※この作品はR-18です。

アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO!   作:形のない者

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【そう……じゃあ、レナたちは勝ったのね……完璧に……】水波レナ〔十年後の姿〕

 

 早朝。カーテンの隙間から朝の木漏れ日。

 冷気漂う中、うーんと唸る水波レナが暖房をつけて室内を暖める。

 秋野かえでは寝転ぶと悪魔の肌身に触れて体温を感じ、寒さから逃れるためその中に深く入り込む。

 

 悪魔起床。両隣に裸の少女がまどろんでいる。もう一戦……という邪念を払ってベッドから逃げるように降りた悪魔はシャワールームに向かう。体を清めて腰にタオルを巻き、冷蔵庫から水を取り出して一気に飲み干す。

 

「……レナ。かえで。そろそろ起きろ。場所を変えて再契約だ。人気のない廃墟街がいい。そこで“負債”を払いきれ」

「────んんっ……」

「……ふわぁ。おはよぉ~……」

 

 目をこすって起き上がる水波レナと秋野かえでは、ふと目をぱちくりとさせると、サッと布団をたくしあげて体を隠す。

 悪魔は壁の方を向いて待機。その間に二人はそそくさと着替えを持ってシャワールームに避難。シャワーの音がする。

 

 着替え終わった悪魔は先に窓から飛び上がり、屋上に移動。予想通り、そこにはテントが建っていた。そばにはコンロがあり、百江なぎさが朝食を食べている。

 

「なぎさ」

「お、クマ吉。ゆうべはお楽しみだったのです? 4Pしようか迷ったのですが、さすがにやめておいたのですよ。これ以上クマ吉がロリコンになるのは危なそうなのです」

「やめてくれ。猥談は苦手なんだ」

「百戦練磨の男とは思えない発言なのです」

 

 チーズにピザを乗せて頬張る百江なぎさは至福の笑みを浮かべる。

 

「ももこは……テントの中か。遮断効果で腐敗を……」

「細かいことは任せるのです。さっさと済ませてくるのですよ」

「……お前は本当に手が掛からないな」

「そりゃあ当然なのです。大人なのですから」

 

 百江なぎさは、十咎ももこの死体を遮断効果のシャボン玉で包むことで腐敗の進行を妨げており、悪魔たちが契約している間、残るスタンド使いの襲撃を常に警戒していた。

 

「ちなみにホテルの代金は? 学生が入れるとは思えないんだが……」

「なぎさがちょちょいっと幻覚を見せておいたのです。お金はレジの中に忍ばせておいたのですよ。悪魔はそういうところうるさいのです。これは貸しなのですよ。借りはなぎさへの奉仕で返すのです」

「……助かる。だがチーズで手を打たないか?」

「なぎさはどんなチーズでも簡単に手に入るのです。でも悪魔の体は手に入らないのです」

「…………分かった。また今度な」

 

 そこで体を洗い終わって服を着替えたのか、水波レナと秋野かえでが窓から顔を出す。悪魔を捜しているのだ。

 悪魔は橙炎噴射で空を飛ぶ。それを見た水波レナと秋野かえでは、急いでチェックアウトして廃墟街に走り出した。

 

 一方、百江なぎさは指パッチン一つで片付けを終えると、水波レナと秋野かえでを見守りつつ尾行。

 ────そのとき、敵の気配を感じ取った。

 

          †

 

 廃墟街の屋上。

 悪魔は雲の炎と霧の炎で結界を作成し、その中にキュゥべえを開匣する。機能停止に陥らず、契約にも支障がない程度の結界を作ることに成功した。

 そこに水波レナと秋野かえでが到着する。普通の人間に戻ったため、魔法少女のようなスタミナがない。息せき切って追いついた二人は額の汗を拭う。

 そこへ百江なぎさが到着。指パッチンでテントを出す。その中には十咎ももこの死体が安らかに眠っている。

 

「準備はいいか?」

 

 息を整えた二人は頷く。

 

「あらかじめ説明しておいたが、念のためもう一度説明する。────水波レナと秋野かえでの魔力係数は低い。どちらか一人の願いでは、十咎ももこを蘇生させることは不可能だ。しかし二人が同時に同じ願いを叶えることで、足りない魔力係数が補える」

「つまりレナとかえでの“運命力”を対価にすれば、ももこは生き返るってことね」

「緊張する……どんな感じになるんだろう……」

 

 水波レナと秋野かえでは、魔女化の真実を知っても、ソウルジェムの真実を知っても、十咎ももこの蘇生のため、再び魔法少女になることに躊躇いがない。それは絆の成せることか、はたまた無垢で愚かなだけか。悪魔は直感する。それはど(・)ち(・)ら(・)も(・)正(・)解(・)だと。

 

 ソウルジェムのおかげで魔法が使えるのではない。ソウルジェムが本体となって肉体はただの器。それではただの化物ではないか。そんな心の声を直感する。だが自らの不幸より、大切な者の幸福を考える。蘇生が幸福なのではない。三人で揃うことが大事なのだと考えて、今ふたりは友の無事を祈る。

 

「さぁ。君たちの願いを言ってごらん」

 

 キュゥべえからすれば再契約は願ったり叶ったりだ。二乗された魔力係数で魔女化して貰えれば莫大な相転移エネルギーを回収できる。だが悪魔の逆転勝利の作用が、彼女たちの魔女化を抑制するだろう。それでも万が一がある。その万が一の恩恵に預かるため、キュゥべえは協力を惜しまない。

 

「……かえで」

「……うん。レナちゃん」

 

 水波レナと秋野かえでは固く手を結び、力強い声色と表情でキュゥべえに願いを告げる。

 

『────《十咎ももこを生き返らせて》────!!』

 

 世界が光で包まれる。水波レナと秋野かえでの魂が宝石状に具現化し、二人の願いは叶えられた。

 世界に彩が戻る。悪魔と百江なぎさは周囲を警戒。対する水波レナと秋野かえではテントを凝視する。

 

「…………っ」

「……レナちゃん……」

 

 バクバクと心臓が高鳴る。もし魔力係数が不足していたら? もし願い事が変な形で叶えられたら?

 

 キュゥべえ契約は、思ったように願いが叶わない事が多い。それは悪魔に説明される前から分かりきっていたことだ。

 

 別人に変わりたいと願ったのに、手に入ったのは変身魔法。

 マンションの建設を無かったことにしてほしいと願ったのに、別のマンションが建設された。

 

 では、人を生き返らせたいと願った場合、それはどのような叶い方になるのか、想像するだけで怖くてたまらない。

 どうか、どうか、思ったように叶いますように。自然と二人は両手を結び、神に祈るように目を瞑っていた。

 

「────…………ん? なんだ、ここ……暗くて何も見えない……」

『────ッッ!!』

 

 テントの中から十咎ももこの声が響く。ジジィーッと音を立ててファスナーが開けられると、ひょっこりと十咎ももこの顔が出てきた。

 

「あれ? レナ、かえで……悪魔になぎさちゃんも……これどういう状況だ?」

「ももこ!」

「ももこちゃん!!」

 

 テントから出た途端、二人に抱き着かれた十咎ももこは驚く。

 そこで全てを思い出したのか、瞳が激しく揺らいだ。

 

「…………そうだ。アタシ……死んだ、のか……? じゃあ、まさか────ッ!!」

「お前らはいいチームだ。互いに自分の人生を懸けて友を救った。ならばその誓い、生涯を通して守りぬくことだ」

「……!」

 

 十咎ももこは全てを察した。水波レナと秋野かえでが悪魔契約を結んででも、自分を生き返らせたことに。

 

「ももこのバカ! いい!? 年長者ってのはね! 下の子が死ぬまで生きてなくちゃいけないのよッ!!」

「もう誰も失いたくないよ! これから三人で生きていこうよ! ももこちゃんがいないと、私は生きていけないよ!」

「…………! ハァ……まったく。めちゃくちゃだな、お前たちは……ほら、おいで。抱き締めさせて。もっと」

「っ……ひっく……」

「みゃう……うわぁあああん!」

 

 下の子の嗚咽を、年長者が優しく包み込む。

 

「……感動の再会もそこまでにしておけ。“負債”の件を忘れるな」

「────っ! そうだ……そうだった! おい悪魔、まさかレナとかえでは────」

 

 悪魔は眼光のみで十咎ももこの言葉を制する。

 その威圧を受けた十咎ももこは、なぜか叱られたように感じた。

 

「レナ。仲間は死ぬ気で守れ。どれだけお前がお前を嫌いでも、お前の仲間はお前を大好きで信じている」

「……!」

「かえで。死ぬ気で戦うんだ。ももこもレナも自己犠牲で済まそうとする。そうならないよう、お前がしっかりと手綱を握れ。リーダーじゃなくても支えることはできる。それは芯の強いお前だからこそできる役割だ。チームももこの精神的支柱となれ」

「……う、うん!」

「ももこ。お前に言うことは何もない。レナとかえでが先に言ったからな」

「……年長者は下の子を看取るまで死ねない……寂しい思いをさせないために……そして、何があっても三人で生きていく……ってか。年長者はツライな! でも……それが年長者の役割か」

 

 悪魔は立ち去る。それに百江なぎさも付いていく。

 

「オレは手を出さない。お前たちでケリをつけろ。これはそ(・)の(・)必(・)要(・)が(・)あ(・)る(・)戦(・)い(・)だ」

「なんでもかんでもクマ吉が倒していたら、育つ魔法少女も育たないのです。お膳立ては済ませたので、とっとと試練を克服するのですよ」

 

 十咎ももこ、水波レナ、秋野かえでは目を見合わせる。

 

「行くぞ……チームももこ、再出発だ!」

「オッケー!」

「うん!」

 

 十咎ももこの変身。シスター服に十字架の狙撃銃。固有魔法は《激励》と《浄化》……そして《時期到来》。

 それは皮肉な魔法。守る為にピンチという時期を到来させ、ちょうどそこに現れるというマッチポンプのような魔法。トラウマである“バッドタイミングももこ”が魔法として具象化されてしまったのか、ただ危険を呼び寄せる固有魔法を手に入れてしまった。故にこれは封印する。だが使いようによっては役に立つため、いつかこの魔法も克服してみせよう。

 

 水波レナの変身。背は伸び、髪は長く、目つきは悪く、どこか悪魔の超化(ハイパーモード)にも似た顔つきに変わる。それは憧れの具現化なのか。長髪美女はクールに佇み、アイドル的な衣装を身に纏う。それはフリフリ系のドレスとは異なるが、キラキラ系は抑えているので及第点。悪魔と同衾した際、胸の大きさの割に背が小さい、背が小さい割に胸が大きいというバランスの悪さのコンプレックスから、背丈だけでも大人っぽくなりたいという深層意識が反映された結果だろうか。長髪美女はマイクスタンドを構えて自信のなさを歌唱力で吹き飛ばす。自信はなくても仲間がいるから勇気が湧く。いずれマイクは彼女が弾きたい楽器に変わるのだろうか。

 固有魔法は《変身》と《成長》……そして《共依存》。

 それは皮肉な魔法。面倒見の良い性格のみ褒められたせいか、深層意識に影響を及ぼし、面倒を見た人に頼られなければ自信が出ない性質になってしまった。強がる態度・塩対応とは裏腹に、他者からの依存を望む心の持ちようを、彼女はさらに否定する。

 

 秋野かえでの変身。特に外見・武器ともに変わりなし。それはハッキリとした芯の強さが成せる技。ただし重々注意するべし。穏やかな心を持つ彼女を激しい怒りに目覚めさせたが最後、とんでもない変身先が待っていることは、誰も知らない未知なる(スーパーな)要素。

 固有魔法は《一時消去》と《結束》……そして《被虐体質》。

 それは敵の注意を自らに引き付ける囮の魔法。だが自己犠牲する気はさらさらない。あくまで作戦。三人で勝つ為の必要な戦術。

 

「────見つけたぜェ~! 水波レナぁ~!! じゃあ聞いちゃうぜぇ!? さぁ! お前は神(・)を(・)信(・)じ(・)る(・)か(・)!?」

 

 突如として廃墟街の一角が爆発。暴走機関車のように建物を打ち壊しながら猛烈な進撃を仕掛けてくるは、不可視の存在パーフェクト・マスィーン。

 

「そうか! まだアイツが残っていたのか!」

「あれはレナが仕留める。トドメは任せて。味わった恐怖を倍返しにさせてやるんだから」

「それじゃあ私が引き付けるね! 援護お願い!」

 

 あの気弱な秋野かえでが自ら囮役を買って出た。

 その様子に彼女の成長を感じた十咎ももこと水波レナは、負けじと自分の成長も見せる。

 

「分析効果で本体を索敵する。レナ、頼むよ!」

「オッケー。任せて!」

 

 水波レナは跳躍。眼下では秋野かえでが固有魔法《被虐体質》でマスィーンを引きつけている。圧倒的なパワーとスピードと精密性を誇るマスィーンの攻撃を全て回避するのは不可能だ。そこで水波レナは固有魔法《自意識過剰》が自動発動。十咎ももこに任されたことが自信に繋がり、新たな魔法を開発する。

 

「派生魔法────《視線固定》ッ!!」

 

 それは目にした対象をその場で釘付けにする妨害の魔法。それは不可視の存在には無効かと思われたが、“存在を認識する”だけでも効力はあるらしい。マスィーンは自らの動きが鈍くなった事に驚き、どういうことだと混乱する。

 

「なにィ~!? なんだオマエラ……急に強くなりやがって……!」

「そりゃ強くなったわよ! 一度死んで生き返って……本来なら有り得ない奇跡を経験して、これで成長しなきゃ嘘じゃない!」

「オモシレェ! だがオレ様に勝てるかなぁ~!? 完璧に勝ちたいなら答えてみせろ! 神(・)を(・)信(・)じ(・)る(・)の(・)か(・)否(・)か(・)をよォ~!」

 

 水波レナは歯を食いしばって不可視の存在(マスィーン)の頭部らしき所をぶっ叩く。

 

「えぇ……答えてやるわよ! 答えちゃダメなのは知ってるけど……“答えは沈黙”なのは百も承知だけど……それでもここで黙っていたら、レナは納得できない!!」

「……レナ!?」

「レナちゃん!?」

 

 十咎ももこと秋野かえではまさかと驚く。

 

「耳をかっぽじってよく聞きなさい! レナは────神(・)な(・)ん(・)か(・)信(・)じ(・)な(・)い(・)ッ!! 信じるのは────仲間だけよ!!」

「その不用意な発言が! オマエラを絶望の淵に叩き込むとしてもかァアアア~!?」

 

 マスィーンのスタンド能力。それは“対象の罪を暴くたび罰を与えてスタンドの能力が上がる”という代物。それが水波レナの最後の回答により十個の悪行の条件が全て満たされた。

 

 水波レナは《無神論者》だった。

 次の瞬間、パーフェクト・マスィーンの能力値(パラメーター)は“完全体”となり、水波レナに両舌の罪の裁きがくだる。それは“嘘が本当になる”罰。神は居ないと言えば神は現れ、神は居ると言えば神は消える。

 

「お神様のご降臨だぜェ!? 神なる存在の天罰だァ! 神懸かり的な絶望を喰らえッ!」

『────ッッッ!!?』

 

 雲海が裂かれ、大地が割れる。黒い亀裂が大空に走り、恒星(こうせい)の如し巨大な眼光が地表を一瞥(いちべつ)。直後、廃墟街の一帯が劫火(ごうか)の海に包まれた。攻撃範囲内の残骸そのことごとくが滅却された更地。その中で屹立するは硬化の魔力を纏う樹木の要塞のみ。さらに雷火の如し瞬閃の攻撃が着弾する刹那、秋野かえでは《一時消去》の魔法によって、天罰の如し攻撃そのものを一時的に消去していた。

 

 その隙に樹木の要塞から離脱した次の瞬間、一時的に世界から消え去っていた天罰が再出現。天罰の余波を耐え切った要塞を一撃の下に滅却させた。しかして僧佉(そうきょ)の風を思わせる極大爆風が三人を襲う。天まで逆巻き翻る火の海。熔解する残骸の上を無限に転がった後、地獄のような熱気の蒸し暑さに火傷しながら三人は立ち上がる。

 

「っ……ありがとう、かえで……あんたが守ってくれなかったら即死だったわ……」

「ほ────ホントだよ、レナちゃん! なんであんなことしたの!」

「い……生き返って早々、死ぬかと思ったよ……」

 

 全身から血を流す三人は、既に高速再生で傷口を塞いでいる。十咎ももこの《浄化》魔法によって服の汚れが洗浄され、水波レナと秋野かえでが言い合う。

 

「だ、だって……あのムカつく奴には完全に勝ちたかったんだもん! かえでとももこだってそうでしょ!?」

「そ、そうだけど……でも、せめて相談してよ!」

「うっ……それはその通りすぎて何も言い返せない……で、でも! まさかこんなヤバイことになるとは思わなかったし……」

「レナちゃん!!」

「……。……ご、ごめん……」

 

 今は喧嘩している場合ではない。意地を張るのをやめて水波レナは周囲を見渡す。

 

「あれ? そういえば悪魔となぎさは……」

 

 魔力パターンを感知。すると更地の外に百江なぎさのソウルジェムを感知し、その傍らに悪魔らしき六つのソウルジェムの混在を感知した。どうやら彼らは危険を直感して、即座に攻撃範囲外へ避難していたようだ。

 

「よ、よかった……危うくレナが殺した感じになるところだった……」

「じゃあ敵は? もし本体が巻き込まれていたら、スタンド? も消えているはずだよね?」

「それは────、……っ! 見つけた! あっちの廃墟ビルの裏手! 吹き飛んだ瓦屋根の木陰に誰か隠れてる!」

 

 十咎ももこの魔力──火属性の熟練性質・分析効果──による索敵が完了する。

 すかさず秋野かえでは《植物創生》魔法を行使して樹木を生やし道を作る。さらに────

 

「《一時消去》!」

 

 刹那、廃墟ビルそのものが一時的に消え去った。水波レナは樹木の上を走り、ひとっ飛びで消えたビルの空間を越えて骨組みの屋根に飛び降りる。すると一人の魔法少女が木陰から飛び出して逃げ出した。咄嗟に視線で釘付けにして捕まえる。

 

「……よくも今まで好き放題やってくれたわね……」

 

 その魔法少女は、なぜか十咎ももことそっくりの姿をしていた。

 

「あんた何者? 教えなさい」

「…………」

「教えないと殺すわよ」

「…………、……脅迫にもなってないな。俺が死んだら教えることはできねぇだろ? バカなのか? あ?」

 

 およそ十咎ももことは思えない暴言を吐く。それが聞くに耐えなかったのか水波レナはトライデントを取り出して首元に差し向ける。

 

「ももこの顔で変なこと言わないで! さっさと吐きなさい! あとスタンドってやつも止めて! カード持ってんでしょう!?」

「っ……嫌だね。さっさと殺せよ。ほら、殺せや! あぁん!?」

「……! こいつ……」

 

 その時、十咎ももこから念話が届く。

 

(レナ。そいつとは交渉不可能だ。殺るしかない。マスィーンも襲ってきた。今かえでが相手しているが、そう長くは持たないぞ……)

(っ……)

(アタシがトドメを刺すか? いつでも狙撃(う)てる)

(……いいえ。レナがやる。ももこだけに任せられないもの。レナだって、生き残る為なら甘んじて殺し合いを受け入れるわ。でも……)

(……レナ……)

(……お願い。勇気を頂戴。自信なんか要らない。レナは……レナが好きな人を守りたい。ただそれだけだから……)

(────もちろんだ。だってアタシは年長者だからな)

 

 水波レナはトライデントを振るった。胸元に光る朱色のソウルジェムがパリンと割れる。虚ろな瞳で倒れる魔法少女。その光景は、昨夜の光景とだぶる。昨夜の記憶が脳裏をよぎる。

 

(……レナは……)

(気にするな。なんでアタシと同じ顔をしてるのかさっぱりだが、それはこの件を調べていけば分かることだ)

(……うん……)

 

 そこで秋野かえでと念話が繋がる。

 

(レナちゃん、大丈夫!?)

(かえで。そっちも平気?)

(うん! 見えないけど、試しに一時消去してみたら、ほんのちょっとだけ消えたの! スタンドは倒せないけど、魔法は少し効くみたい! そうやって時間稼ぎしてたら、急に叫び声をあげて勝手に消えちゃって……)

(そう……じゃあ、レナたちは勝ったのね……完璧に……)

 

 魔力の残滓となって消えていく魔法少女の死体。

 不可視の存在(スタンド)たるパーフェクト・マスィーンも消滅した。

 

 チームももこは帰還する。そこには悪魔と百江なぎさが待っていた。

 そこで悪魔は三者三様の表情を見て直感する。勝利を喜ぶでもなく、悲しむでもなく、ただ生き残れた実感を噛み締める虚しさ。戦場に生きる者たちの気持ちを再認識した顔つき。魔女は元は人である。それを倒すだけでなく、これからは魔法少女とも戦わなければならないのか。覚悟は決めても心は濁る。理解はできても決意は揺らぐ。だが悪魔は何も言わない。それはこれからの三人が共に乗り越えるべき問題だから。

 

「ねぇ、悪魔……これでレナたちの“負債”は払えたの?」

「あぁ。完璧に払えた。もちろん残り香のような“負債”が、また襲ってくるかもしれない。だが……」

「アタシたちなら大丈夫だ」

「うん! 三人一緒ならなんとかなるよ!」

 

 水波レナは変身を解除する。

 そこで十咎ももこと秋野かえでがひそひそと話した。

 

「さっきはびっくりする暇もなかったけど……レナの奴、めっちゃクールビューティーな姿になってたよな?」

「うん! すっごく美人さんだった! まるで十年後の姿みたい! 絶対ああはならないだろうけど!」

「だからかえでは一言余計なのッ! あと内緒話するなら聴こえないようにやってくれない!?」

 

 わーわーと騒がしくなる。

 その談笑を見守る悪魔は、役目は終わったとばかりに静謐と立ち去る。

 

「おいおい。レナ、かえで……またケンカかよ……。────あ、悪魔!」

「ん?」

「いや、なんというか……ありがとな!」

 

 十咎ももこの礼に対し、悪魔は手の甲を挙げて返事する。

 

「……礼を言われるような奴じゃない。と思っているのですか?」

「…………」

「ハァ……これだからクマ吉は……」

「それはどういう意味だ」

 

 悪魔はバトルグローブを開匣。炎を噴射して飛行する。みかづき荘に帰るのだ。

 百江なぎさも屋上から屋上へ跳躍し、悪魔と同じ帰路に就く。

 

「もう開き直れば良いのです。いつまで罪悪感を感じているのですか」

「…………」

「まったく。これだから初心な少年は……」

「お前はちょっと穢れすぎだ」

「清濁併せ呑むことができるのは大人の証なのです」

「なら初心な奴をあたたかく見守るという大人の余裕も見せてもらいたいものだな」

「!」

 

 一本取られたと悔しそうに拳を握り、やや拗ねる百江なぎさは悪魔の体に飛びつく。

 

「おい!」

「このまま乗せて帰るのです! 帰ったらナッツとチーズをさわらせるのです! そしてまたチーズにクッキーを添えたパーティーを執り行うのです!」

 

 悪魔は辟易した顔で帰路に就く。みかづき荘に戻れば、そこには環いろは、暁美ほむら、鹿目まどか、七海やちよの四人が待っていた。十咎ももこの蘇生を告げると彼女たちは喜び、七海やちよは部屋の奥に消える。

 

 かくして死闘に次ぐ死闘の末、絶交ルールのウワサを倒し、チームももこは更なる結束を深めた。

 ウワサ。黒羽根。白羽根。スタンド。複製魔法少女。半魔女など、まだまだ謎は多い。

 

 奇々怪々の神浜都市。

 そこに巣食う巨大な陰謀を突き止め、悲願を叶えるため、悪魔はしばしの休息を取ることにした。

 

 

 

 第一章、完。

 

          †

 

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