい、エネルギーを、消費、する……だから……ッ! ぁ……アァ゛アアアア゛ア゛ッッッ!!?」

「────────」

「あ、悪魔さん! もうケガは全て治したんです! あとは穢れだけで……! っ────もし、もしこのままソウルジェムが黒く染まりきったら……この人は……ッ!!」

 

 ヒュウガの断末魔が夕暮れの廊下を突き刺す。十咎ももこは魔女化に備えて、レナとかえでを強く抱き締めた。悪魔は直感する。穢れが染まり切ることを防ぐことはできない。ほかに手立てはないか考えても何も直感しない。

 

(────いや、ひとつだけ方法がある)

 

 悪魔は左目に手のひらをかぶせる。が、それを環いろはが制した。

 

「──いろは……」

「だ、ダメです……それは、ダメです……もし、それでこの人を救うことができても、今度は悪魔さんが……ッ!!」

 

 半魔人化する可能性が高い。下手すれば本当に魔人化して、街一つ滅ぼす怪物に成り果てるかもしれない。

 悪魔は図らずも、命の被害の取捨選択(トリアージ)を環いろはにさせてしまった。彼女は目の前で苦しむ名前もよく知らない女の子の魔女化より、悪魔の魔人化の方が危険だと判断し────見ず知らずの女の子を見捨てることを選ばざるを得なかった。

 

 ヒュウガのソウルジェムが穢れで満たされる。

 刹那、ソウルジェムから爆発的な瘴気が放出し、悪魔と環いろはの衣服が激しくたなびく。突風のような現象。だが不思議とヒュウガのソウルジェムが割れない。通常の魔女化と異なる現象が起きていることを直感した悪魔は、ともかく環いろはの腕を取って走り出し、ヒュウガの謎めいた魔女化から距離を取る。

 

「────!?」

 

 悪魔が何かに足を取られる。ヒュウガの背中から植物のつるのように広がっていた巨大な影に片足が絡め取られて離れない。影の範囲は広がり続ける。咄嗟に環いろはを突き飛ばした悪魔は影の範囲から離脱させた。

 

「悪魔さん!」

「影を踏むな! 捕まるぞッ!!」

 

 ホバーシールドを開匣。直後、無数の触手のような影がホバーシールドを鞭打った。間一髪の防御が間に合って安堵する悪魔だが、もし直撃すれば胴体が切り刻まれていたことに身の毛がよだつ。

 

「────なんだ……これは……!」

 

 ホバーシールドの向こう側。ヒュウガの背中から出てきた長方形の巨大な影の物体を見て、悪魔は目を疑う。それは魔女のようで魔女ではない。だが魔女に近しい存在だと直感する。そう、まるで魔人化しかかった今朝の自分のように────魔女化しかかっているヒュウガがそこにいた。

 

 この現象。名付けるなら────半魔女化。

 

 半魔女のヒュウガは悠然と飛行を開始し、秋野かえでの方向へ移動する。

 

「っ……! 逃げるぞ、レナ! かえで!」

「待って……あれ、魔女? どういうことなの、ももこ!?」

「ヒュウガちゃんが……魔女になった……?」

「説明は後だ! 今はとにかく生き残ることを考えろ!! ────ッ!?」

 

 高速で床を縫ってきた影の触手は十咎ももこの足首を捉える。さらに水波レナの足首も捕まえてブンブンと二人の体を振り回し、悪魔の所へ投げつけた。

 

「ぐわ!?」「きゃ!!」

 

 ホバーシールドに激突した十咎ももこと水波レナ。悪魔は姿勢を低くして迫り来るホバーシールドを躱し、雨刀を奮って影の触手を斬り裂く。

 

「────っ!! ヒュウガちゃ────」

 秋野かえでの叫び。

 

「っ……!」

 悪魔は秋野かえでの下へ向かおうとするが、膨大な影の触手が乱舞して行く手を阻む。その間に半魔女のヒュウガが秋野かえでを影で覆い包み込むと、瞬間────音速を超える速度で、絶交裁判所へ吶喊した。

 

 爆風と衝撃波。半魔女のヒュウガが通過した廊下すべての窓ガラスが衝撃に耐え切れず順々に割れていく。暴風に攫われた悪魔たちの体は壁や床に激突し何度も転がり────やがて風が止むと、瘴気の名残たる灰が雪のように降り始めた。

 

          †

 

 絶交教室の廊下を永遠に走る百江なぎさ・暁美ほむら・鹿目まどかの三人は、不意に遥か前方から音速の勢いで驀進(ばくしん)してくる魔女のような存在を目撃した。

 

「あれは────」

「えっ……」

「ど、どういう……!」

「────教室に飛び込むのです!!」

 

 百江なぎさは教室の戸に体当りして転がり込み、鹿目まどかは暁美ほむらの手を取って教室に飛び込む。直後、爆発的な衝撃波が窓ガラスを叩き割り、爆風は教室内を蹂躙し、机と椅子と百江なぎさが乱舞──まどかとほむらはおんぶしている黒羽根が重りになったことで吹き飛ばされることなく──爆風が落ち着いた頃には、灰色の瘴気の粒が雪のように降り始めていた。

 

「……! …………!! ……────うぉおおおおお!」

 

 沢山の椅子と机が積み上げられた山の中から百江なぎさは飛び起きる。

 

「びっくらこいたのです! 今のは魔女なのです!?」

「ほむらちゃん、今の見えた……?」

「う、うん……! 秋野さんが捕まってた……!」

 

 百江なぎさは警戒しつつ廊下に出て、魔女が飛んできた方向を見つめる。

 

「────! クマ吉! クマ吉たちが見えるのです! みんな倒れて動かないのです!」

「えっ……!」

「急ごう、二人とも!」

 

 三人は駆けつける。

 そこで悪魔はよろめきながら立ち上がり、折れた左腕を霧の構築効果で直し、肩の脱臼を慣れたように治した。

 

「なぎさ、ほむら……無事だったか。良かった。────君は?」 

「あ……か、鹿目まどかです!」

「悪魔だ、よろしく。……ピンク色のソウルジェムか。治癒魔法は使えるか?」

「はい!」

「三人の治癒を頼む」

 

 鹿目まどかは治癒魔法を行使。環いろは、十咎ももこ、水波レナの負傷を治す。

 

「……ほむら、その背負ってるのは誰だ?」

「あ、この人たちは……敵に利用されていて、放っておけなくて……」

 

 悪魔は直感する。

 

「大体わかった。なぎさ、指示を出す」

「了解なのです!」

「近くの教室に立てこもれ。そこを一時的な拠点とする。増殖で壊れた壁の築城、遮断で防音を忘れるなよ。そこでなぎさ、まどか、ほむらの三人は待機だ。精神的消耗が激しくて気絶しているレナを含め、黒いローブを着たその二人の子も面倒を見ろ。オレ、ももこ、いろははまだ戦えるため、これよりかえでを追い掛ける」

「ラジャーなのです!」

「そしてレナは敵スタンド使いに狙われている。奈落に突き落としたが、いつ舞い戻ってくるか分からない。戦闘になれば逃げの一択だ。なぎさ……できるな?」

「朝飯前なのです。野営魔法は万能なのですよ! 空飛ぶキャンプカーも作成できるのです!」

 

 十咎ももこ、環いろはが起き上がる。

 

「時間がない。魔女化したヒュウガが、かえでに何をするか分からない以上、とにかく急ぐ必要がある。ももこ、いろは。準備はいいな?」

「っ……当たり前だッ!!」

「はい……行けます!」

 

 悪魔はジェット噴射で飛び上がる。それに魔力放出で追いすがる十咎ももこと環いろは。

 三人の猛進を見届けた百江なぎさは、さっそく教室に残りの魔法少女を避難させた。

 

          †

 

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