アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO! 作:形のない者
【前章:愁える花が散る】更紗帆奈〔川尻浩作〕
それは半年ほど前のこと。
紫髪紫眼の魔法少女は狂ったように嗤う。咲う。嘲笑う。
「やっぱいいわ……うん……面白い……ぐちゃぐちゃになるのってさ……! あっは! あっはははー!」
対する紅髪赤眼の魔法少女は抑えて呟く。さながら噴火直前の火口といったように。秘めたる激昂を沸々と煮え滾らせて。
「やめろ……」
「……え? なんか言った?」
「やめろって言ってんだよ……そのムカつく笑い声をッ!!」
「────あっは……!」
死闘の幕が上がる。それは互いの命を真剣に奪い合う戦い。殺し合い。
白刃が狙うは紫色のソウルジェム。確実に息の根を止めんと奮われる殺意。
呪いを願い戦闘能力を失った魔法少女に、その苛烈なる猛攻を防ぐ手立てはない。
────殺される。
そう覚悟した刹那、命を斬る筈だった刀は首元で止められた。紫色のソウルジェムが二度またたく。
「……は? ちょっと勘弁してよぉ~……これ寸止めってやつ? なぁんであたしのソウルジェムを壊さないわけ? まさか殺しをためらってるとかないよね? 改心オススメしちゃう腹とかないよね? おい答えろよ……なぁんでかなぁああああ!?」
それからは聞くに耐えない言葉のオンパレードだった。
「大人しくしてください」「あなたは何を考えているのですか」「何をしたいのですか、あなたは」
何もかもが面倒になった魔法少女はあさっての方向を見て答える。
「そんな……分からないわけが……!」「どうして……!?」
人の最たる醜さとは、なんでもかんでも理由を見つけようと考えるところだ。
理由なんてない。意味なんてない。思惑なんてない。ただそうしたかったからそうする。後先なんてどうでもいい。それが魔法
持論を展開する。大人と子供の違いとは何か。それは後先を考えられるか否かだ。成人していようが未成年だろうが、後先を考えられる奴が大人で、それができない馬鹿はガキ。然らば、大成する奴は大人で、蹴落とされる奴はガキという事になる。
故に彼女はガキでいいと選択した。
いつか
「そんなのまるで……あなたが魔女じゃないですか」
「────。あたしが……魔女……?」
まだ
「…………。……ぷっ!」
ちゃんちゃらおかしい発言に失笑を禁じえない。
たしか彼女は常盤ななかと言ったか。その発言からは神妙な着想が得られた。それには感謝しなければならない。
「あっハハハハはハハハハ────!! あっは! あっはは! あーっ! ハハハははは! アッはは! あっは……最っ高……! やっぱりいいね、あんた……!」
「な、なんなの……!?」
「あたしはあんたの
後先を考えない魔女が彼女だとするなら。
いずれ常盤ななかは後先を考えない魔法少女になるだろう。
そんな予言めいたことを口にした彼女は、自らのソウルジェムを取り出す。
「反対側……? こっち……?」
「これから始まる大事件……その渦中であんた
「それはいったいどういう……!」
「教えるかっバーカ! どいつもこいつもすーぐ答えを知りたがる……ンなもん自分で見つけな! そんなんじゃテメェの“眼”が泣いちゃうぜ!? んじゃ! あたしはおっ先にー!」
「──なっ!?」
彼女は自らのソウルジェムを叩きつけて割った。糸の切れた人形のように倒れる身体。
────のように、自分以外の魔法少女たちには見えているのだろうか?
常盤ななかの下に七海やちよ、静海このはが駆けつける。それから多くの魔法少女が揃い、どうしようもない極悪人とは言え死ねば同じ
────結局、あたしは生きているのか? その真相は転ばぬ先の杖だ。
思い出そう。今の掛け合いは常盤ななかの記憶である。でっち上げの会話。捏造の記憶。
彼女の固有魔法は《暗示》────それは一瞬の隙さえあれば即座に掛けられる汎用性の高い魔法。
…
────殺される。
そう覚悟した刹那、命を斬る筈だった刀は首元で止められた。
────アア、そう。そうなんだ……あんたはそこで止めちまう奴なんだな……残念だよ。ためらえば殺される。それが殺し合いの世界の常識のはずだぜ? だからこれは
暗示の魔法を掛ける。内容は《あたしがソウルジェムを割ったと思い込め》
そして生き物とは不思議なもので。死に瀕すると“因果の糸”が複雑に絡み合う。
因果の糸とは、インキュベーターが魔力係数と称し、魔法界が天運・運命力などと称する概念のことだ。
彼女の固有魔法《暗示》は、知性ある存在にしか効果がない魔法だった。それが命懸けの戦いの中で
彼女は自身のソウルジェムを対象に、連続で魔法を行使する。
暗示の魔法。その内容は《誰かの死体まで転がって蘇生させろ》
彼女と常盤ななかが問答する中、暗示を掛けられたソウルジェムはコロコロと転がっていく。
運命が転がる先には何が有るのか。そんなもの死体に決まっている。そう暗示を掛けたのだから。
そろそろソウルジェムとの距離が百メートルを離れる。
「んじゃ! あたしはおっ先にー!」
ただの魂の
†
……。
…………。
それから、どれくらいの時間が流れたのか。
彼女は目を覚ました。
否、今の
遠くからピーポーピーポーと救急車のサイレンがうるさい。
飛び起きると野次馬が悲鳴。無視してショーウインドウの反射から姿を確認する。
黒髪黒目の白スーツ。30代くらいのサラリーマンだろうか。内ポケットを探るとカードのような物が手に触れる。取り出してみるとそれは身分証明書だった。
【姓名:
「……へぇ~……」
やはりソウルジェムの真実を知った時からの推測は正しかった。ソウルジェムが魂であり本体なら、既に魂のない
しかし全てのソウルジェムで同じことができるかは分からない。彼女の中にいる友人の固有魔法は《移植》である。それを使った覚えが一度もなくても、その作用で偶然、魂が別の肉体へ移るという荒業がうまくいった可能性もある。
「っ……!」
つと腹部に鋭利な痛みが走る。ナイフが刺さっている。引き抜く。傷口は魔力で再生。だがそれでも頭痛が続く。どうやら魂と体の接続がうまくいかず、
そばに財布が落ちている。拾い上げた瞬間、この死体が
「……通り魔的な強盗に遭って呆気なく刺されて死んだ……ってとこかな?」
立ち上がってその場を後にする。通行人が心配していたが無視して路地裏に入る。スマホを取り出す。パスワードは知らないが、どうやら顔認証でも開くようだ。最近のメールを確認する。最もやり取りが多い“同僚”とのメールを読む。それで分かったことは、どうやら川尻浩作は
「さて……」
かくして彼女は別人の肉体を手に入れた。大通りに出て美容院に入る。紫色と黒色の
「そうだ! 果てなしのミラーズの複製体は……あぁダメだ。ありゃ死んだら霧になって消えるからなぁ……」
仕方なくイレモノとの“軋み問題”は保留。それより彼女は“これから何をするか”を考えていた。
「…………ニィ────」
鏡に映るは、それを見た者が吐き気を催すほどの邪悪な笑み。
スマホ画面から日付を確認。既に
というより“あれから”半年が過ぎているようだ。
(……
友のことを考えているのに、急に思考が切り替わる。
(あーうぜ……常盤ななか……正義を気取るくせに悪を誅することなく油断するとか……マジこの世界エンドってるわぁー……)
これも魂と体の軋みの影響だろうか。脳内が蹂躙されるように激痛が迸る。気付けば大絶叫を上げていた。周囲の野次馬がざわめく。それを無視して店を出た。
(悪は絶望しないとダメじゃんよ……魔法少女は希望を見せる存在だろうが……)
魔法少女がいる限り、この世に悪は栄えない。だがそれを正義ヅラをしていた常盤ななかは否定した。
(あたしはよぉ……もうテメェらのように、希望で幸福を感じる体にはなってないんだよぉ……ぶっ壊れちまってんだよぉ……あたしはもう絶望で幸福を感じる体に変わってんだよぉ……あたしを論破する前に、あたしの脳天に弾丸をぶち込んでくれよぉ……)
そこで彼女は思い至る。
(飽きた。もう悪いこと飽きたわ。絶望を欲しがるのには飽きた。だから次は────)
悪が倒される絶望でこの世に正義は確かに有りまだ世界は捨てたもんじゃないと喜んで死んでいきたかった想いは正義の味方どもに踏み躙られた。今までの悪事。今までの悪役。今までの悪行には、そのような行動原理があり目的意識があった。だが今は違う。胸に燻る想いは虚無と消え、頭に廻る天啓が続編を告げる。
元々の刹那主義・快楽主義の覚醒。
魂は吼え、肉体は軋み、心は躍る。
彼女の名は
魔法少女の中でも極めてワルの
すなわち、
†