アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO! 作:形のない者
一方その頃。絶交教室の野営砦にて。
篭城する百江なぎさは廊下側を警戒しており、暁美ほむらは窓の外を眺めて周囲を観察、天井や壁にも気を配る。鹿目まどかは黒赤羽根・黒緑羽根・水波レナの看病に努め、悪魔たちの帰りを待っていた。
「──……うっ……」
夕陽を眩しく感じたレナは目を覚ます。
「あれ、レナ……」
「良かった、起きた!」
「水波さん、大丈夫ですか?」
両手を合わせて胸をなで下ろす鹿目まどかと、正座して水波レナの顔を覗き込む暁美ほむら。
「う、うん……」
キョロキョロと辺りを見渡す水波レナは、傍らで寝込む二人の黒羽根を見たあと、戸の窓から廊下側を睨む百江なぎさの横顔を見つけた。
「えっと……レナ、なんで……」
頭痛。激しい痛みが脳内を襲う。今まで何をしていたのか思い出せない。まるで記憶の中にポッカリと白い穴が空いたようだ。
「起きたのなら状況理解に努めるのですよ。今なぎさたちは敵に狙われているのです」
「あなたは魔女に吹き飛ばされて気絶していたんだよ」
「今は悪魔さんと環さん、十咎さんの三人が、秋野さんを取り返すため追い掛けています」
「えっ……かえでを取り返すって……、────っ!」
水波レナの脳裏に今までの記憶が濁流のように流れ込み全てを思い出す。
「そうだ……たしか、かえでの友達が魔女みたいになって……! ねぇ、かえではどうなったの!? ももこは!?」
「お、落ち着いて! 順番に話すから……」
起き上がる水波レナ。なだめる鹿目まどか。
対する暁美ほむらは、廊下側を監視する百江なぎさの様子がおかしいことに気付く。
「…………」
「……百江さん?」
百江なぎさの目に映る光景。それは音を超える速さで廊下を突っ走る秋野かえでと、それを追い掛けるも突き放されていく悪魔たちの姿だった。その光景は、どのような説明を付ければ納得できるだろうか。
「……説明できない状況が差し迫っている気がするのです。総員、臨戦態勢なのです!」
『────!?』
刹那、衝撃波の爆音が発生し、急停止した勢いも含めて廊下側に爆風が発生する。だが野営砦と化した教室にダメージはない。
「絶対的遮断力を持つ紫色の魔力は絶対に破れないのです!」
次の瞬間、野営砦の壁が、秋野かえでの固有魔法《一時消去》の効力で一時的に消失した。
「……魔力では破られなくても、魔法では破られるのですー!!」
せっかく築き上げた堅固な壁が一瞬で消し去られた。秋野かえでの杖の払いで吹き飛ばされた百江なぎさは黒板を割って背中を強打。鹿目まどかは弓を構えるが、気付けば弓が
「……かえで……?」
「────…………」
色のない瞳。感情のない顔。杖を振り上げた秋野かえでは
「危ないッ!!」
それから身を呈して庇った鹿目まどかは杖の先端が腹部を貫通。出血が水波レナの服に掛かり、血に濡れた杖の先端が水波レナの額の先をツンと刺す。秋野かえでは杖を押し込もうとするが、魔力で筋力を増強した鹿目まどかが杖をガッチリと掴みそれを許さない。
「ッ……ぐぅっ……力が、強い……! レナちゃん逃げて! このままじゃ二人とも串刺しにされるッ!」
「っ……!」
水波レナは杖の先端を避けて、とにかくその場から逃げようと立ち上がる。その動作を舐めるように見つめ続ける秋野かえでの闇の瞳。刹那、杖が
「きゃああ!」
鹿目まどかは杖の打撃を受けて窓辺に激突する。その間に廊下側へ脱出していた水波レナは振り返り、秋野かえでと目が合う。そして再び殺意のこもった一撃が繰り出される瞬間を見逃さなかった。
「か、かえで!?」
杖の先端が水波レナの頭髪を掠めて廊下の壁を突き刺し、亀裂を迸らせる。
「ど、どうして……!? レナ、また何かしたの!? それとも誰かに操られてるの!?」
よく見れば秋野かえでの胸元には、どこか恐ろしげな南京錠のようなリボンが結ばれている。
「……オーケー。それのせいね……!」
困惑しつつも迎撃しようと、水波レナはトライデントを取り出す。が、それはいつの間にかどこへなりと
(かえでの《一時消去》魔法……!)
ならばこちらも魔法で迎え撃つ。固有魔法《変身》で“秋野かえで”に姿を変え、緑色の魔力を半円状に放射。硬化性質で即席の盾とする。対する秋野かえでも緑色の魔力を杖に纏わせて硬化。貫通力を増した刺突を繰り出した。
金属と金属がぶつかるような激しい音が弾かれる。無敵の円盾と最強の穂先。拮抗し合う魔力は
「かえで……! 目を覚まして……! おねがい……!!」
「────…………目を覚ますのはレナちゃんの方だよ」
「……ッ!!?」
「どうして私がレナちゃんを殺すはずがないと思えるの? もう飽き飽きなんだよ。何度も何度も喧嘩して、そのたび許してまた喧嘩。その繰り返しに疲れたの。だからもう終わりにしよう」
「……!!」
精神のゆらぎは魔力のゆらぎに直結する。水波レナの魔力盾にヒビが入って、徐々に秋野かえでの杖穂先がめり込んでいく。
「……後ろ、見なよ」
「え? ……っ!?」
水波レナの背後は断崖絶壁。それは悪魔がパーフェクト・マスィーンを落とすため、雨刀で床を切り刻んだ為に形成された落とし穴だった。
(まずい、逃げ場がない……! どうしよう、どうしよう……!?)
「私はレナちゃんが好きだよ。でも喧嘩はもう嫌なの。だから一緒に落ちて全てを終わらせよう。……ほら、鐘の音が聴こえる……」
ガラガラを音を立てて瓦礫が奈落に落ちる。そこで水波レナは手元に固い感触を覚えた。何事かと手元を見やれば、そこには一枚のカードが落ちていた。橙色を基調とした円環の絵柄。それは冬樹ヒュウガが使っていた“スタンドを呼び出すカード”であると、水波レナは思い出す。
(これ……使うしか、ないの……!?)
でなければ脳天を串刺しにされて殺される。パリンと割れた硬化の盾。差し迫る刺突を目にした水波レナは、ギュッと目をつむりカードを掲げた。たとえそれの代償が、魔女のように変貌した冬樹ヒュウガを思わせるとしても。
「たすけて……!」
しかしカードはカードのまま。なんの力も発動しない。そして杖の先端は水波レナの額に────ではなく、飛び込んできた黒い影を突き刺した。
「ぁ……」
悪魔の胴体を貫通した杖から血が滴る。続けて十咎ももこが秋野かえでを羽交い締めにして、環いろはの光矢が杖を破壊した。武器を失った秋野かえでは身を揺り動かし、羽交い締めから逃れようとする。
「ぐっ……!?」
頭を思いっきり後ろに振ることで十咎ももこの顔面に頭突きを見舞い、足を後ろに絡ませることで十咎ももこのバランスを奪う。
「おとなしく……していろ……!!」
膠着状態で揉み合う十咎ももこと秋野かえで。
その目の前では悪魔が腹部の風穴から血を流しており、ぐったりと両膝をついた。
「あ、
「っ……」
自分を庇って負傷した悪魔。それを目にした水波レナのソウルジェムが黒く濁る。
そこで悪魔は直感した。同時に十咎ももこから驚きの声が上がる。
「なっ……!?」
秋野かえでが
「レナちゃんっ!!」
────足場が崩れた。暴れまわっていた秋野かえでが、いの一番に落下を始め、その場にへたり込んでいた水波レナも助けを求めるように手を伸ばして背中から落ちていく。その手を取ろうと駆け付けようとした環いろはの傍らに、死を予感させる気配が訪れた。
「
「カハッ……ッッ!!?」
腹部にめり込む透明の腕。不可視の存在に殴り飛ばされた環いろはは地を転がる。
廊下にうつ伏せる悪魔、十咎ももこ。教室にうなだれる百江なぎさ、暁美ほむら、鹿目まどか。
崩れ行く絶交教室と廊下の一部は、彼らを奈落に連れ去った。
そうして、ただ一人取り残された環いろはは口の端から唾を垂らし、クロスボウを構えて足腰を震わせつつ立ち上がる。
「これでようやくタイマンだ……我のポリシーは各個撃破……この時をずっと待ってイタ……最弱の魔法少女よ……」
「くっ……このぉっ!!」
環いろはの光矢が速射される。それら全てを容易く打ち払い、間を縫うように躱して接敵したスタンドは、再び環いろはにラッシュを決め込んだ。
「キャアアアアア────ッ!!!」
「馬鹿の一つ覚えが……スタンドは、スタンドでしか倒せナイ……!」
†
奈落へと落ちていく最中、ウワサさんが次のステージを噂する。
《アラもう聞いた? 誰から聞いた? 絶交式場のそのウワサ
それは絶交階段のウワサの最後、誰も知らない決戦場
鐘が鳴れば開戦の合図、絶交式は殺伐と血まみれ
絆と愛を神に捧げて、縁を切ろうこの世の春と!
仲裁者は献花をひと束、絶交二者は狂化をひと嗅ぎ
さぁさぁいざいざ、絶交空間大一番!
ここで観ていれば愉快な殺し愛が拝められるって
新西の女の子の間じゃもっぱらのウワサ
ナカヨ死ー!》
†
水色の世界。白骨の降雨。言葉散らばる想いの墓場。
雨上がりの霧に包まれしは二重螺旋の大階段。其は頂きの
招待客は二名の少女。南京錠がパスポート。
観光客は六名と一匹。南京錠が逮捕状。
大鐘轟く決戦場に、まずは許さじ紅葉が一魂。ひび割れた想いを震わせて、絆と愛を
今まで受けた恥と恥辱。不名誉な
「ァァ────キモチィイ~────」
「恨みを晴らす。報復だ。逆襲だ。胸の奥底の芯が震える。慄える。
「今こそ魅せよう。押して潰して隠した秘め事。飾り立てた言葉は不要。今から披露する技の冴えを一見すれば、それだけで私の想いが解るはず────」
秋色のソウルジェムが黒く渦巻く想いにどっぷりと満たされる。粘り気のある瘴気の放出。肉体を縛る呪いは秋野かえでの心を蝕む。具現化した瘴気の形。それを操るべき術者は、未熟ゆえに操られる傀儡と化し、感情を映すはずの顔面は白い仮面に覆われて、黒く目開く微笑の
「────」
足元の影から奇形の鳥が這い登る。球体の胴体は花開く単細胞の如き色彩。前面は
仮に名付けるなら陣取りの半魔女。その姿は敷地。出現したが最後、自らの生活圏を保護するべく、周囲を
鳥居突き刺さる絶交階段は腐り苔に侵食されて部分崩壊。
一方、遥か上空から降りきたる六つの流星は点在する鳥居の屋根に着地した。
「ぐ……っ!」
「おい、悪魔! 大丈夫か!?」
致命傷を受けて動けない悪魔に着地は不可能。
そう判断して彼を空中で捕獲していた十咎ももこは、傷が悪化しないよう柔らかな足腰で鳥居の屋根に降り立つ。
「まどか、ほむら、返事をするのです!」
「っ……私は大丈夫!」
「わ、私も……です!」
百江なぎさ、鹿目まどか、暁美ほむらも、それぞれの鳥居の屋根に無事降り立っており、互いの安否を確認。
「っ────」
そして秋野かえでの正面にある鳥居の屋根に降り立った水波レナは、怖くて面を上げることができなかった。前方から向けられる膨大な敵意。莫大な殺気。圧倒的な気迫。恐ろしいほどの害意。それを真正面から受け止める気概を、今の水波レナは持たない。
「でも……うられた、ケンカは、かうのが、すじ、よね。それが、ともだち、のこと、なら、なおさら……!」
水波レナは毅然と立ち上がって拳を握り締める。額には冷たく滲む汗。期待していたカードは無反応。そこで思い出す。たしか冬樹ヒュウガは「ペルソナ」と叫んでカードからスタンドという力を発揮していた。その末路が魔女であるとしても、その危険を冒さなければ魔女化する前に
「かえで……アンタ、さっき、レナの、こと……すき、ほーだい、いって、くれた、けど……」
恐怖を憤慨で誤魔化す。縮み上がる身体を熱気で剥がす。
「レナ、だって、アンタに、いいたいこと、たくさん、あるのよ……
奮い起こされた闘気に応じてカードが光り輝く。
象徴は円環。属性は魔。性質は調和。
それが水波レナの精神と交わり、今────
「ペル、ソナ────ッ!!」
得体の知れない半魔女の力に対抗できる戦力はスタンドしかない。
そう判断した水波レナは、軽率にもそれを使ってしまった。
「も、ももこ……レナを、止めろ……」
「……え?」
「正常な判断力を、失っている……!」
悪魔は直感していた。
その一方で、緊急事態ゆえ腹部を貫通された時から晴の炎で活性を施していたが治癒が間に合わない。十咎ももこに着地を任せた際、彼女のソウルジェムに触れて魔力を吸収し、施術魔法を行使したが、それでも傷が癒えない。雨の炎による鎮静効果でも激痛が抑えられない。それはなぜか。理由は明快。秋野かえでは“傷”という
しかして後悔先に立たず。
「ッ……!? な、なに、これ……むねが、あつい……のうが、やける……ひぎぃっ!?」
水波レナの傍らに精神エネルギーが膨張する。それは精神生命体のような偶像的気配を伴って表れるのかと思いきや、途中で雲散霧消した。同時に水波レナの精神が軋みを上げる。
悪魔は悔いた。直感していたのに後手に回った失態だ。
半魔女化した秋野かえではともかく、絶交式場に落下する前から水波レナの心情は不安定だった。しかし絶交式場に招待された時から水波レナの心情は不思議とハッキリ固まっていた。それは闘争心が発露したがゆえ。だがそれだけではない。やけに言葉がたどたどしくなり、言語能力は幼児レベルまで単純化し、複雑な思考が困難になっているように見えた。
────《絶交二者は狂化をひと嗅ぎ》────
冬樹ヒュウガがカードを使って半魔女化した。その光景は水波レナも見ていたはずだ。たしかに半魔女の力は脅威だが、仲間と力を合わせればカードに頼る必要はないと気付くはず。ならばなぜ水波レナはカードに頼ったのか。理由は単純。周りが見えていない。独りで秋野かえでに立ち向かおうとしている。だが自分ひとりで解決しようとしたのは、彼女が傲慢だったからでも責任を感じていたからでもない。純粋に狂化が悪い方向に影響したせいだ。
「ギッ……! アガッ……!?」
そして今、なぜ水波レナは悶絶するように苦しんでいるのか。
悪魔の疑問に応えるように、忽然と現れたウワサさんが噂する。
《アラもう聞いた? 誰から聞いた? ペルソナカードのそのウワサ
それはスタンド“立ち向かう者”を召喚する不思議なタロット
選ばれし者だけが使える運命の引き合わせ
黄金の精神、漆黒の意志、強靭な精神力が適性の証
でなきゃ廃人魔女魔物。化するは未熟の皮被り
コワイ者だけコチラへようこそ! 一級魔法特権者!
もし並大抵の精神力でカードを使えば自滅しちゃうって
マギウスの翼の間じゃもっぱらのウワサ
セツメイテキー!》
未熟な心は自滅を意味する。ならば、狂化されている水波レナがペルソナカードを使えばどうなるのか。
胴体の孔から血を垂らす悪魔は、水波レナからペルソナカードを奪い去る。だが彼女の苦悶に変化なし。それどころか悶え苦しむ姿は激しさを増し、不意に水色のソウルジェムにヒビが入った。
『────ッッッ!!!』
大規模な魔力の無駄遣い。精神的な未熟さが自滅を呼んだ。水色のソウルジェムが穢れで満たされる。瞬間、煌びやかな瘴気の放出は閃光を伴って爆発し、圧倒的な爆風が絶交式場の空間を薙ぎ払う。大鐘が鳴り響く。上空から数千数万に及ぶ絶交南京錠の群れが竜巻のように旋回飛来。龍のような形状を象って水波レナに激突。否、水波レナの胸元に一体の絶交南京錠が
水波レナの足元から異形の姿が這い登る。汚い水の髪。可愛らしいカチューシャとリボン。一本足がガラスの靴を履き、一本腕の触手が世界で最も美しい女を映す鏡を持つ。鏡に映るは水波レナ。否、それは世界で最も醜い女。故に映るべき姿を変えねばならない。変身するは憧れの姿。理解から最も程遠い理想の姿。武士の兜。首紐に巻く短刀。首なし和装の巨人が峙つ。介錯すべき罪人を一人。選べば大太刀、素首を落とす。
仮に名付けるなら変身の半魔女。その姿はガラス靴。出現したが最後、自らを理想の他者へと変質させる。その偽装は完全無欠にして完璧な擬態。なぜなら理想とする本物を更に理想化させた憧れの究極系。憧憬の具現化なら理解は不要。ただ自らの理想を追求する虚しき貪欲の権化が正体。
「────うそだろ……レナ、かえで……」
十咎ももこは仰いで
巨体の蹂躙。暴力の化身。
介錯の太刀は百の鳥居を薙ぎ払い、腐り苔は介錯人の足元から侵食して腐り落としていく。
「……っ。これはいったい……!?」
悪魔は驚愕する。冬樹ヒュウガの時も見た半魔女化。それが秋野かえでと水波レナにも見られた。ソウルジェムが濁りきれば魔女化するはず。それが半分で抑え込まれているのはなぜか。悪魔は直感する。まだ二人の魂は取り戻せる。半魔女化した魂は穢れ切っていない。この暴走を食い止めれば助かる見込みがある。たとえソウルジェムにヒビが入っていても。魔法少女として戦うことは今後絶望的でも。命あっての物種だと信じて。悪魔は決断した。
「レナとかえでを倒して落ち着かせる! みんな、手を貸してくれるか!」
『────っ!!』
次の瞬間、無数の槍が下方から駆け上がり、二匹の半魔女を貫いた。
「馬鹿ね! その重傷でウワサの本体を相手に何ができるというの?」
「ガウ!」
「やちよ! ナッツ!」
七海やちよの参上。彼女は悪魔の狙いを見抜く。魔女の仲裁を他の魔法少女に任せる代わり、自分だけウワサの本体を倒そうとしていた事に。
「後輩は守る。魔女とウワサも倒す。どっちもやらなきゃならないのがベテランの忙しいところね!」
大鐘に硬槍が激突。絶叫するように鳴り響く大鐘は超音波を発し、全員の鼓膜が破裂する。痛覚遮断でも出血は止まらない。聴覚を失った。すぐさま七海やちよは全員に念話を繋ぎ、役割分担を指示する。
(鹿目さんと暁美さんは厄介なハエ共の撃墜をお願い! ももことなぎさは腐蝕の魔女の相手、でも無理はしないで! 巨人の魔女は私と悪魔が倒す!)
そうと聞けば鹿目まどかの早業連射が絶交南京錠の群れを撃ち落とす。暁美ほむらの銃器連射もサポートとして機能し、十咎ももこと百江なぎさの道を拓く。
(そして忠告ッ!! ウワサには魔女と同じく耐性や弱点が存在する! 絶交ルールのウワサは名前から分かる通り、まず間違いなく性質は絶交! ならば耐性は“不仲”と見るべきで、自然と弱点は“絆”とか“親密”とか、そういうのだと分かる! だから仲違いせず協力攻撃を基本として!)
(『────了解ッ!!!!!』)
そこで悪魔が状況を説明した。
(だが待ってくれ、やちよ。アレは魔女であって魔女ではない。半魔女と言うべき状態だ)
(……なんですって? 確かに魔女にしては魔法少女の体が残っているし、変だとは思ったけど……)
(まだ二人を助けられる可能性がある。だから────)
(なら方法を提示して。でなきゃトドメを刺すだけよ!)
七海やちよは槍を投射。巨人の半魔女の肉体を貫き、悪魔は太刀を回避して鳥居に着地。傷口からドクドクと激しく出血している。施術魔法を行使して傷口を塞ぎ、すぐさま戦線に復帰。
一方、十咎ももこと百江なぎさは赤色と紫色の魔力を織り交ぜて、分解の魔力を増殖。それを一斉に放出させつつ薙ぎ払い、泡を破裂させることで、絶交南京錠の群れを一掃した。そして魔力の高速再生で鼓膜を回復。
「それでももこ! どう戦うのですか!?」
「とりあえずあの苔に触れるのはヤバい! いつでも互いをフォローできるよう固まった方がいい! そしてレナは巨人で、かえでは腐蝕苔だから……とにかく仲裁! お互いを殺させないよう適度に間に割って入る!」
「要するに行き当たりばったりなのです!? それは作戦とは言わないのです~!!」
十咎ももこの魔力を増殖し放射。腐蝕苔を分解していくが、それを上回る侵食力が絶交式場を呑み込んでいく。
「……待って。そういえば環さんはどうしたの?」
七海やちよの質問。
悪魔は自らの頭を指で叩く。それは念話の合図。鼓膜が破られているため念話を所望していた。
(おそらく上に取り残された)
(一人で? 大丈夫なの?)
(今のところ危険は直感していない。だが危うい感じは続いている……)
(……直感……ね。それよりあなた、帰ったら覚えておきなさい)
(反省はしている。せめて方針を告げてから行動に移すべきだった)
(おかげで後手に回ったわ。たとえ結果は変わらなくても過程は大事よ)
(あぁ……肝に銘じておく)
たとえ悪魔が単独行動しなくても、敵スタンドの先制攻撃は受けていた。つまり二人の半魔女化は悪魔の行動に関わらず避けられない展開だった可能性が高い。だとしても個人プレーは見過ごせない。協力という意味を考えろと、七海やちよは口を酸っぱくして悪魔の失態を咎める。
そこで悪魔は改めて思う。
(今朝の半魔人化然り。今まで独りで問題を解決しようとしてきた
入り乱れる魔法少女と半魔女、無数の絶交南京錠の大乱闘。
大鐘の真下に立つウワサさんは口の端を引き、それをじっくりと眺めていた。
《さぁさぁ御覧じろ。絶交空間大一番、いざ開幕の
────その時、悪魔は誰かの壮絶な死を直感した。
†