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そうして、また一人の時間がやってきた。
部屋の中には私一人。周囲からは特に音も聞こえない、ただ静かな空間の中、私はあからさまなくらいにため息をついてしまう。
「本当に、どうしよう……」
頭の中で絡まってくる問題ごとに対しての解決策は何一つ浮かばない。これを相談しようにも、他人に相談できるわけもない案件に、ただ一人で悩み続けることしかできない。
女の子同士、しかも血のつながった姉妹同士。そりゃ、仲があまりよくなかった時のことを思えば、今の関係性の方がまだマシなのかもしれないけれど、それにしたってあんまりじゃないか。
両親にこんなことを伝えてしまえば、私たちの関係は終わる、というか別に終わってもいいけれど、そういった意味での終わりは求めていない。私はただ蜜柑と正しい関係性で、ちゃんとした姉妹として接していたい。ただ、それだけなのに。
「……はあ」
何度目かのため息が出る。ここ最近は蜜柑の“勉強”のせいで、正しい方の勉強については疎かになってしまっている。バレー部の方も、あまり集中できなくて、先輩から注意を受けてしまうほどには、すべてに手がついていないような気がする。
そして、質が悪いのは──。
「──んっ」
自然と、下腹部まで手を伸ばしてしまう仕草。誰もいない、というのをいいことに、ただ思い付きで走らせた指で自分を慰めてしまう。
この前までは知らなかった快楽。知っていても、あまりなじむことはなくて過去こそは遠ざけたものの、身近になってしまったからこそ味わってしまう、秘部に対する刺激のすべて。
膣口をなぞりながら、小陰唇をくすぐるように指で触れてみる。指の根元で触れるクリトリスの感触、体全体に伝わって、ぴりぴりとするような快感が、一瞬だけ声に漏れ出てしまいそうになる。
「ふ、ふー」
誤魔化すように息を吐いて、それでも止まることのない指先をそのまま遊ばせてみる。
蜜柑が私にやってくれたみたいに、指を膣に入れて、そうして引っ掻いてはみるけれど、それでも自分でやるとどうしても欲しいところまで届かなくて、よりもどかしくなってしまう気持ちに、頭が少しどうにかなってしまいそうになった。
だから、入り口だけで快楽を味わうしかない。
「ん、んん」
隣の部屋にいる柚子には聞こえないように、私はベッドでうつぶせになりながら、枕に顔を押し付けて、なんとか息を殺して自慰を繰り返す。
仮初のような電流が身体を走っては落ち着いて、また走っては消えていき、切ないだけの気持ちが募っていく。それがきちんと報われることはなく、もっと奥まで入れてくれる何かを欲してしまう。
けれど、結局は指だけでやってしまう。筆記用具で試そうと思ったことはあるけれど、硬いものというのが先行して、実際にやろうとは思わない。そういったアダルトグッズなんかをネットで調べてみたこともあるけれど、指よりも太い何かを入れるというのは恐怖が勝る。痛いのを想像したら、結局指が一番落ち着くのだ。
でも。
「──足りない、足りないよっ」
枕で喘ぎ声を殺しながら、それでも膣奥の、あの蜜柑の指先、あの引っ掻きを思い出して、その快楽が自分では見いだせないことに寂しさを覚えてしまう。
それが間違っている、ということを理解していても、それでも蜜柑のことを、しかも彼女の指だけを欲してしまっている自分がふしだらでしかなくて、嫌になる。
「いく、いくぅっ」
──ぷしゅ、ぷしゅ。
手元からあふれるような、愛液の束。
それでも、届かない本当の快楽に、仮初だけの空白を埋めて、私は絶頂へと達してしまう。
くい、くい、と蜜柑がしてくれるような指をまねてみるけれど、それが結局届くことはなくて、より虚しいだけの気持ちが募るだけ。
本当によくない。このままでは、本当によくない。
行為が終わって、素面になる頭。自分に対しての嫌悪感だけが妙にはっきりと形になって、シーツが濡れている感触に、なおさら自己嫌悪が強まっていく。
(明日こそ、言わなくちゃ)
こんなこと、ダメだよって言わなくちゃいけない。
たとえ、彼女の指がどれだけ心地がいいものだとしても、それに依存しているのはよくない。姉妹同士で溺れてしまうのなんて、絶対によくない。
だから、明日こそは言わなくちゃ。
そう決心を固めて、私は濡れるシーツの後処理を頭の中で考えていた。
□
「えっ」
私が吐き出した本音のようなものに対して、蜜柑はあっけなく、いいよ、と答えたから、私はそんな呆然とした返事をすることしかできなくなった。
「ん? したくないんでしょ?」
「え、ええと、まあ、そうなんだけど……」
私は、きっと蜜柑なら強く拒否をするだろう、そう思っていたからこそ、それっぽい理由を並べてみた。実際に部活に支障が出ていることだったり、最近勉強に追いついていないことであったり。今度控えるテストに関しても不安があったから、しばらくはこの関係をやめないか、と提案をしたのだ。
その結果がこれである。あまりにも容易いほどに、蜜柑は呆気なく返事をしたのだ。
「なーにー? ……本当はしてほしかったり?」
「ち、ちがうもん」
くすぐるような声音で彼女は悪戯っぽい笑みを浮かべるけれど、私は両手を振りながら、精いっぱいの抵抗の気持ちで言葉を吐いてみる。
「はいはい、わかってます、わかってますとも。確かに、私も有頂天になってたかもだからねー」
うんうん、と彼女は頷きながら、自分自身で納得するような声を上げる。
「うん、しばらくお互いに我慢しよ。私もちょっとリアルのこと頑張りたいしさ!」
「う、うん……」
本当にあっけない結末。そう思ってしまうほどに彼女の雰囲気は軽くて、私が悩んでいたことがすべて嘘だと思えてしまう。
「でも、その代わりというわけじゃないんだけどさ──」
──けど、それは嘘なんかじゃなくて、そのあとに呟いた彼女の言葉に、私はそれでも渋々と頷くことしかできなかった。