アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO! 作:形のない者
────水波レナと秋野かえでを生き返らせる。
その発言を聞いた全ての魔法少女に動揺が走る。
「……──は? 何を、言っているの……あなたは……」
「悪魔、さん……?」
うろたえる七海やちよと、観察するように見つめる環いろは。
「クマ吉……まさか……」
百江なぎさは“誰と?”と思う。
そこで無意識に視線が運んだ先に座り込んでいたのは、虚ろな目をする十咎ももこだった。
「……アンタ、何を言ってるんだ……? レナとかえでは、死んだんだぞ……?」
「…………」
「おい……こんな時に冗談はよせよ! 死んだ奴は……ッ! 生き返らないんだ────っ!!」
「も、ももこさん! 落ち着いてください……!」
食ってかかるように飛び起きた十咎ももこ。それを抑えるように環いろはが制止する。
「ももこ。絶望するのはまだ早い。まだ希望はあるんだ」
「どこに!? マジで二人を生き返らせる方法があるとでも言うのかッ!? アンタにそんなことが……っ!」
「可能だ。ただし代償は高く付く」
「ッ────!!?」
顔色ひとつ変えない悪魔の真剣な表情。
それを見据えて“嘘ではない”と理解した十咎ももこは、頭の中でガラゴロと現実が崩れ去る音が轟き、脚が脱力してどさっとその場にへたり込む。
「……………………────ほんとうに?」
「あぁ」
「…………どうやって?」
「《悪魔契約》の魔法を使う。概要は説明するが、詳細は契約相手にだけ伝えたい。──なぎさ、仕切りを作れるか?」
「もちろんなのです。でもどうせなら隣の教室にも砦を造るのですよ」
百江なぎさの野営魔法により、隣の教室も外部から遮断された砦と化す。そして二つの教室を繋ぐ為の扉が作られた。隣室が見えないよう隙間がなく、遮断効果で防音も完璧だ。
「待ちなさい。《悪魔契約》ってなに? それを一から十まで説明してもらわない限り、ももこを連れて行くことは許さないわ」
七海やちよは“契約”という言葉に過剰反応を示し、悪魔の喉元に槍の穂先を突きつける。
「当然の反応だ。何度も言うが、きちんと説明する。ただし契約の手順……つまり詳細を説明することはできない。よってここでは概要のみを説明する」
悪魔は語る。自ら開発した契約魔法の極意について、簡潔に。
「悪魔契約とは“
「────! そんな魔法が……あるわけ……ありえないわ!」
「オレからすれば、魔法少女の存在自体が
「……っ!」
「さて、願い事のキャンセルに不都合がなければ、オレはいつでも悪魔契約を受け付ける。それで魔女化を避けられるなら……魔法少女の運命に叛逆できるなら────そう思って開発した魔法だからな」
最初はインキュベーターへの反逆。魔女化システムへの叛逆。魔法少女の運命に逆らう為に作り出した。
「しかし今回は、最初の理念とは正反対の使い方を直感した。結論から言おう。
────悪魔契約を交わして一般人に戻った十咎ももこは、すぐにキュゥべえと再契約する。その時の願い事は当然『水波レナと秋野かえでの蘇生』だ。そうして蘇生した二人は、おそらく魔法少女のままだろう。
「────受ける」
「ももこ!?」
七海やちよは考え直せと言うように、十咎ももこの肩に手を置く。まだ悪魔は全てを説明していない。契約の手順。契約の代償。それを聞いてからでも遅くはない。そんな性急すぎる十咎ももこの言葉には応えず、悪魔は淡々と説明を続ける。
「つまり十咎ももこは一生、一般人には戻れない。なぜなら悪魔契約を再び交わせば、
「……受ける」
「ももこ!」
十咎ももこは肩の手を振り払い、錯乱しつつも力強い瞳で七海やちよを射抜く。
「だってやちよさんッ! 二人が生き返るんだよ!? レナとかえでがッ! アタシの大切な友達が……っ!! もう普通の女の子には戻れないと思ってた! ずっと! ずっとだっ!! ずっとメルみたいにいつかは魔女になるのかもしれない……そう思って怖かったッ!! 悪魔契約? ハハッ! そんなものがあるなら受けるさ! 当然ッ!! でも……自分の安全と、二人の命を天秤に掛けたら────アタシは断然、
「っ────!!」
「それがアタシの責任だ! 魔法少女の先輩としての誇りだ! やちよさん、アンタとは違う! アタシを見捨てたアンタとは……ッ!!」
「……っ!」
「アタシは最期まで、あのバカな子たちの面倒を見る! たとえ自分がどうなろうと、ここで退いたらウソだろう!! 気難しくて、どんくさいけど、優しい……そんな二人が死ぬなんて、アタシには耐えられないッ!! だから止めないでくれ、やちよさん……!」
「…………、っ…………」
七海やちよは握り締めた拳を震わせて、諦めたように目を瞑る。
それが十咎ももこの覚悟なら、もう誰にも止められない。それを悟ったが故の歯がゆい沈黙だった。
「……ももこ。少し落ち着いてくれ。話は最後まで聞くものだ。キュゥべえと契約して魔女化の真実を知った時のように、後悔したくはないだろう」
「……………………」
十咎ももこは、興奮した大きな目と鼻で悪魔を見下ろす。
「悪魔契約には大きなリスクがある。大雑把に言えば、まず失敗の可能性があること。“物事を無かったことにする”というのは、いわば“歴史の改竄”に近い。死ぬ人が生きる。壊れたものが元に戻る。その結果、
「それでも構わない。チャンスがあるなら……」
「まぁ待て。では次は“負債”のリスクについても説明しておこう」
「負債……?」
「……と思ったが、その前に前提知識を補足した方がいいな。──インキュベーターの学術用語で“魔力係数”という概念が存在する。それは魔法少女の素質を表す数値であり、どれだけの“運命力”を有しているのかひと目で分かる代物だ。キュゥべえには赤い糸のように見えている。魔力係数が高い者は歴史に名を残す偉人や英雄に多く、卑弥呼やクレオパトラも魔法少女だったそうだ」
「……それが、なんだっていうのさ」
「支払うべき代償の話さ。悪魔契約を交わした人間は、キュゥべえと再契約する際、その魔力係数が爆発的に──約二乗ほど──向上する。つまり魔法少女としての潜在能力が向上する。だがいいことづくめというわけではない。運命力の向上は、同時に英雄的な試練を呼び寄せる。偉人も英雄も“試練”を乗り越えたからこそ歴史に名を残し、そして最後には“何度目かの試練”に破れたからこそ後世に爪痕を残した。端的に言えば“負債”とは、悪魔契約の後に襲い来る“無かったことにしたモノたちの逆襲”だ」
「…………」
「具体的にどうなるのか聞きたそうだが、この“負債”は契約してみなければ誰にも分からないことだ。下手したら再契約で二人を生き返らせても、その負債のせいで結局オレたちは全滅する……そんな末路も十二分に有り得るだろう」
「なんですって?」
七海やちよの威圧。そんな危険な契約を勧めようとした悪魔の考えが読めず困惑している。
「もちろんオレも死にたくない。だから負債の件は任せてほしい。オレには“逆転勝利”の願いも掛かっている。そのおかげで今まで交わした悪魔契約による“負債”は全て払い除けてきた。加えて言っておくが、この“負債”について知らない契約者も多い。なぜならオレが全てカタを付けてきたからだ」
「……なら、どうしてその説明を?」
「反省だよ。本来は契約者が
「半魔人化のことね」
「それだけじゃない。直感したんだ。今回の“負債”はオレが焼き払うより、チームももこが解決した方が良いと────」
そこで七海やちよが問いかける。
「それで? 契約事後の失敗や負債については分かったけど……悪魔契約って具体的に何をどうやって成立するのかしら? 過程についての説明はしないとのことだけど、私の目が黒いうちは許さないわよ」
「残念ながらそれは企業秘密だ」
「ふざけないで。全部説明しなさい」
「いやだ」
「いやだってなによ!? まさか、ももこの命を取るとか……そういう黒魔術のような等価交換じゃないでしょうね?」
「合理的な代償だが、オレのはもっと悪辣だ」
「悪辣!? 余計にいかがわしくなってきたわね……」
「いかがわしくない。いや怪しいという意味ならその通りなんだが」
「何をブツブツ言ってるの? つべこべ言わず教えなさい……!」
悪魔契約の成立過程。それについての説明を求める七海やちよは、頑なに目を逸らす悪魔に憤慨する。
「やちよ、もうやめてさしあげろなのです。クマ吉はまだ思春期の男の子なのですよ」
「それが関係あるわけ?」
「大アリなのです。ももこが心配なのは分かるのですが、もう行かせてやれなのです」
「なぎさ、あのね……」
「ここは
『────!?』
百江なぎさの発言に魔法少女たちは驚く。
「なぎさ、あなた……悪魔契約を受けたことがあるの?」
「どうしても知りたいなら、悪魔契約の過程をなぎさが耳打ちしてやるのです」
「いや、やめろ。それだけはやめろ。オレが説明する。いつか、いつかな……」
悪魔は赤らんでる。その意味がとんと理解できない七海やちよたち。
「……分かった。失敗する可能性も、負債を支払う必要も、ちゃんと分かった。だからアタシと契約してくれ、悪魔」
「ももこ!」
「……最後に言っておく。悪魔契約は、その名の通り、
「だからアンタは“悪魔”なんて名乗ってるのか? どこをどう見ても普通の人間なのに、おかしいと思っていたんだ」
「…………」
「アタシからすれば悪魔は“悪魔”なんてものじゃない……“救世主”だよ」
「その結論、あとで覆るぞ。もちろん契約は直前で辞めても構わない。無理強いは絶対にしない。オレはキュゥべえとは違う。完璧に全てを知って納得して覚悟した上で契約に応じてもらう。いいな?」
「あぁ……覚悟なんて、とっくに出来てる」
悪魔は直感する。
(確かに決意は大きい。だが具体的な方法を知れば揺らぐ。未熟な者は強い言葉に酔いやすい。それはオレも変わらない。十咎ももこという人間の本質・覚悟が試されるのはここからだぞ……ももこ)
「大体、悪魔契約に掛かる時間は三十分だ。ももこがごねれば一時間以上掛かるかも知れない。ともかくその間、英気を養っておけ」
「隣室で悪魔契約なんかしてる時に英気なんて養えるわけないのです」
「なぎさ。ちょっと黙ってほしい……」
悪魔と十咎ももこは扉を開けて固く閉め切り、隣室に行ってしまった。
残された七海やちよ、環いろは、百江なぎさ、暁美ほむら、鹿目まどかの五名は、悪魔に言われた通り休息を取ることに。
教室の端っこに並んで座った鹿目まどかと暁美ほむらの会話。
「……レナちゃんと、かえでちゃんだっけ? 本当に生き返るのかな……? 私、話の半分も分からなかったよ……」
「そうだね……でも、そんなことができちゃうなんて、悪魔さんは本当にすごい人だね!」
「ほむらちゃんは
「うん。そうだよ。……あ、そうだ! まだ話してなかったことがあった……あのね、まどか。知ってた? 悪魔さんって、マミさんの友達なんだよ」
「えっ、ホントに!?」
「うん。お互いに師弟関係にあったんだって。悪魔さんは魔法の知識を授けて、マミさんは戦闘の知識を授けたんだって」
「へぇ……じゃあ私たちにとって、悪魔さんは先輩だね! あ、でも、マミさんは先輩だけど師匠でもあるとするなら、兄弟子? になるのかな……?」
「兄弟子……そうだね。教わることがいっぱいありそう……」
「? ほむらちゃん、悪魔さんに教わりたいことがあるの?」
「え!? あ……うん……ちょっと、ね……」
環いろはは椅子に座って一息つく。七海やちよは隣室の扉の前で立ち尽くしており、それを見守る百江なぎさは、いきなり中に入ったりしないだろうかと冷や汗を流しながら監視していた。
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