※この作品はR-18です。

アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO!   作:形のない者

95 / 260
【俺はそんなチームとか作るつもりねぇから!】和泉壮月〔壮月ファミリー・大空のボス〕

 

 大東区の通りを二台のバイクが疾駆する。

 

「ぶわっ……!? 風やっべ……! っていうか鶴岡、大迫! お前らバイク運転できんのか!?」

「免許はバッチリだぜ! だが単車を買う金がなくってよ! ヒャッホー!」

「俺も免許はあるぜ! 単車は何台か持ってんだが、すぐ喧嘩でぶっ壊しちまうからな! 安物しか乗ったことねぇんだ! イヤッホー!」

「イエー! あ、そこの大通りに入ったら右に曲がって!」

「おいおい……! 頼むから安全運転で頼むぜ!? でもなるべく急いで!」

 

 来栖蓮の指示で最短ルートを通り、二台のバイクは大東区の大通りを疾駆する。しかし案の定と言うべきか。法定速度を超えていた二台のバイクは、その道中でパトカーのサイレンに襲われる。

 

『そこのバイク! 停まりなさい!!』

 

「は!? おいなんでパトカーに呼び止められてんだ! まさかスピードの出し過ぎか!?」

「壮月が“なるべく急げ”って言ったんだろ!」

「“なるべく”ってのはルールを破らねぇギリギリって意味だ!」

「なら大丈夫だ! ギリギリ守ってるからよ!」

「じゃあなんでパトカーに追われてんだ! ……あ! やっぱ相乗りが原因か!?」

「んじゃあどうする? まさか止まんのか? 俺は嫌だぜ!」

 

 鶴岡と大迫はバイクを飛ばす。次の瞬間、パトカーのサイレンが更に大きくなって本格的なレースが始まった。

 

(────っ)

 

 和泉壮月は迷う。そこで大迫春樹が向かい風に負けず叫んだ。

 

「おい壮月! 別にイイじゃねぇか!」

「あ!?」

「ポリ公と一緒にカチコミするほど頼もしいものはないぜ! 悪いことしてんのは向こうも同じなんだからよ! 両手を後ろに回すなら“ネオ蜘蛛”の連中も道連れだぜ!」

「おう大迫ォ! テメェたまにはイイこと言うじゃねぇか! おい壮月! お前もそろそろ覚悟決めやがれ! そもそも城谷と稲尾の心配し始めたのは壮月だろうが!」

「……っ!」

 

(────賄賂、買収……大迫は頼りになると言っていたけど、たぶん警察は当てにならねぇ……。

 それに、このままじゃ絶対に学校でうわさになる! “和泉壮月って生徒が補導された”って見出しで! そうなったら姉ちゃんに迷惑が掛かる……もし俺のせいで退学なんかになったりしたら……。

 でも、ここで立ち止まったら城谷と稲尾が……どのみちネオ蜘蛛は警察が役に立たねぇなら俺たちが叩かないといけねぇし……クソッ! 俺はどうしたら……!)

 

 悩める和泉壮月は、不意に姉との会話を思い出す。

 それは護身術を習い始めてしばらく経った夕暮れの公園。その時の和泉壮月は内心、護身術を使ったせいで家族に迷惑を掛ける可能性を考えていた。いくら護身術と銘打っても、無知な周囲から見たら暴力であることに変わりはない。もちろん正しい使い方をし、正しい人が正しい見方をすれば、護身術は暴力などとは縁遠い正当防衛の手段であるのだが、そも“正しいとは何か”“常に正しく評価される事はない”ということを、和泉壮月は経験から身に染みていた。

 するとその心を読まれたかのごとく、和泉十七夜は頭を撫でてきたのだ。

 

 ────「壮月。お前が困ったら私が助ける。家族なのだから赤の他人よりは互いを助け合うことは楽だろう。たとえ壮月が切羽詰ってどんなことになろうとも、自(・)分(・)に(・)恥(・)じ(・)ぬ(・)行(・)動(・)が(・)正(・)義(・)と(・)信(・)じ(・)ろ(・)。その上で変なことになっても、私はきっと納(・)得(・)す(・)る(・)。なぜか? お前がイイ子であることは分かりきっているからな。……そら、相手が金持ちの息子だからってなんだ。友達がいじめられて見過ごせないんだろう? ならば特に気にせずし(・)つ(・)け(・)に行ってこい。そんなお前を、姉ちゃんも父ちゃんも誇りに思うぞ」────

 

 和泉十七夜は目を見開く。

 

(我が身かわいさで困ってる奴を見捨てる。そんなことは死んでもできねぇ。そんなクソみたいなことしたら、俺の背中に恥(・)が(・)つ(・)く(・)ッ! だからごめん、姉ちゃん……っ! 俺、不良になっちまった……ッ!!)

 

「っし────鶴岡! 大迫! このままパトカー連れてアジトにカチコむぞ! だけど警察は“ネオ蜘蛛”に買収されている可能性がある! おまわりは役に立たねぇと思え! 俺たちだけで全部ぶっ潰すんだ!!」

「おっしゃあ! 待ってたぜ! それでこそ壮月だ! 了解したぜぇ!!」

「三人でカチコミか! 多勢に無勢ほど燃えるってのァ、まさにこのことだなァ!!」

「だけどこれ以上速度は出すなよ! お前ら事故った時のことちゃんと考えてんのか!?」

 

 事故らない程度にスピードを維持。超特急でアジトに向かう。大東区の境界線を越えて南凪区に突入。

 

「来栖! “ネオ蜘蛛”のアジトは南凪区にあるのか!?」 

「うん! 今は使われていない埠頭の倉庫に身を潜めているよ!」

 

 埠頭の倉庫。バイクをかっ飛ばして数十分。数台のパトカーに追われつつ、一同は夕焼けに燃える広大な内海を目にする。海岸沿いを走行。来栖蓮が指さす先に倉庫がある。硬い扉で閉められており、どこにも入り込める隙間がない。

 

「鶴岡! 少し速度落とせ!」

「アァ!? 先陣を切るつもりかよ! そうはさせねぇ!」

「ちげぇよ! まぁいい……ビビらねぇならそのまま突っ切れ!」

 

 大迫春樹はガソリンの蓋を開けて、懐からライターを取り出して火をつける。そして椅子の上に足を乗せ、跳躍の準備を整えた。

 それを目にした来栖蓮は目を点にしたあと、まさかと唸る。

 

「わお……それじゃ、私はここらへんで退散するね! 案内はもう済んだし! とうっ!」

「っしゃあああ花火じゃあああ! とうっ!」

 

 まず来栖蓮が飛び降りる。そして大迫春樹がガソリンの筒の中に火をつけたライターを投入して跳躍した刹那、バイクは轟々と火を噴いて独りでに倉庫の門に突っ込む。直後、特撮番組でしか見ないような大爆発が巻き起こった。バラバラに吹き飛んだバイクは倉庫の正面玄関を爆破し、潮風に煽られて火の手が上がる。

 

「は────? 何やってんだ大迫ぉおおおおお!? 不良ってマジで頭イカれてやがんのかぁあああああ!!?」

「っしゃああ燃えてきたぁああああ! 壮月、しっかりと掴まってろよぉおおおお!」

「そしてなんで鶴岡は突っ込もうとしてんだぁああ!! 止まれぇええええ!!?」

 

 炎上する正面玄関。その火の中を鶴岡と壮月が乗るバイクが突っ込んだ。ガタンと車輪が音を鳴らして何かに乗る。どうやら爆破して倒れたゲートの破片に乗り込んだらしい。坂のようになった瓦礫の上を走ったバイクは必然、倉庫の中空に飛び出す。空を飛ぶ炎上バイク。鶴岡甚太郎は引きつった笑みを浮かべ、和泉壮月は目を回す。倉庫の中には不良が多数。呆然と空飛ぶバイクを見つめている。

 

(────って、ヤベェ!!)

 

 このまま落下したらまともな着地にはならない。二人とも大怪我だろう。そう判断した和泉壮月は反射的に飛び降りた。

 

「うおお壮月!? っしゃあ俺も飛び降りてやるぜええええ!!」

 

 和泉壮月は雑魚の頭を踏み抜いて無事に着地。鶴岡甚太郎も雑魚の首にラリアットをしながら着地して地面を転がり、起き上りざまに振るわれた鉄パイプを躱して体の勢いを利用し頭突きする。そして地面に激突したバイクは各パーツが破損しつつ滑走し、数人の不良を巻き込んで吹き飛ばした。

 

「おるぁあああカチコミじゃボケェエエ!!」

 

 火の中を跳び潜って大迫春樹が倉庫の中に進撃。

 勢い任せのカチコミは、すぐに多勢に無勢の大乱闘に発展した。

 

「おい大迫! 死人が出たらどうすんだ! もう少し丁寧にやれ丁寧に! そんで鶴岡も! バイクが誰かに直撃したらどうするつもりだったんだよ!?」

「あぁ!? めっちゃかっこよかっただろうが! なら別にいいだろ!」

「悪いが俺も大迫に一票だ! こういうのは勢いが大事なんだよ勢いが!」

「ンだよそれマジで怒るぞテメェらァ!! カッコよかったら許されるモノなんてこの世のどこにもねぇんだよッ!!」

「おっ! 今のなんか名言っぽい!」

「さすが壮月だぜ! その通り過ぎて何も言い返せねぇ!」

「なら二度とこんな真似すんな分かったかテメェらァッ!!」

 

 和泉壮月の怒号と共に繰り出される拳が雑魚不良数人を吹き飛ばす。

 

 騒然とする倉庫の中。その外で呆然と佇立する警察官は不良同士の抗争だと分かり急いで救急車と消防車を呼ぶ。その後方で停車した一台のバイクにはロバート・フレージャーと紅谷慶志郎が乗っていた。

 

「ありがとうロバート。それじゃあ中に入ろうか。あ、それと、あの警官たちは邪魔にならないよう、一応気絶させといて」

「…………」

 

 警官の肩に大きな手が置かれる。誰かと思って振り返ると、そこには外国人の巨漢。次の瞬間、その警官は意識を刈り取られた。そうして全滅した警官たちを背に、ロバートはリングから青い炎を灯す。雨の炎による鎮静効果で正面玄関の炎上を抑えたロバートは、紅谷と共に身を焼かれることなく倉庫の中に入り込んだ。

 

「お~やってるねぇ……さすが我が王だ。四方を囲まれていても常に突破口を作ってそこに走り込むことで袋叩きに遭わないよう工夫して戦っている。それもこれもスタミナが付いたからだね。常にすばしっこく動き回りながら戦うのは大変に疲れる。これはロバートとの修行が功を奏したと見るべきかな? 一撃で相手を昏倒させているのも実に効率的だ。どう思うロバート?」

「……ナイスファイト……」

 

 一人で既に数十人の雑魚不良を倒している和泉壮月だが、鶴岡甚太郎と大迫春樹も負けてはいない。頭突きに噛み付き、殴りに蹴り、体当たりにラリアット。角材や鉄パイプを拾って振り回し、縦横無尽に無双の限りを尽くしている。

 

 そうして雑魚不良を一掃した三人は、倉庫の奥で固まっている不良たちを目撃する。その輪の中心には顔中が腫れている稲尾郁久が立っていた。ファイティングポーズを崩さないが、タコ殴りにされて満身創痍。いつ倒れてもおかしくない様子だ。その足元には城谷利光が倒れている。どうやら今までリンチを受けていたようだ。

 

「ね、熱血……! まさか、壮月……助けに来たのか? 熱血だな……俺は嬉しいぞ……仲間を大切にする、それこそが男の中の男だ……」

「稲尾! 城谷! ……別に俺は、お前らのこと仲間だと思ったことはねぇけど……そこまでタコ殴りにする必要はあるのかとは思ってる。だから俺は“ネオ蜘蛛”を潰す! 脱退宣言、したんだろ? ならすぐにこっから逃げて、あとは俺らに任せろ!」

 

 稲尾郁久と城谷利光を取り囲んでいる雑魚不良を蹴散らした和泉壮月、鶴岡甚太郎、大迫春樹の三人は、血まみれの二人を守るように背中を合わせる。

 

「ぐっ……スマンな……だが脱退は、まだ済んでいないのだ……ヘッドに直接、言わなければ……俺は熱血的に筋は通す男だからな……奴に拳をお見舞いするまでは、退くに退けん……!」

「…………うぅ……くそっ……!」

 

 不意に城谷利光が起き上がる。てっきり気絶していたと思っていたが、どうやら死んだふりをしていたようだ。

 

「すまねぇ稲尾さん。俺……アンタが思ってるような男じゃねぇんだ……本当は狸寝入り決め込んじまうような男で────」

「うおお! 城谷! あの最強の一発を受けてまだ立ち上がれるのか! さすがだ! 俺はしばらく休ませてもらう……その間に後詰は任せたぞ!」

「いや俺の話を聞いて!? あんたポジティブが過ぎるって! 最強の一発って、あれただの雑魚の一発だから! それで気絶しちゃってたの!」

「なに!? 城谷ほどの男が一撃で倒れたパンチを雑魚とみなすのか! 強者は熱血的に謙虚と聞く! さすがだ城谷利光!」

「あぁなんで不良はマジでこんなに馬鹿なんだっ! まず俺が強いっていう誤解を無くしてくれ頼むからぁ!!」

 

 頭を抱える城谷利光。直後、倉庫の奥からゾロゾロと不良たちが出てきて顔が青ざめる。その数は倉庫の中にいた人数の倍程度あった。

 

「そういえば……ネオ蜘蛛の構成人数っていくつなんだ?」

 

 和泉壮月の疑問に、紅谷慶志郎が答える。

 

「今は急増中だから正確な数は割り出せないけど、少なくとも最近の時点では三百人は居たみたいだね。今は二百人に減ったけど」

「サンニン、デ……ヒャクニン……マァマァ、ダ……ベリーグッド……」

 

 倉庫の中に転がる百人の気絶者。その倍の数の二百人が現れて、和泉壮月たち三人は一歩足を引く。さすがに数が多い。残された体力を使い切ればなんとかなるかもしれないが、それでは“ネオ蜘蛛”のヘッドの所までは到底辿り着けない。

 

 その時、猫と鴉の鳴き声が倉庫の中に響き渡った。

 

「あ? なんだお前……ぐおっ!?」「あぁ!? どうした! ぷぎゃ!?」「へぶし!!」「ぶげら!?」「ごぼら!?」

 

 突如として不良集団の後方から次々と人が宙を舞う。その蹂躙劇には見覚えがあった。

 死屍累々の山を築く清廉なる女傑。

 

「月館真夜……!」

 

 それだけではない。二羽の鴉が倉庫の中を滑空し、麻痺毒が塗られた嘴でつついたり、翼で打ったり、鉤爪で引っ掻いたりする。バタバタと白い泡を吹いて倒れる不良集団。

 

「ヴィヴィアン……!」

 

 そして二百人は一息のうちに百人に減り、五十、十と……あっという間に殲滅は完了した。

 

「うそだろ……こんなの次元が違うじゃねぇか……」

「ヒュー! 壮月。お前とんでもねぇ女を仲間にしたのな!」

 

 驚愕する鶴岡甚太郎と大迫春樹。それは和泉壮月も同様だった。

 コツコツとヒールの音を立てて二人の少女が和泉壮月の前に歩いてくる。

 

「よっ! なんか紅谷って奴に呼ばれたから来たよ! これから“ネオ蜘蛛”を潰すんでしょ? 気が乗ったから遊びに来たよ」

「こちらも紅谷という人の要請で駆けつけに来た。報酬分の働きはするわ」

 

 和泉壮月を取り囲む鶴岡甚太郎、大迫春樹、城谷利光、稲尾郁久、月館真夜、ヴィヴィアン。

 その七人の顔ぶれを目にした紅谷慶志郎は、これこそが待ち望んだ展開だと歓喜に打ち震えた。

 

(不思議だ。彼らの戦いぶりを見ていると、それだけで誰がどの属性か想像つく。その理由は恐らく彼らが、か(・)の(・)イ(・)タ(・)リ(・)ア(・)ン(・)マ(・)フ(・)ィ(・)ア(・)の“使命”を無意識に体現しているからだ……)

 

 紅谷慶志郎はイタリアンマフィアの最大手たるボンゴレファミリーを思い出す。ボンゴレは死ぬ気の炎を使い始めた最初のマフィアと言われており、ボンゴレのボスと守護者が背負う使命は“大空の七属性の特徴と最適な役割を端的に表した標語”として、すべてのマフィアに知られている。故にボンゴレと同じ使命を掲げるマフィアは数多い。だがボンゴレに対抗意識を持つマフィアや、そもそもの組織運営が特殊なマフィアは、自分たちだけの使命を考え出すことも少なくない。

 

 その点で言えば紅谷慶志郎は、別にどちらでも良かった。我が王が立ち上げる組織がボンゴレの真似をしようと、独自性を出そうと、王者となればそれで良し。全ては我が王が決めること。そして我が王とその守護者がボンゴレに近いことが分かった今、紅谷慶志郎はボンゴレの使命をそのまま引用することに決めた。

 

「我が王とその守護者たち。君たちにリングを配ろう。城谷利光はこの緑のリングを。稲尾郁久には黄色のリングを。月館真夜には紫のリングを。ヴィヴィアンには藍色のリングを。どれも大切に持っていてくれたまえ。これは覚悟の証にして、“壮月ファミリー”の証なのだから」

 

 壮月ファミリー。その呼称を耳にした和泉壮月はギョッとする。

 

「は、はぁ!? おい、誰の名前を使ってファミリーだって!? やめてくれよ! 俺はそんなチームとか作るつもりねぇから!」

「まぁまぁそう言わずに我が王よ。今のは仮の名前だ。もっとイイ名前が思いついたら、それにしてもいいよ?」

「いやだから、チーム名とか考えないし! 要らねぇし!」

 

 稲尾郁久はとりあえずリングを嵌めてみる。次の瞬間、黄色い炎が灯った。

 

「うおおお!? なんだこれは!?」

「なっ! 俺らが灯せねぇ炎を一瞬で灯しやがったコイツ!」

「もしかして常に熱血だから、覚悟も常にあるってことなのか?」

 

 鶴岡は悔しそうに拳を握り締め、大迫は冷静に分析する。

 

「リングから炎って物騒だな……つか、俺もできれば今すぐ逃げたいんだけど……でもなぁ……」

 

 城谷利光にも男の意地というものがある。稲尾郁久と和泉壮月には助けられてばかりだ。否、稲尾郁久に関しては無理やり連れ回されたのだから、むしろ離れたくはあるのだが。ともあれ彼にも借りっぱなしは気分が良くないという思いがある。だからといって何ができる男でもない。しかし城谷利光は利口に考えた。

 

(“ネオ蜘蛛”にはヘッドを含めて七人の強敵がいる。俺たちもちょうど七人……俺が抜けたら、誰か一人が二対一を強いられる……そうなったら勝ち目が薄くなる……でも、もし俺が強敵の相手をして逃げ回れば……それだけ時間稼ぎにはなるはずだ。俺なんかじゃ勝ち目がなくて、逃げてもすぐに追いつかれてやられちまうのは承知している。けど……それで少しでも借りを返せるなら……俺は……!)

 

「っし! 俺がただの伊達男じゃないってことを見してやるぜ! あ、でもそこの女子に頼みたいことがあるんだ! どっちでもいいから、自分の敵を倒したら俺のこと助けに来てくれないかな? いや! 別に俺は一人でも倒せるんだけどな!? でもちょっとな! リンチされた時にその……ケガしちまってな!」

 

 城谷利光の呼び掛けを丸きり無視する月館真夜とヴィヴィアンはリングを装着。するとヴィヴィアンのリングに炎が灯った。

 

「死ぬ気の炎を灯すリングか。まさか暗殺稼業をやめて一千年……事ここに至って、再び裏社会の黒い武器に手を染める日が来るとはな……」

「あれ? なんでアタシには炎が灯らないんだろ。ねぇねぇあなた、それどうやったの? スイッチとかあるの?」

「スイッチなぞない。これは覚悟が炎を灯す武器だ」

「覚悟? 気持ちの強さで炎が出るの? へぇ……それじゃあ、今は不良どもの抗争に巻き込まれて少しむかっ腹が立ってるから……」

 

 ふと月館真夜のリングに雲の炎が灯る。

 

「おっ! 炎が灯った! リングって“ムカツキ”の気持ちで灯るのか!」

「……たぶん、それは貴様だけだと思うぞ……?」

 

 月館真夜の才能に呆れるヴィヴィアン。

 そこで紅谷慶志郎が警告する。

 

「情報では“ネオ蜘蛛”は、ヘッドを含めて七人の強敵が居るらしい。そして、ちょうど君たちも七人だ。こうなったら一人前の不良らしく、タイマンを張って倒すしかない。我が王とその守護者たち……その活躍を、僕らは楽しみにして見守っているよ……」

 

 

 

 しかして噂をすれば影がさす。騒ぎを聞きつけて倉庫の地下から出てきた七人のイカれたメンバー。それを城谷利光が怯えながら紹介する。

 

「ヒィ! あれは“ネオ蜘蛛”のヘッド! “虐鬼(ぎゃっき)”と恐れられる苫篠牙丞(とましの がじょう)……!」

 

 スキンヘッドに三白眼。見る者を震え上がらせる人相の悪さ。手にはギザギザのナイフを踊らせて、蛇のように長い舌を威嚇するように出している。

 彼こそは、かつて渋谷の地下組織“蜘蛛”を率いたヘッドにして、東京四天王の一人に数えられた男。彼に潰された組織は数知れず。悪逆非道・残虐無道の悪名で知れ渡る鬼のような男。だがそんな彼も悪鬼羅刹(あっきらせつ)が蔓延(はびこ)る東京魔境では夢破れ、今では自らの組織を潰した男への復讐の為には如何なる手段をも選ばない不良(ギャング)となっている。

 

「アァ……? そうか……テメェらが例の楯突く不良どもか……とんだひよっこがライオンにケンカを売っちまったみてぇで、見てて可哀想になるなぁ……! えぇ……!? 雑魚を蹴散らしたくらいで調子に乗ってんじゃねぇぞォ!? 殺れ……殺っちまえ! 俺のかわいこちゃんども!」

 

「わ、わわ……! 苫篠の命令で出てきた、あいつは……! “ネオ蜘蛛”の副ヘッド! “躍獅(やくし)”千良荒生(ちら あらお)……!」

 

 獅子のような金髪を靡かせるチャラい男。額に光るグラサン。腕には焼き付いたような赤黒い刺繍。

 彼こそは残虐集団“ネオ蜘蛛”の若き荒獅子。加えてラッパーでもある。

 

「俺のラップに追いつけるかな!? おまえはおれにイテ殺される!」

 

「そして、あの人は……“ネオ蜘蛛”の参謀! “飢えたハイエナ”仙野弘毅(せんの こうき)!」

 

 金髪に赤いサングラスを掛けた伊達男。情報収集と破壊工作を得意とするが、自らが理想とする仕事は一騎当千。英雄の如し活躍を夢見る男。

 

「手段と目的が入れ替わって、ただのハイエナに成り下がったと気付く瞬間ほど人生で怖いものはねぇ……俺は“ネオ蜘蛛”でテメェの人生を張り直す。今度こそ東京制覇っつーデッケー夢を成し遂げて、デッケー男になるために……俺は一肌脱ぐことにしたぜ……」

 

「うひゃあ! そんで“ネオ蜘蛛”の切込隊長! “辻殴”の葛島丈太郎(かづらしま じょうたろう)かよ!」

 

 白髪白目。上半身に二頭の青龍を彫った巨漢。彼はかつて脚光を浴びし元ボクサー。八百長試合を無視したことで上役の傘下から報復を受け、所属事務所を潰された。誰もが汚い商売を生業とする裏社会とつながった事務所に入っていたのが悪いと口々に言い、一人たりとも同情してくれない。それもこれも全員ビビってるからだ。裏の暗黒に。血濡れた拳に。世界の不条理さが身にしみた男は、今や幽鬼のように彷徨い、目にしたもの全てにケンカを吹っかける有り様まで堕ちてしまった。そこを苫篠牙丞にスカウトされて“ネオ蜘蛛”に入った葛島丈太郎だが、彼の胸の内で燻る黒い炎は日増しに燃え上がるばかり。

 

「で? 誰がおれと殺るんだコラァ……おれぁな、ただ殴れればそれでいいんだよ……どいつでもいいから掛かってこいやぁ!」

 

「うひぃ!? ……あ! あの人は“ネオ蜘蛛”の用心棒! “捕縛”の名で知られる宮沢隆介(みやざわ りゅうすけ)!」

 

 薄紫色に染めた髪。深い青色のサングラスと唇の下に付けた真珠のピアス、あごひげに高値のコートがダンディさを醸し出す。彼こそはギャングチームの用心棒を生業とする男。ただの不良のお守りじゃつまらないと笑う男。元プロ格闘家。不良界の暴力沙汰に巻き込まれたことで、格闘界から永久追放を受けた。それを恨みに思うことはなく、新世界で生きていく覚悟を決める。弱者に興味はなく、素人が相手ならば見逃す事が多々ある。能ある鷹は爪を隠すを体現する男。事実、喧嘩の腕はめっぽう強いことで知られている。

 

「さぁて。上玉とやりてぇもんだがよ……どいつが一番、強いのかな……?」

 

「こ、怖い……! 怖さがないのが逆に怖い……! ──あっ! あいつは“ネオ蜘蛛”の鉄砲玉! “凶攻”と呼ばれる浦島達郎(うらしまたつろう)!」

 

 茶髪黒目の茶色いコート。ともかく茶色を愛する男。かつては武闘派チーム“アウトレイジ”の構成員。手段を選ばずとにかく喧嘩で勝つことにこだわる。道端に転がるものは全て武器とみなし、敵対者は予想外の奇襲を受け続ける。

 

「敗者に口無しってなぁ! 負けが決まった喧嘩ほどつまらねぇものはねぇ! ガキどもは帰りな! こっからは大人の地獄が始まる時間だぜぇ!!」

 

「ひぃいい! 最後に、あいつは……! “ネオ蜘蛛”の雇われ護衛! “傭銭”間宮郷治郎(まみや ごうじろう)!」

 

 赤髪緑眼。血まみれの包帯を頭に巻いた半裸の男。顔の左側と両肩に龍の刺繍を入れた筋骨隆々の厳つい巨漢は、喧嘩には不向きであろうサンダルを履いている。

 彼こそは不良界の傭兵を生業とする者。戦闘より交渉や情報収集に優れているが、だからと言って喧嘩が弱い訳ではない。常に不機嫌そうな顔つきは、護衛代金の払いが悪いからではないかと噂されている。実際、彼は常に高額で雇われる。そして雇われたチームを勝利に導くと言われている。かの“アウトレイジ”も雇い入れようと画策していたと言われており、傭兵としての腕は関東最強とさえ伝わっている。

 

「俺ぁはした金じゃ動かねぇぞ……金さえ貰えりゃなんでもやる……東京がどうこうは興味ねぇが、きちんと報酬さえ支払ってもらえれば、この拳はどんな敵でも砕いてやるぜ……」

 

 苫篠牙丞は倉庫の奥にある玉座のような椅子にどかっと腰を下ろして鎮座する。その指には赤い宝石のリングが光っており、玉座の背後には大きな匣が置かれていた。そして六人の幹部は“ヘッドの所に行かせない”とでも言うように腕を組んで横に並び壁を作る。

 

「壮月! お前はヘッドとタイマン張るために体を休ませとけ! 六人の幹部は俺たちが倒すッ!」

「鶴岡!」

「そういうことだぜ壮月。なんだかんだ言って、俺もお前の喧嘩に相乗りしてるだけだからよ。一番美味しい所はテメェにくれてやるぜ!」

「大迫!」

「えっと、壮月だっけ? お、俺も戦うぜ! たぶんアンタの目を見るからに、俺の実力はバレてるだろうが……それでも恩を返したい! この前のメイド喫茶で、アンタはマジで助けに来てくれた! その恩を返さないうちは、俺はビビってもいられねぇよっ!」

「城谷……!」

「熱血的にそういうことだ壮月! 俺も戦うぞ! なんだか黄色い炎に当たっていると体が回復してきたのだ! 今ならどんな障害も跳ね除けて、お前をあの玉座に送り届けることができる! 頼むぞ、我らがリーダー! ファイト・オー! 壮月ファミリー!!」

「稲尾……って、別に俺リーダーとかじゃねぇから! そのファミリーってのもやめろ! 俺は一般人なのっ! 頼むから不良の世界に巻き込まないでくれ!」

「こんなところに居て何を言ってんだか。でも気持ちは分かるよ? アタシも平凡な日々を過ごしたいだけなのに、なんでか不良に絡まれるからねー。だから、もし本当に不良の世界が嫌いなら、そ(・)の(・)世(・)界(・)を(・)潰(・)せ(・)る(・)く(・)ら(・)い(・)強(・)く(・)な(・)ら(・)な(・)く(・)ち(・)ゃ(・)……弱い奴は文句を言う資格もない世界だからねー」

「月館……」

「優しくない世界というのは意外と身近に存在するものだ。故に我らは闘う。私の場合は、この鴉たちと……」

「ヴィヴィアン……」

 

 “嵐の守護者”鶴岡甚太郎と、“躍獅”千良荒生がガンを飛ばして視線に火花が散る。

 “雨の守護者”大迫春樹と、“飢えたハイエナ”仙野弘毅が睨み合う。

 “雷の守護者”城谷利光は、誰とも視線が合わず慌てる。「あれ? もしかして俺って眼中にない?」

 “晴の守護者”稲尾郁久は、“辻殴”葛島丈太郎と視線を合わせてボクシングスタイルを構える。

 “雲の守護者”月館真夜は、“傭銭”間宮郷治郎と目が合ってフットワークを軽くする。

 “霧の守護者”ヴィヴィアンは、“凶攻”浦島達郎と視線が合って間合いをはかる。

 

 そして“大空のボス”和泉壮月は、不意に“捕縛”宮沢隆介に見つめられている事に気が付いた。

 

 次の瞬間、炸裂弾と猿叫(えんきょう)によって、戦いの火蓋が切って落とされた。

 城谷利光を背後から奇襲した“炸裂弾”華田宏之と、鶴岡甚太郎に凶器の鉄パイプを振り下ろした“無法者”真柴隼人。

 

「おるぁああ爆発じゃああ!」

「うわぁああ!? な、なんで“ネオ蜘蛛”の鉄砲玉! “炸裂弾”の華田宏之(はなだ ひろゆき)がここに!? 入院してたんじゃ!? それにそっちも! 同じく鉄砲玉の“無法者”真柴隼人(ましば はやと)が!? お前も入院してたはずだろ!」

「うるせぇ逆襲だ! 俺ぁ“手段を選ばぬ勝利”を追求させたら東京随一の男と言われてる奴だぜぇ!? 闇討ち不意打ちは言うに及ばず、あらゆる手段で勝利をもぎ取る! 周りはそれを見て“仁義”がどうたら“誇り”がどうたらと抜かすが、俺にとっては知ったこっちゃねぇことだなァ!」

「────ア゛ァ゛ァ゛ン゛!!?」

 

 突然ブチ切れた鶴岡甚太郎の怒号が倉庫を震撼させる。その威圧に一瞬ブルった真柴隼人は、冷や汗を流して向けられる殺気を受け止める。

 

「おい……テメェには“誇り”がねぇのか?」

「あぁん? だからなんだよ。まさか正々堂々やれだとか説教を垂れる気か? おいおい何様だよ! 神様でも仏様でもねぇ一介の不良でしかねぇテメェが、この俺に説教できる立場なのかよ! あぁ!?」

「……別に説教なんかしねぇよ。ただテメェだけは叩き潰す。俺だって不良の中にも仁義があるだとか、そういう綺麗事は聞き飽きた。俺はただ、人(・)と(・)し(・)て(・)終(・)わ(・)っ(・)て(・)る(・)奴(・)を(・)ブ(・)チ(・)殺(・)す(・)……それだけだ、この腐れ外道ガァ……ッ!!」

 

 鶴岡甚太郎と真柴隼人の殴り合い。それを後方から見守る千良荒生は後詰のつもりだろうか。

 

「ひぃいい! その爆竹やめてぇえ!」

「爆竹じゃねぇ炸裂弾だ! あんなおもちゃと一緒にすんなボケェ!」

「どっちも危ないのは一緒だろ! うわわ! 投げてくるなぁ……!!」

「ハッハァ~!」

 

 逃げ回る城谷利光と炸裂弾をばら撒く華田宏之。倉庫に爆音が鳴り響く。

 

「……で、アンタが俺の相手ってわけか」

「そうなるな。まぁ雇われた時から分かっちゃいたことだが、どうやら“ネオ蜘蛛(このチーム)”は“正々堂々の対極”に位置する連中のようだ。しかし俺は客を選ばねぇ。恨むなら弱い自分を恨むんだな」

「そうか。でもよ……あまり自分を恨んでもいいことねぇぜ? おっさん」

「────へぇ。言うじゃねぇか。坊主……」

 

 和泉壮月と“捕縛”の達人こと宮沢隆介が対峙する。

 

 かくして次なる上位の戦いは幕を上げた。

 月は駆け、嵐は吼え、雨は殴り、雷は泣き、晴は蹴り、雲は飽き、霧は啼く。

 

          †

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。