※この作品はR-18です。

アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO!   作:形のない者

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【水波レナと秋野かえでを生き返らせる】悪魔

 

 暗い。昏い。冥い。闇い。

 昧い晦い曖い沌い蒙い喰らい尽くすような地の底に。水波レナは落っこちた。

 

 一度転がり始めれば地の底まで落ちていく。それが水波レナという惨めで哀れな人間の末路である。

 そんなことは分かりきっている。言われずとも判る。見れば解る。振り返れば自他ともに明白なことだ。

 だがしかし、だからといって、そのことを秋野かえでが言えた義理だろうか。

 

 鼓膜を破る響鳴の中、決して許さぬ合わせ鏡が二枚。ひび割れた想いを震わせて、絆と愛を雪劫火(そそごうか)。

 今まで受けた矢と毒針。水で洗い落とせぬ汚れの指摘。辟易するは無自覚の煽り。毎秒常に一言多く、舌足らずな言い回しが余計に神経を逆撫でし、無遠慮な申し出は指折り数えて疾うに諦めた。……否、絶交宣言した今だからこそ出来ることをしよう。その性悪さを排除する。それは切り捨てる為の最後通告。死期を悟り、希望を失い、絶望を知り、絆を断ち切った今だからこそ可能な絶交調教。愛ある拳を喰らうがいい。反転した憎悪を身に染み込ませるがいい。決別の時だ。最期にその悪性を介錯してやる。

 

 首のない袴の巨人。その太刀が切り落とされる。青とオレンジが混じるキレイな水と炎に邪魔されて介錯できない。どうして。どうして邪魔するのか。思い通りにならないことに絶望は深まり、いよいよ我慢の表面張力が限界に達した。

 

「────己悪己悪己悪ォオオオオオオ────」

 

 硝子(ガラス)の靴は主を蹴り飛ばす。

 鳥居(とりい)の嘴は主を腐り落とす。

 

 水波レナと秋野かえでの肉体は腐り苔に覆われた階段に落下。首回りから腐り、衣服も溶け、血だまりの上に腐肉が蒸発。剥き出す頭蓋、アバラ骨、白い脊髄さえも、緑に侵されて朽ち果てた。

 

 爆縮するは魂の宝石。赤いナミダと青いモミジが砕け散る。黒い瘴気を吐き散らすは急速に萎(しぼ)む魂の骨格。穢れの種は絶望を拠り所に、変身と陣取りの魔女を実らせた。

 

「ぐっ……! そんな……ウソだろ……こんなことって……っ! レナ、しっかりしろ! 頼むから……お願いだっ!!!」

 

 爆縮したソウルジェムによる一陣の風に耐える十咎ももこは目を疑う。目の前で起きた出来事が信じられない。この惨状は到底受け入れられない。

 

「……」

「そんな……ほむらちゃんの言ってたことは、本当だったんだ……」

「っ……!」

 

 百江なぎさは静かに魔法少女の成れの果てを見守る。鹿目まどかは初めて魔女化を目にし、暁美ほむらは二人の死に歯噛みする。

 

「────」

 

 七海やちよの眼球が激しく揺れ動く。知り合ってまだ一年と少し。だが弱小魔法少女の寿命としては平均を少し超えていた。だがまだ生きていられたはずだ。これは誰にも咎はない。あるとすればインキュベーターと死んだ魔法少女自身の問題だ。そして彼女たちを守りきれなかった七海やちよの責任だ。否、魔法界に生きる者なら当然の自然淘汰。だとしても遣りきれない万感が、身の毛を這い回る蟲のように掻き毟(むし)ってならない。

 かくて感傷は油断を孕み、決意と覚悟を鈍らせる。容赦と自罰に苛む彼女の思考は戦場の兵士もかくやの遂行意識に瞬く間と切り替わり、よろずの感情を排することで肉体は戦闘に適応した動きへと機械のごとし精巧さで最適化される。

 

「魔女化……だと……!!」

 

 二人同時の魔女化。あまりにも突然の出来事を目撃した悪魔の心は混迷を極める。

 それを察した匣の中のキュゥべえは、半魔女化を感知した時からずっと思っていた考察を語り始めた。

 

「今のボクはすこぶる調子がいい」

「!」

「神浜市には僕らの機能を奪う“ナニカ”が働いている。だが結界の中に入ると僕らは再起動を可能とする。それと同じことだよ」

「……まさか……」

「神浜市には魔女化を抑制する“ナニカ”が働いている。だから彼女たちは半魔女化という不可思議な状態で留まっていた。だが結界の最奥に深入りしたことで、その“ナニカ”がこ(・)こ(・)ま(・)で(・)届(・)か(・)な(・)く(・)な(・)り(・)、ついに水波レナと秋野かえでは魔女化した」

「────」

「たぶんそういうことだと思うよ」

 

 変身の魔女は現在、短刀からなる介錯巨人に変身している。巨人の鎖骨が破れてガラスの靴がこんにちは。陣取りの魔女の鳥頭に突き刺し血を撒き散らす。その膨大な流血がガラスの靴の中に注がれていく。これに砂糖漬けされた(マラスキーノ)チェリーを添えればカクテルの完成だ。しかしそれは変身の魔女にとって決して許容できない名前。別人に変わりたい魔女はガラスの靴に別人となるための血を注ぐが、それをシェイクして出来上がるのはいつも“レナ”である事に絶望する。カクテルを飲めるような大人になれば人が変わるかもしれないという希望は呆気なく崩れ去り、変身の魔女は暴れまわる。

 

「っ────レナ! もうかえでを傷付けないでくれ! レナの気持ちはアタシが受け止める! だから……っ!!」

 

 十咎ももこの悲痛な呼び声は魔女に届かない。そして陣取りの魔女が撒き散らした血の数滴が十咎ももこの体に付着した瞬間、その部分が焼けるように痛みなく腐り落ちていく。

 

「ガッ……!? かえ、で……ッ!!」

 

 もしソウルジェムに陣取りの魔女の腐血が付着すれば即死だった。そして一瞬の動揺が、次なる死の可能性を招く。戦場で心動かされる事は死神の接近を許す事と同義。今が好奇とばかりに無数の絶交南京錠が飛びかかる。

 

 それを七海やちよの飛槍が撃ち落とす。

 橙炎噴射の高速飛行で十咎ももこの腕を攫った悪魔は一直線に急上昇。

 

 ウワサの本体が大鐘を鳴らす。互いを攻撃し合う二体の魔女は、その鐘の音に操られるように矛先を魔法少女たちに変えた。これら三体を同時に相手取るのは危険すぎる。そう判断した悪魔は一時撤退を決め込み、七海やちよも同じ判断を同じタイミングで下していた。

 

「一時撤退よ! 総員避難!」

「ひ、避難って言っても……!」

「どこに逃げれば……」

「────! みんな、上を見るのです!」

 

 悪魔は刀剣魔法で三本の刀を作成し、それを地上に投げ付けていた。それが助太刀魔法を宿した刀であることを知る暁美ほむら・百江なぎさは、悪魔の意図を察して動く。

 

「まどか、あの刀をキャッチして!」

「え、えぇ!?」

 

 それを邪魔する絶交南京錠の群れ。鳥居から鳥居へ跳躍し、飛来する刀の落下地点へ急ぐ鹿目まどかは、不意に前方に群がる絶交南京錠に壁を作られて激突。「きゃっ!」落下。地表は腐蝕苔で覆われている。もし尻餅を搗けば瞬間、下半身が腐り落ちる事になる。「まどか!?」刹那、七海やちよの肩から飛び上がったナッツが咆哮を上げた。

 

「GYAOOOOOOOOOOOOOO!!」

 

 それは音速に匹敵する調和効果の魔力放射。鹿目まどかの落下地点に苔むした腐蝕物を風化させる。そこでエネルギーが尽きたのかナッツは悪魔の匣めがけて吸い取られるように帰還する。匣に強制収納されたのだ。

 

 鹿目まどかは階段に落下。尻餅を搗いて段差を数段滑り落ちるが、ギリギリ腐蝕苔の範囲に入る前に停止する。「あ、危なかった……!」「まどか、上!」ほむらの声。頭上に飛来する刀をキャッチした鹿目まどかは使い方を聞く。「刀に魔力を込めて、悪魔の姿を念じるのです!」百江なぎさに言われて目をギュッと瞑り魔力を流す。

 

 次の瞬間、刀の消滅と引き換えに、鹿目まどか・暁美ほむら・百江なぎさの三人は、悪魔の周囲に瞬間移動した。そして自由落下を開始する。

 

『え────きゃああああ!?』

 

 空を飛べない三人は高所の大空から落ちるしかない。暁美ほむらはスカートが舞い上がらないよう押し隠して股を閉じる。

 刹那、無数の槍が天に昇り続ける。絶交南京錠の群れを突き穿ちながら、槍の上に立つ七海やちよが飛んできた。

 

「槍に乗って! このまま逃げるわ!! 瞬間移動で絶交南京錠の裏を完全にかいた! 今のうちに追跡を振り切るわよ!」

 

 鹿目まどかは傍らを通過する槍に魔法の弓杖を絡ませ、槍の勢いに任せて急上昇。運動神経のない暁美ほむらはアタフタとするが、途中で鹿目まどかが手を伸ばし、その手を取ることで回収される。百江なぎさは巨大シャボン玉の上に乗って浮遊し緩やかに上昇。だがのんびりしている暇ない。さらに槍がシャボン玉を貫いて破裂。その破裂した衝撃波を利用して空を飛んだ百江なぎさは、狙いすましたかのようにカッ飛んでくる七海やちよの体に抱き着こうと手を伸ばす。思わず七海やちよも応えるように手を伸ばし、百江なぎさの手を取って回収した。

 

「ちょっと! なんで私の方に?」

「こんな高速で飛び上がる槍に掴まれと言う方が無茶なのです! やちよはかぐや姫なのですか!? なぎさは無茶なことはやらない主義なのですっ!」

「なら口を閉じてなさい! 舌噛むわよ!」

 

 天上を昇り続け、やがて大気圏を突破して宇宙に到達するかと思いきや……ふと世界の色彩は移り変わり、夕暮れの絶交教室が見えてくる。空中に浮かぶ無限回廊の端は見えず、悪魔は窓ガラスに体当りして廊下を通過し引き戸を倒して教室に転がり込む。

 

「ぐあぁっ!?」

 

 悪魔の乱暴なダイナミック・エントリーに悲鳴を上げる十咎ももこ。続いて鹿目まどかと暁美ほむらも窓ガラスを突き破る槍と共に廊下に転がり込み、槍に貫かれた壁を破壊して教室になだれ込んだ。槍に立つ七海やちよと槍に跨る百江なぎさは割れた窓から廊下に降り立つ。

 

「今すぐ遮断の砦を造るのです! やちよも教室に入るのです!」

「……! 分かった。任せたわ。それで敵の感知を振りほどけるのね?」

 

 七海やちよは一瞬だけ窓の下を覗く。そこには猛追する絶交南京錠の群れ。

 一方、百江なぎさは壊れた教室に野営魔法を行使。遮断効果を持つ魔力を浸透させて、誰にも見つかる事のない鉄壁にして不可視の空間を形成した。

 

「────ッ! いろは!!」

 

 不意に悪魔が叫びを上げる。その手に刀が現れると、悪魔の姿は忽然と消えて、また忽然と現れた。

 その傍らには血(・)ま(・)み(・)れ(・)の(・)環(・)い(・)ろ(・)は(・)が倒れていた。全身に打撲痕。顔や体のあちこちが腫れ上がっており気絶している。

 

「……いろは、ちゃん……?」

 

 十咎ももこの消え入るような声。水波レナと秋野かえでに引き続き、環いろはの無残な姿を見て恐れおののく。

 

「い、いろはちゃん……! 起きて! 死ぬな! 目を覚ませ! ぁ……か、回復! 誰か、治癒魔法を使える魔法少女はいないか!?」

「わ、私が見ます!」

 

 鹿目まどかが駆けつけて治癒魔法を掛ける。みるみると傷が治っていく環いろは。衣服に付着した血痕も浄化されていく。

 

「……いろはの死を直感して駆けつけたのですか、クマ吉」

「あぁ……こいつはすごいよ。一方的にスタンドに殴られる戦闘状況を、ひたすら治癒魔法を自分に掛け続けることで耐え切っていたんだ……」

 

 悪魔は拳を握り締めて歯を食い縛る。

 

(まさかスタンドと戦っていたとは……命の危険を直感しなかったからとは言え、環いろはの安否確認を怠ったのは完全に間違いだった。もっと早く気付いていれば、こんな拷問のような戦闘はさせなかったのに……っ……)

 

 悪魔の体が震える。その様子を見ていた暁美ほむらと百江なぎさは、不意に廊下側から爆音が鳴り続けた事に驚いた。

 

「騒がないで。絶交南京錠の群れが廊下に侵入してきただけよ。壁をぶち壊して、ね……」

 

 廊下を埋め尽くす絶交南京錠は一つ一つ教室の中を覗き込んで標的を捜している。そして悪魔たちが避難した教室の中を覗き、戸の窓から外を覗く七海やちよと目が合ったはずだが、その絶交南京錠は何事もないかのように次の教室を覗きに行った。

 

「……ど、どうして……?」

「ほむら、教えてやるのです。なぎさは藍色の魔力も使えるのです。つまり構築効果。よって向こうからは、特に代わり映えのない普通の教室に見えていたはずなのです」

「紫色の魔力を持つ魔法少女は、同時に藍色の魔力を持つことが多いわ。なぎさ、お手柄ね」

「えっへんなのです!」

 

 七海やちよに褒められた百江なぎさは当然の賛美だというように胸を張る。

 

「────…………うぅ……あれ、私……」

「いろはちゃんっ!!」

 

 環いろはが目を覚ます。その体を強く抱き締めた十咎ももこはポロポロと涙をこぼしていた。

 

「も、ももこさん? あの、痛いです……!」

「よかった……ほんとうに……生きてて……」

 

 困惑する環いろは。泣き崩れる十咎ももこ。それ以外の者たちは沈鬱な顔を並べる。

 

「……? ……、────」

 

 環いろはは教室の中を見渡す。傍らに座る悪魔。目が合うと微笑んでくれる。きっと彼が助けてくれたのだと知る。だが、その顔は苦痛に歪んでいた。体力の消耗だけではない、精神の摩耗も含まれていると、どことなく感じる。そして自分を強く抱き締める十咎ももこはなぜか泣いている。七海やちよは目を逸らし、暁美ほむら、百江なぎさ、鹿目まどかは見るからに落ち込んでいる。

 

(……レナちゃんとかえでちゃんがいない……)

 

 それに気付いた環いろはは、まさかと問いかける。

 

「あの、レナちゃんとかえでちゃんは……?」

「────っ! ……っ……」

 

 ハッとした表情を浮かべた十咎ももこは、さらにキツく環いろはを抱き締める。

 

「……そんな。うそですよね? 二人は……」

「レナとかえでは……魔女化したわ」

 

 七海やちよはピシャリとした声色で真実を告げた。

 環いろはの瞳が激しく揺らぎ、ソウルジェムに濁りが増す。

 

「……いろは」

「…………」

「みんなも聞いてくれ」

 

 生気のない悪魔の声が教室に残響する。

 

「今は生き残る事が先決だ。二体の魔女とウワサ、そしてスタンド。この四面楚歌の戦況を打開する為には、作戦を立案し、俺が持つ切り札を使う必要がある。だが……死者を思う時間は残されている。今は休もう。オレも疲れた……」

 

 度々の魔法行使で疲弊した悪魔の生命力は残り少ない。加えて二人を守れなかった責任感が精神的なストレスに拍車をかける。

 

 ────そして訪れた、古傷が痛むような沈黙の時間。

 

 静かに痛む時の流れに我慢できなかった悪魔は、悩んだ末に状況を進展させた。

 

「全員、ソウルジェムを見せてくれ。穢れの蓄積を確認したい。──やちよはスタンドを警戒してくれ。雨……じゃない。青色の魔力の熟練性質────」

「発散効果を使って網(・)を(・)張(・)れ(・)と言いたいんでしょ。とっくにやっているわ」

「助かる」

 

 魔力を周囲に発散させる事で、空中に漂う魔力に触れたモノの位置を特定する。その熟練技を使うことで、七海やちよは誰に言われるまでもなく警戒に当たっていた。天井・床・壁。四方八方に魔力を散布し、それらをすり抜けてくるスタンドへの対策を万全のものとする。

 

 悪魔は全員のソウルジェムを確認して開匣。髑髏印の眼帯とナッツが飛び出る。

 

「ガオ?」

「オレに考えがある。止める前に話を聞いてくれ。──今から全員の穢れを吸収する」

「──! なんですって……? あなた、また懲りずにそんなことを……! 本気で言っているの!?」

「やちよ。確かに今朝は暴走した。だが最後はナッツのおかげで制御下に置くことができた」

 

 そこで環いろはが物申す。

 

「でも……万が一があったら……」

「穢れの吸収のコントロールが利かなくなれば髑髏の眼帯を付ければいい。半魔人化してもナッツが即座に呼び戻してくれる。それに瘴気の制御方法は既に直感している。邪魔さえ入らなければ成功する。その邪魔をも取り除く為に、呪印形態になる際は身辺警護を頼みたい。それでいいだろ」

「あなたね……」

 

 わざわざ危険な賭けに出ようとする悪魔をたしなめようと七海やちよが前に出る。

 

「ではほかに方法があると?」

 

 ない。だからこそ七海やちよの足が止まる。

 しかし彼女の細めた目つきは、凄まじい気迫を伴って悪魔を睨めつけていた。

 

「まずは現状を確認しよう。いま判明している敵の数は、絶交式場のウワサ、変身の魔女、陣取りの魔女、そして二体のスタンドだ。ウワサは魔女を従えており、スタンドは各々の思惑で動いている。敵の共通点は、どいつもこいつもオレたちを殺そうとしていることだ」

 

 七海やちよは腕を組んで目を瞑る。百江なぎさは椅子に座り、背もたれの部分に顎を置く。暁美ほむらは立ち尽くし、座り込む環いろは・十咎ももこ・鹿目まどかは、目の前の悪魔の話に耳を傾ける。

 

「次いで、こちらの戦力を分析する。総合的な戦闘力から判断すれば、上からオレとやちよ、ももこ、なぎさ、ほむら、いろは……となる。まどかは不明だ。お前が戦っている所を見たことがないからな。そして、この中で魔女とタイマンを張れるのはオレとやちよだ」

「待って。その中には鹿目さんも入るわ」

「……本当か?」

「え? わ、私、ですか……?」

 

 七海やちよに嘘はないと直感。彼女が認めるならその通りなのだろうと悪魔は受け入れる。

 

「魔女と一対一で勝てる強者が三人……ももことなぎさはサポート役が複数いれば魔女に勝てるレベルだ。つまりオレたちの戦力は、大雑把に魔(・)女(・)ク(・)ラ(・)ス(・)が(・)五(・)人(・)ということになる」

「えっと……敵の数は五体だから……互角なのですよ!」

「ただし、それは相討ちを前提とした換算よ。半々の確率でどちらかが死ぬってこと。現実的な勝算とは言えないわ」

「やちよの言う通りだ。そのため少しでも勝率を上げるため属性相性で有利を取る。そうすれば五割の勝率は一割から二割ほど上昇する」

 

 悪魔は全属性を使用可能。

 七海やちよは青緑紫(水木闇)。

 鹿目まどかと環いろはは黄色(光)。

 暁美ほむらは紫(闇)

 百江なぎさは紫藍(闇無)。

 

「絶交式場の属性は不明だが、陣取りの魔女は緑色の魔力だ」

「……十咎さんが、陣取りの魔女に有利ですね。変身の魔女は……」

 

 暁美ほむらの言葉を悪魔が続ける。

 

「変身の魔女は巨人に変身した際、黄色の魔力を発していた。ここから分かることは、おそらく変身先で属性が変化するタイプだ。橙色か藍色で属性相性に頼らない戦闘を展開しないと対策される可能性が高い。理想は赤青緑の三人組が同時に立ち向かう事だ。どんな属性に変化しても弱点を突けるからな。もちろん黄色か紫色のコンビでもいい」

 

 そこで誰もが思ってしまう。

 水波レナと秋野かえでがいれば、十咎ももこと組んで赤青緑のチームが組めたのに……と。

 

「……じゃあ、私とほむらちゃんが、変身の魔女を……?」

「まどかとほむらは、自分たちの連携に自信はあるか?」

「え? えっと……」

 

 鹿目まどかは暁美ほむらを見る。そこで暁美ほむらは嫌でも気付いた。力不足の自分では、連携どころの騒ぎではない。逆にまどかの足を引っ張るだけだと。

 

「変身の魔女が今の姿のままで襲ってきた場合、ほむらが弱点を突かれる形になる。つまり、まどかはほむらというお荷物を抱えた状態で戦うことになる。それを覆すほどの連携は可能か? と聞いている」

「…………っ。ちょっと、難しいです……あ、でも! ほむらちゃんは全然お荷物なんかじゃなくて……!」

「分かってる。ただ運動に慣れていないだけだ」

 

 悪魔の真実しか告げない言葉が、暁美ほむらの胸に深々と突き刺さる。だからこそ、もっと強くなる必要がある。

 

(もし、ここを生きて出られたら、絶対に……)

 

 暁美ほむらは傷ついたからこそ決意を秘める。それを直感した悪魔だが、今はそれどころではない。彼女が何を考えるのか考察するよりも、もっと踏み込んだ作戦を提案する。

 

「理想は完全勝利。せめて九割から八割の勝算が欲しい。だが五分となれば手詰まりだ。勝算が低い戦いは避けたい。オレはもう誰も喪いたくない。これならオレが単騎で挑んだ方が遥かにマシだ。思う存分、全力を出し切れる。やちよにお守りを任せてオレが突貫する……そんな作戦も悪くないと思わないか?」

「そんな……そんなのダメです! 私も戦います! 悪魔さんにだけ任せられません!」

「そっちの方が全員の生還率が高い。足でまといだと分かって言っているのか?」

「それは……そうですけど……でも……」

 

 環いろはは歯がゆさを感じていた。力になれないこと。役に立てないこと。もし役に立てるなら命だって惜しくない。そんな自己犠牲の精神を、悪魔は直感した。

 

(……仮にオレが単騎で突撃したら、いろはが暴走する可能性が出てきたな……)

 

 悪魔は思う。余計な事を考える。

 

(もしキュゥべえなら、こう言うかな。『半端な善人ほど邪魔なものはないね』と)

 

「……分かった。一騎当千の作戦は没だ」

 

 環いろははホッと胸をなで下ろす。

 そして悪魔は別の作戦を提案した。

 

「さっき、オレが言ったこと……覚えてるか?」

『────?』

「オレには切り札がある」

 

 ────この四面楚歌の戦況を打開する為には、作戦を立案し、俺が持つ切り札を使う必要がある────

 

 その言葉を思い出した魔法少女は、悪魔の切り札とはなんだろうと注目する。

 

「水波レナと秋野かえでを生き返らせる」

 

          †

 

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