※この作品はR-18です。

アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO!   作:形のない者

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4月12日【ったくもー。いつアタシは低カロリー日和を満喫できるんだ】月館真夜〔猫のような雲〕

 

 翌日の早朝。二日目。

 夕方の廃工場にて、鶴岡甚太郎とロバート・フレージャーがスパーリングをしている間、大迫春樹はロバートの技を盗もうとジッと見つめており、和泉壮月はシャドーボクシングを繰り返していた。

 

「やぁ我が王。休憩ついでに行ってもらいたいところがあるんだけど」

「……? あ、もしかして仲間集めの件か?」

 

 紅谷慶志郎から教えられた連絡先と、手渡された地図のメモと札束。それを持って栄区に向かった和泉壮月は、地図に記されている銅像の手前で立ち止まる。そこでしきりに辺りを見渡す女の子を見つけた。

 

 長い長髪に藍色の瞳。白いピアスを付けてバッグを肩にかける高校生くらいの少女。手元には常にメモ帳とペンを持っており、腕時計を気にしている。彼女こそ三ツ矢璃子(みつや りこ)。女子高生たちの間で結成されている情報屋ネットワークの末端を担う新米情報屋である。

 

「……あのー。もしかして君が三ツ矢璃子さん? 俺、紅谷に言われて来た和泉壮月ってんだけど……」

「────! あ、はい! お待ちしておりました! わ、私のを買いたいなら二万円ですっ!」

「ぶっ……!? ちょ、おまっ!! 誤解を招くような言い方で大声出すな!?」

 

 ざわざわと周囲の通行人から怪しい目で見られる。

 

「え? ……あっ! す、すみません! 初めてなもので舞い上がってしまって……! 言い直しますね! わ、私の情(・)報(・)を買いたいなら、二万円です!」

「あー……と、とりま、場所を変えようか……?」

 

 和泉壮月は三ツ矢璃子の手を取って逃げるように公園に駆け込む。

 

「ハァ……栄区で良かった。もし学校の近くだったら絶対に変な噂が立ってたぜ……。それで? 情報を買うって……どういうことだ?」

「へ?」

「いや、俺、何も知らないで来たもんだからよ……お前、どういう存在なんだ? 紅谷の仲間なのか?」

「……! いえ、私は情報屋です! 紅谷さんは、私たちの情報屋ネットワークを贔屓に使いたいとのことで、前金で百万円を払ってもらっています!」

「ひゃ、百万円!?」

「────あっ、しまった! これ言っちゃいけないんだったぁ~……!」

 

 まだまだ青い情報屋は、己の口の軽さを呪うように頭を抱える。

 

「……と、とにかく、情報屋なんてもんがあるのか……ってことは、もしかしてネオ蜘蛛にも情報を売っているってことか? 大金を積まれたら、そいつらにも情報を?」

「あ、はい。でも私たちだって客は選びますよ? あんまりにもひどい連中に売る情報はありません! 私たちは正義の情報屋ですから! もちろん、そうじゃない人もいますけど!」

「へぇ……」

 

 情報屋。それを生業にする以上、中立の存在に近くなるのは世の道理なのか。

 ともあれ和泉壮月は、紅谷のおつかいを果たそうとする。

 

「で? 俺に教えてくれる情報ってなんだ? 紅谷から札束もらってんだけど……はい、二万円」

「まいどあり! ────え~、一回しか言わないのでよく聞いてくださいねっ!」

 

 和泉壮月は耳を澄ます。

 

「まず栄区のメイドカフェに向かってください。その店の奥にある関係者でも立ち入れない一室に、城谷利光と稲尾郁久という人物が囚われています。さるぐつわを噛まされて!」

「なっ……!?」

「しっかりお伝えしましたからね! それでは! アデュ~!」

 

 三ツ矢璃子は走り去る。呆然と佇立してそれを見送った和泉壮月はカラスの鳴き声で我に返り、こうしてはいられないと走り出した。

 

 栄区のメイドカフェ。考えなしに正面玄関から入店した瞬間、お決まりのあの言葉が店内に響いた。

 

「おかえりなさいませ、ご主人様☆」

「……っ!」

 

 ちょっと──いやかなりカワイイ──女の子に愛嬌を振りまかれて内心悪くないと思った和泉壮月は、とにかく店の奥に入るためにはどうすればよいのか考える。

 

(うっわ馬鹿だ俺……なんで正面から入ってんだ……裏口に回ればいいのに……つい看板が見えたから……)

 

 和泉壮月の思春期な思考が回る。

 

(ここは戻って────いや待て。ここできびすを返したらどう思われる? 完全に恥ずかしくてビビって逃げたみたいに思われるんじゃ? 別にそんなんじゃねぇし、誰にどう思われようが知ったこっちゃないけど、でもなんかアレだし……)

 

「……ご主人様? どうしましたか?」

「……っ!? あ、いや、その……」

 

 しどろもどろとする和泉壮月。そこにまさかの救世主が現れた。

 

「……む? 壮月。こんなところで何をしているのだ」

 

 和泉壮月の視界に、メイド姿の和泉十七夜がさも当然かのように入ってくる。

 

「────────、────…………は? ね、姉ちゃん!? な、なん……なんで、そん……っ……!!?」

「む? そうだぞ。お前の姉ちゃんはメイドのな(・)ぎ(・)た(・)ん(・)だ」

「カハッ……!!」

 

 心の吐血。自身に関する羞恥心が全て吹き飛ばされた和泉壮月は膝から崩れ落ちて四つん這いにならざるを得ない。

 

「おい、来客の邪魔だ。入りたいなら席に着け。さもなくば去れ」

「いや“なぎたん”ってナニッ!? つかメイドならもっと慎ましやかに振る舞えよ! そのテンション家にいる時と何も変わらねぇじゃねぇか!!」

「それの何が悪い。私は仕事をしているだけだぞ」

「メイドの仕事はしていても、メイドカフェの仕事はしてねぇじゃん!!」

「失敬な。これでも好評なのだぞ。そうだろお客様。きちんと客の心に寄り添っているつもりだ」

 

 和泉十七夜は店内の客に振る。すると一部始終を見守っていた客たちが賛同を示した。

 

「なぎたんはそのクールな口調が良いのですぞ弟殿!」

「然り然りであります!」

「というか本当に弟殿なのですかな? おお、確かによく似ておられる……これは女装しても意外とイケルのでは……?」

 

 和泉壮月は悪寒がして思わず立ち上がる。

 

(そ、そうだ……こんな突拍子もないことにツッコミを入れている場合じゃねぇ……とにかく裏手に回るんだ……)

 

「わ、わりぃ。俺、もう帰るわ……」

「そうか。冷やかしに来たのなら許さんぞ」

「ちげぇよ! ちょっと用事があったんだよ!!」

 

 和泉壮月は逃げるようにメイドカフェを出て路地裏に入り店の裏手に回る。

 

「チクショウ……思わぬ出来事で頭の中がこんがらがっちまった……そういや確かにバイトしているとは言っていたけど、あんな感じだったとは……い、家の中では特に触れないでおこう……いや、別に普通に話してもいいんだけど……どんな仕事やってても自由だし……って、あ゛ぁ゛! 今はそんなこと考えてる場合じゃなくてっ!!」

 

 メイドカフェの店内に通じる裏口を発見。ドアノブを回すが、当然施錠されている。

 

「────って、そりゃそうだろ! ……!?」

 

 ふと物音がした。扉に耳を当てる。ガタゴトと不審な物音がする。人の息遣いもある。まさか扉の奥に二人が囚われているのか。

 

(……どうする? 蹴り壊すか? いや、情報が間違っていたらただの泥棒だぞ。いや強盗か。でも本当だったら……っ! もしかしたらこの店がネオ蜘蛛のアジトなのかもしれねぇ。だとしたらこの店で働いてる姉ちゃんも危ない! ……っし、こうなったら……!)

 

 和泉壮月はドアノブを激しく回して挑発する。

 

「おい! 誰かいるなら返事してくれ! もしくは出てこい! 頼む! 大変なんだ! 助けてくれ! 火事だ! 消化器とかないか!? オイ!!」

 

 適当に人が焦って出てきそうな言葉を選んで連呼する。扉の奥でガタガタと物音。だが人の声らしきものが聞こえない。何かがおかしい。

 

「おい! 突き破るぞ! 扉の建て替えはするから! たぶん紅谷がなんとかしてくれる! でもいいのか!? そっちから開けてくれた方がこっちの心臓にも優しいんだけど!? いーち、にー!」

 

 三。勢いをつけた体で金属扉を蹴り上げる。だが当たったところが少し凹んだ程度で扉は開かない。

 

「くっそ……俺は何やってんだ……! 城谷! 稲尾! 居るならなんかデッケェ音立てろ!」

 

 直後、大きな物が落ちる音がした。瞬間、和泉壮月の顔つきが変わる。

 

(────フットワークを軽く。体の捌き方を意識。削るように、壊すように────殴るッ!!)

 

 一撃、二撃。金属扉が微妙に浮かぶ。

 

(切るように、穿つように────殴るッ! そして完全に破壊するように────最後は蹴るッ!!)

 

 三撃、四撃。薄い板で出来た金属扉が歪み、トドメの一撃は《決死打開》で扉をこじ開けた。

 

「ドラァ!!」

 

 大きな物音を立てて店内に侵入。そこはホコリをかぶった暗闇の倉庫。扉から光が入り、和泉壮月の影の先に、さるぐつわを噛まされた半泣きの城谷利光と眠っている稲尾郁久が横になっていた。

 

「んん! んん~!」

「グガー、グガー……」

「城谷! 稲尾! 待ってろ、すぐに解くからな!」

 

 さるぐつわに手を伸ばそうとした時、和泉壮月の背後に影がかぶさる。

 

(────っ!?)

 

 背後に気配。咄嗟に振り返って身構える。そこには巨漢が立っていた。

 角刈り頭の紫髪金眼。胸元にハート柄のメイド衣装。

 

「あら。あなた、もしかして紅谷ちゃんが言っていた……」

「……っ!? な、なんで紅谷のことを……! お前、ネオ蜘蛛の一員なのか!? この二人をどうするつもりだ!」

「……、────はぁん。なるほどねぇ。そういうことぉ……」

 

 全てを悟ったように頷く女装巨漢は、一切の敵意を見せず泰然と振舞う。

 

「そうね。説明が必要よね。まずは自己紹介よお坊ちゃん♪ アタシはこのメイドカフェの“代理店長”早乙女麗一(さおとめ れいいち)。究極の肉体を追い求める美の探求者! 幼い頃は虚弱体質で線の細い美少年で困っちゃっていたんだけど、その反動のせいか美しい肉体に憧れるようになっちゃったのよねぇ~! それで今はこんなにも艶かしいボディを手に入れたってワ・ケ♪ そして私もロバートちゃんと同じく、紅谷慶志郎ちゃんに雇われた仲間の一人よ!」

 

 紅谷慶志郎の仲間。であるならば、なぜ城谷利光と稲尾郁久を捕らえているのか。

 その疑問を聞く前に察した早乙女麗一はマイペースに説明する。

 

「疑っているわね? それも無理ないわ。なら私の能力で信頼を勝ち取りましょうか。────きっと事の顛末はこうよ。紅谷ちゃんは単純に、壮月ちゃんに二人の仲間を紹介したかったの。でも紅谷ちゃん、情報屋の中でも新顔を雇っちゃったみたいだから、きっと試したのねぇ~。その情報屋が正(・)し(・)く(・)情(・)報(・)を(・)集(・)め(・)て(・)顧(・)客(・)に(・)与(・)え(・)ら(・)れ(・)る(・)か(・)を……つまりこう言っちゃなんだけど、あなたは情報屋の至らない情報に踊らされて色々と誤解しちゃったのよ」

「……ど、どうして誤解だって言い切れるんだよ……」

「そんなの、紅谷ちゃんの言葉を思い出してみて? 彼、“その二人の安全を三日は保証する”と言っていなかったかしら? つまりアタシはその二人の護衛役なのよぉ。間違っても“ネオ蜘蛛”なんかとお友達じゃないわぁ~信じてぇ~」

「…………」

 

 確かに、その説明だと筋は通る。紅谷慶志郎の言葉を信じるなら、の話ではあるが。

 

「……最後にもうひとつ。私は“参謀”担当なの。自分の頭がキレると思ったことは一度もないけど、紅谷ちゃんから参謀役になってくれって頭下げられちゃってねぇ~。報酬はロバートちゃんの筋肉をお・さ・わ・り・すること♪ キャ~! アタシって筋肉に目がないのよぉ~! ほんとすごいガタイで見惚れちゃわない?」

「……いや、まぁ、たしかにロバートの体はスゲェけど……」

「でしょでしょ? あ、それでも信じられないなら紅谷ちゃんに電話してみて♪」

 

 和泉壮月はスマホを耳に押し当てて連絡する。通話接続。紅谷の声が響く。

 

『もしもし我が王。三ツ矢璃子、早乙女麗一とは出会うことができたかな?』

「なっ……!」

『うーん。その驚きぶりから察するに、きっと情報屋関連で何かあったんだね? 申し訳ない。新顔を雇ったのは理由があるんだ。新顔ならスパイ行為なんて高度な真似はできそうにないだろう? だから大金を払って“ガチの新米”を調べ上げて雇用したんだ。新顔のフリして潜入してくる情報屋もいるからね。そして本当に何か事故が起きたのなら、彼女が正真正銘、新米情報屋である証拠さ。信頼できる仲間が増えて良かったと喜ぶべきところだよ?』

「……そのせいで俺は、店の扉を蹴り壊しちまったんだが……」

 

「あらぁ。その点は心配しなくていいわ。紅谷ちゃんが全額弁償してくれるだろうから♪」

 

『そういうわけだ。じゃあね。仲間探し頑張って』

「あっ! おい!」

 

 通話が切れる。和泉壮月は狐につままれたような心地でスマホをしまい、早乙女麗一を見上げた。

 

「……でも、ひとつわかんねぇことがある。なんでさるぐつわを噛ませてんだ?」

「だって暴れるんだものぉ。そっちの金髪は『脱退宣言するんだー』の一点張りでネオ蜘蛛のアジトに向かおうとするし、そっちの顔だけはいいイケメンちゃんは『たすけてくれー』って泣いてばかり。このままじゃネオ蜘蛛に見つかるから、監禁するしかなかったってわけ」

「……なるほど」

 

 確かにそこまでしなければ、少なくとも熱血的に生きている稲尾郁久は止められないだろう。城谷利光も彼の熱血に巻き込まれて、かつ安全のため、まとめて早乙女麗一に保護された……というのが真相だろうと和泉壮月は納得した。

 

「……あの、ごめんなさい……」

「あら。まだ扉を壊したの気にしてるの? いいのよぉ! ほんとに“なぎたん”とそっくりで根はいい子ねぇ! 将来的にイイ筋肉しそうな体しているし、有望だわぁ~」

「……!」

 

 体を触られそうになった和泉壮月は、失礼がないよう躱していく。

 

「うふふ! ほら、行ってらっしゃい。それともまだ何か気になることでもあるの?」

「え? あ、いや……紅谷は二人の仲間を見つけろって言ったけど、それって三ツ矢璃子と早乙女さんのことじゃないのかなって思って……」

「なるほどね。そんなの当たり前じゃない。紅谷ちゃんは新(・)し(・)い(・)仲(・)間(・)という意味でお願いしたはずよ。彼、ファミリーは七人必要と言っていたから」

「……ファミリー? 七人?」

「アタシも詳しいことは分からないわ。ただアタシも“その七人”の一人になってほしいと勧誘されたけど、ケンカなんてゴメンだから断ったわ。その点をよく考えると、アタシ意外に七人の仲間を集めなきゃいけないってことになるでしょう? だってアタシは既に仲間なのに、その上で勧誘されたのよ? ということは────」

「────そっか。とりあえず戦える奴を七人集めたいから、紅谷は……」

 

 そうなると和泉壮月・鶴岡甚太郎・大迫春樹で、既に三人の戦士が揃っている。となると、あと四人は見つけないといけないはずだが、なぜ二人なのだろうか? もしかしたら四人のうち二人は、既に見当をつけているのか。

 

「……今あなたが考えていること、当ててもいいかしら?」

「え?」

「後ろのふ・た・り。紅谷ちゃんは初めからそ(・)の(・)つ(・)も(・)り(・)だったんじゃないかしら? あくまで憶測だけどね♪」

 

 ────城谷利光と稲尾郁久。確かに二人はネオ蜘蛛を脱退するつもりでいた。少なくとも稲尾郁久は、和泉壮月の仲間に入れてくれと語っていた。辻褄は合う。それに、この二人を既に数に入れているなら、あと二人だけという計算も合っている。

 

「なるほど……早乙女さんって、本当に頭がキレるんだな……!」

「いやん。ちがうわ、ちがう。アタシのことは“おネェさま”って呼びなさい☆」

「えっ……あ、はい……お……おネェ、さま……?」

「よくできました♪ 後片付けはアタシに任せて、もう行っちゃいなさい。仲間探し、頑張ってね!」

 

 背中を押されて追い出された和泉壮月は、最後にもう一度会釈して走り去る。その間、城谷利光の「ん゛ー! んんっ゛ー!」という悲鳴が聞こえたが、ネオ蜘蛛から身を守るためには、もう少し辛抱してもらう必要がある。故に和泉壮月は内心で(ごめん)と謝った。

 

          †

 

 和泉壮月は三ツ矢璃子に電話を掛ける。だが繋がらない。すると三ツ矢璃子から『情報をお求めなら03:35に神浜オートレース場の広場モニュメント前』というメールが送られてきた。その通りに行動し、待ち合わせ馬所で待っていると、息せき切って三ツ矢璃子が走ってきた。

 

「お、お待たせしました!」

「おい……お前の情報、間違っていなかったけど、ちょっと足りなくて勘違いしちまったぞ。いや、一方的に誤解した俺も悪いんだけどよ……」

「えっ!? えっと、その……どのように間違っていたんでしょうか……?」

「城谷利光と稲尾郁久は監禁されていたんじゃなくて保護されていたんだよ。でもお前の物言いだと……その、監禁されていると誤解しちまうだろ」

「……! ほ、保護……!? 監禁ではなく!? そ、そうだったんですか……なるほど……これが先輩の言っていた“状況の情報を仕入れても先入観で判断して伝えるな”ってやつですか……くぅ~! また失敗しちゃった! あの! 本当にごめんなさい!!」

「い、いや、もういいよ……俺も言いすぎた……」

 

 てっきり和泉壮月は、仕事のクレーム対応みたく“その辺りは顧客の責任”と言われるのではないかと思っていたが、まるでクラスメイトみたいに素直に謝られたことで困惑する。どうやら彼女は本当に情報屋としては新米のようだ。仕事先の対応ではなく、友達感覚で対応されるあたり、明らかに慣(・)れ(・)て(・)い(・)な(・)い(・)感(・)た(・)っ(・)ぷ(・)り(・)という感じがする。

 

「あの……それで、情報をお買い求めでは……? まさかクレームだけですか……? さすがにそれは傷つくというか……」

「あ、いや……! もちろん情報を買いに来たんだよ。紅谷から貰った札束がまだ残ってるから、もしかしたらこれを使って仲間を探せってことなのかなーと思って……」

「仲間?」

「えっと────俺たちの味方になってくれそうな強い奴って居ないか?」

「……! えっと、ちょっと待ってくださいね……! 今、検索をかけます……!」

 

 三ツ矢璃子はスマホを素早く使って何かを調べている。そういうのを客の前でやってもいいのかと少し思った和泉壮月だが、情報屋の仕事内容はよく分からないため、案外それが普通なのかもしれないと思った。それでも一応聞いてみる。

 

「……なぁ、もし今、俺がそのスマホを奪ったら、情報ってなんでも見れちゃうのか?」

「……え? ────あ、そうだ! すみません! 検索はよそでやります! 分かったら連絡するので! では!」

 

 走り去る三ツ矢璃子。それを見て和泉壮月は一言。

 

「マジか……なんかめっちゃ不安な子だな……でもがんばれ……」

 

 呆れ果てた和泉壮月は、とりあえず連絡が来るまでブラブラとする。しばらく暇を潰すとメールが来た。内容は次の通り。

 

《※和泉壮月さまのお探しお仲間情報!

 

 概要:北養区の聖(セント)リリアンナ学園に在籍する宝崎市出身のご令嬢。

 姓名:月館真夜(つきだてまよ)

 外見:黒髪赤眼、地に着くほどの長いポニーテール

 性格:浮雲のように気まぐれ

 出現する時間帯:聖リリアンナ学園の近くにある公園の木々の上 注※平日の日中のみ

 

 代金は三十万円です! 前回の誤情報の件に関する謝礼を兼ねて割引しました!

 所定の銀行に振り込んでください! 暗証番号は「※∀∵△」です!》

 

「…………《暗証番号の件は見なかったことにしておくよ。このメールは削除しておく》……っと。送信……」

 

 直後『?』という絵文字が送られてきたが、和泉壮月は既読無視。五分かけて駅に向かうとスマホがバイブレーションした。

 

『ごめんなさい! 本当にごめんなさい! 調べました! 振り込みだけなら暗証番号は要らないんでしたね! あの、今回の代金は要らないので、逆に口止め料としてお金を払わせてください!』

 

 切符を買ってホームに立ち、電車を待つ間に返信する。

 

『いや、別にいいよ。めんどくさいし。ちゃんと金も払うから』

『いいえ! お金は信用の担保? なので! 口止め料を受け取ってくれないと、そちらの信用がなくなりますので!』

『そういうものなのか? こっちからしたら、もうそっちの信用がゼロなんだが……』

 

 マイナスと言わないのは壮月なりの優しさである。

 

『うぅ!? それは、そうなんですが……』

『……分かったよ。また明日な。あと一人仲間を探すつもりでいるからさ。そんときに』

『! ありがとうございます! お手数かけて申し訳ございませんでした! ではまたのご贔屓を!』

 

 電車が来た。栄区から北養区までなら二十分か三十分もあれば到着するだろう。

 和泉壮月はやけに疲れた心地で電車に乗り込んだ。

 

          †

 

 北養区・聖リリアンナ学園近郊の自然公園。そこに訪れた和泉壮月は木々を見上げて散歩していた。

 

(本当に木々の上なんかに居るのか……?)

 

 また誤情報を掴まされたのではないか。もしかしたら別角度からの新解釈で何か発見があるのではないか。と勘ぐる和泉壮月だが、その杞憂はすぐに消えた。

 

 とある樹木の上から数匹の猫が鳴く声に紛れて、女子ふたりの話し声が聞こえてくる。

 

「こらこら、ネコ君たち、喧嘩しちゃダメだぞー。ここはキャットフードで手打ちにしよう」

「……! ね、ねぇ、真夜お姉ちゃん……そのエサ、私が上げてもいいかな……?」

「うん? うん。ほら、ネコ君たち、燦(さん)が仲裁に入るぞー。引っ掻くなよー」

 

 どうやら猫たちは縄張り争いをしているようだ。

 

 三ツ矢璃子の(詫びも兼ねた)追加情報によると、月館真夜は聖リリアンナ学園に通う文武両道のお嬢様なのだが、勉学に励むやる気や集中力が圧倒的に足りていなく、気分が乗らなければすぐに学園を抜け出し、塀をよじ登っては木々を飛び越え、猫たちの縄張り争いに茶々を入れるのだという。

 

 そんな自由奔放の極みにある月館真夜。ではその隣に居る女子中学生は誰なのか。

 和泉壮月は、猫たちの抗争の手打ちが終わるまで木立を背に待機する。

 

「よーし。みんなじゃれついてきたな。もうケンカするなよー。それじゃあ燦はもう家に帰ってろ。私は少し用事がある」

「あ、うん! またね、真夜お姉ちゃん!」

 

 月館真夜は木の枝の上から後ろ向きに落ちると、猫のような体幹能力で華麗に着地した。地面に被さる木の葉が舞う。面を上げた眼光の先には和泉壮月。どうやら遠巻きに眺めていたのがバレていたようだ。

 

「アタシに何か用か?」

 

 黒髪赤眼。長いポニーテールが風に靡く。文武両道で美貌にも優れるとは隙がない。だが和泉壮月は迷っていた。

 

(月館真夜……名前からして女の子ってのは想像ついてたけど、本当にこんな子を巻き込んでもいいのか……?)

 

 武道に優れるとは言え、実戦の喧嘩はまた別の話だ。おそらくネオ蜘蛛は武器を使ってくる。ナイフも持ち出すかも知れない。そんな危険な戦いに一般人を巻き込むのは和泉壮月の主義に反する。

 

「どうした? アタシに用があるんじゃないのか?」

「あ……いや。実はちょっとお願いしたいことがあって来たんだけど……ここに来て迷ってて……」

「なんだ。ウジウジしてるな。なんでもいいから言ってみろ。アタシも暇じゃないんだ。暇だけど」

「あ、え? わ、わりぃ……。で、その……単刀直入に言うと、俺たちの味方をしてほしいんだ」

「……味方? なんの」

「最近“ネオ蜘蛛”っていう不良チームが大暴れしててよ。そいつらを潰すために仲間を集めてんだが、さすがに女の子は……」

「……じゃあ試してみるか?」

「────え?」

「アタシの強さを」

 

 月館真夜は自然体で立っている。隙だらけだ。しかし、そのような思考が脳裏によぎった時点で、既に月館真夜のペースに巻き込まれていることに和泉壮月は勘付いた。

 

(……あれ。なんで今、急に頭の中が戦闘態勢に入ったんだ? わからねぇ……ただ、この女から言い知れねぇ覇気ってやつを感じる……っ!!)

 

 その時、ブンブンと騒音をかき鳴らしてバイク集団が現れた。公園の中はバイクの立ち入りが禁止のはずだ。それを破って入ってきた不良たちは、体のどこかに蜘蛛のマークを身につけている。メリケンサックを取り出す者。角材や鉄パイプを肩に抱える者。明らかに“ネオ蜘蛛”の尖兵である。

 

「なに!? まさかこんなところまで俺を追いかけて来たのか!?」

「違うと思うよ。こいつらはアタシを狙ってきたんだ」

「……は?」

「先日、夜の街を散歩してたら、こいつらに絡まれたんだ。軽く倒してやったら、それから執拗に付け狙ってくるようになった。まったく……昼間は猫に絡まれ、夜は不良に絡まれるって、めんどくさい……家族も先生も猫も不良も、どうして誰もアタシを好きにさせてくれないのー?」

 

 月館真夜は数十人の不良に囲まれて威嚇されても、余裕の態度で愚痴を呟く。

 

「とりあえず、アンタたち全(・)員(・)に言っておくけどさ。アタシけっこー強いからね? ほら、ボヤっとしてると殺っちゃうよ!」

 

 瞬間────それは喧嘩というよりも、蹂躙と称するべき圧巻の光景だった。

 

 空を舞う無数のパーツ。それはバイクだったもの。

 地に転がる無数の人間。それは血気盛んだった者。

 

 白い歯が血に混じって飛び交う。

 むしられた髪が疾風に流される。

 金属製の武器は払われて木の幹に突き刺さり、角材は粉砕され、鉄パイプはクシャクシャに折られていく。

 

 ただそこにあるだけで破壊を呼ぶ化身。

 そんな彼女の暴れっぷりを目にした和泉壮月は、体の芯の奥から震え上がるように直感した。

 

(こいつ……戦いの天才だ……!)

 

 魅せられる。その華麗な勝利の演舞を。

 

 極まれに、何においても天才という人間はいる。それは彼女のことだ。特に喧嘩を好むわけではないが、売られた喧嘩に負けたことは一度もない。それが月館真夜の戦歴である。まさに不敗の女神。野良猫のように自由気ままに日々を過ごすことが目標で、何かに必死になるよりもエコに生きたいタイプなのに、周囲がそれを許さない。

 

 類は友を呼ぶ、という因果(やつ)なのだろうか。彼女の周りには常に物騒な連中が集まる。そして戦いの渦に巻き込まれる。それも含めての天賦の才。運命(チャンス)に恵まれるのも、翻弄されるはずの宿命を一撃で打破するのも、彼女の才能があってこそだ。

 

「ったくもー。いつアタシは低カロリー日和を満喫できるんだ」

「…………!」

 

 月館真夜は死屍累々の山の上に仁王立ち、傷一つなく返り血ひとつなく、優雅に風に吹かれていた。

 

 和泉壮月は思った。月館真夜とロバート・フレージャーは、どちらが強いのだろうかと。

 何でもアリなら月館真夜かもしれない。ボクシングの試合ならロバート・フレージャーかもしれない。

 

 筋肉も技術も無い。そんな彼女が無双の限りを尽くせる理由は、ただ一つ。

 

(才能……それ以外に考えられねぇ……)

 

 月館真夜は背中を向けたまま問い掛ける。

 

「それで? アンタの名前は?」

「え? あ……和泉、壮月……」

「ふうん。アンタ、こいつらを潰すつもりなの? 正直迷惑だし……そうだなぁ……まぁ、気が乗ったら協力してあげるよ」

「え。気が乗ったらって……」

「そーゆーことだから、じゃあねー」

 

 猫のように跳躍した月館真夜は、コンビニでアイスを買うために走り去った。

 それを見送った和泉壮月は、ひとまず帰路に就く。

 

 月館真夜。浮雲のように気まぐれな少女。彼女が味方になるなら百人力、いや千人力、いやさ万人力まであるが、はたして本当に協力してくれるのだろうかと不安になる。ともあれ彼女を無力な少女と見るのは間違っていたことを和泉壮月は知った。

 

(でも……こっちにも男の意地ってもんがある。仮に月館真夜が協力してくれなくても、たとえ俺一人だけになっても、みんなを困らせる“ネオ蜘蛛”は、必ず俺が潰してやる……)

 

 もしも月館真夜が味方になったら“もうあいつ一人でいいじゃないかな”という気分にならなくもない。そのくらいの鮮烈な強さを見せつけられた和泉壮月は、なぜかワクワクする心地を押し隠せないでいた。いったいこの感情はなんなのか。まさか競争心か、あるいはタイマンを張ったらどうなるのかという好奇心か。自分までバトルジャンキーになってしまったのかと頭を悩ませる和泉壮月だが、それも無理からぬこと。

 

 真の女神を目にして、それに近付きたいと思わぬ凡人はいない。はたして女神の気まぐれはどちらに微笑みかけるのか。和泉壮月は楽しみに待つように、月館真夜の参戦を望んでいた。彼女を巻き込みたくないという本心とは裏腹に、再びあの美しい絶勝(ぜっしょう)演舞を拝めるのではないかと期待して────。

 

          †

 

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