※この作品はR-18です。

アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO!   作:形のない者

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4月13日【私は“鴉使”だ】ヴィヴィアン〔霧の鴉〕

 

 翌日。三日目。

 昼過ぎの時間帯。廃工場にて、大迫春樹とロバートがスパーリングをしている間、鶴岡甚太郎はサンドバッグを叩きのめしており、和泉壮月はシャドーボクシングを繰り返していた。そこに昨日と同じように紅谷慶志郎が現れる。

 

「やぁ我が王。昨日は月館真夜という少女と接触したようだね。彼女は協力してくれそうかな? 実力のほどは?」

「……協力は分かんねぇ。なにせ気まぐれな性格だったからな。ただ実力は申し分ない。たぶんロバートくらい強いぞ、あいつは」

「へぇ……そりゃスゴイや。じゃあ、あと一人。新米情報屋・三ツ矢璃子の情報を元に、探してきてくれないかな?」

「……あぁ。分かった」

 

 和泉壮月は昨日に引き続き札束を貰う。スマホを開いて三ツ矢璃子に《“ネオ蜘蛛”を倒す同志を募りたい》と連絡。すると今度は南凪区の神浜公園で待ち合わせとなり、そこへ急ぐ。

 

 海岸沿い近くの公園。潮風が強く、長居すると肌がベタつく。目立つように時計台の下に佇立していると、遠くから息せき切って三ツ矢璃子が走ってきた。

 

「お、おまちどーさまです!」

「……それはなんかちがくないか?」

「えっと! まずは口止め料の十万円です! そして今回の情報料は百万円になります! でも度重なる迷惑の謝礼に割引いたしまして、今回はなんと半額! 五十万で情報を売らせていただきます!」

「……勉強のためにネット通販番組でも見たのか? まぁいい。はい、これ。紅谷の金」

 

 口止め料の十万円を貰い、PONと五十万円の札束を渡す。

 

「それでは情報を送信します! ご確認ください! 毎度ありがとうございましたっ!」

 

 張り切ってお辞儀した三ツ矢璃子は、初めて仕事らしい仕事が出来た事に喜んでいるのかガッツポーズしながら走り去る。

 

(がんばってんなー……)

 

 生暖かい目で見守る和泉壮月の懐からスマホがバイブ。メール内容を確認する。

 

《件名:依頼内容「“ネオ蜘蛛”を倒す同志を募りたい」のお求め情報!

 

 概要:南凪区の中華街のどこかに“鴉使いの暗殺者”がいます!

 よく目撃されるスポット:唐紅の茶屋

 

 今後ともご贔屓に☆》

 

 暗殺者。その単語に和泉壮月は何度も目をこする。加えて今回は情報が少ない。それなのに本来は百万円の情報料が必要なのだという。それだけ危険を冒してゲットした情報という事なのだろうか。和泉壮月は(最近の女子高生の情報ネットワークってスゲー……)などと思いながら、とりあえず中華街に急ぐのであった。

 

 おそらく百数個の店舗はあろう茶屋を一つ一つ見て回る覚悟を決めながら。

 

          †

 

 舞台と視点は移り。南凪区・中華街の“唐紅の茶屋”にて、二人の少女が対峙していた。

 

 かたや黒髪金眼のおさげの少女。中華風の黒いドレスと真紅のスカートを身に纏い、朱色の唐傘を肩に掛けて広げている。その下で椅子に座り、抹茶を嗜む姿はまさに淑女。

 かたや青髪青眼のお団子頭に腰まで長い三つ編みの少女。制服姿だがその佇まいは格闘家の雰囲気を醸し出している。

 

「純美雨(チュン メイユイ)……名にし負う蒼海幇(そうかいへい)の第三世代が蒼碧拳(そうへきけん)の遣い手……あなたが神浜市に居ることは知っていた。でも私が神浜市に滞在していることは知らなかったはず。どうして見つかったのかしら」

「そんなの言うまでもないネ。ウチの情報網をナメないでもらいたいアルヨ。ヴィヴィアン……山西省(さんせいしょう)の深山幽谷にて代々継承された鴉(カラス)使いの一族、その末裔が最後の一人……お前みたいな娘が、どうして神浜市にいるノカ……問いたださせてもらうネ」

 

 純美雨とヴィヴィアンの厳かにして静かな視線に激突の火花が散る。

 

「……端的に言わせてもらえば、追い出されたのよ。後生(こうせい)畏(おそ)る可(べ)し。いずくんぞ来者(らいしゃ)の今に如(し)かざるを知らんや……」

「────! まさか……そんな愚かなことが……」

「暗殺一家の辿る末路なんて大体そんなものでしょう。論語を尊び故事に学ぶ姿勢は好(よ)かれど、若人(わこうど)を受け入れる度量が無かった老獪(ろうかい)なるや烏合の衆」

「……」

「同情は不要(イラ)ズ。この地で職を探すわ。もちろん、建設的なやり方でね……」

「…………話は分かったネ。ただし忠告しておくヨ。もし街のみんなに危害を加えるようなら、この純美雨が鉄槌を下すアル」

「あら怖い。重々承知の上で、気を付けておくわ……」

 

 純美雨は茶屋を後にする。それと入れ替わりで和泉壮月が茶屋に入った。

 

「あのぅ……変なことを聞くようですが、“鴉使い”の方って、この店にいらっしゃいますか……?」

「────!」

 

 噂をすれば影がさす。職探しのため抹茶のそばに置いてあったハローワークの本を開こうとした途端、飛んで火に入る夏の虫。

 

 鴉の鳴き声が店内に響く。それに驚いた和泉壮月は、茶屋の一席に座る黒髪の女の子の背後に佇む一羽の濡鴉を目にした。

 

「あっ……五十軒目で当たりを引いたか……ちょうど折り返し地点……もうどうなるかことかと思ったぜ……」

 

 和泉壮月は茶屋という茶屋を走り回っていたのか、疲れきったようにヴィヴィアンの対面の席に座る。

 

「つーかここカラスを入れてOKの店なのか? まぁいいや……えっと、初めまして。俺は和泉壮月。ちょっとお願いがあって来ました」

「…………」

「その……こんなところでカラスを連れている変人は中々いないと思うんで、単刀直入に聞きますが……あなたは“暗殺者”ですか?」

 

 和泉壮月は戦々恐々と問い掛ける。

 対するヴィヴィアンは目を閉じると、情緒を感じさせない声色で答えた。

 

「然り。我が名はヴィヴィアン。何用か。暗殺の仕事なら引き受けん。これからは合法で売りに行く所存なれば」

「……あー。まぁ俺も人は殺して欲しくないから、それは全然嬉しいんですけど……」

 

 和泉壮月は困ったように頭を掻く。昨日に引き続き、まさかの少女。無論、暗殺者と名乗るからには相応の手練であり、生きた世界が違う猛者なのだろう。故に月館真夜の時のように侮ったりはしないが、家族やクラスメイト以外の女性とあまり会話したことがない和泉壮月は少々目のやり場に困る。

 

 端正な顔立ち。伏し目がちの瞼の奥に煌々と光る琥珀のような瞳。コスプレかと思うほど立派な衣装も、美人が着れば全然異質には感じず、私服としてサマになる。

 

「……? どうした」

「いや、なんでもないっす。────えっと、まず簡単に説明しますね。依頼内容は“暗殺”なんていう物騒なもんじゃなくて“喧嘩”なんです。最近“ネオ蜘蛛”っつー不良チームが街中で暴れてて……困った俺たちはそいつらを潰そうって話になったんですけど、今の戦力じゃ太刀打ちできないらしくて……。つまり、ヴィヴィアンさん。あなたには、俺たちの味方になってもらいたいんです」

「ふむ。つまるところ傭兵業か。悪くない。支払額は?」

「えっ? えっと……紅谷からは一応、百万円を貰っているんですけど……」

「……はした金だな」

「えっ!?」

「だが“喧嘩仕事”としてなら妥当な報酬か……賃貸住宅は最安で、光熱費、衣類に食費と計算すれば……ふむ。最低限の暮らしにはなるが欲をかいても仕方がない。良かろう、その仕事、確実に引き受けた」

「……!」

 

 威風堂々たる振る舞いで“傭兵”の役目を請け負ったヴィヴィアン。

 その貫禄を目にした和泉壮月は、本当に戦(・)い(・)に(・)慣(・)れ(・)て(・)い(・)る(・)のだなと感じた。

 

「……しかし、ひとつ聞いてもいいか? どうやって私が“鴉使(カラスつかい)”だと知った」

「それは……情報屋に聞いて……」

「……なるほど。この街も中々に侮れん」

 

 ヴィヴィアンは感心したように抹茶を飲む。

 そこで和泉壮月が訊いた。

 

「あの……嫌なら答えなくていいんですけど……ヴィヴィアンさんって、なんで暗殺者に……?」

「ヴィヴィアンでいい」

「あ、はい」

 

 問われたヴィヴィアンは目を伏せて語りだす。

 

「私は鴉が好きだ。生まれつき鴉と共に過ごし、家族のように暮らしてきた。だがそれはおかしいと周りから言われて気付いた。カラスをペットとして飼う家庭は一つもない。なのになぜ我が家は鴉を飼うのか。その疑問は物心付いてしばらくした時に明らかとなった。我が家は先祖代々から鴉を使って要人を暗殺する暗殺一家だったのだ」

「……」

「それを知ってから、家族だった鴉は兵器として見るよう教育された。しかし私は鴉を戦闘に使役するのは反対だった。だがその考えは父の死によって変わった。……我が家は暗殺一家だ。必然多くの恨みを買う。その恨みは中国四千年の重みがあった。たとえこ(・)こ(・)千(・)年(・)は(・)暗(・)殺(・)を(・)一(・)度(・)た(・)り(・)と(・)も(・)行(・)わ(・)ず(・)とも、ただ先祖が暗殺されたという理由だけで復讐しに来る者が後を絶たない。つまり私の代では疾うの昔から、鴉を使うのは暗殺の為ではなく、復讐から身を守る為の術(すべ)になっていたのだ」

「……!」

「父の教えは全て“身を守る為”だった。それが父の死に立ち会って漸(ようや)く理解できた私は、己の無力さを痛感し、甘えを捨てた。己を鍛え、鴉を鍛え、操り、戦わねば、ただ殺されるのを待つだけと知ったから。……未だに憶(おも)う。私が反対しなければ、父に加勢できて死なせる事がなかったかもしれない。だが過ぎた事を悔やんでも仕方がない」

 

 ヴィヴィアンは席を立つ。

 

「私は“鴉使”だ。“鴉使”ヴィヴィアンとして、今までもこれからも自由に羽ばたいて生きていく」

 

 とある暗殺一家に生まれた少女の過去。

 それを知った和泉壮月は、ただ純粋にヴィヴィアンの強さに敬意を評した。

 

「……フッ。なぜ我が身の事をここまで話してしまったのか……よもや貴様は、鴉が飛びやすい大空のような器を、その裡(うち)に抱いているのやもしれん……なんとも愉快な男よ、和泉壮月……」

 

 茶屋を後にしたヴィヴィアン。その肩に二羽の鴉が留まる。

 かくして仲間集めを終えた和泉壮月は、ひとまず廃工場に戻ることにした。

 

          †

 

 夕暮れの廃工場。帰還した和泉壮月はカバンを下ろしてシャドーボクシングに入る。その時、閉め忘れたカバンから七個のリングが転がり落ちた。全て鎖でひとまとめにされている。ガシャンと大きな音が鳴り、それを目にした紅谷慶志郎は目を見張って驚愕した。

 

「……!? これは……なんということだ、我が王よ! そのリングは、いったいどこで……!?」

「え? あぁ……それ? なんかカッコイイから持ってたんだ。落(・)ち(・)て(・)た(・)の(・)を(・)拾(・)っ(・)た(・)んだけど、もともと俺たちのもんだから警察には届けなかった……んだけど……アレ? なっんかおかしーなー……」

 

 和泉壮月は頭痛がしたのか、片目を閉じて側頭部を押さえる。

 対する紅谷慶志郎は歓喜するように七個のリングを拾い上げた。

 

「そうさ! まさにこのリングは我が王とその守護者のものなんだよ! 君がこれを手に入れたということは、やはり君には王の器としての運命が付いているということにほかならない!」

「……はぁ? そのリング、ただのオモチャだろ? ゲーセンとかで取れるやつじゃん……大げさだって」

 

 そこでロバート・フレージャーは腕を下ろした。戦っていた大迫春樹はチャンスとばかりに飛び込むが、軽くあしらわれて転ばされる。

 

「ぐはっ!?」

「ソウゲツ……リング、タタカイ、ツカエル……ダガ、イマハ、ツカエナイ……」

「……どういうことだ?」

 

 和泉壮月の質問。

 

「リング、カクゴ、ナイト、ホノオ、モエナイ……」

 

 そこで聞き耳を立てていた鶴岡甚太郎が自信満々に叫んだ。

 

「覚悟ならあるぜ!」

「No……ウワベノ、カクゴ、イミナイ……」

「あぁん!? 俺の覚悟が上辺だけだとコノヤロー!!」

「ナラ、タメシテミロ……」

「上等だコルァ!」

 

 紅谷慶志郎は鎖を解き、七個のリングを机に置く。

 それをひったくって適当なリングを指に嵌めた鶴岡だが、すぐに我に帰った。

 

「……って、リングから炎が灯るわけねぇだろうが!!」

「本当にそう思うかい?」

「あぁ。仮に出たとしても、そりゃあリング型のライターかなんかだろ!」

 

 紅谷慶志郎の中指に光る橙色のリング。

 次の瞬間、そのリングから橙色の炎が灯った。

 

『────ッ!!?』

「夢じゃないよ。これは裏社会で流通している“兵器”の一つさ。れっきとした武器の一つ。しかもこの炎は、ただの火炎じゃない。名を“死ぬ気の炎”というソレは……通常の火炎とは異なり、超高密度のエネルギーが炎のように見えているだけだ」

 

 そして死ぬ気の炎は七つある。大空・嵐・雨・雷・晴・雲・霧の天候七種。

 

「僕は大空属性だ。死ぬ気の炎の中でも随一の推進力を誇る炎さ。性質は調和……この前、我が王の腕の傷を治したろ? それは大空の炎から漏れ出る調和の力のおかげだったのさ」

「……っ! そ、そうだったのか!! 道理で……あんな一瞬で治るのはおかしいと思ってたんだ……」

 

 鶴岡甚太郎は、自分が嵌めたリングを二度見する。ロバートは覚悟があれば炎が灯ると言っていた。だが鶴岡甚太郎はどれだけ気張っても、紅谷慶志郎のようにリングから炎が灯らない。

 

「っ……! クッソ! なんでだよ! 俺が口先だけの男だってか!? アァン!?」

「落ち着いて、鶴岡甚太郎。もしかしたら波動とリングの属性が合致していないのかもしれない」

「あぁ!? 波動!? なんだそりゃ詳しく教えろや!!」

 

 波動。それは人間なら誰しもが持っている死ぬ気の炎の才能のこと。人間の体内には七つの波動が流れており、その中の六つは微弱だが、必ず一つは強い波動を備えている。また、才ある者なら複数の波動を有している場合もあるとのこと。

 

「そこで、この“波動計測器”さ。これは波動を計測する器械……全員、一旦集まって、これに指を入れてみてくれ」

 

 練習を中断した一同は、紅谷慶志郎が取り出した器械装置の周囲に集まる。

 まずは和泉壮月。器械に人差し指を挿入して待機。数秒も待てばピピッという音と共に結果が表示される。

 

《Firmament :33:

 Tempesta :07:

 Pioggia  :07

 Fulmine  :07:

 Sereno  :25:

 Nuvola  :05:

 Nebbia  :03:》

 

「……フィルマメント……テンペスタ? なぁ紅谷、これってどういう……」

「そうだね。簡単に翻訳するよ。我が王は大空と晴の波動に優れている。それ以外は微弱すぎて使えない……といったところかな。つまり我が王には、この大空のリングがふさわしい……」

 

 和泉壮月は大空のリングを嵌める。それを見て満足気な紅谷慶志郎は普段より言葉数が多くなる。

 

「大空属性は希少でね。故に“大空の波動を持つ者はボスの座にふさわしい”とさえ言われている。そして我が王に、真の王の器が本当にあるならば、必然、大空の下には残る六つの天候が集うはずだ……城谷利光と稲尾郁久、そして我が王が見出した残る二人の守護者たちにも、このリングを贈呈しなければね……」

 

 和泉壮月はリングに炎を灯そうとする。だがやり方が分からない。鶴岡甚太郎のように気張ってみるが、リングはウンともスンとも言わない。

 

「……なぁ紅谷。これ本当に死(・)ぬ(・)気(・)の(・)炎(・)を(・)灯(・)せ(・)る(・)リ(・)ン(・)グ(・)なのか?」

「僕の審美眼を疑うのかい? これは正真正銘本物だよ。死炎を灯せる指輪……チェロリングだ」

「チェロ?」

「チェロリングとは“大空の七属性の死炎を灯すリング”という意味さ。それに我が王よ。今はまだ死ぬ気の炎を灯せなくても何も問題はない。僕だってまだ早いと思っていたから、死ぬ気の炎の存在は伏せていたんだから。それがちょっと前倒しになっただけさ。焦らずとも、必ず試練は訪れる。その時に我が王は、きっと覚悟の炎を灯せると信じているよ……」

 

 そう言って紅谷慶志郎は一枚のケースを懐から取り出す。開くとそこには七個のリングが煌めいていた。どうやら紅谷慶志郎はあらかじめ各属性のリングを用意していたらしい。そして晴系リングを一つ、和泉壮月に手渡した。

 

「大事に持って、失くさないように」

「…………」

 

 それから鶴岡甚太郎と大迫春樹が波動計測器を使用する。

 

「……俺は、嵐か」

「俺は雨だ」

 

 そして和泉壮月が所持していたリングを嵌めるが、どれだけ気張っても炎は灯らない。

 

(俺には覚悟がないって事なのか……?)

 

 しかし紅谷慶志郎は言っていた。然るべき時が来れば炎は灯ると。

 それより和泉壮月は、あることが気になっていた。

 

「なぁ……このリングって、いわゆる裏社会の人しか知らない武器なわけだろ? そんなの持ち歩いてたらヤバイんじゃ……」

「なんだ壮月。ビビってんのか?」

「壮月がこんなんでビビるわけねぇだろ大迫ォ!」

「それに……超高密度エネルギーって言ったか? そんなあぶねぇの喧嘩には要らないよ」

 

 最初は炎が灯るリングを見て、かっこよくて面白そうだと思ったが、喧嘩に使う気はないのか物騒なリングを取り外そうとする。

 

「そうかな? 危険だからこそ、不良は使いたがると思うんだけど」

「……! 紅谷……それどういうことだ」

「先日、警察に補導されない“ネオ蜘蛛”の構成員がいたよね。それは彼らが裏社会と少なくない繋がりを持っているからだ。そしてリングは裏社会にしか流れていない。つまり今回の抗争で“ネオ蜘蛛”がリングを持ち出してこないとは誰にも言えないのさ」

 

 その言葉で和泉壮月はハッとする。ネオ蜘蛛が危険集団であることは知っていたはずだが、その認識はまだ甘かったのだろうかと考え込む。

 

「我が王よ。せめて護身用に携帯しておくのを推奨するよ。我が王の命を守るためにもね」

「……」

 

 和泉壮月はリングを取り外すのをやめてシャドーボクシングに戻る。ネオ蜘蛛がリングを使う可能性は低いが、紅谷慶志郎が言うように、いざという時に持っておいて損はないだろうと判断してのことだ。

 

 そこで紅谷慶志郎のスマホが鳴る。

 

「もしもし? あぁ早乙女さん。……えぇ? 城谷利光と稲尾郁久が脱走した?」

『────!!?』

「了解。見張りの来栖蓮に聞いてみるよ。今まで保護ありがとね。いやいや、謝らなくていいよ。そろそろ潮時だとは思っていたからね」

 

 通話を切った紅谷慶志郎は、来栖蓮に電話を掛ける。

 

「やっほー。調子はどうかな? ふむふむ……二人は脱退宣言する為に“ネオ蜘蛛”のアジトに入った……ということはアジトの場所を突き止めたという事だよね? よくやってくれた。報酬は弾むよ。うん。それじゃあ案内を頼めるかな?」

 

 紅谷慶志郎は通話を切る。そしてロバートの方を向いた。

 

「ロバート。例のアレを」

「……オマエラ、コイ……」

 

 和泉壮月、鶴岡甚太郎、大迫春樹の三人は廃工場の裏手に連れて行かれる。そこには大型トラックが一台あり、その中には十数台のバイクが停められていた。

 

「な、なんだこれ……!」

「うおお! カッケェ! これ限定版の単車じゃねぇか!」

「こいつぁ痺れるぜ……一度乗ってみたかったものばかりだ……」

「我が王とその守護者たち。これは君たちへの贈り物さ。敵地にカチコミするならバイクくらいは乗り回せないとね」

 

 そう言うと鶴岡と大迫がバイクに飛び乗る。

 

「いやいやまてまて! 俺はバイクの免許なんか持ってねぇぞ!?」

「なら俺の後ろに乗れ壮月!」

「二人乗りはもっとダメだろ!?」

「ンなこと言ってる場合か! 城谷と稲尾が危ないんだろ?」

「それは────」

 

 和泉壮月の顔付きが苦くなる。だがその体は反射的に動いていた。鶴岡の背後に飛び乗る。轟くエンジン音。

 

「まってまって! 私抜きでどこに行くつもり!?」

「どわぁ!? おい! いきなり飛び乗ってくるんじゃねぇよ! つか今どこから出てきた!?」

 

 トラックの屋根から飛び降りた来栖蓮が、バイクに跨る大迫春樹の背後に乗り込む。

 

「うっし! 行くぜ壮月! カチコミじゃあああああ────!!」

 

 そして二台のバイクが全速前進でトラックから飛び出し、ギュンギュンと風を切って廃工場を後にした。

 

          †

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