よろしくお願いいたします。
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そこからの一週間は本当につらかった。地獄、というほどでもないけれど、それでもそれを思うくらいにはつらかったように思う。
もともと性的な行為に興味もなく、関心もなく、経験もなかった私は、今までであったのならば健全に毎日を過ごすことができていたと思う。ただ、知ってしまった快楽はどうしたって日常にちらついてきて、もやもやが発散できないもどかしさは、いつだって私に不満だけを募らせてくる。
正直、家で自慰行為さえしなければいい話だとも思った。もしくは蜜柑がいない時間を見計らって、そういったことをすればいいとも思った。
ただ、家に帰ればいつだって蜜柑はにんまりとした表情で私を出迎えてくれるし、家から出る気配だってない。なんなら、隣の部屋にいることはしょっちゅうで、私は結局そういった行為に励むことはできなかった。
なんなら外でそういうことをする、というのも頭にちらついたこともあった。授業中、退屈に感じる時間の中、ふと下腹部に意識がうつってしまい、指を伸ばしてしまいそうな衝動さえあった。
でも、さすがに人がいる前でなんてできるわけがない。それも授業中という、勉学に集中をしなければいけない時間にそんなこともできるはずがない。
だから、休み時間の中、トイレの方で行おうと考えたこともある。けれど──。
『一人でするとき、結構声が聞こえてくるから、もしやってもわかっちゃうからね?』
蜜柑の一言を思い出して、結局指を伸ばすことをやめてしまう。そこまで私が声を大きくして喘いでるとは思わないけれど、そんなの自分でわかるものじゃない。
だから、結局学校でも、家でも我慢をしながら生活をした。そんな毎日を暮らしている中で、私の性欲は猿なんじゃないか、とも思えてしまう。それでも心の中で、知ってしまったから、という言い訳を連ねて、なんとか誤魔化していく。誰に対しての言い訳なのだ、という疑問を持ちながら。
そうして、いつまでも我慢をしながら毎日を過ごした。
そうすることしかできなかったのだ。
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ようやく約束の一週間が過ぎ、私は悶々とした気持ちを隠せないまま朝を迎えた。
「今日、部活お休みできる?」
そんな気持ちを抱えたまま、それでも朝の支度を終えて学校へと向かおうとすると、玄関先で蜜柑が私にそう声をかけてくる。
悪戯っぽい余裕のある表情。私の体を撫でるように見つめる視線は、その視線だけで私を辱めている、そんなような感覚を覚えてしまう。
「う、うん」
私は蜜柑の言葉を、半ば食い気味に返答をする。
彼女がこんな声掛けをするということは、確実にそういったことをする、という意味合いだ。それに私も期待しているし、ようやく悶々とした気持ちが晴れることに、どこか安心感さえ覚える。
けれど、本当は練習を休んではいけない。しかも、性的なことを目的として、それに堕落するように休むだなんて、馬鹿というか、猿というか。
それでも私は頷いてしまう。我慢したこの一週間が報われるときが来たと、そう思ってしまうから。
「うんうん、えらいねぇ」と頭をよしよしと撫でてくれる蜜柑。姉という立場なのに、それでも妹から褒められるのは嬉しいと感じてしまう。
「それじゃ、学校終わったら家で待ってるからね」
わかった、と蜜柑に返事をして、それから私は学校に向かう。正直、このままの勢いで学校をさぼってしまってもいいような気がしたけれど、そればかりは理性が強く働いた。世間がそれを許してくれるはずもないし、両親だって訝しむだろうから。
だから、とりあえず何も気にしないまま学校へと向かう。下腹部に蟠るうずきを確かに感じながら、それでも学校へと向かって、禁欲最後の一日をやり過ごす決意を固めた。
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放課後の時間が近づくたびに、鼓動が激しくなる。
(この後家に帰れば、この後家に帰れば、この後家に帰れば……)
淫らな想像が頭の中に働いては、授業中の物音、教師の声が現実に戻してくる。早く終われ、チャイムも早く鳴って、早くすべてから解放されたい。そう思うたびに時間の流れをより遅く認識してしまうし、苦しいだけの時間が過ぎていく。
顧問に休むことを伝えなければいけない、そう思ったけれど、だんだんと弾む鼓動がより強くなって、そんな余裕もなくなってくる。
せめて声だけでもかけなければいけない、という気持ちはあったけれど、私の顔色を覗いた友人が「私から伝えておくよ」と言ってくれたから、私はそれに甘えることにした。それほどまでに緊迫した表情を浮かべていたのかもしれない。……こんな性欲にばっかり染まっているだけの思考なのに、そんな顔をしているなんて、本当に馬鹿としか言いようがないけど、とりあえず今はそれで助かった。
それからは帰路の道を早足で進んでいく。駆けだすほどの余裕はなくて、弾む鼓動を感じながら、苦しくなる下腹部の切なさが大きくなる。もうすぐ、もうすぐ、という気持ちはなおさらに強くなって、いつの間にか私は家の前へとたどり着いていた。
がちゃ、と玄関を勢いよく開ける。玄関の靴を眺めれば、まだ母はパートから帰ってきていないらしい。その代わり、というくらいにあからさまに置かれている蜜柑のローファーが視界に入ってくる。
そして。
「おかえり、お姉ちゃん」
玄関からすぐ覗ける階段、そこに私服姿で座っている蜜柑は、とても楽しそうな表情で私を見ていた。
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「本当に部活休んじゃったんだ」
蜜柑は、早足で帰ってきた私にささやくような声でそう言った。
「だ、だって蜜柑がそうしろって──」
「うんうん、そうだね。私がそう言ったね。でも、本当に部活をサボっちゃうなんて、昔のお姉ちゃんでは考えられないなって……」
「……」
私は彼女の声に返答することができないまま、黙りこくってしまう。実際、その通りでしかないのだから、返す言葉なんて何一つないのだ。
くすくす、と彼女は笑いながら階段から立ち上がって、私の方へと近づいていく。私は未だに靴を履き替えることができないまま、ドキドキする心臓の鼓動を耳にすることしかできない。
彼女は私の方へと近づいていき、そしてゆっくりと息を吐く。段差のある距離感の中、私の耳元に近づいて──。
「──それくらい、私にめちゃくちゃにしてほしかったんだよね?」
くすぐるような、息を孕ませた声でそう呟く。それだけで私は腰を抜かしてしまいそうになった。
「今日のためにいっぱい我慢したんだもんね。毎日、リアルを頑張っていたんだもんね。本当にお姉ちゃんはえらい、えらいよ」
彼女の言葉は私を溶かすように甘く、背筋を撫でるように温かい。そのくすぐったさだけで頭がどうにかなってしまいそうになるけれど、玄関先でやることではない、と私の理性は妙にはっきりしていた。
「……う、うん。だから、その──」
「──すぐ、したい?」
「──うんっ」
彼女の声に食い気味以上の声で返事をする。今日一番大きい声が出たような気がする。
滑稽にしか映らない私の様子。それでも、それを受け入れるように微笑んでくれる。こんなどうしようもない私を、彼女はニコニコと受け入れてくれる──。
「──でも、まだだめ」
「──……え?」
──受け入れてくれる、と思ったのに、そんな言葉が彼女から届いてしまったから、私は困惑して声をあげてしまう。
「わ、私、頑張ったよ? ちゃんと、蜜柑の言う通りに、一週間我慢、したよ? ほんとに、本当にがんばったよ? で、でも、それでもまだ、我慢しなきゃいけないの?──」
私が矢継ぎ早にそういうと、彼女は人差し指を立てて、私の口を抑える。
「だいじょうぶ、だいじょうぶだから」
子供をあやすような、落ち着いた声。
「きちんと私も約束を守るよ。……でも、お家でご褒美をあげるのはもったいない、でしょ?」
あとお姉ちゃんは声が大きいから家だと不安なんだよね、と付け足しながら彼女は笑う。私はその言葉に赤面をしながらも、約束を守る、という蜜柑の言葉に、心底安堵を覚える。
「だから、お出かけしよ」
「お出かけって、ど、どこに?」
それはねー、と間延びをしている弾んだ声で蜜柑は言う。
「えっちなことをするためだけの場所」
ラブホテル、と彼女は付け足しながらそう答えた。
次回から本番です。本当にお待たせしました。
我慢させられていたのは柚子ちゃんと私たちだったんだね……。