アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO! 作:形のない者
悪魔と十咎ももこは隣の教室に移動した。
夕暮れ射し込む木造の教室。西日に焼けた木の
「……ん?」
ふと十咎ももこは、学校の教室の中にしては、非常に不釣合いな物を見つけた。
「おい、悪魔。なんで教室の後ろの方に、
「────っッッ!!?」
刹那、悪魔は駆け出すと、怒髪天を衝く勢いでハイキックを繰り出し、ふかふかベッドを粉砕した。
「エェえええええ!? き、急にどうしたんだ、悪魔!?」
「っ────ハァ、ハァ、ハァ……なぎさの仕業だな……アイツ……あとで覚えてろ……」
悪魔は深呼吸して気を取り直す。
適当な椅子に座った悪魔。それを見た十咎ももこは彼の隣に落ち着く。
†
三十分後。七海やちよは腕時計の針を確認して扉を見つめる。
「もう三十分が経ったわ」
「まだ三十分なのですよ。たぶんクマ吉がごねているのです。まったくやれやれなのです……」
「は? 悪魔がごねる? 理不尽な契約内容を突きつけられて今頃ごねているのはももこの方でしょ」
「ところがどっこいなのです。その可能性も無くはないのですが……あっ」
「え」
扉が開く。自分の頭をわしゃわしゃと掻く十咎ももこは、なんとも言えない困り顔をしていた。
「ももこ、大丈夫!?」
「え? あ、うん……いや、ぜんぜん」
「何されたの!?」
「なにって……
「……は?」
「だから、何もされなくて困ってんの! 悪魔契約を始めてくれって言っても、悪魔の奴うんともすんとも言わないから……待てば待つほど悪魔の顔が西日で焼けていってさ。アタシの顔も赤くなってない? もう埒が明かなくて休憩しに来たんだ」
「……ふっ」
百江なぎさは“よゆうのえみ”を浮かべる。その表情はどことなく小馬鹿にしているように見える。だが今回の場合、それは“しているように見える”のではなく、本当に“していた”。悪魔ことクマ吉に対して。
「ももこ。それはももこがいけないのです。もっとイケイケで押さないとクマ吉は落とせないのです」
「えっ……そうなのか?」
「悪魔契約とは、それだけクマ吉にとっても心苦しいことなのです。優しい人間には酷な事なのですよ。いつもクールに振る舞っている裏では、常に今までの契約者に対して申し訳なく思っているのです。そういうところも、かわいい奴なのですよ」
「お、おう……そうなのか? まぁ確かにスゴク言いにくそうにしていたし……ってことは、つまり、アタシのことを気にしてくれてたってことか……よし、分かった。今度は無理やり聞き出してやる! アタシに遠慮すんなってなっ!」
「その意気なのです。──ふっ……」
†
バタンと音を立てて扉が閉まる。十咎ももこはズンズンと勇むように教室を横切り、西日によって赤く焼けた顔の悪魔、その目の前にどかりと座り込む。
「悪魔! そろそろ話してくれ! どんなことでもアタシはやり遂げる! 覚悟はできてるって言ったろ!?」
「……違うんだ。オレの覚悟が足りないんだ」
「────へ?」
「……だが……そうだな。ずっとこうしていても仕方がない。──手間を取らせたな。
「……? まぁやる気になってくれたのなら願ったり叶ったりだ。さぁ教えてくれ。悪魔契約の方法を……!」
「そこまで意気込んでもらうほど殊勝なものじゃないんだが……」
悪魔は観念した。というより羞恥心に対する《逆転勝利》の願い事の作用がようやく働いたと言うべきか。
悪魔が言うように、戦闘の際は“恐怖”に対する《逆転勝利》が作用して、後悔しないよう死ぬ気になれる。それと同様に、悪魔契約の際は“羞恥”に対する《逆転勝利》が作用して、後悔しないよう死ぬ気になるのだ。戦う勇気と寝る勇気。それは全く別の種類。故に逆転勝利による死ぬ気の
「よし、言うぞ」
「……!」
「……………………、…………、────悪魔契約は、北欧神話における“セイズ”を参考にしている」
「……うん」
その時、匣の中のキュゥべえが“わけがわからない”と言いたげに口を出した。
「やる気になったんじゃないのかい? 不必要な説明で時間を先延ばしにするのは無意味なことだと思うけど……」
「……そうなのか、悪魔?」
「…………」
悪魔の顔は真っ赤である。
それが西日に焼けたせいだと疑わない十咎ももこは、ある提案をする。
「なぁ悪魔。ずっと夕焼けを浴びて暑くないか? 顔が真っ赤だぞ。ちょっと場所を変えないか?」
「────────」
「あぁ、ももこ。今の君の発言はバッドコミュニケーションだとボクでも分かる。せっかく悪魔がやる気になったのに、君はそのチャンスを自ら潰したね」
「えっ────えぇ!? あ、アタシ、何かしたのか!? まさかこんなところで“バッドタイミングももこ”ったのか!?」
「なんだそれ」
「せ、説明しよう! バッドタイミングももことは、アタシがいつも間が悪い時に現れたり、何か言ったり、やらかしたりと……とにかく間が悪いことから名付けた渾名だ! ちなみに自分で名付けた! アタシの最大の弱点だ!」
悪魔は直感する。十咎ももこにとって、それは随分と恥ずかしい事を語らせてしまったことに。
「……そうか。ももこにとってはスゴク恥ずかしいことを、そんなに惜しげもなく説明するとは……勇気があるな」
「え? いや……」
勇気なんてない。そう言いたげな十咎ももこの心中を直感した悪魔は理由を問う。
「ももこ、お前は何を願ったんだ?」
「え?」
「これは必要な質問だ」
十咎ももこは恥じらいつつ答える。
「……《好きな人に告白する勇気がほしい》……」
「──……なるほど。それなら願い事を無かったことにしても問題はなさそうだな」
「あ、あぁ……まぁアタシも、なんかちっさなこと願ったなぁ~とは、あとあと思ったりしたんだけど……」
「何を言うんだ。女の子にとって……いや、男もおんなじか。自分の気持ちを伝える勇気を持ちたいと願うのは、実はとても大切なことなんじゃないかと思うよ」
「────」
世の中には、思いを告げる勇気がなくて後悔した者もいる。
あの時、死ぬ気で告白すればよかった……
あの時、死ぬ気で逃げずに返事をすればよかった……
あの時、もう少し優しくしていればよかったかな……
その後悔は取り戻せない。二度と挽回できない。なぜなら彼女たちは、もうこの世に居ないのだから。
「────悪魔契約の条件は同衾を必要とする」
「……どうきん……?」
「生殖行為のことだよ」
キュゥべえの直球表現。
一瞬、頭の中が真っ白になった十咎ももこは、その意味を理解してみるみる紅潮していく。
「…………い、いやぁ~……それは、ちょっと……冗談キツいって……あ、はは……ははは……」
悪魔は目元を隠して俯き黙り込む。その恥ずかしさを隠すような所作が、余計に十咎ももこの内心を掻き乱した。
†
さらに三十分後。
「あ」
十咎ももこが出てきた。水波レナと秋野かえでの姿がないため、まだ未契約だと百江なぎさは見抜く。
「どうしたのです?」
「っ……いや、なんでも……ない……ちょっと風に当たりに来た。風なんて吹いてないのにな……はは! は……」
赤らむ頬を隠す十咎ももこは明らかに様子がおかしい。
対する七海やちよは、朱色のソウルジェムのまたたきを目にして(恥ずかしがっている? 何に……?)と疑問を抱く。
「ももこ。ぶっちゃけどうなのです?」
「えっ!? なにが!? ……って、あぁ、そっか……なぎさちゃんも悪魔契約を受けてたんだよな……。……? ────!? エェエエええええ!!? 受けたの!? 悪魔契約を!? その歳で!? 年齢で!? 小学生なのに!!?」
「なぎさは大人なのです。一人で立派に生きていけるのだから子供じゃないのです。そこんところよろしくなのですよ」
「いやいや! いやいやいや! いやいやいやいやいやいや!?」
「ちなみにクマ吉の契約回数は聞いたのです? 既に三桁は超えているようなのです」
「マジで!?」
「慣れているので技術は折り紙つきなのです」
「いやその情報はちょっと要らなかったかな!? あれ、でもなんでちょっと安心しているんだろう……アァアアア!!!」
十咎ももこの小さな発狂。
それを間近で見た七海やちよ、環いろは、暁美ほむら、鹿目まどかは困惑する。
「ももこ~もう諦めるのです~大人の階段を登るのです~」
「やめろォ! それは悪魔の囁きだァ! いやもちろん契約するよ!? するけれども! ちょっと心の準備が必要というか……マジで本当にバッドタイミングというかァ!! うわぁ……ウワァアアアアアアア────!!?!?」
「も、ももこ!? 落ち着いて! 何があったのか話しなさい!」
「話せるかこんなのぉ! やちよさんのバカぁ!」
「えぇ!?」
「ふっ……」
「なぎさちゃん! その“よゆうのえみ”をやめてくれ! 頼むから! なんでもするから……! 穴があったら入りたい気分なんだ!」
「穴に入るのはクマ吉の方なのです」
「……? あっ────おいおいおい、そのネタはないだろォがよォオオオオオオオオ!? 急転直
百江なぎさは悪魔のような笑みを浮かべて愉悦している。
「ももこ、安心するのです。ももこは天
「アタシゃ天
「うろたえるな、なのです! 悪魔契約を交わしてキュゥべえと再契約すれば魔力係数が爆上がりして最強の魔法少女になれるのです! 天
「
「何事も
「そんな
「愉しいのです! 愉快なのです!
「
おあとがよろしいようで、七海やちよが決断する。
「もう待ってられないわ。ももこ、悪魔契約なんて不要よ。死んだ人は死んだ人。そこまで悩むならやめなさい。きっと後悔するわ」
「やちよさん……いや、やめない。アタシは絶対に悪魔契約を受ける。そしてレナとかえでを取り戻す!」
「……もう何を言っても聞かないようね」
「あぁ、アタシの決意は固いよ」
「……そう。だとしても、私は行くわ」
七海やちよは廊下側の戸に向かう。そこで環いろはが慌てて呼び止めた。
「ま、待ってください! やちよさん、どこに!?」
「さっき悪魔が言っていたでしょう。一人の方が効率がいい。足でまといを庇う必要がなく、思いっきり全力で戦える。あの作戦だけは私も大いに賛同するわ。だからこそ、なぜ悪魔が取り下げたのか分からない。それほどに勝率が高いの。百パーセントよ。あなたちは危険なく帰れる。私も無事に帰ることができる。これ以上ない作戦じゃない。やらない理由がないわ」
「っ……そうだとしても……」
「ねぇ環さん。あなたはなぜそこまで否定するの?」
「心配してるんです! だって、もし何かあったら……!」
誰が助けてくれるのか。それは尤もな心配であり、七海やちよは心中を察する。
「そう。心配してくれていたのね。ありがとう。でも安心して。驕っているワケじゃないわ。勝算はあるの。全員無事にお家に帰すから、留守番よろしくね」
「あ……やちよさん!」
七海やちよは戸に手を掛ける。そこで止まり、自分が居ない間の指示を出した。
「鹿目さん。ひとつお願いがあるの」
「え……はい!」
「悪魔の見張り役と、ももこの救助役として、私の代わりに扉の前に立ってくれないかしら? この中で最も力があるのはあなただから……」
「……分かりました。でもあの、やっぱり一人は……」
鹿目まどかの反対を押し切るように、七海やちよは取手に力を込める。
「ももこ。悪魔契約が完了して二人が生き返っても応援は不要よ」
「え……でも!」
「別に、敵をかく乱しに行くわけじゃないわ。アレを倒すために行くの。構わないわよね? グリーフシードは譲るんだもの。だってアレはももこが持つべき物だから」
「──やちよさん……分かった。死ぬなよ……」
「当然」
七海やちよが戸を開けた瞬間、百江なぎさは指パッチンで、戸の周囲を覆うように遮断効果を持ったシャボン玉を作成。おかげで戸を開けてもシャボン玉の中にいる七海やちよしか感知されず、彼女は外に飛び出して戸を閉める。廊下側で戦闘音。窓の外の夕焼け空に飛び降りたのか、無数の絶交南京錠が後を追う。静まり返った絶交廊下には、残る魔法少女を捜すため絶交南京錠が群がるが、七海やちよが出てきた教室の中を覗くと、普通の教室だと判断したのか別の教室を見に行った。
「開けるなら開けると言ってほしいのです。まったく……危うく見つかるところだったのです」
「…………私、やっぱり……行ってきます!」
「えっ────いろはちゃん!?」
駆け出そうとした環いろはの腕を取って、十咎ももこが制する。
「待つんだ! 足でまといだって分からないのか!?」
「でも……さすがに無茶だってことは私にも分かります!」
それには鹿目まどかと暁美ほむらも頷いた。たとえ七海やちよが巴マミと同じくらい強いとしても、さすがに魔女クラスの敵を三体同時に相手取るのは絶望的だと言いたげに。
「それは……その通りだけど……やちよさんならやってくれる! だから心配しないで! アタシもすぐに悪魔契約を終わらせるから! そしたらみんなですぐに応援に行こう! だから────」
「……っ。でも、その間に何かあったら────!」
刹那、教室の中で破裂するような音が響き渡った。
百江なぎさは目を丸くする。それはシャボン玉が破裂するよりも痛くて怖くて、悲しい音色だった。
「────え?」
環いろはの頬が腫れている。あまりに突然のことで何をされたのか分からない。首の向きを元に戻すと、そこには涙ぐむ十咎ももこが立っていた。なぜ泣いているのか。
「いろはちゃんのバカ!」
そんな暴言を吐かれて抱き寄せられる。強く、固く、離さないという意思を感じる。暖かい。優しさにあふれた抱擁。そして震えている。なぜ震えているのか。環いろはは悟った。
「アンタが死んだら、アタシは……っ!」
「────、……ももこさん……」
ジンジンと
「ごめんなさい……あんなにお世話になったのに、レナちゃんとかえでちゃんと同じように優しくしてもらったのに……ももこさんの気持ちも考えないで……」
「ほんと、だよ……」
「…………。でも、それを言ったら、やちよさんだって同じじゃないですか?」
「……!」
「ももこさんにとっては、やちよさんも……」
十咎ももこは顔を上げると、環いろはの両肩を掴んで距離を離し、その顔をまじまじと見つめる。
「が、頑固だなぁ! それは確かにそうだけど……でも、やちよさんには信頼がある! アタシじゃ一生届かないほどの実力もある! あれは決死行の顔じゃなかった。やちよさんは自分の言葉に責任を持つ人だ。だから呆気なく敵を倒して戻ってくる。そういう人だよ、あの人は」
「…………そうですか。わがまま言ってすみません……私、何も分かってなかったみたいで……」
「いや……アタシもいきなりビンタなんかしてごめん……ついカッとなっちゃって……」
レナとかえでのように、いろはを失うことを極度に恐れた。
それは皆が承知していること。しかし十咎ももこはバツが悪そうに隣の教室に退散した。
「ごめんね。すぐ終わらせてくる。いろはちゃんの不安も分かる。だから、ほんのちょっとだけ待っててね」
「ももこさん……はい、待ってます」
扉を閉める。十咎ももこの表情は前髪に隠れていて分からない。悪魔のそばにある机に座った十咎ももこは、両手を後ろに突いて天井を仰ぐ。
「あぁ~……やっちゃった……」
「……いろはを止めてくれて礼を言う。単騎での作戦を却下したのは、オレではいろはを止められないと思ったからだ」
「あ、そうだったの? まぁ確かにいろはちゃん、ちょっと頑固なところがあるとは思っていたけど、まさかあそこまでとは……いやだからって手を出すのは良くないんだけど……やっちゃったなぁ……」
十咎ももこは相当に落ち込んでいるようで、もはや悪魔に対する羞恥の心なぞ忘れていた。
「……なんでも聞くぞ」
「エスパーかよ」
十咎ももこは苦々しく笑うと、悪魔の言葉に甘えて無念を吐露する。
「また……やちよさんに先輩風を吹かされちゃった。いや、取られちゃった……が正しいかな?」
十咎ももこは失意を語る。
「どういうことだ?」
「昔の話。やちよさんを見返すために努力してきたところもあるんだけど……やっぱりぜんぜん敵わないやってゆー、情けない話……」
十咎ももこのソウルジェムが明滅する。濁りを増す気配はないが、やや危うい心境である。それはアイデンティティの喪失に等しい。
「希望を持て」
「……何を急に……希望って、なんだよ……」
「希望とは、人との出会いを軽んじないことだ。持つべきものは友と言うだろう」
「…………」
十咎ももこは初めて俯いた。どんな時も前を向いて、無理そうな時は上を見上げていた彼女が、今は下を向いて考え、思い出し、思考を重ねている。
「……うわさ」
「?」
「やちよさんがおかしくなった原因だと思って、今まで毛嫌いしていたけど……だからこそ少しは気になって、どうしても調べちゃう時が稀にあった。直近のうわさでは、たしか“悪魔に魂を売れば魔法少女が生き返るうわさ”だったかな? だから悪魔と出会った時、ちょっとびっくりした。でもうわさってのは元ネタがあるもんだし、どうせ誇張されたうわさだと思っていた。でもさっき悪魔に言われた時、まさかのドンピシャだったと分かって驚いたよ。それだけは……ごくまれにある“グッドタイミングももこ”だったかな?」
「…………」
悪魔は契約後のリスクについて今一度説明する。
「今回は魔女化した二人を生き返らせる以上、あまりにも負債が大きくなる。願いの代償に十咎ももこが死ぬ可能性が高い」
「……あぁ。承知の上だ」
次の瞬間、悪魔は睨め上げた。その怒るような目に十咎ももこは驚く。
「死を承知するな。お前が死んだら、レナとかえでは野垂れ死にだ。ももこ無しであの二人が神浜を生きていけるとでも?」
「…………そう、だよな。ごめん、ちょっと……悲観的すぎた。どんな負債だろうが、それを死ぬ気で乗り越えろってことだよな……悪い。弱気になってた……」
「オレも居る。恐れることはない」
悪魔は席を立つ。
「決断は?」
「…………あの可愛い後輩どもの為なら、貞操だって惜しくないよ」
十咎ももこは悪魔と目線を合わせる。しかし逆光が悪魔の顔を隠し、よく見えない。
(あぁ……反対側の席に着けばよかった。いやでも顔が見えなくて正解だったかも……恥ずかしすぎて死ぬって、これ……)
「最後に忠告だ。契約時、ごくまれにだが……互いの記憶を覗いてしまう場合がある」
「おぉ……最後の最後に重たいのが来たな……。いいよ、もう既に身体を許すと決めた以上、いまさら記憶がなんだってんだ」
十咎ももこは(ヤバイ)と思う。逆光で隠された心境。それが詳らかになってしまう可能性に恐れおののく。
だが拒否できない。というか拒否しない。拒否なんかできるわけがない。
死んだ人を生き返らせる。本当にそんな奇跡があるのなら、まさに魔法のような二人の生還に全てを賭けたかった。それは何も出来なかった罪悪感から来るものか。それもあるだろう。だが一番の感情は“また会いたい”という、至極単純な想いだった。
「私は全てを喪った。それを取り返せるなら、魂も身体も心も記憶も、全部アンタに捧げるさ────この
赤らみながら、ちろっと舌を出して悪態をついた十咎ももこは、机の上に押し倒される。
「っ……!」
「好きでもない奴とするのは死んでもゴメンだろうに……ごめんな」
「! それは……」
†