※この作品はR-18です。

アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO!   作:形のない者

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【万物を切り裂く閃刃(エッジオブユニヴァース)────ッッッ!!!】十咎ももこ

 

 とある奇跡(ねがい)の話をしよう。

 

          †

 

 ある日のこと。秋野かえでの自宅の庭前にマンションの建設が決定された。秋野夫妻は日照権を侵害するとして訴えを届けたが、どこも非協力的でマンションの建設阻止は絶望的となる。

 

 日光が届かなければ大好きな家庭菜園ができなくなる。

 秋野かえでは日夜さめざめと泣いていたが、そこにキュゥべえが現れた。

 

 秋野かえでは願(・)い(・)を(・)叶(・)え(・)ら(・)れ(・)る(・)と(・)だ(・)け(・)聞(・)い(・)て(・)、家庭菜園を守るために《マンションの建設を無かったことにして》と願いを口にした。結果、新西建設のマンション建設は無かったことになったが────その反動として因果は周り巡り、秋野かえでが知らないうちに、別の場所にマンションが建つことになった。

 

          †

 

 ヒュウガ。冬樹ヒュウガという女の子がいた。

 

 彼女の父親は仕事の都合で引っ越す必要があり、新西建設の社長と知り合いというコネを使って建築途中のマンションの購入予約を取っていた。

 

 引っ越しの予定日が近付く中、冬樹ヒュウガは大都会の新西区に住むことを楽しみにしており、洗練された華やかな学校生活を夢見ていた。しかし急遽予約がキャンセルされて、冬樹一家は早急に次の家を探す羽目になり、彼女が最も住みたくなかった大東区に引っ越す羽目になる。

 

 寂れた町。治安の悪い街。団地ばかりで何もない場所。しかし唯一の希望である新築マンションに引っ越すことは叶い、電車通学ならば神浜市立大附属学校に通うことはできた。が、西側の人間という理由だけで地元の近隣住民とは馴染めず、道を歩いているだけで陰口を囁かれるなど陰湿ないじめを受けていた。そして陰口の中で最も腹が立ったのは、新西区のマンションに引っ越すことができなかったのは天罰が下ったからだ、と好き放題言われたこと。ならば聞きたい。それはいったいなんの天罰なのかと。

 

 冬樹ヒュウガは下校時刻になると大東区にある家に帰るのが億劫になり、あまり家に帰らなくなった。そのせいで両親とは喧嘩ばかり。母親も新西区に住みたがっていたので父親と口論してばかり。離婚の話が持ち出されるまで夫婦関係が悪化していた。しかし冬樹ヒュウガは知っている。母親もママ友から陰口を囁かれていたのだ。それでも父親はまた引っ越すまで我慢しろと言う。だが我慢にも限界がある。堪忍袋の緒が切れるのは当然だろう。

 

 冬樹ヒュウガも中学生だ。ずっと夜の街を歩くことはできない。よって仕方なく家に帰れば、不運にも不良に絡まれる。そこを和泉十七夜という人に助けられた。だが常に誰かが助けてくれるわけじゃない。独り立ちしたい。バイトもするから、せめて新西区で安いアパートを買い、一人暮らしができればいいなと、夢見がちなことを考えていた。

 

 そんなところにキュゥべえが現れる。ずっと彼女の動向を監視していたキュゥべえは、願いを一つ叶える代わりに魔女と戦う宿命を背負う旨を説明し、それとなく秋野かえでの願い事が巡り巡って冬樹ヒュウガに不幸をもたらしたことを示唆してきた。

 

 冬樹ヒュウガは訊いた。なぜ秋野かえではそんな願いを叶えたのかと。キュゥべえの話を聞いて合点が行く。日商権の侵害。家庭菜園の危機。となれば責めることはできない。彼女は大好きなものを守るために身を投げうって願ったのだ。もしくだらない願い事だったらとっちめてやろうと思ったが、それもまた夢見がちな妄想。自分にそんな度胸はないし、なにより彼女の気持ちに想いを馳せることで「私もその立場だったらそうしてた」と許す気持ちが勝っていた。

 

 冬樹ヒュウガは再度質問する。自分の願い事の余波が他人に迷惑を掛けないよう配慮することはできないのかと。キュゥべえは端的に難しいと答えた。ならば仕方ない。背に腹はかえられぬ。

 

 冬樹ヒュウガは願った。

 

 《新西区のマンションに引っ越したい。新しいマンションが建っても誰も困らない立地がいい》

 

 結果、マンションが建った場所は、よりにもよって秋野かえでの自宅の庭前だった。こんなのはおかしい。何かが間違っている。そうキュゥべえに訴えると、彼はしれっと口にした。

 

「願い事がどのように叶えられるのかは、まだ僕らもよく分かっていなくてね。ただ願う者の深層意識が多分に影響しているのではという仮説なら立てられている。その観点から言えば、これは“仕返し”なのかな? 君の中に秋野かえでに対する復讐心が少しだけ燻っていたのかもしれない」

 

 そんなことない。そんな気はなかった。冬樹ヒュウガは本当に、そんなつもりはなかったのだ。

 

「それが本当に違うなら僕でもわからない。もしかしたら単純に魔力係数が足りなくて半端に願い事が叶えられてしまったんじゃないかな? でも君の願い程度なら、そんなことはなさそうだけどね。────そう悲観するものじゃないよ。願い事は必ず叶う。それだけは保証するよ。約束してもいい」

 

 罪悪感を抱く冬樹ヒュウガは後悔した。どうして《既にある新西区のマンションに引っ越したい》と願わなかったのか。もう手遅れでどうしようもないことだが、やりきれない思いだけが募る。

 

 不意に窓の外を覗くと、庭先で泣いている秋野かえでを見つけた。思わず駆けつけた冬樹ヒュウガは固有魔法《照明投射》を使い、室内栽培で使うLEDライトと同じ効果を発揮して、秋野かえでの家庭菜園を守ることに成功した。

 

 それから二人は魔法少女として友達になり、秋野かえでの両親に魔法だとバレないよう適当なランプを自作、それに《照明投射》を掛け、定期的に冬樹ヒュウガの魔力を注ぐことで、日の当たらない場所でも家庭菜園が可能な環境を作り上げることができた。

 大切な家庭菜園の窮地を救ってくれたことに秋野かえでは泣いて感謝する。だが冬樹ヒュウガは罪滅ぼしでやったことなので、その感謝を受け取る資格はないとソウルジェムを濁らせていた。

 

 その後のことである。冬樹ヒュウガは魔女化の真実を知った。キュゥべえに騙されたと思うと同時、利発な彼女は即座に“秋野かえでの願いの余波を利用して冬樹ヒュウガに近付き契約の機会を窺っていた狡猾さ”にも気付いて戦慄し憤慨する。魔法少女としては強い部類だが、あまり争いを好まない性格のため魔女狩りがうまくいかず、秋野かえでに対する罪悪感も加味してソウルジェムの濁りは加速していく。故に彼女は縋り付くように“マギウス”という組織に入った。

 

 冬樹ヒュウガは魔女化の真実を秋野かえでに明かすことができなかった。彼女には既に三人の仲間がいるため、きっとその仲間経由で知ることになるだろうと期待する。マギウスから手に入れた情報では、十咎ももこが魔女化の真実を知っているため、きっと話す機会を窺っているのだろうと冬樹ヒュウガは予想していた。

 

 このように思慮深く他人思いな冬樹ヒュウガだが、そんな彼女でも黒い感情に打ちのめされることはある。

 そもそも秋野かえでが願いを叶えなければ、自分は魔女化なんていう恐ろしい目に遭わなかった。

 しかも新西区に引っ越してからは、少しの間、大東区に住んでいたからという理由でクラスメイトからハブられるようになった。今まで大東区から通学していたことはみんな知っていたのに、急に家が近くなると怖がりだしたのだ。この街は異常だ。何かが変だ。

 

 それでも秋野かえでだけは普通に接してくれた。それが冬樹ヒュウガの複雑な心境に拍車をかけた。

 

 既に冬樹ヒュウガは寛容な心を保ちにくくなっていた。新西区に引っ越してから両親の仲は改善したが、その代償が自分の命であるとは誰が予想したか。楽観的に考えれば釣り合いは取れているかもしれない。叶うはずがない願いを叶えたのだから。だがそもそもの元凶を考えれば良しと言いたくない。

 

 ────秋野かえで。彼女に全てをぶちまけたかった。あなたのせいで私たちは魔女化の運命を辿る。そうでなくても魔女との戦闘で命を落とす。だが彼女は気弱だ。そんな風に責め立てれば落ち込んでソウルジェムが濁ってしまう。そうだ。八つ当たりしてなんになる。そんなことしても彼女と自分のソウルジェムが濁るだけだ。

 

 冬樹ヒュウガは根っこの優しさは消えず、しかし思いを馳せるあまり独りで抱え込み、追い込まれていく。

 理不尽だ。しかし秋野かえでは巻き込めない。だが彼女のことを思うと魔女化が近付く。人はそれを愛憎と言うそうだ。

 そんな彼女がマギウスに助けを求めるのは是非もないことだと言えよう。黒羽根から始まり、白羽根に昇格した冬樹ヒュウガは、新西区の“絶交ルールのウワサ”の守護を任命されて、日夜その任務をこなしていた。

 

 やがて最大の不運が来た。引っ越しが決まったのだ。仕事の都合で神浜市に来たはずが、今度は海外出張でスペインに引っ越すのだと言う。これは父親の仕事のことをよく知らなかった自分の失態だ。もし自分が引っ越せば、誰が秋野かえでの家庭菜園を守るのか。

 

 つい先日。冬樹ヒュウガはスペインに引っ越すことを秋野かえでに伝えた。彼女は涙しただろう。冬樹ヒュウガ無しで家庭菜園の続行は不可能だ。

 

 そして今日の放課後のこと。

 不意に秋野かえでから「勢いで友人と絶交しちゃったけど仲直りできるかなぁ?」という相談を受けて戦慄した。絶交ルールとは、絶交者が仲直りするとその二人を誘拐し、バケモノを通して絆の大切さを思い知るという内容だ。その過程で発生した感情エネルギーを、世の魔法少女のために回収する代物でもある。

 ただし冬樹ヒュウガは知っていた。────絶交ルールのウワサに取り込まれた子達は、全員が全員、生(・)還(・)し(・)た(・)わ(・)け(・)で(・)は(・)な(・)い(・)という事実に。

 

 冬樹ヒュウガの予想通り、秋野かえでと水波レナは仲直りしたが……二人がウワサに攫われた瞬間を目撃した時、激しく動揺した。助けてやりたいが、それはマギウスに対する明確な裏切り行為となる。だがそれがどうした。冬樹ヒュウガにとって友情と保身の板挟みは嫌悪の対象だった。しかし友情を優先すれば自らの居場所が危うくなる。だが保身を優先すればどのみち罪悪感に押しつぶされて自分が自分ではなくなる(魔女化する)。故に友情と保身、どちらも守り達成すると心に誓った。

 

 敵対勢力である悪魔をスタンドで出し抜き、誰よりも早く神浜市立大附属学校に遅刻せず到着し、三人のスタンド使いに紛れてウワサ空間に入り込んだ。そして秋野かえでを守るため死力を尽くして戦い、戦い────

 

 ────冬樹ヒュウガは半魔女化した。

 

 馳せたい想いが黒く醜く塗りつぶされる。

 

「────罪■罰■罪■罰■罪■罰■責■讐■大■嫌■悪■謝■罪■自■罰■殺■欲■────」

 

 影作りの半魔女。その姿は高層ビル。

 大質量となった筋肉質な影の塊は対象を圧殺する。自分のような尊大なビルが建っても誰も困らない立地を作るため、全てを圧殺することで更地に変えようと暴れまわる。

 

 誰も困らせたくないのなら友人の家をぶっ潰せばいい。それで友人の友人は悲しむだろうが、悲しむ人たちは友人の家に住んでいるわけではないので日照権で困らせることはない。

 

「────死ネば困るコトはナイ────今スぐ、あナタの困り事ヲ真(・)ッ(・)平(・)ラ(・)に(・)平(・)定(・)してアゲる────」

 

          †

 

 絶交裁判所にて裁判開始。この物語で裁くべき罪人は誰か。そんなもの分かりきっている。だが当の罪人は神浜市に存在せず、運命に翻弄された少女が二人、証言台の上に立つ。

 

「────ヒュウガちゃん……そんなこと、思ってたの……? 私、何も、知らなくて────」

 

 影作りの半魔女は全てを打ち明けていた。

 冬樹ヒュウガの過去を知らなかった秋野かえでは悲痛に苦しむ。

 

「ごめんね……私が願ったせいで、いじめに遭って……私のせいで……っ!」

「────────────────」

 

 影作りの魔女は裁判所の天井を支える巨大な柱を力尽くで抜き取り、影を絡ませて補強、真っ黒な高層ビルのような姿に変えて、秋野かえで目がけて投げ付ける。

 

「────ッ!!?」

 

 非情にも迫り来る質量の暴力。これに押しつぶされて死ぬのかと、秋野かえでの脳裏に走馬灯が走る。

 

 この一年間、冬樹ヒュウガと一緒に育てたミニトマト。

 もう冬樹ヒュウガの魔法に頼るのはやめて、家庭菜園も諦めて……自分の部屋を室内栽培用に改造する計画を両親と約束したことを報告したかったこと。

 最後に冬樹ヒュウガの家族も招待して、秋野かえでの薄暗い庭でバーベキューして、スペイン行きを祝福しようと考えていたこと。

 

「────ごめんね……?」

 

 秋野かえでは涙をこらえて首をかたむけ微笑みかける。

 

「悪魔! いろは! 噴射と活性を借りるぞッ!!」

「好きなだけ持っていけ!」

「ありったけですっ!」

 

 悪魔の《天空揺るがす螺旋拳(ジェットアクセル)》に合わせて拳に足裏を乗せた十咎ももこは、環いろはと手のひらを合わせて黄色い魔力を貰い、殴り飛ばされるように蹴り飛ばして音より速く飛び上がり、絶交裁判所に駆けつけて、活性効果で光り輝く大剣を斬り上げて────

 

「────万物を切り裂く閃刃(エッジオブユニヴァース)────ッッッ!!!」

 

 ────影作りの高層ビルが、一刀両断と縦割れた。

 

「……っ! ももこちゃん……!!」

「アタシの可愛い後輩に手を出したら、どんな奴でも容赦しないぞっ!」

 

 影作りの半魔女は痛打を受けてよろめくと、まるで身を守るように冬樹ヒュウガの体を影で覆って地に落ちた。それからウンともスンとも言わず、静かに影の球体は佇んでいる。

 

「……な、なんだ……? 急に大人しくなって……」

 

 悪魔は絶交教室の廊下から飛び上がり、絶交裁判所に着地する。

 その背中から降りた環いろはは、秋野かえでの所に走ってケガがないか確認。

 

「かえでちゃん、大丈夫!?」

「う、うん……!」

 

 しかし秋野かえでの顔色は悪い。ソウルジェムにヒビが入っているからだろう。

 悪魔は知っている。魂にヒビが入った魔法少女の余命は短い。守りきれなかった……その後悔ばかりが脳裏を逡巡する。

 

『────裁階絶ル交噂南岬ー判式京教錠ル教場段所────!!!!』

 

 そこで絶交南京錠の群れが喚くように鳴いた。手のひらサイズの個体だが、それが数千匹も群がって旋回すれば脅威的な嵐の暴力となる。そうして、いの一番に秋野かえでを狙った絶交南京錠だが、すぐに悪魔のX格闘術と十咎ももこの大剣で薙ぎ払われた。

 

「いろは! かえでを背負って絶交教室に走れ!」

「この数はヤバい! かえでを頼んだよ、いろはちゃん!」

「はいっ! おぶるよ、かえでちゃん!」

「っ……!」

 

 悪魔と十咎ももこが攻撃を開始し、環いろはが秋野かえでを連れ去ろうとしたことで、絶交南京錠は彼らを敵と認定。怒涛の猛撃を開始する。

 

「ももこ! 絶交南京錠にロックされるなよ! おそらくだが、一匹でも捕まれば意識を剥ぎ取られる!」

「はいぃ!? この数を相手に無傷は無理だって! ────うわっとぉっ!?」

「────仕方ない。ももこ、いろはの援護を任せた! 今から範囲技を使う! 巻き込まれるなよ!!」

 

 悪魔は爆発的な炎を噴出して高速飛行を開始。数千に及ぶ絶交南京錠の回転方向に逆らう形で群れの中を突っ切る。

 

「────《天空逆巻く螺旋廻天《Xストリーム》》────ッッ!!」

 

 それは対象の周囲を螺旋状に駆け巡り、強力な遠心力を与えて神経系を混乱させる技。しかも対象を単体ではなく絶交裁判所全体にすることで巨大な火災旋風が発生する。橙色の台風は殆どの絶交南京錠を攫うが、環いろはの逃げ道を確保するため両扉近くは範囲外にしていた。故にその近辺に残る絶交南京錠が秋野かえでに襲いかかる。

 

「どりゃあああああああッ!!」

 

 十咎ももこの連続斬撃。環いろはの光矢射出も合わさり、次々と切り捨てられ撃ち落とされていく絶交南京錠。だがまだまだ数が多い。

 

『牙雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄■■■■■■■■■────!!!!!!』

 

 その時、絶交裁判所の裁判官を務めるバケモノがX(イクス)ストリームを物ともせず跳び上がり、両扉の前に着弾。環いろはと十咎ももこの行く手を遮り、暴力的な巨腕の薙ぎ払いで環いろはを殴り飛ばす。

 

「きゃあああ────っ!?」

「いろはちゃん! かえで! ……──ッ!?」

 

 バケモノの突進を大剣で受け止めた十咎ももこは、環いろはのカバーが間に合わない。

 

「ぐっ……か、かえでちゃ────、……ッ!?」

 

 環いろはが起き上がった時、眼前には絶交南京錠が見下ろしていた。表情は分からないのに牽制の意思を感じる。絶交南京錠の後ろでは秋野かえでが意識を失っており、ほかの絶交南京錠が群がっていた。

 

「そんな……ダメッ!」

「忌ヱヱヱヱヱヱヱヱ覀覀覀覀覀覀────!!」

 

 抵抗しようとした環いろはを絶交南京錠が襲い掛かる。それを光の矢で打ち払ったあと、秋野かえでの下に駆け付けようとした環いろはだが────

 

「……!」

 

 ────ゆらりと立ち上がる秋野かえで。その胸元には絶交南京錠が接合(ロック)している。

 刹那、環いろはの周囲を回るように数人のウワサさんが出現した。

 

《アラもう聞いた? 誰から聞いた? 絶交南京錠のそのウワサ

 それは絶交階段のウワサの続き、誰も知らない終着点

 南京錠は絆の証、愛を誓うバンドロック!

 でもでもコレはセーハンタイ!

 鍵を開けて絆をほどくヒドイ絶交南京錠!

 虫のように群がって、捕らえられたらもう最後

 絶交空間に閉じ込められて、殺し愛を始めちゃうって

 新西の女の子の間じゃもっぱらのウワサ

 モーヒドーイ!》

 

 秋野かえでは瞳の色を失い、亡者のような四肢の動きで────瞬間、両扉に向かって跳躍した。

 

「か……かえでちゃん!?」

 

 次の瞬間、秋野かえでの背中に悪魔の蹴りが入る。だが秋野かえでは恐るべき膂力で悪魔の足首を掴むと一回転、大きく振り回して投擲した。

 

「ぐっ────!?」

 

 悪魔は壁に激突。そこに絶交南京錠が群がるが、すぐに圧倒的な炎の放射で焼き払う。

 そこで十咎ももこがバケモノと鍔迫り合いながら物申した。

 

「っ!? おい悪魔! なんで今かえでに攻撃したんだ!?」

「ウワサの内容を聞いていなかったのか!! かえではレナを殺すつもりだッ! そういうふうに操られている!!」

「────! そんな……! 私のせいで……!」

「っ……! いや、いろはちゃんのせいじゃない! とにかく今はかえでを追い掛けよう!」

 

 悪魔のジェット噴射。音速の蹴りはバケモノを突き飛ばす。その隙に三人は絶交裁判所の両扉から飛び出し、暗闇の通路を疾走。後方からは絶交南京錠が追い掛けてくる。やがて暗闇の床が抜けて絶交教室に落下。無限廊下を突っ走り、百江なぎさが築いているはずの拠点を目指す。そして遥か前方に秋野かえでの後ろ姿を目撃。だが尋常ではないスピードで突き放されており、どれだけ全力を振り絞って走っても追い付けない。

 

「嘘だろ……かえでの奴、あんなに早かったか……!?」

「おそらく絶交南京錠がソウルジェムの耐久力を考慮せず、出力限界を超過する勢いで魔力を放出しているんだ! このままじゃ秋野かえでの魂が危ない!」

「そんな……既にかえでちゃんのソウルジェムにはヒビが入っているのに……っ!」

 

 爆走する秋野かえでを追い掛けて、悪魔・環いろは・十咎ももこは急ぐ。

 

          †

 

 一方その頃。誰も居なくなった絶交裁判所に二つの人影が降り立つ。

 

「ありがとうぉ。マギウスの翼の幹部が護衛に付いてくれるなんて安心だわぁ……」

「これも仕事の一つですから。……あ、あそこにドッペル症を起こした魔法少女がいますね。診察をお願いします」

「はぁい。承りましたぁ……。────うぅん……これは回復の見込みが薄いわねぇ……じゃ、隔離施設に」

「了解です。黒羽根に運ばせますね。……あなたたち、出てきなさい」

 

 幹部の幻術に姿を隠されていた五人の黒羽根が現れる。

 

「彼女はあなたたちの上司でしょう? 丁重に運んでね」

「……はい……」

 

 五人の黒羽根は赤色と緑色を欠いている。彼女たちは白橙羽根のドッペルを持ち上げて移動を開始。

 

「それで……あなたは介入しなくていいのかしらぁ? きっと彼ら、このウワサを倒しちゃうと思うんだけど……」

「…………そうですね。でも代わりはいくらでもありますし」

「でも損失であることには変わりないでしょう?」

「……それは……」

 

 幹部は詰められるような質問攻めにあって狼狽える。

 

「……まさか、こんなウワサ、無くなった方がいいと思っていたり?」

「!?」

「ふふ……私も同感よ。ももこだってそう言うわぁ」

「……あの、このことは……」

「えぇ。分かってるわ。口止め料にグリーフシードオマケしちゃう」

「あ、いえ……黙っていてくれるなら、それで……」

「遠慮しないの。あなた何回ドッペル化したの? 彼女たちの暴走を止められるのは、彼女たちに一番近いあなたなのよ。だから自分の身は大事にしなさい」

「…………はい……」

 

 幹部はグリーフシードを受け取る。

 そして彼女たちの姿は藍色の魔力と共に掻き消えた。それは構築効果による幻術である。

 

          †

 

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