※この作品はR-18です。

アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO!   作:形のない者

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第1.1章 宿命黒江物語 ノン・ネゴツィアビレ ‐決して譲れぬ禁断のリング‐


第1.1章 宿命黒江物語 ノン・ネゴツィアビレ ‐決して譲れぬ禁断のリング‐
4月8日【どうした黒江。また童話のストーリーでも練っているのか?】黒江兄


 

 責任感で押しつぶされそうになる。自分が油を売っている間に魔女が人を殺している。世界中で、この街で。次に死ぬのは近隣の人かも。あるいは自分の家族かも。明(・)日(・)は(・)我(・)が(・)身(・)かも。

 

 なけなしの勇気を振り絞って、笑っちゃってる膝で立ち向かっても、弱い私じゃ助けるまでに犠牲者が出てしまう。今まで完璧な勝利なんて一度もなかった。冥福を祈っても心は晴れない。

 

 嗚呼、いつから私は、自分の為に祈るようになってしまったのだろう?

 

          †

 

 幻想的な景色。夜空星空、丘のてっぺん、線路の上で少女が手招き。

 

 ────運命を変えたいなら神浜市に来て。この街で魔法少女は救われるから。

 

「……!」

 

 黒江は目を覚ます。カーテンの奥から照らし込む朝の陽射しが眩しくて眠りが浅くなった。額の上に置いていた腕をぐったりと下ろしてスマホを手に取る。

 

(今の夢……例のアレだ。ほかの魔法少女たちが口々に不思議な夢を見たと言い始めて数ヶ月。たしか環さんも同じ夢を見て神浜市に向かうと言っていた。でも今の私にはもう関係のない話だ。私(・)は(・)魔(・)法(・)少(・)女(・)を(・)辞(・)め(・)た(・)んだから。……なのに、なんでまだこんな夢を見(・)せ(・)ら(・)れ(・)る(・)んだろう)

 

 それは宇宙履歴の因果残留に関係している。たとえ黒江が元の人間に戻っても、この宇宙は黒江が魔法少女であったことを記録している。故に魔法少女に向けられた因果があるなら、黒江はそれを受け取ってしまう定めにある。

 

(何かで例えるなら……そうだ。退会したのにメアドや住所を押さえられてるから月一でメルマガが届くようなもの……かな。そんなことあんまありえないけど、ぶっちゃけキュゥべえのやってることって悪徳詐欺会社みたいなものだし……)

 

 起床。洗顔、歯磨き、髪留め等の朝の支度を済ませる。台所では母親が朝食を作っていた。リビングのソファに座りテレビを見る。隣には兄弟も座り、食卓では父親が新聞紙を読んでいた。

 

「…………」

 

 あれから数日。

 悪魔に身体(カラダ)を許し、元の魂を取り戻した黒江には、元の普(・)通(・)の(・)平(・)穏(・)な(・)日(・)常(・)が戻りつつあった。

 

(魔法少女と一般人。どちらも経験したことで、少し分かったことがある)

 

 自殺者のニュースが流れる。

 

(希望と絶望、魔女化、キュゥべえとの契約はどういうものなのか。私なりに考えてみた)

 

 ────黒江は思う。

 

 キュゥべえとの契約は、今後一切の“再起”を禁止する悪魔の契約だと。

 

 例えば一般人は、今ニュースで流れた人のように、社会の荒波に押しつぶされて絶望し、欝になっても、魔女化はしない。なぜなら全てに絶望した一般人には、ある“選択権”が存在する。それは自殺するか、引きこもるか。

 

 今ニュースで流れた人は、自殺する勇気があった人だ。

 しかし黒江にそんな勇気はない。どれだけ絶望しても自分の命を自分で終わらせる勇気なんてない。自分の運命さえ自分の手で終わらせることができない。まさに弱者の中の弱者だ。身も心も弱い底辺の人間。犬畜生にも劣る餓鬼。生きる価値もない存在だ。

 

 たとえ話に戻ろう。魔法少女が絶望した場合は、大きく話が違ってくる。一般人には“選択権”が存在するが、魔法少女にはそれがない。長い人生の中で、たった一回でも大きく転べば(絶望すれば)、その時点で殺される(魔女化する)。なぜなら魔法少女は契約した時点で、今後の人生の中で必要となるだろう、あらゆる“再起”のチャンスを白い悪魔(キュゥべえ)に捧げてしまったのだから。

 

(その点、一般人はいいな。絶望しても引きこもっていれば、いつかチャンスが巡ってくるかもしれないんだから)

 

 無論そんなことはなく、魔法少女がグリーフシードを求めなければいけないように、食べるものを求める必要がある。その中でチャンスなぞ巡ってこず、チャンスを自ら手放し、だらだらと生きて何も成せず死んでいく人もいるだろう。しかし心の傷が回復して立ち上がろうとした時に、あなたに会えてよかったと感謝できる人に巡り会える可能性はゼロではない。少なくともそのチャンスが、訪れようが無かろうが、一般人には確実にあるのだ。再起のチャンスを待つ権利がある。

 

 だが魔法少女にはそれ(権利)がない。そんなチャンスがひとつ残らず許されない。たった一回、大きく落ち込んでしまうだけで魔女化する。命を奪われる。自殺するか、引きこもるか、そんな選択肢も取らせてくれない。逃(・)げ(・)る(・)こ(・)と(・)を(・)許(・)し(・)て(・)く(・)れ(・)な(・)い(・)。

 

 派手に転んで、それでも希望を求めて手を伸ばせば、魔女化。なので長く生き残れるのは、派手に転んでもそれを笑い飛ばせるような魔法少女だ。

 

 例えば、Sさんという魔法少女がいるとする。彼女は本当は善人だけど、わざと悪人のフリをすることで、自分がどんなひどい目に遭っても「アタシは悪事を働いてきたから、このくらいは因果応報さ。自業自得なことくらい理解しているさ」と、残酷な現状を受(・)け(・)入(・)れ(・)る(・)ことができる。そんな心の強さがある。心の旅が上手とも言う。そういう人は魔女化しない。受け入れることができるということは、納(・)得(・)し(・)て(・)い(・)る(・)ということで、絶(・)望(・)し(・)て(・)い(・)な(・)い(・)ということなのだから。

 

 では反例を出そう。

 例えば、Mさん。彼女も魔法少女だ。そして好きな人がいる。だが魔法少女の真実を知ると一変、自分は魔女になる化物だと卑下してしまった。そのせいで告白することができず、好きな人はほかの人と付き合うことになってしまった。それでも彼女は諦(・)め(・)る(・)こ(・)と(・)が(・)で(・)き(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)。もう好きな人を手に入れることは不可能だと分かっていても、残酷な現状を受(・)け(・)入(・)れ(・)ら(・)れ(・)な(・)い(・)。それは心の弱さ、未熟さ。心の整理が下手とも言う。こういう人は魔女化する。諦めることができない。それはつまり、まだ希望を抱いている証拠でもある。そして希望に縋り薄命の光に手を伸ばそうとしているということは、裏を返せば現状に絶(・)望(・)し(・)て(・)い(・)る(・)ということなのだから。

 

 一般人なら失恋の傷を癒せばいい。心の傷を癒せばいい。時間が解決してくれるなんて陳腐な表現は、新たな出会いがあるか、忘れ去るキッカケがあってこその言い回しだ。しかし魔法少女には、傷を癒す時間は与えられない。

 

 続きの例を出そう。

 例えば、さっきのSさん。彼女はMさんのことが気になっていた。始めて魔法少女の真実を知ったSさんは、やはりMさんとは違い「悪人にはふさわしい末路だ」と納得した。確かにショックだが悲観することではない。少しコケただけだ。でも彼女は思った。「Mの奴はアタシと違って悪人じゃない。そんな奴が悪人と同じ末路を迎えるのは間違ってる。き(・)っ(・)と(・)助(・)け(・)ら(・)れ(・)る(・)方(・)法(・)が(・)あ(・)る(・)は(・)ず(・)だ(・)」と。この時点でSさんが魔女化する確率は半々になった。なぜなら彼女は希望を持ってしまった。もしその希望が叶わなければ、今度こそ絶望するかもしれない。彼女は自分が悪人だから悪いことが帰ってくることに納得していた。しかし善人に悪いことが起きるのは納得できない。

 結局Mさんを助けることはできないと悟ったSさんは、「せめて最期は誰かの為に」とMさんもろとも自爆した。魔女を葬り、献花を捧げた。悪人にはもったいなさすぎる綺麗な末路だ。それは彼女が元々善人だったからこそ許された終わり方だ。

 

(私にそんな勇気はない)

 

 ちなみにSさんの納得論は、第三者から見て、それが明らかに“誤魔化しの悪役”であることが見え見えでも、彼女にとってそれは真実なのだから納得は可能だ。人は日々、自らの所業を秤にかけて、ギリギリ許される範囲で生きている。だが世の中には、秤にかける重りがキツすぎると、重圧のあまりバランスが崩れ、天秤は崩壊し、何が良いのか悪いのか分からなくなってしまう。

 

(私は誰で、誰になればいいのか────か。……私、本当に童話作家になれるかも)

 

 そんな冗談を呟いた黒江は、様々な人間模様を妄想することで自身の現状を再認識し、魔法少女と一般人の“運命の違い”についてこう結論づける。

 

 一般人と魔法少女の違い。それは“再起”のチャンスがあるかないか。キュゥべえに奪われているかいないか。 

 

 絶望しただけで死ぬなんて困る。立ち直る時間くらいほしいものだ。だがキュゥべえとの契約は、始めっからそういうものだったのだ。そのためキュゥべえは契約する時に、是非こう言うべきだ。

 

 ────やぁ僕と契約して魔法少女になってよ。人を襲う悪い魔女を命懸けで倒す仕事だ。その代わり一個だけ、なんでも願いを叶えてあげる。でも気をつけて。これから先の人生で、大きく転んだり、くじけたり、絶望するようなことがあったら、君は二度と立ち上がれない。どんなに願っても意味はない。自力で解決しない限り絶対に死んでしまうんだ。だってそうだろう?

 【神様。一生に一度のお願いです。これを叶えてくれたら、もう私の願いは一生叶えてくれなくても構いませんから】

 僕との契約は、つまるところそういうことなんだ。それを覚悟できるなら、魔女化の運命を受け入れて僕と契約してよ!

 

(…………ばかばかしい)

 

 そんな謳い文句で契約する人なんていない。居るとすれば、何か退(の)っ引(ぴ)きならない事態に陥っている人くらいなものだ。故にキュゥべえは真実を隠して契約を迫る。余計なことは言わず、必要最低限の情報で愚者を一本釣りする。まさに詐欺師の所業だ。そして真実に気付いた魔法少女が口々に「騙したな」「嘘をついたな」と言えば、キュゥべえはたちまちこう返す。

 

 ────心外だな。騙したとは人聞きが悪い。僕は嘘なんか付いてないよ。全て君たちの確認不足がいけないんじゃないか。

 

 ああ、確かにその通りだとも。目に見えない契約書の隅っこに書かれている文字を読まなかった少女たちが愚かなのだろう。簡単に得体の知れない存在を信用した少女たちが愚かなのだろう。だがそれでもキュゥべえが“ひどい存在”であることに変わりはない。

 

(それを思い知らせてやりたい)

 

 そこで黒江はピンときた。

 

「……あ、そっか。だから悪魔さんは、キュゥべえを連れ回している……? いや、ちがうかな……うーん。やっぱりわかんないや……」

「? どうした黒江。また童話のストーリーでも練っているのか?」

「…………」

 

 兄の声掛けを無視した黒江は、ともあれ人間に戻ったことを歓喜痛感する。

 たとえ人間に戻ったところで、自らが空虚な存在であることに変わりはない。そんなネガティブ思考を脳裏に排そうとして……

 

「黒江~! おにいちゃーん! おとうさーん! 朝ごはんできたわよー! 早く食べて支度しなさーい!」

『はーい!』

 

 食卓に着く。箸を手にいただきますと合掌して食べ始める父親。ガツガツと食らいつく兄。それを一瞥した黒江は、ゆっくりと母が作った料理の味を噛み締めた。

 

(これから私は学校に行く。普通の女の子として────)

 

          †

 

 しかし黒江は知らなかった。裏の世界を。クズどもの巣窟を。

 

 “再起”のチャンスを与えられない人間。否、与えられたのにそれを有効活用しないクズども。それは一般人の中にも当たり前のように存在する。彼らは底辺の底辺。しかして一攫千金を狙う無謀中毒の挑戦者ども。その名を────

 

 ────不可能債務者(ギャンブラー)。

 

 その暗黒賭博世界に足をすくわれた黒江がドン底まで転がり落ちて命懸けの“再起”を図る物語は、まだもう少し先のことである。

 

       ざわ……ざわ……

 

          †

 

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