アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO! 作:形のない者
幹部襲来の戦いは、壮月ファミリーの全勝で決着がついた。
玉座から半身を乗り出して愕然とする苫篠牙丞は何故と叫ぶ。
「な……なんなんだ、お前ら……っ!?」
和泉壮月の周囲に集う鶴岡甚太郎、大迫春樹、城谷利光、稲尾郁久。その後方から遠巻きに眺める月館真夜とヴィヴィアン。彼らはたった一人となった“ネオ蜘蛛”のヘッドたる苫篠牙丞を見据えて臨戦態勢を整える。
「く、クソッ……! 東京も化物ぞろいだが、第二の首都と言われる神浜市も充分な化物ぞろいじゃねぇか! 畜生、畜生……! もう東京は懲り懲りだと言って出てきたはいいものの、未練がましく地下で再び巨大化を試みたってのに……! だが……」
苫篠牙丞は鬼のように残虐な笑みを浮かべて長い舌を出す。
「お前ら、これで勝った気になるのはちと早いぜ?」
苫篠牙丞は玉座から飛び降りるとナイフを取り出す。
和泉壮月は凶器を目にして一歩後退。それを愉快そうに眺める苫篠牙丞は、その指に嵌められたリングを見せびらかした。
「俺は地下に潜って力を蓄えていた時、マジでヤベェ暗黒街で、あるマフィアと取引した……“死ぬ気の炎”……“リング”……そして“
「……匣兵器だって?」
紅谷慶志郎は怪訝そうな表情を浮かべる。
「おっと知らないか? お前らリングを持ってるから、まさか既にこっち側かと思ったが……ハハハ! なら教えてやるよ! 情報を渡した所で俺のアドバンテージは変わらねぇからなぁ!」
苫篠牙丞は余裕綽々と語る。
「最近マフィアの間で“ちょっと面白い兵器”が流通していたんだ! それはなんでも
苫篠牙丞はリングから嵐の炎を灯すと、玉座の後ろにある人間サイズの大きな匣のくぼみに死ぬ気の炎を注入。すると匣兵器は光を放ちながら開かれた。
「いでよ! 俺の愛しのかわいこちゃん! 《
匣兵器の中から飛び出てきたのは、炎のような体毛を赤く燃やす一頭の虎。
「GAOOOOOOOOOO────!!!!」
野性味あふれる咆哮は玉座を塵芥となるまで分解し、口腔から翻る火炎を放射した。
「────な、なんだよ、それ……!」
「化物じゃねぇか……」
「燃えるリングの次は、燃える虎か……裏社会マジパネー!」
和泉壮月、鶴岡甚太郎、大迫春樹の三人が驚愕する。一方、城谷利光は腰を抜かして尻餅を搗いており、稲尾郁久も虎との戦いには流石に冷や汗を流していた。しかし月館真夜は「猫だ」の一言。それに傍らのヴィヴィアンは「しかし大きい猫だ」と補足した。
「……死炎系匣兵器……既にプロトタイプは完成していると聞いていたが、まさかこんな一介の不良が手に入るほど普及し始めているとは……いや、それは神浜市だからか……? やはり“ネオ蜘蛛”は、そのバックに“財閥”がいるというのか……」
驚く紅谷慶志郎はブツブツと独りごちる。
そこでロバート・フレージャーが雨の炎を灯しつつ前に出るが、紅谷慶志郎が手を掲げて制止した。
「さすがに手に余ると思うかい? でもここで死ぬようでは僕の眼もそこまで。我が王もそこまでの器だったというだけの話さ。黙って見ててごらん。きっと彼らは美しい勝利を飾るだろう……」
「…………ダガ、アドバイス、クライハ、イイダロウ……」
「そうだね。彼らの炎を一つにすれば、なんとかなるかもだ」
そこで苫篠牙丞が指をさして襲撃を指示。跳躍した嵐虎は和泉壮月めがけて直進する。吼え猛りながら大口を開けて、大きく鋭い牙で噛み殺そうと猛進してくる。
「……オオサコ! リングダ!」
「────!」
刹那、大迫春樹は誰よりも早く前に飛び出し、雨の炎を纏った釘バットで嵐虎の頭蓋を打ち据えた。それを目にした和泉壮月と鶴岡甚太郎は驚き、そして自分たちが怯え竦んでしまっていた事実に気が付く。
「クッソ! すぐ大迫のカバーに入るぞ!」
「お、おう!」
和泉壮月と鶴岡甚太郎は、嵐虎を囲うように走り、側面に拳や蹴りを叩き込む。そのたび吼える嵐虎は、まずどいつから喰おうかと品定めするかのように三人の顔を一瞥して回る。
「GAOOOOOOOOOOO────!!!!」
嵐虎が跳び上がる。着地した先には城谷利光。
「ひぃっ!!? や、やめろぉ! お、俺を狙ったら、ただでは済まんぞ……俺が!!」
「危ない、城谷ぁ!」
膝を叩いて奮起した稲尾郁久が飛び出し、嵐虎の体に体当たりをぶちかます。悲鳴を上げる城谷利光。咆哮を上げる嵐虎。すかさず和泉壮月を含む三人が嵐虎を取り囲み、殴り、蹴り、釘バットで攻撃する。だがダメージは薄い。死ぬ気の炎を纏う嵐虎に通常攻撃は意味を成さない。大質量の物理攻撃を与えるならまだしも、たかが人間の殴打では大したダメージは与えられない。
余裕の嵐虎は獲物を選ぶ。倉庫に響く苫篠牙丞の下卑た笑い声。
そこでロバート・フレージャーの一喝が倉庫を轟かせた。
「リング、ダ! リングヲ、ツカエ!」
『────!』
目には目、歯には歯。死ぬ気の炎には、死ぬ気の炎。
鶴岡甚太郎は嵐の炎を通して殴り込む。そこで初めて嵐虎が鳴き声を上げた。殴った箇所の死ぬ気の炎が分解されて削られている。そこは嵐虎にとって生身の部分。蹴りを入れることで通常攻撃が通るようになる。さらに大迫春樹の雨の炎を纏った釘バットは、少しの間だけ嵐虎の動きを鈍化させる程度の効果しかなかったが、雨の炎を注入する意思を込めて殴ることで、嵐虎の動きが数瞬停止することに気付く。そこへ晴の炎により活性化した拳が入り、嵐虎は一旦引き下がる。
「なに? おい嵐虎! 引いてんじゃねぇ! 誰でもいいから一人は食い殺せ! そうだ、あそこでビビってる伊達男がいいなぁ!」
「えっ────」
「殺れ!
「GAOOO────!!!!」
嵐虎の跳躍。着地と同時に噛み殺すつもりなのか、城谷利光の全身に巨大な影ができる。今度こそ死を悟った城谷利光。リングが鳴動する。「危ない!」そこで和泉壮月が飛び込んだ。城谷利光の体を抱き込んで地面を転がり、嵐虎の牙を回避する。
「そ、壮月……!」
「城谷、そろそろしゃんとしろ!
「────! っ……で、でも、俺に何が……」
「鶴岡! 虎の顔面を殴ってくれ! 大迫はそのあとすぐに攻撃して動きを止めろ! そこで俺と城谷が行く!」
「えぇ!?」
そこで稲尾郁久が叫んだ。
「おい壮月! 熱血的に俺はどうすればいいんだ!?」
「鶴岡のサポートを頼む! っし────この作戦で仕留めるぞ!」
そう意気込んで立ち上がった和泉壮月の両膝は震えていた。思えばこの中でリングに炎を灯していないのは和泉壮月と城谷利光だけだ。それなのになぜ和泉壮月は、ここまで強気でいられるのだろう。
「了解したぜ壮月!」
「チッ……死んじゃ元も子もねぇからな。任せろ壮月!」
「熱血的に俺が気を引くぞ! 虎よ!
「GAOOOOOOOOOOO────!!!!」
彼らの殺気を受けて、ついにやる気を出した嵐虎は、恐ろしいまでの咆哮をぶち上げる。嵐の炎を纏う咆哮が服を焦がし身を焼く。その熱風を前にして、なおも立ち向かわんとする和泉壮月たちを見て、城谷利光は何故と叫んだ。
「なんで……なんで壮月は、そこまで男を張れるんだよ!?」
「……城谷?」
「怖くねぇのか!? 正直俺はビビっちまってる! お前だってそうだろ! なぁ教えてくれ! 俺はどうやったら……お前らみたいな
懇願するような問い掛け。それに和泉壮月は、強敵たる嵐虎……否、元凶たる苫篠牙丞を見据えながら答えた。
「……大東区に住んで、俺は学んだ」
稲尾郁久の炎拳が嵐虎を打つ。
「悪が栄えるのは、正しき者たちが、それを阻もうとしないからだ」
鶴岡甚太郎の炎拳が嵐虎の額を穿つ。
「人々は恐れ、見て見ぬふりをする」
大迫春樹の炎釘バットが嵐虎を叩く。
「だが────戦う人々はいる。俺の
和泉十七夜と八雲みたま。彼女たちの今までの努力を、和泉壮月はずっと見てきた。
「俺も見ているだけじゃ気が済まない。俺も戦いのリングに上がりたい……!」
和泉壮月は力強い腕の引きで、城谷利光の腕を持ち上げてしゃんと立たせる。
「守られるだけじゃなくて、変えてくれるのを待つだけじゃなくて……俺も手を尽くしたい。俺も戦いたいんだ!」
和泉壮月のリングが鳴動する。
それに釣られるように、引っ張り上げられるように、城谷利光のリングも共鳴していた。
「胸の中でくすぶる
「────っ!」
それが勇気の正体なのか。
城谷利光は憧憬の念を以て手を伸ばすように、
鎮静が抜けて嵐虎が動き出す。向かってくる和泉壮月を噛み殺すつもりだ。城谷利光は“この男は死んでも守らなければならない大きな男だ”と覚悟し、知らず知らずリングから雷の炎を灯して和泉壮月の肩を掴んだ。しかし和泉壮月は前進を制する邪魔な手を振り払い疾走。その時、和泉壮月の全身にバチバチと鳴り響く緑色の火炎が翻った。どうやら城谷利光は肩を掴んだ際、和泉壮月の体に雷の炎を無意識に注入したようだ。しかして雷の炎を身に纏う和泉壮月は、リングから轟々と大空の炎を灯し、大声で勇むように吶喊した。
「喰らえぇええ────ッ!!」
大空の炎の爆発的推進力と、雷の炎の硬化性質が組み合わさった強固なる爆撃。
(────《拳王流喧嘩術・
それに奥義が加わり、和泉壮月の火力がヒートアップする。
鶴岡甚太郎が削った額の死炎装甲。そこにぶちかますは和泉壮月の
削り壊す拳。またの名をジャブクロス。それは敵の装甲を削るジャブの後、相手の呼吸に合わせて意識を壊すクロスを当てる二段構えの拳打。
嵐虎の猛腕が伸び、鋭い爪が和泉壮月を切り裂く。嵐の炎の分解性質が、和泉壮月の総身を迸る雷の炎の硬化性質をみるみるそぎ落とし、喰い込む爪が肉体に迫る。その最中、和泉壮月のジャブが嵐虎の額に入った。既に鶴岡の炎によって削られた死炎装甲を、調和の力でさらに削り広げる。そこで嵐虎が大口を開けて噛み砕かんとし、和泉壮月が纏う雷の炎が弾けて消えた。和泉壮月の左腕が喰われる────誰もがその未来を予想した瞬間、身を翻した和泉壮月は、技の流れの通り、二段構えの
「ドルァッ!!」
死ぬ気の炎と共に打ち込まれた拳打は爆発を引き起こす。
「GAOOOOOOOOOO────!!??」
頭蓋を轟かせる爆雷の拳。大きく吹き飛ばされて地を滑った嵐虎は脳震盪を起こして気絶した。
騒然とする倉庫内。誰もが和泉壮月の姿から目を離せず、苫篠牙丞は口をあんぐりと開けていた。
匣兵器・嵐虎との戦いの決着。それにいの一番の歓声を上げたのは紅谷慶志郎だった。
「素晴らしい! それでこそ我が王とその守護者たちだ! そして我が王の死ぬ気の炎は純度・炎圧ともに申し分ない……そして先ほど我が王は、城谷利光に聞かれて“勇気”を語ったね。それは蛮勇とも言われる代物だが、実力が伴うならそれは無謀とならず実現と成る! 実際に嵐虎を一撃で吹き飛ばした死ぬ気の炎の強さ……それこそが、我が王の言葉が真実である何よりの証拠となるだろう!」
「……L.A gang story……so cool……I love that saying.That movie really touched heart……ソウゲツ、オマエ、クールガイ……」
息を切らす和泉壮月は、静かに息を吐いて深く息を吸い込み、苫篠牙丞を睨め上げる。
「っ……!?」
「“ネオ蜘蛛”のヘッド……苫篠牙丞! よくも神浜市を暴力で脅かしてくれたな……テメェみてぇな奴だけは、ぜってぇに許さねぇ!」
和泉壮月は駆け出して跳躍。苫篠牙丞と同じ舞台の上に立つ。構えて前進。鋭利なナイフが横薙ぎされて腹を狙うが、ロバートのようにサイドステップで躱して顔面に一撃を見舞う。
「ぐぇえ!?」
「いいか……よく聞け! 誰もがみんな
「ぐっ……ざっけんな! 《
嵐の炎を纏ったナイフが奮われる。
それに胴体を裂かれて出血した和泉壮月は、激痛を食いしばって最後の技を叩き込んだ。
「────《拳王流喧嘩術・
またの名をキックスマッシュ。要するに、ただの全力の蹴り。ただし腰の入れ方が分かった分、《決死打開》と比べて遥かに威力が増している。
「ぶげらぁ!!?」
苫篠牙丞の首に対して鋭角に決まった蹴り。その一撃を受けた体はがくりと崩れ落ちる。
「カッ……カハァッ!?」
「まだ続けるか? 俺は死ぬ気で抗うぜ。虎に噛み殺されようが、ナイフで切られて刺されようが……このまま何も変えられないんじゃ、
「ヒッ……! て、テメェ……イカれてるぜ……!」
「イカれてんのはどっちだよ! ナイフなんか取り出して、もし人が死んだらどうするつもりなんだ! あぁ!? あの虎だって好きで俺たちと戦いたかった訳じゃねぇだろ! 相手の気持ちも分からねぇイカレヤロウが“イカれてる”だとか抜かすんじゃねぇ……!」
刹那、和泉壮月の啖呵を切った間隙を突くようにナイフが忍び寄った。が、その鬼のような腕を踏みしだいた和泉壮月は、容赦なく苫篠牙丞の腕を折る。
「ぐがっ!? がァああああァアアアア!!?」
「そんなに人が死ぬのを見たいか? ならテメェの命で見てみろよ」
ナイフを取り上げた和泉壮月は、大空の炎でナイフを風化させる。手のひらから風に吹かれて散りゆく灰燼。
それを目にした苫篠牙丞は、完全に戦意を喪失した。
「ッ────! クソッ……! クソクソクソ、クソガァ!! ……ネオ蜘蛛を立ち上げて渋谷制覇を狙った直後ギャングマにやられて……もうこりごりだとうそぶいて東京を出て……地下で暗躍していたら、神奈川連合の八岐大蛇が
そこで苫篠牙丞は何かを閃いたように不気味な笑みをこぼす。
「だがよぉ……“ネオ蜘蛛”を潰したことで勝ち誇ってるところ悪いが、実はテメェらの方が危険なんだぜぇ……? いつか泡吹いて死にな! ケッ! あばよ!」
最後に嵐の炎を灯した苫篠牙丞は地面を叩き、鉄板を分解。中指を立て舌を出しウインクしながら暗闇の地下に落ちていく。あらかじめ逃走ルートを用意していたのか、苫篠牙丞は華麗な逃走劇を決めて行方をくらませた。
「あっ! くそっ……あいつ……! どうせまたどこかで悪さするつもりだろ……警察に突き出したかったのに……!」
そこで紅谷慶志郎の拍手が倉庫内に響いた。
「さぁ撤退だ! すぐに表舞台の連中が駆けつけてくる。大人しく捕まって家族に迷惑を掛けたくないだろう? よって今のうちに逃げるとしよう! なぁに、ここに倒れている者たちは全員、無事に警察が回収するさ!」
「紅谷……撤退って、どうやって……」
その時、大型トラックが倉庫の壁を突き破って急ブレーキを掛けた。運転席には早乙女麗一が座っており、ハート型のウインクを飛ばす。
「さぁ荷台からバイクを選んでちょうだい! 華麗に退散するわよぉ!」
「早乙女さん!」
大型トラックの荷台には数台のバイク。鶴岡甚太郎、大迫春樹、城谷利光、稲尾郁久が乗り込み、和泉壮月は鶴岡と相乗りする。そこで和泉壮月が気付いた。
「あれ? 月館とヴィヴィアンは……」
「アタシは走って帰るよ」
「私は霧の炎がある。逃走は容易だ」
「そうか。気をつけてな。……あれ? 紅谷とロバートは……」
その二人は嵐虎を匣に戻し、死炎系
「逃走経路は来栖蓮が確保している。彼女の案内に従って警察の網をくぐり抜けるとしよう。さぁ凱旋だ!」
かくして各々は、それぞれの方法で倉庫から脱出し、無事帰路に着いた。
†4月14日
その翌日のことである。
紅谷慶志郎は三ツ矢璃子に頼んで、この一夜の抗争を大々的に喧伝した。一時的に神浜市を震撼させた東京の落伍者“ネオ蜘蛛”を、たった七人で潰した新進気鋭の不良グループ……“壮月ファミリー”……その噂を聞いて挑戦状を叩きつけない不良はいない。
まったくのダークホースたる“壮月ファミリー”を狙うは、他の不良チームたち。
神浜市の安全を勝ち取った和泉壮月の受難と戦いは、まだまだ続く……。
†