アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO! 作:形のない者
翌日。
いつもの放課後。包帯ぐるぐる巻きの和泉壮月は周囲から奇異の目で見られながら下校する。
(やっぱ目立つよな……ちょっと恥ずかしい……)
正門前では生徒会長・三田村結奈の怒号が飛んでいる。今の姿を見られたら何を言われるか分かったもんじゃない。和泉壮月は昨日より巧く正門を抜けてやろうと、体の大きな生徒の真横に立ち、死角を作って帰ろうとするが────
「生徒会長~! 和泉十七夜さんの弟さん見つけましたぁ~」
「────えっ!?」
三田村結奈の死角を抑える位置に立って和泉壮月を指さした女子生徒は、
「よくやった瀬奈ァ! おい壮月ぅ! 和泉十七夜から聞いたぞォ! おまわりさんからも聞いた! テメェ昨日どっかのヤベェ馬鹿とやりあったみてぇじゃねぇか! あぁん!?」
「……!」
「男が女にビビってんじゃねぇよ! テメェ正義の味方のつもりかゴルァ! やってることは不良と変わりねぇんだよ! 姉貴を泣かせる弟がどこにいやがる!」
「えっ……姉ちゃん泣いてたのか!?」
「バカ泣いてねぇよどっちかっつーとげきおこだったよ! 分かったら今後は大人しくしやがれ! 荒事は全部ポリ公に任せろ! それが奴らの仕事だ法律知らねーのか糞が! テメェまで不良どもの乱痴気騒ぎに参加する必要はねぇんだよワーッたかボケナスがァ!」
「は、はい……っ!」
知らず知らず背筋をピンと立たせていた和泉壮月は、深く深くお辞儀して脱兎のごとく正門を抜け出す。
「ハァ、ハァ……ビビったァ……言ってることは尤もだけど、もうちょっと優しく言ってほしい……」
先ほどの光景を例えるなら、恐竜に睨まれたカエルである。恐竜は普通に喋っているだけなのだろうが、恐竜と対面してしまったカエルからしたら恐ろしすぎて仕方がない。
和泉壮月は帰路に就く。その途中で微かな乱闘音を耳にした。
「……ん?」
路地裏に顔を出す。そこには鶴岡甚太郎が誰かと殴り合っていた。否、一方的に鶴岡甚太郎が殴られていた。
「ぐぁ……っ!?」
「チッ……五体満足なテメェとやり合いたかったぜ。だがこれも“命令”なんでな」
金髪黒目の青年は釘バッドを持っておりそれを高々と振り上げる。まさかそれで人を打ち据えるつもりか。気付けば和泉壮月の体は駆け出していた。
「やめろ!!」
「────!」
「……っ!? なっ……お前は、昨日の……!」
和泉壮月の登場に鶴岡甚太郎が驚く。
「お前、まさか昨日の奴らの仲間か!? あの“炸裂弾”華田宏之とかいう奴の……!」
「……? ────」
不意に走り出した青年は、釘バットを振り上げて和泉壮月に殴りかかった。
「うおっ!?」
「逃げろ! そいつは“ネオ蜘蛛”の傭兵だ! あの“炸裂弾”を倒した俺たちを狙ってやがるんだッ!」
鶴岡甚太郎は逃げろと言うが、ここで逃げれば鶴岡甚太郎が釘バットにやられてしまう。さすがに武器を持った相手には間合いを取らざるを得ず、和泉壮月は後退。そして敵は追撃を仕掛けてくると思いきや、ぱたりと手が止まった。
「……?」
「……なるほど。そういうことか。お前ら二人が“炸裂弾”を倒したんだな? 俺は命令でその二人を狩れと言われてんだが……そうか。
「……! な、なんだよ、それ……! じゃあ、もし俺が
「うるせぇなぁ……俺は考えるよりも先に手が出ちまうんだ。急に外野が止めに来たのにムカついたから殴りかかった……これじゃダメか?」
「……っ! ふざけんじゃねぇ!」
和泉壮月の吶喊。対する青年は釘バットを振るう。それは和泉壮月の顔を狙った一撃。だがそれは顔を庇う左腕によって防がれた。
「……なに!?」
「ッ……! ダラァ!!」
和泉壮月の右ストレートが青年の顔面に入る。たたらを踏んだ青年は口の中を切ったのか血を吐き出し、鋭い眼光で和泉壮月を睨みあげた。
「……いいパンチだ。左腕を捨てて真っ直ぐと……」
「ぐっ……!」
和泉壮月の左腕から血が流れる。釘により衣服が破けて擦り傷が多数。鈍痛が響いて骨が軋む。
そこで鶴岡甚太郎が叫んだ。
「お前……なんで……逃げろって言ったろうが!」
「……」
「これは俺の戦いだ……邪魔すんじゃねぇ!」
「…………。……あーもう、うるせぇなぁ!?」
和泉壮月の怒号が青年を通り抜けて鶴岡甚太郎に掛かる。
「お前、人に指図すんなって言う割に、めちゃくちゃ俺には指図すんじゃねぇか! なんか理不尽だろそれ! これだから不良は嫌いなんだ!」
「な……あ?」
「けが人は黙ってすっこんでろ。それによぉ……ここで逃げたら“漢”じゃねぇだろ!」
「……!」
その時、釘バットが地面を転がった。
『……!?』
和泉壮月と鶴岡甚太郎は驚き、眼前の青年がファイティングポーズを構えているのを目にする。
「お前ら……なんか知らねぇが気に入ったぜ。武器は無しだ。掛かってこい。二対一でも俺が勝つ」
「……! なんで……」
「俺は
「……。……俺は、和泉壮月だ」
互いの自己紹介を終えた二人はジリジリと間合いを詰めて睨み合う。次の瞬間、大迫春樹の背後から鶴岡甚太郎が飛び起きて拳を振るった。それを後ろも見ずに躱して蹴りを入れる。その隙を突いて和泉壮月が殴りかかるが、大迫春樹は手のひらでパンチを受け止めると残る腕を振るって和泉壮月を下向きに殴りつけた。
「ガハッ!?」
「ぐはっ!?」
強い。いくら昨日の喧嘩で負傷しているとは言え、大迫春樹は二対一を物ともしない。
だが負けていられない。和泉壮月は腹に掴みかかり、鶴岡甚太郎は飛び蹴りをかます。
「ぐっ!」
大迫春樹の背中に蹴りが入り、力任せに和泉壮月を振り払う。そのまま回転し、飛び蹴りが終わって落下する鶴岡甚太郎を殴りつけると、流れるように和泉壮月の土手っ腹に蹴りを入れた。
「うぐっ!?」
「ぐぁっ!?」
強い。なんてもんじゃない。大迫春樹は天性のバトルセンスを備えている。
それでも立ち上がる和泉壮月と鶴岡甚太郎。だが二人は呆気なく連撃を喰らって膝から崩れ落ちる。
「……お前とも五体満足の時にやり合いたかった。まぁ“命令”は報復だし、こんなもんでいいか……」
大迫春樹は釘バットを回収して路地裏から立ち去ろうとする。それを鶴岡甚太郎が「ま、待ちやがれ……」と声をかけるが、大迫春樹は無視した。
「待てよ……」
「────!」
大迫春樹の背後でゆらりと立ち上がる和泉壮月。
(《和泉流護身術・
それは敵を破壊する為の攻撃術。急所を突いて確実に仕留める。敵の命が危うい最終手段。己の命が危うい時以外は決して使うなと和泉十七夜に口を酸っぱくして言われていたが、和泉壮月は負けん気を発揮して使ってしまう。
(お前が持つ天性のセンスなら……ギリギリ急所は外してくるだろッ!!)
「なに────!?」
和泉壮月の全身全霊を込めた突貫。反射的に大迫春樹は釘バットを打ち据えるが、和泉壮月は肩に激突した衝撃に目もくれず、吼える拳が繰り出される。
「ドラァアアアアッッ!!」
「オブッ────ッッ!?」
左肩脱臼。右拳炸裂。奥歯粉砕……したかと思うほどの食いしばりで大迫春樹の顎を狙った和泉壮月だが、釘バットの衝撃がわずかに軌道を逸らしたらしく、頬をめり込ませた。吹き飛ばされて転がる大迫春樹。着地する余力がないせいで地面に頭から倒れた和泉壮月。
「ぐっ……!」
すぐに大迫春樹は立ち上がるが、既に勝負は決していた。和泉壮月は左肩を抑えて悶絶している。鶴岡甚太郎は和泉壮月の底力に驚いて倒れ伏したままだ。
「っ……お前スゲェな。だがそれ以上は体を壊すぜ……」
「……ッ! なめんじゃ、ねぇ……!!」
和泉壮月は震えながら立ち上がる。そこで初めて大迫春樹は目を見張った。
「どうした。ビビってんのか?」
「……!」
次の瞬間、煽られたことに我慢ならない大迫春樹が釘バットを振るう。だがそれは読み通り。
(《和泉流護身術・
それは合気術によって相手の力を利用し投げ飛ばす。その隙に逃げ出す技だが、和泉壮月はこれを攻撃の為に使用した。
まず釘バットの一撃を右手で受け流す。釘によって擦り切れて舞う鮮血。互いの間合いが縮まる。そこで和泉壮月は軸足を確認し、大迫春樹の足を引っ掛けた。
「うおっ!?」
釘バットを振るうための余力が利用されて転ばされる。直後、和泉壮月の右腕が奮われて、裏拳が顔面に命中。
「ぐがっ……!?」
「こっちが負傷してるからって手加減したツケだ……!」
よろめく大迫春樹の腹部に和泉壮月の右拳がめり込む。が、大迫春樹の頭突きが和泉壮月の左肩を打つ。和泉壮月の膝蹴りが腹部に入る。大迫春樹の拳が顔面に入る。蹴りが、拳が、膝が、肘が、互いの体を打ち続ける。
「ハァ、ハァ、ハァ……」
「……へへっ。この俺と互角に渡り合うとはな……」
「ハァ、ハァ……どこが互角だ。こっちはけが人だぞ……それと互角ってことは、テメェの方が格下じゃねぇか」
「……!」
「武器も使いやがってよぉ……その上、戦い方もうまいし……チクショウ……」
和泉壮月は負けを悟る。釘バットで左腕を持って行かれてからの殴り合いは、もはや根性だけで戦っていた。それも限界が近い。
「……つまり、俺と互角以上に渡り合ってたってことか……」
「……あ?」
「しかも憎めない奴と来た……いいぜ。ここは降参だ」
「!」
「まさか
大迫春樹は背を向けて路地裏を去ろうとする。それを見た和泉壮月は限界を迎えて膝が脱力し尻餅をついた。
その時、卑しい声が路地裏を響かせる。
「ちょいちょい大迫ちゃん。ちゃんとトドメは刺してもらわなきゃ困るぜ?」
「……! 真柴さん……」
路地裏に現れた男は
「うちの鉄砲玉が馬の骨にやられたんだ。野放しにしてたらうちの名が廃るだろうが」
「なんでここにいるんすか?」
次の瞬間、真柴隼人は中指を立てて切れ散らかした。
「先輩に質問すんじゃねぇえええ! 新顔のテメェが逃げ出さねぇか監視してるんに決まってんだろうが能無しがァ!!」
「俺は逃げねぇっすよ」
「んじゃあトドメを刺せや! 急にブルっちまったか!? その釘バットは飾りかよ!」
「……それが“命令”っすか?」
「あ? それ以外の何に聞こえんだよ」
刹那、大迫春樹は釘バットを打ち据えた。真柴隼人の脳天に直撃。まさに早業の一撃だった。
「へぶしっ」
驚きの残響もなく真柴隼人は倒れ伏す。対する大迫春樹はしれっと口にした。
「じゃあ抜けるっす。バイト代は貰ったし」
大迫春樹は真柴隼人の財布から札束を抜き取るとウキウキ気分で立ち去る。が、その足首を真柴隼人が掴んだ。朦朧とする意識の中、頭から血を流しながら問い掛ける。
「て、てめ……う、うら、うらぎ、うらぎる、のか……」
「ああ裏切る。アンタらみたいな
「……な、なに、わけ、わかんねぇ、こと、を……、────」
がくりと真柴隼人は気絶する。路地裏から消える大迫春樹。一部始終を見ていた鶴岡甚太郎は何が起きているのか理解に時間が掛かったが、話を聞くだけで大体の事情を察した和泉壮月は壁を頼りになんとか立ち上がる。
「……! おい、お前……大丈夫なのか?」
「あぁ。鶴岡も大丈夫か? それより大迫って奴めっちゃヤベェなぁ……本当に何も考えてないんじゃないか?
和泉壮月の考える通り、大迫春樹は直情型の熱血小僧である。喧嘩で自分と互角以上の戦いをした者しか認めないが、一度仲間になれば絶対の信頼を寄せるようになる人情家な面がある。一度拳を交えればどんな奴か分かる……それが大迫春樹の口癖でもあった。
「……とりあえず助かったな。──あ、そうだ、鶴岡」
「あ?」
「昨日の少年が言ってた。
「……!」
和泉壮月はボロボロの体で立ち上がり、痛む左腕を抑える。
「……まさか、それを言うためだけに、ここに現れたのかよ……」
「は? いや、それだけじゃなくて、普通に襲われてたじゃん。やっぱ不良は報復が怖いよな……キリがねぇぜ」
「……だったらなんで……わざわざ面倒しょいこむんだ」
鶴岡甚太郎の問いかけ。それに和泉壮月は即答した。
「目の前で困ってる奴を助ける為だ。……つーかそれができなくなったら、人間は終わりだろ」
「……ッ!!」
路地裏に差し込む橙色の陽光。眩しくて温かい逆光に魅せられたのは、いつぶりだろうか。
思わず破顔した鶴岡甚太郎は俯き、こぼした笑みを隠しつつ立ち上がる。
「……
「?」
「お前が、いや……壮月が、デッケェ男の一人だってことをな」
「……?」
どこか嬉しそうに和泉壮月の
瞬間、和泉壮月が叫んだ。
「いってぇえええ!?」
「あ! わ、わりぃ!」
「た、叩くならせめて右肩にしろよ!」
「だから悪かったって! あ、そういや脱臼してんじゃねぇかそれ? 俺、治せるぜ!」
「マジで? ……痛い?」
「…………聞かない方がいいと思うぜ」
鶴岡甚太郎は、そっと和泉壮月の左腕をしっかりと持つ。
「────いや、やっぱタンマ! 病院の先生の方がうまいんじゃね!?」
「うるせぇ行くぞ! 歯ぁ食いしばれ! 舌噛むなよ!」
「ま、マジかよ……!?」
ゴギリッ。そんなとんでもない音がした後、和泉壮月は声にならない悲鳴を上げて激痛に震えた。
「よし!」
「よし……じゃねぇ……っ!」
動けない和泉壮月を連れ出すため、鶴岡甚太郎は右腕を後ろ首に回して路地裏を出る。
そこで二人は目を疑った。
右も左もガラの悪い奴らばかり。それに
「おっ。お前らまだ動けたのか! 壮月はともかく、鶴岡の方はしばらく動けない程度にやったつもりなんだけどな」
「大迫……これは……!」
「どういうことだ、こりゃあ……」
「どうやら真柴さんが連れてきたチンピラみたいだな。いま俺が裏切るって話を聞かせてたんだが、退いてくれねぇんだ」
「いや……そりゃそうだろ……」
「…………」
呆れる和泉壮月。そこで鶴岡甚太郎が誰よりも前に出た。
「壮月。俺が道を切り開く。その隙にお前だけでも逃げやがれ」
「はぁ!?」
「乗った。だがそれは俺の役目だ。お前らとはサシでやり合いてぇ。ここで潰れてもらうと俺が困る」
「要らねぇ世話だ。俺がやる。それに俺が万全ならお前とのサシは俺が勝つに決まってる」
「いや、おい……」
「そんなのやってみねぇと分からないだろ?」
「あぁん!? テメェマジで今ぶっ飛ばすぞ!」
「おい! 鶴岡、大迫! 来てる来てる!」
『おらぁああああああああ!!!』
不良集団が雄叫びをあげて、素手にメリケンサック、角材に鉄パイプ、スケボーにバイクの椅子を手に持って襲いかかってくる。
『────ドラァッ!!!』
それを和泉壮月の拳が、鶴岡甚太郎の蹴りが、大迫春樹の釘バットが蹴散らした。
「チクショウ乱闘かよ!? おい鶴岡! 大迫! 互いに背中合わせで行くぞ! 後ろ取られたら一瞬で終わる!」
「了解したぜ!」
「うるせぇ! まだ俺とサシで殴り合ってもいねぇのに命令すんじゃねぇ!!」
「大迫も鶴岡タイプかよ!? ──っていや待て。鶴岡お前、今、
「あ゛ぁ゛!? テメェを認めるって言ったろうが! 特別に言うこと聞いてやらねぇでもねぇよ!」
和泉壮月、鶴岡甚太郎は背中合わせで戦う。
一方、なんだかんだ言って大迫春樹は、和泉壮月の背中を守れる位置に立っていた。
(ざっと二十人! ツライな……これは……っ!)
三人は喧嘩の疲弊で勢いが弱く、徐々に詰められていく。
「チッ……壮月のパンチが今頃に効いてるぜ……」
「弱音吐くたぁチンまい奴じゃねぇか。俺はまだまだ行けるぜ!」
「それはテメェが俺にのされて寝てたからだろうが」
「……あ?」
鶴岡甚太郎と大迫春樹の視線が激突する。
「喧嘩すんな! いや喧嘩してるけど! こうなったら武器の使用もアリだろ! 俺は角材を拾うぜ! 誰か手伝ってくれ!」
「壮月。左腕がまだ動かねぇくせに無茶すんじゃねぇ。ここは俺が突破口を作る!」
「だからそれは俺の役目だっつーの」
「どっちでもいいよ! そんなに突っ込みてぇならお前ら二人が突っ込め!」
「了解!」
「楽勝!」
鶴岡甚太郎の頭突きと大迫春樹の釘バットが不良を吹き飛ばす。そこに和泉壮月が飛び込んですれ違いざまに不良を右腕でラリアットし、眼前の敵に蹴りを繰り出す。だが多勢に無勢。不良たちの武器が三人を襲う。
「ぐあ!?」「ぐっ!?」「この!?」
そのあとは喧嘩とは言えない。ただの蹂躙が始まった。三人は後頭部を守り背中を丸めて防御するが、武器で叩かれて横腹に蹴りを入れられれば脆くもガードが解かれる。
「────オイ。私の弟に何をしている……?」
次の瞬間、ドスの効いた女の声が響くと、不良集団の一角がスーパーボールのように弾けとんだ。バタバタと転がる不良たち。なんだと声を上げた不良も一撃で吹き飛ばされる。怒号。罵声。次々と不良集団が謎の人物に食ってかかるが、その全てが呆気なく倒されていく。
そして気付けば、辺りは静まり返っていた。
「っ……?」
何事かと思い、頭を丸めていた和泉壮月は面を上げる。鶴岡甚太郎と大迫春樹も、いったい誰が助けてくれたのかを確かめるため起き上がり、そこで三人は目を見張った。
眼前には白髪の美女。和泉十七夜の姿があった。
「ね────姉ちゃん」
「えっ……この人、壮月の姉ちゃんなのか!?」
「ヒュー。おっかねぇな。壮月の強さも納得だぜ」
和泉十七夜は怒りを堪えるように立ち尽くしている。なんだか立たなければならないと思った和泉壮月はよろめきながらも立ち上がり、直後、目に見えない速度で額にデコピンを喰らった。
「あだっ!?」
「壮月。お前はよほど私を心配させたいらしいな……」
「……ご、ごめん……でも、友達が殴られてて……」
「……!」
友達。その言葉に鶴岡甚太郎は目を見張る。
「……フゥ。言っても聞かんか……まぁ、そのために護身術を教えたのもある……だが最近はやりすぎだぞ。体の傷が目に余る。尾行して正解だったな……」
「えっ……尾けてたのか?」
「というより、先ほど生徒会長から“反省の色なし”と太鼓判を押されたのでな。こうして出向いてきたわけだ」
「…………」
和泉壮月は頭をかく。
「なんか、いつもそうなんだけど……なんで年上の人たちは、年下の虚勢が見抜けちまうんだろうな……めっちゃハズいわ……」
「愚問だ。そんなもの、
「……そっか……」
「そこでだ壮月。これ以上何かに首を突っ込むなら、この私が出向くぞ」
「……えっ!? いや、待ってくれ! いくら姉ちゃんが強くても、それは────」
「案ずる気持ちは私も同じだと分かれ」
「っ……!」
それきり和泉壮月は何も言えなくなった。
「……心配させて、すまねぇ……」
「構わん」
和泉十七夜は弟の傍らを通り過ぎると、両脇に座り込む二人に威圧を掛けながら家路に就いた。
「…………ヤベェ。ゾクッときた……」
「あぁ。ヤベェ。壮月の身に何かあったらただじゃ済まない……なんて言われてねぇのに、マジで言われた気分になったぜ……」
「な、なんだよそれ……」
和泉十七夜に睨まれて悪寒がした鶴岡甚太郎と大迫春樹は、すっかり戦意が削がれる。
そこで大迫春樹が一抜けた。
「んじゃ、俺は帰るわ。今度はサシでやり合おうな」
「いや、やらねぇよ!」
「上等だコルァ……いつでも挑戦を受けてやるぜ!」
大迫春樹は立ち去る。鶴岡甚太郎は立ち上がると、壮月の目を見て言った。
「じゃあな」
「! おう……」
和泉壮月は二人の背中を見送る。その後、和泉十七夜の背中を追いかけて帰路に着いた。
†