※この作品はR-18です。

アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO!   作:形のない者

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【不良王の卵】壮月ファミリーvsネオ蜘蛛〔セブンバウト〕

 

 和泉壮月VS宮沢隆介。なるべく体力を温存しておきたい和泉壮月は初手から技を使っていく。

 

(《和泉流護身術・決死打開(けっしだかい)》ッ!!)

 

 それはプロの格闘家である宮沢隆介にとって、ただのやぶれかぶれの体当たりにしか見えなかった。

 

「よっと!」

「なっ!?」

 

 殴り込んだ拳が手のひらの返しで受け流される。その技で悟る。宮沢隆介は柔術の達人であると。投げられて浮かされた和泉壮月の体に、宮沢隆介の蛇のような腕がしなって忍び寄る。それに絡め取られたが最後、極められる。反射的に暴れて手足を掴ませなかった和泉壮月は着地が間に合わず背中をぶつけ、慌てて距離を取る。

 

「くっ!」

「いいねぇ。危険感知のセンスはそこそこってトコか。だがなぁ……ひとつ言わせてもらっていいか? 今のお前さんの攻撃。若干の手加減があった。護身術の流用か? だとしたらアレンジの仕方が荒すぎる。お前のそれは要するに人間タックルだ。そりゃあ人の全体重を乗せた一撃は相当な破壊力を持つ。助走込みなら殊更にヤベェ威力になるだろう。しかしだなぁ……」

「っ────なにブツブツ言ってんだよ……」

 

 宮沢隆介はサングラスの位置を直して下向きに指をさす。

 

「テメェらは喧嘩にゃ慣れてるのかもしれねぇが、格闘技術に関しちゃ素人も同然だって言ってんだ。お前は本物(リアル)を知らねぇ。痛い目に遭いたくなかったら降参しといた方が身の為だぜ? ……って、そんなこと言って聞くような奴が不良やってるわけなかったな!」

「……俺は不良じゃねぇ」

「ほう? なら利口に引き下がるか?」

「……いいや。やっぱりもう不良だとかどうだとかはどうでもいい」

「……?」

「アンタは雇われたんだったな。俺は“ネオ蜘蛛”を潰すつもりだ。アンタの方こそ、巻き込まれたくなかったら今のうちに退散しといた方が身の為だぜ?」

 

 和泉壮月は構えを変える。

 

(────柔術が相手なら、手玉に取られた瞬間、体の自由が殺される。プロとなれば当然、素人に逃れる術はない。だから勝負は一瞬。一撃で決着する。それ以外に、俺の勝利は有り得ない)

 

「……なんだ? 今度はボクサーの真似事か?」

「……今から見る技がボクサーのそれだと思うなら、それはちょっと夢見すぎだぜ。本物のボクサーは、も(・)っ(・)と(・)切(・)れ(・)味(・)が(・)大(・)人(・)し(・)い(・)」

 

 和泉壮月は“タタン、タタン”と地を蹴り叩き身を浮かせ、軽快なフットワークで吐息を切る。

 

(────《拳王流喧嘩術・切穿拳(せつがけん)》────)

 

 それは敵の動線を切るナイフのような切れ味を放つフック攻撃。

 

「────ッ!?」

 

 突然の豹変。なまくら刀が鋭利な刃物に化けて襲撃する。それに驚いたような顔を見せつつ、身を引いて完全回避した宮沢隆介だが、長年の経験から瞬時に“罠だ”と直観して血の気が引く。だが時すでに遅し。

 

 ナイフのようなフックの直後、敵との距離を縮める一歩を踏み込んだ和泉壮月により繰り出される二段構えの拳打。それは敵の精神を穿つドリルのような激痛力のアッパーとなって、宮沢隆介の下顎を容赦なく打ち上げた。

 

「ガハッ……!?」

 

 最初のナイフは囮だった。かつ迂闊な反撃を制するような攻撃となっていた。つまり切り穿つ拳とは、まず敵の動線を切るナイフのような切れ味のフックを放った後、ナイフにビビって後退した相手に“必中の追撃”を仕掛ける奥(・)義(・)だったのだ。

 奥義とは即ち技の流れ。型にハマれば炸裂するからこそ絶大な威力を発揮する。故に切穿拳は、またの名をフックアッパーと言う。

 思えば和泉壮月の拳は確かに鋭かったが、本当にナイフのような切れ味があったかと言われれば無いに等しい。だが気迫は本物(リアル)だった。まるで何(・)回(・)も(・)見(・)た(・)こ(・)と(・)が(・)あ(・)る(・)ように、何度も何度もそ(・)の(・)身(・)に(・)味(・)わ(・)っ(・)て(・)経(・)験(・)し(・)た(・)こ(・)と(・)が(・)あ(・)る(・)ように。それに宮沢隆介は一瞬でも気圧されてしまった。

 

「バカ……な……」

 

 激しい脳震盪を起こした宮沢隆介は、おぼつかない足取りで大の字となるように倒れた。

 

「──フシュ~……。初見殺しの技ですまねぇ。でもここで割りを食ってる暇はねぇんだ。アンタはマジで強い。もし舐めてこなかったら絶対に負けてたと思う」

 

 対(・)強(・)敵(・)の為だけに修得した“格上殺しの技”は、和泉壮月が思い描いた戦術の通りに炸裂した。

 その勇姿を目の当たりにしたロバート・フレージャーは、腕を組みながら静かに頷く。

 

 かくして“王の器”たる和泉壮月は、“捕縛者”宮沢隆介に先手必勝で打ち勝った。

 

          †

 

 鶴岡甚太郎VS真柴隼人。

 

 互いの拳が互いの頬を打ち、たたらを踏んだ両者は息を切らす。

 

「ハァ、ハァ……誇り……誇りねぇ。俺に誇り? ンなもんねぇなぁ!!」

 

 誇りとは何かを考える鶴岡甚太郎に対して、中指を立てた真柴隼人が煽り立てる。

 

「じゃあなんだ。テメェには誇りがあるのか? そりゃ喰えるものなのかよ、オイ! 言ってみろ!」

 

 地面に血混じりの唾を吐いた鶴岡甚太郎は視線を落として考える。

 

「俺の誇り────それはまだよくわからねぇ」

「あぁ!? ふざけてんのかテメェ!」

「……わからねぇもんは、まだわからねぇ。けど、それが大事なもんだってのは知ってる」

 

 誇りとは何か。要するに大事なもの。では今の鶴岡甚太郎にとって大切なものとは何か。

 

「少なくとも今の俺は────壮月と肩を並べて、少しはでっかくなれたんじゃねぇかと思ってる」

 

 鶴岡甚太郎のリングが鳴動する。

 

「気のせいかもしれねぇけど……あいつと一緒にいれば、俺の“誇り”が見つかる気がする。だからこんなところで、俺は負けていられねぇ!!」

 

 和泉壮月を守る。送り届ける。誇りだなんだと考える前に、友として男としてやるべきことをやる。その強い思いが“覚悟”だったのか、鶴岡甚太郎のリングから赤い炎が燃え上がった。

 

「雑魚に用はねぇ!」

 

 それは力任せのぶちかまし。嵐の炎が揺らめく拳を敵の顔面に叩き込んだ瞬間、真柴隼人の鼻っ柱の皮膚が剥がれ落ち、その体は吹き飛ばされた。

 

「ガハッ!? ────…………」

 

 一発KO。地面を転がって背中と頭を強打した真柴隼人は意識を失う。

 次の瞬間、“若獅子”が躍動した。いつの間に鶴岡甚太郎の眼前に飛び掛っていたのか、強烈な飛び蹴りが入る。それを両腕でガードした鶴岡だが、空中で身を翻した後ろ蹴りが胴体にヒット。「グフッ!?」苦悶の顔を浮かべた鶴岡だが、その脚を掴んで一本背負い。「なに!?」千良荒生は地面に叩きつけられた。

 

「がヴぁハッ!?」

 

 千良荒生の折れた前歯が跳ねて鼻っ柱がへし折られる。だが“若獅子”の戦意は、この程度では折られない。地面に両手をついてブレイクダンスのように身を旋回すると、強烈な廻し蹴りを何度も何度も鶴岡甚太郎に打ち込んだ。「ぐっ……!?」鋭い靴の先端が額を切り、早業の打撃が繰り返される。まさに怒涛の攻撃。

 

「オラオラァ!」

「クソッ……!」

 

 千良荒生の嵐のような連続攻撃に、鶴岡甚太郎は手出しできない。

 その様子を静かに見守る紅谷慶志郎は呟いた。

 

「今こそ修行の成果を見せる時じゃないのかな? 嵐の守護者よ……」

 

 鶴岡甚太郎は手出しできないのではない。なんとか堪えていたのだ。攻撃の雨に晒されて溜めに溜めた怒りの爆発。突として怒号を張り上げた鶴岡甚太郎は全ての蹴りを拳で打ち返した。千良荒生には靴という防具がある。対する鶴岡甚太郎は素手。鋭い蹴りに皮膚が切られて出血する。それでも猛々しく滅多打ちを繰り返す。

 

 鶴岡甚太郎はロバート・フレージャーとスパーリングしている間、常に攻撃をやめなかった。防御に回る場面でも攻撃する。それは反撃と呼べるような代物ではなく、カウンターと呼べる技でもない。ただひたすら攻撃を繰り返して、自他を徐々に追い詰める。それは根比べと呼んだ方が正しい。

 

 さぁ拳が壊れるのが先か、足が壊れるのが先か。大口を開けて雄叫びを上げながら拳を振るう鶴岡甚太郎。対する千良荒生は苦い顔を浮かべて蹴りを中断。身を翻して着地。立ち上がろうとしたが足首がぐらりとふらついて膝をつく。その隙を逃さず鶴岡は畳み掛けた。「チックショウ……!」千良荒生の無念が口を衝いて出る。「オオォラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァ────!!」

 

「……それは荒々しく吹き荒れる疾風(はやて)。常に攻撃の核となり、休むことのない怒涛の嵐……」

 

 一陣の風のごとく奮われる猛烈な拳は、もはや止まることを知らず。滅多痛打の乱れ打ちは敵の顔と体を破壊し、最後にラッシュのトドメを決める。それはロバート・フレージャーから受(・)け(・)て(・)覚(・)え(・)た(・)アッパー攻撃。

 

 鶴岡甚太郎の連続攻撃に嫌気がさしたロバートは、いつも必ず死角からの顎打ち(アッパー)で意識を刈り取り気絶させる。そのアッパーは躱そうと思って躱せるものではない。次元の違う早業だ。しかし想定より早く来ると分かっていれば、あらかじめ拳を打ち上げておくことで相(・)打(・)ち(・)には持っていける。それでもスパーリングでは、鶴岡甚太郎のアッパーは掠りもせず完全回避され、ロバートのアッパーだけが鶴岡に完全命中した。それを一日中繰り返した所為だろうか。鶴岡甚太郎は癖になっていた。

 連(・)続(・)攻(・)撃(・)の(・)最(・)後(・)は(・)ア(・)ッ(・)パ(・)ー(・)で(・)決(・)め(・)る(・)と。

 

 全身打撲だらけの千良荒生は顎を打ち抜かれて宙を舞い、糸の切れた人形のように背中から地面に激突する。

 

「────ッシャアアアア!!」

 

 鶴岡甚太郎の勝利の雄叫びが倉庫に響く。

 かくして嵐のような“壮月の守護者”は、かの“若獅子”に攻撃力で打ち勝った。

 

          †

 

 城谷利光VS華田宏之。

 

「うぉらうぉらうぉらぁ!」

「ギャアアアアア!」

 

 炸裂弾の男に追われる城谷利光は泣きながら逃げ回る。すると知らないうちに“大迫春樹VS仙野弘毅”の戦いに割って入ってしまい、大迫により振るわれた釘バットを絶叫回避。

 

「ギャアあぶねぇ!?」

『!?』

 

 乱入のせいで大迫に向くはずだった仙野弘毅の拳が城谷利光に向かうが、釘バットを回避する際に転んだおかげで当たらなかった。そして空振りに終わったはずの釘バットが偶然、華田宏之の顔面に激突。

 

「ぶげら!?」

『?!?』

 

 釘バットの一撃が急所に入り昏倒した華田宏之。その両手から着火済みの炸裂弾が転がり、腰に提げた炸裂弾入りの袋に近付いて爆発。「あっ……」死を悟った城谷利光は、一秒後の“誘爆”を見届けた。鼓膜が張り裂けるような轟音。全身が焼けるような火花、否、ドデカイ花火。その中で城谷利光は人生最後の悲鳴を上げて頭を抱えながら屈み込む。────だが、不思議と意識は続いていた。爆音もすぐに鳴り止み、焦げ付いた臭いが鼻につく。

 

「へへっ……炎なのに鎮火できるとか、死ぬ気の炎ってなマジでどうなってんだ?」

「……え?」

 

 大迫春樹のリングに青い炎が灯る。それは釘バットに燃え移っているが、釘バットを焼いているような感じはなく、むしろ釘バットに威圧感を与えている。どうやら誘爆の瞬間、大迫春樹は雨の炎を纏った釘バットを振るうことで、全ての炸裂弾を沈静化させたらしい。しかし死ぬ気の炎の概念を知らない城谷利光は、まさに夢を見ているような心地で大迫春樹を見上げていた。

 

「死(・)を(・)覚(・)悟(・)したらリングに炎が灯った……“覚悟”ってつまりそういうことなのか? あれ、でも城谷利光(おまえ)のリングは灯ってねぇな? お前も死を覚悟したからあんなに叫んだんだろ? ってことは……どういうことだ?」

 

 実は城谷利光には希望的観測があった。炸裂弾の大量誘爆とは言え、さすがに花(・)火(・)は言いすぎだった。実際は全身やけどくらいで、助かる見込みはまぁあるだろうと、若干の楽観的な認識があった。激痛に襲われるのは変わらないが、さすがに“死ぬ”とまでは本気で思っていなかった。

 

 しかし大迫春樹は違った。彼は真の意味で“死ぬ”と思った。その時、城谷利光のように怯えて悲鳴を上げるのではなく、ど(・)う(・)す(・)れ(・)ば(・)命(・)を(・)拾(・)え(・)る(・)の(・)か(・)を考えて閃光のように行動に移した。その死(・)ぬ(・)気(・)の(・)行(・)動(・)が、リングに炎を灯したのだろう。

 

 もし覚悟とは何かを問われるなら、それは“どんな絶望にも臆さず腐らず立ち向かう勇気”であると、城谷利光は思った。気高く仁王立つ大迫春樹を見つめて────そんなことを考える。

 

 そしてふと気付けば、周りには華田宏之と仙野弘毅が倒れていた。どうやら大迫春樹は、炸裂弾入りの袋を釘バットで叩いて誘爆を沈静化した直後、おそらく考(・)え(・)る(・)よ(・)り(・)先(・)に(・)体(・)が(・)動(・)い(・)て(・)戦闘を続行。誘爆にビビって棒立ちしていた仙野弘毅の頭を打ち据えたのだろう。

 

 その様子を見守っていた紅谷慶志郎は静かに呟く。

 

「それは……激しい一撃を秘めた雷電。ファミリーへのダメージを一手に引き受け、消し去る避雷針……

 そして……全てを洗い流す恵みの村雨……戦いを精算し、流れた血を洗い流す鎮魂歌(レクイエム)の雨……」

 

 城谷利光が、華田宏之と仙野弘毅の攻撃(ヘイト)を引き受けたおかげで、大迫春樹は一瞬のうちに二人を片付けることができた。

 

 かくして雷雨のような“二人の守護者”は、かの“炸裂弾”と“飢えたハイエナ”に、運と覚悟の差で打ち勝った。

 

          †

 

 稲尾郁久VS葛島丈太郎。

 

 両者、獣のごとし格闘を続け、不意に稲尾郁久が問い掛ける。

 

「お前……まさか元ボクサーの葛島丈太郎か!?」

「チッ……どいつもこいつも“元ボクサーの葛島”だって……うるっせぇんだよ! そういう奴から殴るようにしてんだ俺はよぉ……その呼び方がどんだけムカつくのか……わかってんのかコルァ! イわずぞテメェ!!」

 

 激高した葛島丈太郎の猛撃。

 対する稲尾郁久は、無意識に晴の炎を灯して肉体の治癒を促進。攻撃に耐える。

 

「ぐっ……! お前さん、うわさでは八百長試合に逆らった結果、極道に事務所が潰されたって話じゃねぇか……」

「それがどうしたゴルァ!! あんなチンケな試合を思い出させるんじゃねぇ!」

「……! それで荒れているのか……脚光を浴びていた頃はあんなに熱血だったのに……今じゃ見る影もないのう!」

「ケンカ売ってんのかテメェはよォッ!!」

 

 稲尾郁久は喧嘩術から一転、ボクシングスタイルの戦闘術に変化。互いの頬にパンチが決まる。

 

「ぐっ……!」

「思い出せ葛島ァ! お前さんはこんなところでくたばっていいタマじゃない! アマチュアのアンタがプロを倒していく痛快さに、俺も、ファンも、見とれていたんじゃ! それがこのザマか! 極道さえ倒せんで何がボクサーじゃ姦しい!」

「ヅッ……テメェ馬鹿なのか? 何を言ってんのか分かんねぇよ!!」

「貴様の現状を言ってんじゃ! 八百長試合の台本無視までは漢じゃ。熱血だ! だがそのあとはどうだ!? 極道に事務所を潰されるままに潰され、行くあてもなく流れるように流れ、さまようようにさまよい、今や不良(ガキ)の集まりに顔を出して番長ヅラかワレェ! 漢なら立ち止まらず突き進めや!」

「人の気も知らねぇで喧嘩中にぺちゃくちゃ喋りやがる!」

「テメェの事情なんぞ誰も知ったこっちゃねぇんだ! だから漢は背中で語るんじゃろがい!」

「────!」

 

 稲尾郁久のまっすぐな拳がはじめて、葛島丈太郎の鼻っ柱にクリーンヒットする。

 しかし葛島丈太郎の脚力が強く、引き締まった筋肉が後退(ノックバック)を防ぐ。全身で顔面の拳を受けきった葛島丈太郎は、前が見えない状態で豪腕を奮った。

 

「……ぐおあ!?」

 

 元ボクサーの意地が現れたのだろうか。胴体を突かれた稲尾郁久は咳き込んでたたらを踏む。

 

「……こんの、時代遅れの熱血漢が……」

「────あ?」

「聞こえなかったか? 時代は流れてんだよ。もう昔のように腕っ節ひとつじゃ世界は変えられねぇ時代なんだ。ガキがナマ言ってんじゃねぇぞォッ!!」

 

 葛島丈太郎の礼儀正しい拳が奮われる。

 対する稲尾郁久は、それを大きな手のひらで受け止め(キャッチし)た。

 

「なにっ────!?」

「……。…………時代遅れの熱血漢で、何が悪いんじゃ……時代は流れてるじゃと……? ならお前さんはもし、自殺が流行したら自殺するんか? 空気読んで他人に、何かに流されてばっかりいたら、大切なモンを見失っちまうんだぜ! だから俺は胸を張って我(・)が(・)道(・)を歩いて行く! それが俺の────不良道(ギャングロード)じゃあ!」

「────っッ!!?」

 

 稲尾郁久の頭突きが痛快な音を立てて炸裂する。

 それは葛島丈太郎の頭にぶちかまされて、体は大きく吹き飛んだ。

 

「ぐはっ……!?」

「漢、稲尾郁久! 熱血こそ我が道と信じて突き進む! 疑うなら俺の背中を見てみやがれェッ!」

 

 稲尾郁久は上着を脱いで振り返る。ドンと構えて仁王立つ彼の背中には、大きく三文字。“不良道”という黒字と燃え上がるような金色の炎が彫られていた。

 

「腑抜けた男に俺は殺せん! おとといならぬ引退前に来やがれ! “もうボクサーにはなれない”葛島丈太郎ォッ!!」

「────っ!! テメェ……マジで……絵に書いたような昭和で……クソが……本気で……ブチ殺すッ!!」

 

 破顔した葛島丈太郎の鉄拳。頬を見せて受けた稲尾郁久は足を踏んじまって耐え抜き、再び頭突きで反撃する。

 

「まだまだぁ! テメェにゃ拳じゃ生ぬるいわ! 拳と拳で語り合いたいなら、もっと黄金の炎を燃やせやぁああ!」

「上等だゴルァアア!!」

 

 両者ボクシングスタイルで格闘する。刹那、近場で花火のような閃光が煌めいた。一瞬のまぶしさ。炸裂弾の爆音。強烈な光に当てられた葛島丈太郎は殴る直前、無意識に片目が閉じる。「!」その間隙を好機と捉えた稲尾郁久はグッと身を屈めて、相手の腕を縫うように完璧なクロスカウンターを決めた。

 

「ガッ……!?」

 

 両膝から崩れ落ちた葛島丈太郎は、その場でがくりとうなだれる。動く気配はなく、完全に気を失っていた。

 

「ハァ、ハァ……わしの勝ちじゃああああああ!」

 

 我が道を行くあまり、故郷の訛りが不意に戻ったり、現代の標準語を思い出したりする稲尾郁久は、ともかく自らの言葉で勝ちを拾った。

 

 それを見守っていた紅谷慶志郎が呟く。

 

「……明るく大空を照らす日輪……ファミリーを襲う逆境を自らの肉体で砕く天晴れな光……」

 

 かくして日輪のような“我道の守護者”は、かの“辻殴”葛島丈太郎に男前度(ダンディさ)で打ち勝った。

 

          †

 

 月館真夜VS間宮郷治郎。

 

 それは天賦の才を持つ女が、関東最強の男に、どこまで通じるのか。といった勝負になるはずだった。

 

「ほい」

 

 月館真夜のパンチが間宮郷治郎の胴体に入る。直後、雲の炎が揺らめいて二撃四撃九撃と、月館真夜の拳を模した炎が連撃を決めた。

 

「っ……! 《光速ショット》ォ!!」

 

 目にもとまらぬ早業。それを勘だけで躱されても戸惑うことは二度とない。

 

「女だからって手加減はしねぇぜ。“最強の傭兵”の肩書きを舐めるなよ! 《ソルジャーブランド》ッ!!」

 

 破壊力抜群の一撃が迫る。それを頬に掠らせて前進した月館真夜の飛び蹴りが股間に激突した。

 

「あぐっ……!?」

「悪いけど、アタシはまともに相手する気ないんだ。だってあなた“雇われ”でしょ? アタシに絡んできた“ネオ蜘蛛”に心から従っているわけじゃない。関係ない奴を殴っても仕方ないからね。それにあなたがスゴイのは“傭兵としての腕”……つまり処世術でしょ? まぁ実力は“ネオ蜘蛛”の中では上位の部類だとは思うけど……それだけだよね」

「…………ッ!!」

 

 股間を押さえて悶絶する間宮郷治郎は、整った顔立ちから一変、闇を感じさせるしかめっ面に変貌する。

 

「あなた、お金さえ払ってもらえばそれでいいんでしょ? なら今度はアタシが雇うからさ。アタシに付きまとう不良どもを一掃してよ」

「……なん、だと……?」

「それでこそ“最強の傭兵”じゃないの? もしつまらないプライドを見せて殴りかかってこようもんなら────ここで壊しちゃうよ?」

「────」

 

 間宮郷治郎は裡に昂ぶった怒りを抑え────否、鎮められた。

 月館真夜の実力は本物だ。彼女が“壊す”と言ったら、それは文字通りの再起不能(リタイア)を意味する。

 

 男の矜持。不良としてのプライド。人生。傭兵の極意。傭兵としての立ち回り。

 あらゆる現実と理想を飲み下して可決した間宮郷治郎は、まさに大(・)人(・)し(・)く(・)敗北を受け入れた。

 

「……俺は、はした金じゃ動かねぇぞ……」

「アタシ結構いいとこの家だからさ。お小遣いだけでも、きっと驚くと思うよ?」

 

 月館真夜はあくびをしつつ、容赦ないトドメの一撃を首筋に蹴り込む。

 一撃で昏倒した間宮郷治郎は地に伏せる。彼は強い。だが相手が悪かった。上には上がある。極まれに次元違いも世には紛れている。これはただそれだけの勝敗。否、勝敗と呼ぶにはあまりにも呆気ない────ただの猫たちのじゃれあいと言えた。

 

 それを見ていた紅谷慶志郎は静かに呟く。

 

「……何ものにもとらわれることなく、独自の立場からファミリーを守護する孤高の浮き雲……」

 

 かくして浮雲のような“孤高の守護者”は、“傭銭”間宮郷治郎を雇い入れることでケンカを収めた。

 

          †

 

 ヴィヴィアンVS浦島達郎。

 

「ヒャッハー!」

 

 浦島達郎は小石を投げ、角材を槍のように投擲し、鉄パイプで釘を打ち飛ばす。だがヴィヴィアンには命中しない。なぜなら彼女の体は幻影のように霧状と化し、投擲物がすり抜けていくからだ。それでも浦島達郎はその場にあるもの全てを使って攻撃を繰り返す。だがその全てを二羽のカラスが打ち落としていた。

 

「ハッハァー! カラスを使うたァ驚いたぜ! なんでも使う俺と相性いいんじゃねぇのかぁ! なぁ、お嬢ちゃん!」

「こんな時につまらんナンパか……」

 

 呆れるヴィヴィアンは敵の出方を見る。

 そこで浦島達郎は、まず二羽のカラスを叩く必要があると思い突貫。腰に隠したナイフで鴉を切りつける。が、命中時に金属音が鳴り響いてナイフが滑走し弾かれた。

 

「あぁ!? 鎧だと!? いつの間に着込んでやがった!?」

 

 ヴィヴィアンのリングから霧の炎が灯る。構築効果により二羽のカラスに鎧を与えていた。彼女の体が霧のように霞んでいるのもそのせいだ。構築効果で位置情報を誤魔化し、浦島達郎の目に“そこにヴィヴィアンが立っている”ように見せかけている。実際は浦島達郎の背後に立っており、いつでも手刀で首を断てるが、そうはせず────彼女は“断つべきは首ではなく、禍根こそを断つべきだ”と考えて現状を見守る。

 

「へへっ……いいぜ! 面白くなってきた! なぁお嬢ちゃん、喧嘩すんのは何のためだ?」

「なぬ?」

「勝つためだぜ! なにがなんでも勝たなきゃ意(・)味(・)がねぇんだよ! 武(・)器(・)を(・)使(・)う(・)奴(・)は(・)卑(・)怯(・)だ(・)とか言ってる奴はどうせ負けるだけだ……そうだろ!」

「いや、場合による」

「あ!?」

「例えば今はタイマンを誉れとする戦いか? それともステゴロを誉れとする喧嘩か? 何でもアリを誉れとする勝負なら、私も出し惜しみはしない。これでも暗殺一家だけに対面は気にするのでな。逆恨みされても困る。故に、貴様の誉れに合った戦い方で倒してやろう」

 

 故に出方を窺っていた。本当に浦島達郎は何でもアリの戦いに納得しているのか。

 

「……舐めたこと聞くじゃねぇか。もちろん何でもアリだ! それの何が悪い!」

「そうか。ではさらばだ。愚にも付かぬ下郎よ」

 

 瞬間、ヴィヴィアンの手刀が首を断つ。それは痛覚神経を遮断する一撃。しかして二羽のカラスの鉤爪が、浦島達郎の肉体を切り裂いた。直後、浦島達郎は充血した眼(まなこ)から血を流し、噴き出すように吐血、硬直したまま痙攣して倒れ伏す。そこへ畳み掛けるように二羽のカラスのくちばしが背中を切り裂く。すると浦島達郎の痙攣が収まり、流血も止まり、血の気は引いたままだが、勝敗は決した。

 

「……《毒爪解牙(どくそうげが)》……かつての西洋では“ポイズンクロウ”と恐れられたカラス(アサシンレイブン)の急性毒殺だ。そしてカラスのくちばしには解毒剤が入っている。故に安心して翌朝に目覚めろ。カレンダーが一枚余計にめくられた“翌朝”にな……」

 

 一ヶ月と一日は寝込む毒を喰らった浦島達郎は完全失神。

 二羽のカラスがヴィヴィアンの足元に留まって黒い翼を折りたたむ。

 

 それを見ていた紅谷慶志郎は静かに呟いた。

 

「……無いものを在るものとし、在るものを無いものとすることで敵を惑わし、ファミリーの実態をつかませない、まやかしの幻影……」

 

 かくして幻影のような“鴉の守護者”は、“凶攻”浦島達郎を完膚なきまでに叩き潰した。

 

          †

 

 そうして全ての戦いを見届けた紅谷慶志郎は最後に呟く。

 

「不良界のボンゴレ……それが君の目指すべき高みなのかもしれないね……我が王よ……」

 

          †

 

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