ハートフルワンダーランドに友達と行ってきた 作:A00913
ギィ……という歪な音を立てて、不思議の国への門は開かれる。
その先では、アリスを待っていたように、一匹のウサギが手を広げていて。
今にも踊りだしそうなほどに色彩的な建造物が、人々を出迎えて。
愛くるしいイルカやウニのマスコットが手を引いて、物語の世界へと進み。
人々が楽しげに笑顔を振りまいていた。
8月32日(金)
天気曇り 今日は、遊園地の開演まで残り一週間の日。
そろそろ一緒に遊んでくれる人を探したい。でも、なかなか見つからない。みんな忙しいみたい。それでも一人で回るのは嫌だ。
誰か一緒に遊園地に行ってくれそうな人はいないかと、街を歩いてみる。
お父さんがずっと前から頑張って作った遊園地、せっかくなら面白い人と友達になって、一緒に遊びたい。もし僕に友達がいたら、きっと二つ返事で一緒に行ってくれるんだろうけど、僕は最近までずっと入院してたから、学校にも行ってない。
病院にいた友達は、この辺に住んでなかったり、途中で離ればなれになったりで、今の僕に友達はいない。
だから、絶対に遊園地に一緒に行ってくれる友達が欲しい。
頑張って探そうと街中を歩いていると、一人の男の人に目が離せなくなった。
その人は、茶色の長い髪にサングラス、上半身はムキムキだけど、下半身はスラッとしていて、まるで、タコさんみたいにみえる。
後ろから声をかけたくても、踏ん切りがつかない。
そうしてるうちに、そのタコさんは、どんどんと先に行ってしまう。
どうしよう……。
その人は外なのに服装が真っ黒なパンツ一枚、しかも白い液体がいっぱいついた汚れたパンツだったので、少し怖かった。
でも、僕はその人が周りの人たちよりも大人っぽく見えた。
みんなその人を見ないのがエチケットといった感じで、少し距離を置いて歩いているのに、その大人っぽい人だけは堂々と歩いていて、それがとてもかっこ良かった。
きっとこのチャンスを逃せば、こんな素敵な友達が出来ないかもしれない。
勇気を出して声をかけようと後をついていった。
少し後を付けてわかったことがある。
この人は友達と一緒に街へ遊びに来ているらしく、いつの間にか周りには3人の友達がいた。
みんな、タコさんみたいな人とはそれぞれ違った雰囲気だけど、大人っぽい人ばかりだ。
子供の僕が、この中に入っていって、一緒に遊園地に行ってくれなんて、へんな話だ。
でも、その人たちと遊園地に行く約束をしたら、きっと楽しいに違いない。
僕は勇気を出し、チケットを握りしめてその人たちの前に出た。
「僕と、遊園地に行って下さい!」
勇気を出して言った。
お辞儀を深くしていったから、みんなの顔はよく見えなかったけど、しばらく静かだったから、不安になった。
「マジ?それってお誘い!?」
顔を上げると、タコさんみたいな人は、とても嬉しそうな顔をしていた。
久々に見る人の笑顔に、僕は安心した。
するとその人は後ろから友達二人に、左右の肩をガシッと抑えられて僕の前から下げられました。
「おい拓也、子供の話にマジになるなよ」
「そうだぜ。お前、まさか誘拐企んでんじゃないだろーな?」
友達2人はなんだか怖い顔をして聞きたくないようなことを話していました。
とても悲しいです。
何となくそんなこと言われちゃうかなとは思ったけど、やっぱり悲しくて泣きそうになりました。
そんな僕に、3人の後ろでずっと黙っていたぱっと見女性っぽい人が、僕と2人の間に入ってきました。
「あー、ごめんね。もしかして拓也の親戚とかだったりするの?もしそうだったら、ごめんなさい」
その人は僕の前でしゃがんでとても優しい笑顔で話しかけてくれました。
その笑顔に少し安心したけど、親戚とかではないから、首を横に振りながら「違います」と答えました。
「え?」
目が大きく見えるぐらいに驚いて、僕から少し離れました。
なんだか、不安になった。
「え?じゃあなに?拓也がタイプだったとか?」
取り押さえている人の内金髪の方は拓也を指差し言いました。
確かに一緒に遊園地へ行きたい友達としてと考えればそうかもしれないけど、よくわからなかったので、「はい」と答えました。
「え!?」
また大きな目がさらに大きく見えました。
そんなに驚かれるなんて……僕はいけない答えをだしてしまったんでしょうか?少し不安になりましたが、拓也は2人から離れて「ウッス!!じゃあ行こうぜ!!」と僕の手からチケットを受け取りました。
「みんなの分もあるよ!一緒に、行かない?」
拓也のお友達はみんな戸惑っているようでした。
でも、拓也が「いいじゃんか!行こうぜみんな!!遊園地嫌いか!?」と言うと、一番背が高い人が「まぁ、嫌いじゃないし、久しぶりに遊園地ってのも悪くない、が...」
「じゃあセンパイ行くべきっすよここは!子供にギン目でおねだりされたら安請け合いしなくちゃいけないのが大人ッスよ!」
そう力強く訴える拓也の姿は、とてもかっこ良かったけど、なんだか壁があるようで、ちょっぴり寂しい感じもした。
センパイはそれを聞いて笑いだした。
「そうだな!お前、マンコだけじゃなくて理論も淫乱なんだな!しかもそのチケット、近々オープンの遊園地じゃねーか!もうこれは行くしかないな!」
センパイが僕の前へやってきて、僕の目の前に顔を持ってくると、「お前、名前は?」と聞いた。
その人は拓也と違って、笑顔だけど、その眼にはどこか冷たい光が宿っていた。
「ココロ......夢幻ココロ!」
怯えてしまったら食べられちゃいそうだと思ったので、僕は頑張って張り合うように大きな声で答えた。
するとその人はにっこりと笑って、「夢幻ココロか……いい名前じゃねーか。
俺は拓也のセンパイの涼、よろしくね」と手を差し出してくれた。
「うん、よろしく!」と握手を返した。
ちょっと強いなと感じる力加減に少し驚いたけど、熱さは少し伝わって安心できた。
センパイはチケットを全て受け取ると、「こいつがレオ、その隣にいるのがマネージャー、そしてこのタコみたいなのが拓也だ」と紹介してくれた。
レオとマネージャーは、「....よろしく」と優しく微笑んでくれたけど、どこかぎこちない感じだった。
拓也は「ウッス!よろしくな!!」と相変わらず元気がよかった。
センパイはそんな拓也を小突いて、「お前な、子供の前でその格好はやめろよ」と言うと「あ、そっか!」と言って拓也はサングラスを外して、服も脱いだ。
「どうして服を脱いだの?」と僕が聞いてみると、「コイツがダチの前でする格好は全裸が基本なんだよ」とセンパイが教えてくれた。
初めて聞いた常識に僕はとても驚いた。
レオとマネージャーの2人は、小さくため息をついていたけど、拓也は気にせずに僕に向き直り、「これでどうだ」と自慢げにポーズを決めた。
拓也のそんな姿がおかしくて、少し笑った。
周りの視線が少し痛くなってきたので、僕はみんなに「本当にありがと!それじゃ、来週、ハートフルワンダーランドで待ってるから!」と言って、その場を後に駆け出した。
「ココロ―!じゃあな!」
後ろから拓也の声がしたので振り返ると、僕に手を振ってくれていた。
そんなことをされたのが久しぶりだったから嬉しくなって、手を振り返した。
みんなと遊園地に行くのが楽しみだな。
期待と不安を胸に、半分抱えている。
あの人たちとならきっと楽しい遊園地になるだろうな。
と思いつつも、僕の秘密を、あの人たちには知られないようにしようとも心に決めた。
夕日が沈んでいくと同時に僕の心にも不安が影を落とし始めた。
一時のテンションで、とんでもないことをしてしまったのではないかと。
早く帰らなきゃ、この動悸を大きくする前に。