アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO! 作:形のない者
絶交式場に永遠の槍雨が降り注ぐ。ありったけの魔力のゴリ押しで陣取りの魔女を倒した七海やちよは、奇襲を仕掛けてきた変身の魔女と絶交南京錠の群れに舌を打つ。
「ようやく一体……キリがないわね……」
刹那、遥か上空から莫大な瘴気を感知。漆黒に燃え上がる隕石が着弾し、鳥居を爆砕して腐蝕苔を焼き払う。
「
穢れの侵食。勾玉のような黒い呪印が、悪魔の全身を覆い尽くす。
そして悪魔の背中を突き破って羽ばたくは漆黒の片翼。黒き翼は瘴気を撒き散らしながら羽ばたく。
「開匣────《雨刀・獄寺》」
刀を投擲。次いで瞬間的噴射力の炎により音速突破。中空で刀を掴んだ悪魔は旋回する身で横薙ぎ一閃。変身の魔女の胴体が横一文字に切断されて、“ドプァッ”と海水が断割されるような轟音が鳴り、大量の鮮血が瘴気に混じって噴出する。
「この一撃で終わらせる。全てを斬り裂く獣牙を喰らえ────」
(時雨蒼燕流 獣式・呪印型秘奥義・一番目────)
悪魔は直感する。呪印形態は身体能力が飛躍的に向上し、あらゆる技の威力が跳ね上がる。故に呪印形態の時に使う時雨蒼燕流を“呪われし時雨蒼燕流”と改称し、
それは居合い切りの一閃で硬直した敵に対し、一刀両断と斬り上げ裂く必殺奥義。
「《
橙色に燃え盛るバトルグローブに青色と燃える刀を握り、黒翼の羽ばたきによる急上昇と同時に眼前の敵の命を絶つ。轟く斬撃音。胴体が四つに分かたれた変身の魔女は断末魔を上げて消滅。残るは絶交式場……否、絶交ルールのウワサのみ。
二体の魔女が消滅し、手駒をなくした絶交式場の大鐘は警鐘を鳴らす。
ウワサ空間の歪曲と爆縮。
絶交式場に到来するは、無限に続く絶交階段。上空からうねり狂う蛇のように牙を突き立ててきた絶交階段の特攻を躱した悪魔と七海やちよは、猛襲する二体のバケモノを翼で殴り/槍で穿つ。
続いて無限の絶交教室が降ってくる。崩れゆく廊下は落石となり、一つのブロックとして落ちてくる教室の数々は、さながら古代人が恐れた
「絶交ルールのウワサが本気を出してきたわ」
「あぁ。ならば空間ごと葬り去るまでだ」
頭上に影。仰げば絶交裁判所の空間そのものが降ってくる。バケモノ裁判官の咆哮。数万の絶交南京錠が竜巻と化して襲い来る。
「フゥ────」
柔和な炎で体を支え、剛毅の炎で敵を撃つ。それは超火力の最大放射。さらには空中姿勢で撃ち出す絶技。だがそれだけではない。呪いの炎は世界を滅す。瘴気混じりの黒炎は、ウワサ空間を焼却する。
「
七海やちよは目を見張る。天を覆っていた巨大な影が、一瞬の轟音と熱気を逆巻いて燃え尽きた。
灰燼の雲海。夕空は瘴気に燻る。
絶交岬の出現。奈落が消滅し、断崖の足場が形成される。周囲に燃え盛る通行禁止の炎陣。絶交教室の一部が墜落している背後の森から二体のバケモノが襲い来る。咆哮と同時に悪魔と七海やちよに飛びかかったバケモノは、次の瞬間、一本と数本の光矢に貫かれて絶命した。
「間に合った!」
「悪魔さん!」
鹿目まどかと環いろはの射撃。絶交教室と共に降ってきた彼女たちは、群がる絶交南京錠を撃ち落として駆けつける。
「悪魔さん! どうして一人で行っちゃうんですか!」
「先陣を切っただけだ。状況は整えたから一気にケリをつける」
悪魔は陣形魔法を行使。
「魔法陣形 勝利すべき飛翔────《
それは指揮者による最適なポジション誘導。足元の結界に従って移動していれば必然、敵を追い込んで包囲するようになっている。自由闊達の陣形。敵を追い込む包囲戦術。
魔法少女たちの足元に結界が展開され、オペレーターの声が脳内に反響する。
「────ちょっとまって」
そこで七海やちよが混迷を極めた。
十咎ももこの両隣には、魔女化したはずの水波レナと秋野かえでが立っている。
「まさか……本当に────生き返らせたと、言うの……?」
「そうだよ、やちよさん! アタシ、キュゥべえに願ったんだ! 《レナとかえでを生き返らせてくれ》って!」
「────────、…………」
(じゃあ、さっきの魔女は“何”……? 変身の魔女は悪魔が斬り倒して、陣取りの魔女は私が串刺しにした。なら、あの魔女はなんだったというの……? 願いが叶えられたら魔女が消えるわけでもなかった……)
七海やちよは悪魔の後ろ姿を見つめる。
(そうよ。環さんの言う通りだわ。彼はなぜ一人で加勢しに来たの? まだスタンド使いという脅威が隠れている中で、彼女たちを置いて私の所に来るなんて有り得ないわ……となれば、まさか────危険を冒してでも、あの魔女をみんなに見せたくなかった……?)
「それで悪魔! アタシの負債は?」
「それと思われるものは既に倒した。だが油断するな。二人の人間を蘇生させたんだ。これだけじゃ終わらない」
「そうか……なんか、全部任せっきりで悪いな」
「好きでしていることだ」
そこで暁美ほむらが問いかける。
「あの、それで……この足元の結界と、謎の声は……」
「オレの《陣形魔法》だ。指示に従っていればそれだけで連携が取れる。敵を確実に倒せるカーナビとでも思っていればいい」
「……! これ、そんなすごい魔法なんですか……!」
十咎ももこは屈伸体操して気合を入れる。
「よーし! チームももこ復活だ! レナ、かえで、一緒に変身するぞ!」
「……それはいいけど。なんかももこ、テンション高くない?」
「じゃあ“せーの”でいこっ!」
制服姿の十咎ももこ、水波レナ、秋野かえでは変身する。
『────変身っ!!!』
光に包まれて魔法衣装に着替える。が、そこで十咎ももこ以外の全員が目を疑った。
「よーし! いくぞー!」
「え……ちょ、ちょっとまって、ももこ!」
「ももこちゃん! その格好どうしたの!?」
「え? 二人とも何を言って────」
十咎ももこは己の姿を見下ろしてギョッとする。いつもの白とカーキを基調としたカラーリングから一変。純白にして清廉な色を基調とし、ポニーテールの髪型は
加えて十咎ももこの手にある武器は、いつもの大剣ではなく、盾にも狙撃銃にもなる十字架になっている。
「────な、なんだこりゃあ!?」
十咎ももこは思わぬ変化に叫ぶ。それを悪魔が説明した。
「願い事を変えて再契約したんだ。その願いが反映されて魔法衣装が変化した。固有魔法も変化しているだろう。当然の現象だ」
「でもなんでシスター!?」
「QB契約は、契約者の深層意識を反映する傾向にある。つまり願いを叶える時に、そのとき強く思っていた事が反映されたんだ。……そういえばお前、
「────!? い、いや、アレはつい勢いで口走ったやつで……別に本気で言ったわけじゃ……!!」
「だが現に反映されている。──こういうのを避けるために、いつもはしばらく時間を置いてから再契約させるんだが……まぁ、似合ってるからいいんじゃないか? 別に本当にシスターになったわけじゃない。恋愛も結婚も自由だ」
「いやいや、そういう問題かこれ!?」
「嫌なら以前の姿に戻ればいい」
ふと悪魔は妙なことを言う。だが十咎ももこは従う。試しに念じると再び光に包まれて、普段の魔法衣装に戻り、十字架も大剣に変化した。固有魔法の《激励》も使えるようで、十咎ももこは困惑する。
「ど、どういうことだ? 願い事が変わったから、以前の固有魔法も使えなくなるんじゃ……」
「変化するとは言ったが消滅すると言った覚えはない。宇宙に履歴は残っている。本来は上書き保存となり前回の固有魔法や衣装は残らないが、叛逆魔法の作用で前回の履歴が残留しているんだ」
「……?」
「つまるところパワーアップってことだ。出来ることが増えたのはイイことだろう?」
「──まぁ、そりゃたしかに……」
十咎ももこはシスター服に戻り、固有魔法を行使する。それは浄化の力となって悪魔の擦り傷を癒した。
「オレの傷を勝手に治すな……。しかし回復魔法か。攻守万能になったな。近接攻撃の大剣、遠隔狙撃の十字架、十字の部分は硬い盾にもなっているようだ。激励魔法で支援、浄化魔法で回復もできる。魔力係数も二乗されて単純な魔力出力も向上している。あとは急に強くなった自分の動きに慣れるだけだ。最初は全力で行かず三割程度の気持ちで戦え。空回るのを避けるためだ」
「りょ……了解」
十咎ももこは気付く。黄色い魔力が使えることに。今まで使っていた赤色の魔力も使えることから、七海やちよのように複数の属性を使えるようになった事に感動する。
「……行ける。これだけの力があるなら、みんなを守れる……」
「現状理解が済んだら行くぞ」
「なぎさが敵を蹴散らしているのです! さっさとおしゃべりタイムは終わらせてほしいのですー!」
絶交南京錠の群れを
悪魔は駆け出し、噴射飛行。同時に魔法陣形が活性化。声の指示に従って魔法少女たちが動き始める。
絶交南京錠の群れを環いろはと鹿目まどかの光矢で分断し、片側の群れを百江なぎさのラッパで吹き飛ばし、もう片側の群れを暁美ほむらの爆弾が消し飛ばす。なおも後続の絶交南京錠が群れをなして壁を作るが、七海やちよの槍が一点突破。断崖の先に続く階段。その先に建つ絶交式場までの道を切り開き、チームももこが駆け出した。水波レナはトライデントの薙ぎ払いで群がる絶交南京錠を切り裂き、秋野かえでは杖を地面に突き刺して修得魔法《植物創生》を行使。階段から多くの樹木を生やして伸ばし、新しいルートを開拓する。十咎ももこは樹木の上を走り、予想外のルートを行かれて驚き出遅れた絶交南京錠を振り切ると、樹木の先端から跳躍。十字架を肩に構えて照準に大鐘を固定。十字架の先端に赤い魔力が収束。それを黄色の魔力で活性させて、強めた分解効果のビームを放つ。それはあらゆるものを消滅させる超分解の魔力狙撃。大鐘を守らんと大鎖が飛び出て絡み合い十数枚の障壁を形作るが、それを容易くブチ抜いた狙撃光弾は大鐘に着弾。風穴を開けて貫通し、絶交式場の
────ウワサ空間に轟音が走る。夕空に亀裂。バリバリとガラスが割れまくるように空間位相が現実空間に戻り、絶交ルールのウワサが消滅。内部に囚われていた者たちは神浜市の新西区・神浜市立大附属学校の屋上に落下。各自着地体勢を取る中、一人悲鳴を上げて慌てている暁美ほむらの手を悪魔が取り、そっと屋上に下ろす。
「あ、ありがとう、ございます……」
「…………」
悪魔は着地の際、片膝をつく。ふらりと立ち上がるが何も言わない。否、立つのがやっとの様子である。
「……瞬殺とは驚いたわね。その陣形魔法、悪魔が考案したの?」
「…………マミ……」
七海やちよの問いに悪魔が答えようとした瞬間、上空から白い骨が降ってきて跳ね返り、カラコロと音を鳴らして屋上に転がる。
「え……これって……」
「ウワサ空間に閉じ込められて死んだ子たちの骨よ」
環いろはの動揺に、七海やちよが即答した。
「そんな……そんなことって……」
「ひどい……なんでこんな……」
鹿目まどかと暁美ほむらの動揺。
水波レナと秋野かえでは直視できず、十咎ももこの背中に隠れる。
直後、どさりと倒れる音が響く。一同は何事かと音の方向を見ると、そこには悪魔が倒れていた。
「クマ吉!? やっぱり魔法の使いすぎで倒れたのです! これだから一人でなんでも解決する奴は愚かなのです! なぎさはげきおこなのですよっ!!」
百江なぎさの言う通りだ。仲間を守る為、仲間を蔑ろにした結果は、必ずツケとなって返ってくる。
忍び寄る混沌。常軌を逸した執念は、ただ快楽殺人の為に奮われる。
背後の貯水タンクが殴られて変形。
「
貯水タンクの変形した破損部分から大量の水が流される。それに足を取られた十咎ももこは、水波レナと秋野かえでに抱き着かれている状態が仇となり、身動きが取れず一手出遅れる。
「その位置、その状況……ジャストだ。死ネ……!」
貯水タンクの破損部分から金属片が飛び散る。それは十咎ももこ目掛けて飛来。咄嗟にレナとかえでの二人を背中に隠したももこは覚悟した。
青い槍が飛ぶ。それは破片をすり抜けた。
「なっ!?」
光の矢が飛ぶ。それも破片をすり抜ける。
「そんな!」
鋭利な高速飛来物は、十咎ももこの胸元に突き刺さる。金属片は確かに朱色のソウルジェムを真っ二つに切り裂いており、十咎ももこは虚ろな瞳で崩折れた。
「え────ももこ……?」
「も、ももこちゃん……!」
不可視の存在は飛び去る。
それを決して許さないと無言の圧を発し、全身から巨大な魔力を放出した七海やちよが猛追を開始。
「我は建造物に刻まれた記憶を読み取りそれを再現する。再現された現象は絶対ダ。過去は不変ゆえ逃れる術はナイ……」
不可視の存在は腕を触手のように伸ばし、屋上の鉄柵を殴る。
次の瞬間、落雷が七海やちよを直撃した。
「ぐっ!?」
「一か月前、屋上の鉄柵に雷が落ちた。次は数ヶ月前の嵐がいいか? 江戸時代の洪水がいいか? 好きに選べ。追ってくれば殺スゾ……」
「────」
「……ッ!?」
スタンドは本能から震え上がった。背後から猛追してくる魔法少女を見て怖気が登る。
それは般若の形相。どんな手を尽くしてでも抹殺すると告げる眼光が不可視の存在の命を射抜く。
七海やちよは無意識に赤色の魔力を使い、熟練性質・分析効果で逆探知を掛ける。学校全体に広がる魔力の全開放出。その魔力探知に正体不明の魔法少女が一人、引っ掛かった瞬間、窓ガラスどころか学校の壁、床、柱、全てを粉砕する勢いで怒涛の硬槍が増殖しつつ叩き込まれた。
「ナン……ダト……ッッ!?」
不可視の存在の気配が消滅する。半壊した二階廊下に降り立った七海やちよは、ガレキに埋まる魔法少女を視認。四肢はちぎれて顔の右半分を無くし、胴体にいくつもの風穴を開けられて大量に出血しているが、左前髪の髪留めに赤いソウルジェムを発見。手ずから槍を突いてソウルジェムを貫き、砕いて殺害。報復を完遂した七海やちよは、誤作動を起こしたスプリンクラーの雨に打たれながら、全てに絶望したような目でその場に佇み、魔力の残滓となって消滅していく複製魔法少女の最期を看取った。
一方その頃。屋上では水波レナと秋野かえでが、死んだ十咎ももこの体を揺さぶっていた。
「起きて……起きてよ。ももこ……」
「どうして……どうして、ももこちゃんが……っ」
環いろはは胸元の傷に治癒魔法を掛ける。肉体は治るが十咎ももこは目を覚まさない。
鹿目まどかはソウルジェムに治癒魔法を掛けてみたが、ソウルジェムは対象外なのか破片が直らない。
「……これが。これが再契約の“負債”なのですか」
「!」
百江なぎさの呟きに、暁美ほむらが反応する。
「よく見るのです。ももこは、笑いながら死んでいるのです」
「……っ!!」
十咎ももこの死相は穏やかだった。洪水に足を取られ、金属片が飛んできた瞬間、全てを悟ったのだろう。躱そうと思えば躱せたはずだ。両側を押し固める水波レナと秋野かえでを突き飛ばせば助かったはずだ。しかしその代わり二人の内どちらかに散乱する金属片が命中して死んでいたかもしれない。だから躊躇なく身を呈した。
自分の大きな背中を盾として、死んでも二人の命を守り抜いたのだ。
暁美ほむらの目に涙が浮かぶ。
誰かを守りたい気持ち。命を賭けてでも救いたい気持ちは、弱い自分でも分かるから。
「……私が、私が、あの敵を倒していれば……ももこさんは……っ!」
環いろはは懺悔するようにうなだれる。
やがて日が沈む。
屋上に小さく響く嗚咽の数々は、しばらく止まることはなかった。
「悪魔契約も万能じゃない。因果律の収束が発生すれば、或る魔力係数分、誰かが死の因果を被らなきゃいけない」
悪魔の腰。匣の中で語るキュゥべえは、誰に聴かせるでもなく、当然の摂理を呟いた。
†