※この作品はR-18です。

アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO!   作:形のない者

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4月10日【そ、その通り!/熱血ッ!!】城谷利光と稲尾郁久〔雷と晴の絆〕

 

 翌日。

 放課後の正門前。和泉壮月は左腕に包帯を巻いて帰路に就いていた。周囲から視線を感じる。だがそれは包帯を巻いているからではない。

 

「おい壮月。どうやったら三田村に見つからないように正門を出れると思う?」

「……知らねぇよ。さすがに会超の目をごまかすのは無理なんじゃねぇの?」

「やっぱそうかぁ……」

 

 学内では有名な不良。鶴岡甚太郎と一緒に歩いているからであった。

 そして噂をすれば影がさす。生徒会長の怒号が竹刀と共に飛ばされた。

 

「オイそこの不良どもォ! いつの間に仲良くなってやガンだ河川敷で殴り合ったんかアァン!?」

「うるせぇ三田村には関係ねぇだろ!」

「関係大アリだゴルァ! また昨日ドンパチやったみてぇじゃねぇか和泉十七夜が謝ってきてんだぞテメェらも先輩に恥かかせてんじゃねぇ!」

「うっ……そ、そりゃあ悪かったな! だがこっちは正当防衛だコルァ!」

「なんでも語尾にコルァ付けんじゃねぇ不良どもォ! テメェらはコルァサウルスかなんかかゴルァ!」

「テメェそれ鏡見て言いやがれコルァ!」

 

 正門を通る短い間隔の中で、三田村結奈と鶴岡甚太郎は額と額と突き合わせて中身のない口論を繰り広げる。

 

(あれって凄味対決でもしてんのか?)

 

 不良はよく分からないと思いつつ、和泉壮月は正門を抜ける。

 そこで前方から手を振ってくる人物を見つけた。

 

「よぉ壮月! 鶴岡!」

「えっ……大迫!?」

「なんでテメェがここにいやがんだ!?」

「なんでって……サシで喧嘩できねぇかと思ってよ。ケガ治ったか?」

「いや一日で治るわけないだろ!?」

「テメェさてはバカだな!? 喧嘩バカだなゴルァ!? 一昨日来やがれ!」

 

 大迫春樹は他校の生徒なのか、周りから注目を集めている。

 次の瞬間、三人は背後から殺気を感じた。それは蛇睨みならぬ恐竜の睨みだと確信する。

 

「……オイ。いつの間に三人なかよしこよしになった? あ? テメェらチームでも組むつもりか? とうとう壮月も不良の仲間入りですかァ!?」

「いや! 待ってくれ生徒会長! 俺はちゃんと授業に出てるから不良じゃない! それに鶴岡もホントはイイ奴なんだ! な?」

「え? 俺は基本的に授業サボってっけど」

「すみません嘘つきました! 俺だけ不良じゃないです!」

「アァン!? じゃあ不良と不良じゃない奴がどうして一緒にいるんだよ! 説明して見やがれゴルァ!」

「そんなこと言われても……普通に友達になったからとしか……」

「…………」

 

 ふと鶴岡甚太郎はブラブラと離れていく。それに気付いた壮月は三田村結奈に頭を下げて追いかけた。大迫春樹もついて行く。

 

「おい、鶴岡。急にどうしたんだ?」

「いや、別に……あーそれと、学校内ではあんま会わないようにするわ。三田村もうるせぇだろうし」

「……! そんなこと気にしなくても……」

「アァうるせぇ! クソッ! 俺もナチュラルに舞い上がっちまってたんだ! 言わせんな分かれ!」

「……?」

 

 鶴岡甚太郎が何に赤らんでいるのか分からない和泉壮月は首をかしげる。

 

「ま、あれだな。要は迷惑かけたくねぇって話だな」

 

 大迫春樹の補足。それは鶴岡甚太郎の心情を何も捉えられていない捕球だった。

 

 ともかく三人は家路に就く。どうやら途中まで帰り道が一緒らしい。

 ただ大迫春樹は何しに付いてくるのか。それを聞くと、まともな返事が返ってきた。

 

「だって“ネオ蜘蛛”の報復が怖いじゃん? 詫びに用心棒やってやろうと思ってよ」

「……! そうだったのか……ありがとな!」

「おう。あ、ちなみに一日アイスバー一本な」

「いや金取んのかよ!? 詫びはどこいった!?」

 

 談笑しつつ路地に差し掛かる。そこで最悪の予想が的中した。ぞろぞろと路地裏から出てきて三人を取り囲む不良集団。頭巾や衣服には蜘蛛のマークがあり、ひと目で“ネオ蜘蛛”の一員であることが分かる。

 

「……やっべ。また姉ちゃんに叱られる……」

「心配は要らねぇよ壮月。俺が全部ぶっ潰す」

「鶴岡は壮月を守ってろ。俺が片付けてやる」

 

 そこで和泉壮月は気付いた。もしかして鶴岡甚太郎が付いてきたのは、ネオ蜘蛛の不良たちから自分を守るためだったのではないかと。

 

「……いや、悪いが俺も戦うぜ。守られてばかりじゃ気が収まらねぇ」

「────へっ。壮月も結構な喧嘩バカだな」

「あぁ。なんで不良やってねぇのか不思議なくらいだ」

「あのなぁ……別にお前らは個人としては嫌いじゃねぇけど、俺は人様に迷惑かける不良は大っ嫌いなんだからなッ!!」

 

 三人は構えを取る。不良集団も手強い相手だと理解しているのか、すぐには攻撃してこない。思わぬ膠着状態。和泉壮月の額に冷や汗が垂れる。

 

「────和泉壮月! こっち! 逃げるよ!」

「────え?」

 

 不意に響いた女性の玲瓏な声色。それは路地裏の奥から聴こえてきた。薄暗がりの先に女の子が手を振っている。

 

「考えて! 戦うか逃げる! どっちがいいの?」

「────、……鶴岡! 大迫!」

「あぁ!?」

「……」

 

 和泉壮月が路地裏に駆け出す。追随する鶴岡甚太郎と大迫春樹。その先には紫髪青目の少女が待つ。

 

「おい! 逃げたぞ! 追いかけろォ!」

『うぉおおおおおおお!!』

 

 後方からドタバタと物を蹴っ飛ばして追いかけてくる不良集団。

 

「おい壮月! あの女を信じていいのか!?」

「分からない!」

「はぁ!?」

「分かんないけど、俺を信じてくれ! たぶん大丈夫だから!」

 

 路地裏から通りに飛び出すと、少女は塀の上を猫のように走っていた。俊敏な動きで道なき道を走る。たまに無茶な道を走らされる三人は、しかし負けてなるものかと少女に食らいついていった。

 

「こっちこっち! もう九割は撒けてきたよ! あ、振り返らなくていいから! 私を見失っちゃうよ!」

「はぁ、はぁ……! ま、待ってくれ! お前は、なんで……!」

「私は来栖蓮(くるす れん)! 特技はフリーランニング! 君の安全を補助する“護衛係”だよ!」

「は? 護衛……?」

 

 段差を飛び越える。障害物を乗り越える。一度も止まることのない疾走は爽快感がある。だがもし一度でも失敗すれば大惨事に繋がるのは想像に固くない。

 

「うおっ!」

「すげぇ! まるで風になったみてぇだ!」

「ヒュー!」

 

 来栖蓮。紫色の長髪と黒いフードをなびかせて走る少女。黒いチョークを首に巻き、風を切る軽装と群青色の白いシューズが太陽の光を反射する。今は和泉壮月たちの身体能力に合わせて安全な道を選んでいるが、普段はビルの屋上や壁を飛び回っている身軽な少女。街という街の地理を知り尽くしている彼女はその才能を見込まれて金で雇われることがあり、主に不埒者や逃亡者などの追跡を手伝うことがある。今回もその例に漏れず、彼女は《和泉壮月の安全を助ける》依頼をされているようだ。

 

「そろそろ汗かいてきた? じゃあさっぱりしようか!」

「えっ?」

 

 来栖蓮は柵を飛び越えて落下。そこで嫌な予感がした和泉壮月は急停止する。柵にぶつかって下を覗くと、そこには大きな川が広がっていた。近くで轟々と音がする。ダムの水が流れる音だ。

 

「う、うそだろ……?」

「おい壮月! 急に止まるな!」

「やばいやばい! 坂道だから止まらねぇ!」

「えっ────ちょ、まっ!?」

 

 激突。柵に身を乗り出した三人は絶叫を上げて十数メートルを落下していく。着水音と小さな水柱が三つ。

 

「ぷはぁ! 今のは危険なダイビングだったね! プールのお兄さんに怒られちゃうぞ! 私にみたいに華麗なジャンプで着水しないと!」

 

 三人は水中でもがくように泳いで浮上する。

 

「ふ、ふざけんじゃねぇ!? 死ぬかと思ったわ!!」

「て、テメェ、マジで覚えてやがれ!?」

「アッハハ! たっのしー!」

 

 怒る和泉壮月。竦む鶴岡甚太郎。笑う大迫春樹。それを見てニヤける来栖蓮はクロールで岸に向かう。

 

「待てコラー!」

「逃がさねぇ!」

「やべぇ~恐怖で笑いしか出ねぇわー!」

 

 三人は岸に上がる。服が水を吸って重たい。絞って脱水。

 対する来栖蓮は防水軽装なのか、その場で足踏みして早く移動したそうにしていた。

 

 眼前に広がる森林と獣道。そこから二人の人物が歩いてくる。

 

「来栖蓮。依頼完了だ。彼らをここまで連れてきてくれて礼を言う」

「あ、来た! へへっ。こんなの楽勝だよ! じゃあまたね!」

 

 来栖蓮は手を振って森の奥に消えていく。

 すれ違うようにして和泉壮月の前に現れたのは、紅顔の美青年と屈強なアメリカ人。

 

「やぁ。和泉壮月。僕の名前は紅谷慶志郎。こっちはロバート・フレージャー。よろしく。未(・)来(・)の(・)王(・)よ」

 

          †

 

 紅谷慶志郎と名乗る青年は言った。

 

「ようやく見つけたよ。僕のお眼鏡にかなう逸材をね……」

「……なんだ、アンタは……? アンタが俺たちを助けてくれたのか?」

「いいや、助けるのはこれからさ。君は“王の器”を持つ者。この街を支配するにふさわしい人間だ。これよりは僕が手足となり、必ずや君を玉座に座らせてみせる……たとえ、君にその気がなくてもね?」

「……アンタ、何を言って……」

 

 王の器。街の支配。玉座。

 要領を得ない話に和泉壮月は気味悪がる。

 

「おいおい……要するにテメェらはネオ蜘蛛の手先ってことでいいんだよなァ!?」

「それは誤解だよ」

「落ち着け鶴岡。……じゃあそれをテメェは証明できるのか?」

「うーん。そうだね。では喧嘩で和泉壮月を殺さなければ……信じてくれるかな?」

「……は?」

 

 ふとロバート・フレージャーが前に出る。大きな体躯。磨かれた筋肉。一撃でも喰らえば死ぬと容易く想像できる貫禄。思わず和泉壮月は後ずさり、それを庇うように鶴岡甚太郎と大迫春樹が前に出る。

 

「ロバート。おねがい」

「…………」

 

 睨み合う両者。否、ロバートが先手を譲っているだけだ。大迫春樹は勘付く。

 

「おい……うそだろ……どっかで見覚えがあると思ったら……ロバート・フレージャー……アンタ、アメリカの元プロボクサーじゃねぇか!! プロ相手に素人は流石にキツいぜ……」

「へっ。それでも三人がかりなら互角だろ。いや二人がかりでも互角だ! 壮月は左腕を痛めてる。遅れんなよ大迫ォ!」

「俺に命令すんじゃねぇ!」

 

 喧嘩っ早い二人は同時に拳を叩き込みに踏み込む。が、次の瞬間────軽いジャブが一発。いや一発に見えただけで本当は二発。鶴岡甚太郎と大迫春樹の額を打ち、背後の川の水を石切りのように跳ねて水没した。

 

「……っ!? 鶴岡! 大迫!」

「うん? 我が王よ。腕を痛めているのかい? どれ、見せてごらん」

 

 紅谷慶志郎は和泉壮月の左腕を触る。

 

「いてっ……!」

「ふむ。オーケー。我が王よ。少し目を閉じてくれるかな?」

「……?」

「心配しないで。治してあげるよ。あぁ、あの二人なら大丈夫。ほら、もうこっちに泳いできた」

 

 物腰柔らかな態度。その言葉に嘘がないと察した和泉壮月は言う通り目を閉じる。

 その隙に紅谷慶志郎のリングから橙色の炎が灯る。調和の力で筋肉と骨髄の傷を均一化。それは回復というよりも“痛み分け”の治癒術。特(・)定(・)部(・)位(・)の(・)傷(・)を調和によって全(・)体(・)の(・)傷(・)にすることで、取り急ぎ痛みを和らげて、通常的自然治癒の速度を引き上げる治療法。

 

「……! あれ、なんか左腕全体がヒリヒリするけど……それだけだ……釘バットで打たれた部分が痛くなくなった……な、何がどうなってんだ!?」

「魔法さ」

「──はぁ!?」

「冗談だよ。君の体に傷がついて、もしもがあったら困るからね。こういう治療法は抑えてあるのさ」

 

 和泉壮月は首をかしげる。いったいどうやって腕の痛みを引かせたのかと。

 

「ぶはぁ!? チクショウ……やりやがったな……もう一回だ!」

「待て……再戦すんのは俺の方だ……」

「……オマエラ、ヒャクニン、デモ、タリナイ……」

「アァン!? 言ってくれるじゃねぇか!」

「だが実際そうだしな……あ! いいこと閃いた! なら百戦すりゃ勝てるだろ!」

「…………」

「大迫お前はマジで馬鹿だな!」

「お前に言われたくねぇよ一本調子」

 

 直後、互いの胸ぐらを掴み合う鶴岡と大迫。

 そこで紅谷慶志郎が腹を抱えて笑った。

 

「あはは! 君たちは愉快だね! 我が王の守護者にするには少々品格が足りないなぁ!」

『ア゛ァ゛!?』

 

 鶴岡と大迫の怒号が響く。するとロバートが両手の拳骨を突き合わせてゴツンと音を鳴らした。どうやらロバートは紅谷慶志郎の護衛役であるらしい。そこで和泉壮月が言う。

 

「……腕を治してくれたのはありがたいけどさ。お前の言ってること、よく分かんねぇ。悪いけど俺もう帰るから。あ、助けてくれたのもありがとな!」

「……あぁ。どういたしまして。今はそれでいいよ。どのみち君は運命から逃れられない。王の器を持つ者は、そういう風に宿命づけられているからね」

「…………」

 

 和泉壮月は森に入る。一方の鶴岡と大迫は、再びロバートに挑み、また川に殴り飛ばされていた。

 

「……あいつら不良って言うより、単なるバトルジャンキーなのか……?」

 

 しばらく歩くと通りに出る。人気のないダム施設の隘路(あいろ)。

 

 

 

 次の瞬間、ぞろぞろと数名の不良集団が道を遮った。

 

「……っ! まさか、またネオ蜘蛛か!? しつこいな!」

「そ、その通り! この城谷利光(しろや としみつ)が来たからには、君は僕に倒されなければならない!」

「熱血ッ!! ズバリそういうことなのだー! これから俺たちは熱血的にお前を叩き潰す! 覚悟しろ熱血的に!」

「……な、なんだぁ?」

 

 不良集団を率いる切込隊長らしき二人の人物。

 かたや城谷利光。金髪黒目で端正な顔立ち。澄ました顔をしているが、どこか取り繕っているように感じるのは気のせいだろうか。

 かたや稲尾郁久(いねお いくひさ)。ベージュ色のウルフカット頭に青目。赤いバンダナを巻いてタグの首飾りを身に付ける熱血漢。

 

「……稲尾。ちょっと気合が入りすぎてみんな付いてけてない……ちょっと落ち着こうか?」

「何を言う! 熱血的に男ってのは熱くなきゃダメなんだよ!」

「あー。その熱気が良い方に転がれば士気が上がるんだが……悪い方に転がるとウザイだけなんだよなぁ……」

「だが俺は熱血信念を曲げねぇぞ!」

 

 そこで後方の不良集団から激励が飛ぶ。

 

「やっちゃってください! 城谷の兄貴!」

「よっ! 凄腕の美形ギャング!」

「ネオ蜘蛛の副ヘッド候補!」

「とにかくカッコイイ!」

 

(……なんか、あの城谷って人しか応援されてないな……)

 

 ともあれ降りかかる火の粉は払うまで。払っても払っても火種を絶たねば燃え上がるが、それが不良との戦いだ。

 

「よし来い! 相手してやる! 腕も治ったし、今なら負ける気がしねぇ!」

「え、マジ? 左腕治ったの? 情報と違うじゃん……」

「熱血! 俺は構わねぇ! 城谷! 俺が先陣を切るがいいか!?」

「いや……オーケー。わかった。俺が行く……」

 

 城谷利光が構えを取って前に出る。和泉壮月は速攻を仕掛けた。多勢に無勢。一人を倒せばタイマンなんて忘れて激昂した不良たちに袋叩きに遭う。本当にタイマンしてくれる正々堂々とした不良は希少だ。よって一息にカタをつけるのが定石である。

 

「へぶっ!?」

「────え?」

 

 しかし和泉壮月は、あまりにも拍子抜けな展開に呆気に取られた。ただの一発。ただの殴りが城谷利光の頬に当たると、彼はばたりと倒れた。一撃で昏倒したのである。なお手応えはありすぎるくらいで困るくらいだった。

 

(なんだ、こいつ……めちゃくちゃ弱い……!?)

 

「うおおおおおお! あの凄腕美形ギャングで有名な城谷を倒すとは熱血的に熱いぜぇ!」

「────は? う、うそだろ?」 

「城谷さんが、負けた……? しかも一撃で!?」

「じゃあ、あの男はどれだけ強いってんだよ!?」

 

 強敵の出現に一人だけ燃え上がる稲尾郁久と、城谷利光が負けたことにビビり散らかす不良集団。

 

「うん!? まさか貴様らビビっているのか!? ネオ蜘蛛がそのような軟弱で恥さらしな連中とは思わなんだぞ! こうなったら熱血的にチームを抜けるしかあるまい!」

「は、はぁ!? 稲尾隊長、何を言って……そんなことしたら報復が待ってるぞ!」

「この男を倒せばチャラだから問題ない! そもそもチームに入ったのは強敵と戦えると聞いたからだ! それなのに馬鹿の一つ覚えで騒ぎまくり、周りの人に迷惑をかける貴様らは熱血に好かない! もうゴメンだ!」

 

 稲尾郁久は構える。

 

「それに俺は、常に熱い方の味方をする男だ! 水気(すいき)のするネオ蜘蛛なんぞのチームに居座っていたら、俺の熱血が冷めてしまう! ウオオオオオオオ!」

 

 稲尾郁久の特攻。それはドデカイ一撃となって和泉壮月を殴り飛ばした。

 

「ぐあっ!?」

 

 和泉壮月はすぐに地面を転がって起き上がる。殴られた箇所がジンジンと熱い。

 

(こいつ……勢いが凄い……! 来るのが分かってても防ぎきれなかった……っ!)

 

「熱血ぅ! そうだ! まだ貴様の名を聞いていなかった!」

「……和泉壮月だ」

「そうか! 倒したら忘れるから、あらかじめ謝っておく!」

「別に謝らなくていいぜ。一生忘れられねぇからよ!」

 

 クロスカウンター。防げないなら反撃すればいい。互いに顔を殴り飛ばしてたたらを踏む。

 

「ね……熱血っ! 熱血に熱い男だな、壮月は!」

「アンタもな。まだ春先だってのに暑苦しくてかなわねぇ」

 

 そこで和泉壮月は危機感を抱く。突然周辺を取り囲むように不良集団が包囲網を張ったのだ。稲尾郁久が怒鳴る。

 

「なに!? 貴様らなんのつもりだ!」

「そもそも命令はそいつを狩ることだ。タイマンなんて効率の悪いコトやってる暇はないんすよ!」

「そうだそうだ! それに稲尾さん。あんたはもう裏切り者だ! こうなったらまとめて潰す!」

 

 対峙する和泉壮月と稲尾郁久。それを取り囲む不良集団。三つ巴の戦いに発展するのか────和泉壮月が冷や汗を流した時、後方から二人の友が助太刀に現れた。飛び蹴りで不良たちを吹き飛ばす。

 

「壮月! 加勢しに来たぜ!」

「おいおい、面白いことになってるじゃんよ!」

「鶴岡! 大迫!」

 

 和泉壮月、鶴岡甚太郎、大迫春樹の三人は背中合わせで構えを取る。

 

「稲尾! お前はどうする!?」

「む!? 無論、貴様を倒すぞ壮月!」

「そうか……なら背中は任せたぜ、鶴岡、大迫!」

 

 一斉に各々の雄叫びが上がる。大乱闘の幕開けだ。鶴岡と大迫の拳と蹴りが不良集団を吹き飛ばす。その乱戦の嵐の中で和泉壮月と稲尾郁久はノーガードの打ち合いを続けていた。

 

(《和泉流護身術・決死打開(けっしだかい)》……三回目!)

 

 異常な打たれ強さを持つ根性の男・稲尾郁久に全身全霊の拳・蹴り・頭突きを見舞う。

 

「ぐおおおお!?」

 

 だが稲尾郁久も力負けしていない。和泉壮月の攻撃に合わせるようにクロスカウンターを決めて、同程度のダメージを跳ね返した。二人は顔中から血を流して膝をつく。その頃、既に不良集団は鶴岡甚太郎と大迫春樹によって壊滅し、残党不良は怯えるような悲鳴を上げて逃げていく。

 

「ね、熱血……的に……良い戦いだ……血がたぎる……」

「ハァ、ハァ……クソッ……どいつもこいつも……っ、一筋縄じゃ、行かねぇな……」

「……壮月。貴様はなぜ、ネオ蜘蛛に楯突く?」

「あ? なに言ってんだ」

 

 降りかかる火の粉は払うだけ。そう返そうとした和泉壮月だが、ふとそ(・)れ(・)は(・)少(・)し(・)違(・)う(・)と思い、別の返しを呟いた。

 

「楯突いてんのは、そっちだろ……」

「……なに?」

「こっちは平穏無事に、みんな仲良く暮らしたいだけなんだ。それなのに邪魔者が現れる。ハッキリ言ってそういうのは迷惑なんだよ。だから全部ぶっ潰す。守るためには戦わなきゃいけない。俺はそうする意味を、誰よりも近くで見てきたから……!」

 

 和泉壮月は駆け出す。何度もぶつかり合う中で相手の勢いには慣れた。反撃するように稲尾郁久の特攻。それに合わせて急停止。

 

(《和泉流護身術・合気投旋(あいきとうせん)》ッ!)

 

「ぬわ!?」

 

 突き出した拳をすくい上げられた稲尾郁久は勢いのあまり宙を舞う。本来なら地を転がる程度の威力は、稲尾郁久本人の攻撃力がアダとなって空を飛び、建物の壁に激突。頭から木箱に落ちて背中を強打した。

 

「すっげぇ……」

「…………」

 

 目を見張る鶴岡甚太郎と大迫春樹。和泉壮月は息せき切って膝をつく。

 一方、気絶していた城谷利光は、乱戦の中で目を覚ましたのか、誰にも気付かれないよう地面を這ってその場から離れようとしていた。

 

(くそっ……どうしてこんなことになっちまったんだ……俺はただ不良に絡まれるたび、全然得意じゃないポーカーフェイスでその場その場を凌いでいただけなのに……いつの間にか噂がひとり歩きして、なんでか俺が“物凄いギャング”みたいなことになってやがる……おかげでネオ蜘蛛にスカウトされちまった……俺って頼みごとは断れないタチなんだよなぁ……チクショウ……もう後戻りできねぇのか……? もし俺が女に腕相撲で負けるくらい弱い男だってことがバレちまったら、今度こそネオ蜘蛛に消されちまう……! それだけは嫌だ……っ!)

 

 突然、いくつもの木箱とその破片が宙を舞う。腕を掲げて立ち上がった稲尾郁久は頭から血を流しており、

「熱血ッ!!」

 そう叫ぶとフラフラと歩き出し、和泉壮月をはじめとする三人のそばを通り過ぎると、城谷利光を肩に背負った。

 

「えっ……稲尾さん?」

「これは熱血的に俺の負けだ! ここまで俺の意識を明滅させたのは貴様が始めてだ、壮月!」

「え? お、おう……」

 

 そこで稲尾郁久は問い掛ける。

 

「そして壮月を守る二人の男……名は知らんが、貴様らも気に入った! 俺と壮月のタイマン勝負を邪魔しないように、壮月のことを気にかけながらも周囲の雑魚を蹴散らして……うぅ……熱血ゥゥウウウウウ!!」

『────!?』

「これが熱血! 熱い! 熱いぞ! 胸の内が熱くなる!! これこそが男同士の熱い友情だ! ますます気に入ったぞ! なぁ壮月とその愉快な仲間たちよ! 俺もその輪に入れてくれ! 共に熱い青春を送るのだ! 良いか!? よいな!! よしでは行ってくる!」

『いやどういうことだよ!?』

 

 混迷を極める壮月・鶴岡・大迫の三人が同時にツッコミを入れる。

 

「なぁ城谷! 貴様もそう思うだろう!?」

「え? いや、まぁ……ネオ蜘蛛なんかよりは、仲間を大切にするいいチームだな、とは思うけど……」

「では二人とも寝返るということだな!?」

「……エッ!?」

「もともと俺らは傭兵! 金に見合う働きは既にしてある! だがケジメはつけねばなるまい! そうですよね城谷さん!」

「いや、いやいやいや。ちょっとタンマ。稲尾くん。君、何をするつもりで……?」

「ネオ蜘蛛に頭を下げて脱退宣言するのだ! ではな! そういうことだ壮月! また会おう!」

「────いやちょっと待ってそれは無理だって無理無理無理無理!? 殺されるって消されるってリンチにされるってぇ!? ちょ、離せ……離せ! やめろぉおおお! 俺はまだ死にたくなぁい……!」

「なに!? ネオ蜘蛛相手に死なないと啖呵を切るとは城谷さん、さすがの大物だな!」

「お前の耳は節穴かよ!? あぁもうどうして不良ってこんなにバカばっかりなんだぁ~!?」

 

 それは単に城谷利光の人との巡り合わせが悪かっただけの話だろう。

 そう言いたげに稲尾郁久と担がれる城谷利光を見送った和泉壮月は、わけのわからない台風が過ぎ去ったことをようやく実感する。

 

「……あの二人、大丈夫かな……脱退宣言とか言ってたけど、そんなことしたら殺られるんじゃないか?」

「壮月……」

「ならネオ蜘蛛にカチコミするか?」

 

 ふとした大迫の提案。たしかにそれ以外ないが、ネオ蜘蛛がどれだけ強いのか分からない以上、下手に手出しはできない。

 

「やめた方がいいよ。今の君たちではネオ蜘蛛に勝てない」

 

 そこに紅谷慶志郎が現れた。傍らにはロバート・フレージャーも立っている。

 

「だけど“今のままでは勝てない”というだけだ。力が欲しければ……我が王。私に提案があるのですが……」

「…………」

 

 和泉壮月は訝しがる。紅谷慶志郎の目的が分からない。いきなり現れて意味不明なことを言う。ネオ蜘蛛との関係もなさそうだ。いったい彼らはなんなのか。それを聞いても、また王だとか器だとか要領を得ない答えが返ってくるのだろう。ならば聞くべきことは一つに絞られる。

 

「話だけは聞く」

「ありがとう。簡単な話さ。まず僕の協力者を使って、あの二人の安全は三日だけ保証しよう。その間に君たちは、ロバート・フレージャーに修行をつけてもらう。さらに和泉壮月には、あと二人、仲間を集めてほしい」

「……なんだって?」

「それができればネオ蜘蛛にも勝てる。……我が王よ。僕は真剣だ。君こそ神浜市の頂点に立つ男にふさわしい」

 

 とうとう和泉壮月は我慢ならず問い掛ける。

 

「お前ら……いったいなんなんだ?」

「“不良王”和泉壮月……その名の響きに魅せられた者だよ。さぁ我が王よ……共に神(・)浜(・)制(・)覇(・)を成し遂げようじゃないか……」

「…………!」

 

          †

 

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