結末までのプロットがあるので、それを書き切るまで頑張ります。亀ペースでもお許しください!
◆
私はようやく再生が始まろうとするカラオケの画面に目を向けた。
結局、入れた曲は高得点を取ることを目的にしたものとかではなく、ただ単にいつも私が好きで歌っているものを選曲した。
(どうせなら、普段歌っているときとどれくらい違うのかなっていうのを知りたいし)
そんな思惑で入れた一曲。歌詞を見ずとも歌えるくらい聞いている曲。別に高得点を狙う曲というのも悪くなかったけれど、どこかお姉ちゃんとぎりぎりの差を演出しながらこれからのことを楽しみたい。圧倒的な点数付けをするような歌い方をしてしまえば、それだけでお姉ちゃんは手を緩めるかもしれないし──。
『──それは、だめっ』
──いや、それはないか、と私は改めて思った。
お姉ちゃんにとってあの禁欲期間は相当にしんどいものだったのだろう。その禁欲を晴らすために、あの時はめちゃくちゃにお姉ちゃんの身体を刺激してあげたわけだけれど、それはそれでしんどかったんだろうなぁ、とは思う。
まあ、どちらにしてもお姉ちゃんが手を緩めない、というのであれば楽しむだけ。実際、どこか期待している私がいるのは隠せない。
お姉ちゃんは感度が高い。とても敏感で、その背中をなぞるだけでフワッとした声をあげてくる。それに比べて、私の感度についてはそうも言えない。どうしても日常的に刺激している怠惰な生活を送っているからか、そこまで声を出すような敏感さは持っていないのだ。
だからこそ、楽しみなのだ。
歌っている最中、歌っていることも忘れてしまいそうなほどによがっていたお姉ちゃんの姿。あれは敏感というだけでは説明できないほどに私の指に絆されていた。きっと普段であれば相応に声を抑えることも、そして潮を吹きだすようなこともしなかったはずだけれど、それでも歌っている中で、往来の場所であることを理解しながら、私の指で果てたのだ。
(それだけ刺激に夢中になる、ってことなのかな?)
そんな答えをなんとなく頭の中で整理するけれど、別に整理をしたところで意味はない。だって、すぐそこに状況は待っているのだから。
「──それじゃあ、行く、からね……」
お姉ちゃんはそれだけ言葉を漏らして、私へと指を運んできた。
■
正直、責めるようなプレイを今までにしたことがないから自信なんてなかった。いつも私は受け身で、蜜柑の好きなように体を触らせていただけでしかなかったから、その方法というものを私はよく知らない。たまに蜜柑の方から『触って?』と甘い声でねだられることもあるけれど、それでも言われていることをそのままに従っているだけで、それ以上のことはしていない。だから、正しい責め方なんて、蜜柑を動揺させるような触り方なんて、私は知らないのだ。
でも、ここでは負けられない、と私は強く思った。
──脳裏に過るのは、数週間前の禁欲生活。
蜜柑だけが、ええと、その。あの、……オナニーをして、そして私だけが触れなかった期間。触ることができていたとしても、結局蜜柑の指じゃないと満足できなかったあの期間。それを身をもって知った地獄のような期間。
そりゃ、あの期間を過ごした後、二人で一緒に行ったホテルではすごいことをしてもらったけれど、あれも刺激が強すぎてよくない。目の奥の、そのずうっと奥。脳が焼き切れてしまいそうな、真っ白い衝動に襲われて、自分が自分ではなくなるような感覚はもう味わいたくない。……いや、どうだろう。わからない。……わからない、としか言えない自分が悔しい。
ともかくとして、あの期間のようなことをまた再現するようなことにはなりたくない。あの真っ白い感覚、それまでの抱えていた子宮が窮屈になるような、あの苦しい疼き。あれに耐えるのなんてもうこりごりだ。一度経験してしまったからこそ、あの甘い苦しみを耐える日なんて既に想像するだけでも嫌になる。
だから、だからだ。だから、私はきちんと蜜柑を刺激しないといけない。どうにかして、私が出した点数以下にして、禁欲生活になることだけは阻止しなければ。
■
イントロが流れ始めている。ギターの音ともピアノの音とも言えないヘンテコな音がコーラスのように流れ始めて、蜜柑はそれに合わせてマイクを口へと近づけていく。
イントロの最中に触るのっていいのかな、って疑問に思う。私が先ほど歌ったときには、イントロのない曲を選んでしまったから前例がない。もしこのタイミングで触れてしまって、蜜柑に、それはずる、と言われてしまったらどうしよう。そう思っていまいち彼女に触れる勇気はなかった。
でも──。
「──触んなくていいのー?」
──そんな、挑発してくるような声、視線。ふふん、ともうどこか得意げになっているような表情。ちょっと憎らしく感じるほどに蜜柑には余裕がたっぷりで、私はそれが少しムカついた。
ええ、ええそうですか。わかりました、わかりましたとも。蜜柑がそういう気だって言うんなら、私だって考えがある。
……まだ歌詞は表示されていない。表示されていない、ということはまだ歌い始めるまで時間がある、ということだ。だったら──。
「──」
「──ふぇ──」
私は、彼女の唇に、……キスをした。
いつも夜中に彼女としているような、最初のキス。唇を合わせてその表面の感触を味わうようにするだけのキス。
蜜柑の口から少しだけ息が漏れてくる。息が漏れて、それが私の頬をくすぐってくる。
「お、お姉ちゃん、ちょっと──」
「──大丈夫、だから」
私は画面を横目にしながら、まだ歌詞が表示されていないことに安堵をする。そして、そのままの流れで……。
「──」
「──ん」
──舌を、彼女の口に入れていく。
蜜柑の言葉の抵抗の割には、それは容易く入ってくれる。ねじ込まなきゃいけないかな、とか思っていたけれど、容易く彼女は私に舌を差し出すように、互いにそれらを貪ろうとする。
──唾液の交換。舌を伸ばすだけ伸ばして、自然に垂れようとする彼女の唾液、私のよだれ、それを交換して、それから──。
「ひゃっ」
蜜柑から吐息が漏れた。
私は舌を伸ばして、唇で大きく彼女の口を塞いで、それを更に奥へと届かせる。
いつも蜜柑が私にしてくれること。私の口の裏を舐めとるようにくすぐってくれる、その動作を真似してみる。
(これ、くすぐったいけど、気持ちいいもんね。わかる、わかるよ……)
私は自らが感じていた経験を踏まえて、蜜柑ならどこが気持ちよくなるかを考えながら舌で彼女の口を刺激する。
まだ性器に触れてはいない。きっと蜜柑ならそうするから。
同時に刺激するようなことはいつもしていない。いや、その、……終盤になればそういうこともするけれど、最初は徐々に、だんだんと頭からなぞって下へと降りるように彼女は刺激してくる。だから、それと同じような流れを、いつもしてくれる流れを思い出しながら、私は彼女と舌を絡め続けた。
(あっ、もうそろそろ曲が始まる)
自分にも蜜柑の舌が届くことで、少しだけ背中をなぞるくすぐったさを覚えたものの、カラオケの画面を横目に見て、私はそれから口を離した。
先ほどまでつながっていたことを示す唾液の糸。私と蜜柑の間を吊り橋のように垂れていき、次第にそれはゆっくりと床へと落ちていく。
はあ、はあ、と呼吸を整えようとする蜜柑の姿。流石にもう歌い始めるということがわかっているから、これ以上キスを続けるようなことはしない。流石にそれはずるすぎるから、それを蜜柑に言われたらなすすべもないから。
……ええと、次はどこを刺激すればいいんだろう。
「──あなたの横顔や髪の──」
私がそんなことを考え始めている間に、蜜柑はようやくという具合に歌い始めた。長いと感じていたイントロも終わってしまって、時間が徐々に少なくなりつつあることを改めて私は認識する。
こんな考え事をしていてもしょうがない。考えている暇があるなら、さっさと蜜柑を気持ちよくさせて、歌える状態を崩さないと。
そう思いながら、私は蜜柑が私にいつもしていることを頭の中に反芻する。いつものこと、と考えながらも、同時に先ほど歌っている間にやられたことも瞬間的に思い出してしまう自分もいる。
……ええと、そうだ。耳をくすぐられていた。手とかではなく、口で、息を吹きかけられて、それで、耳を舐められたりした。
普段はああいうことを蜜柑はしていないからこそ、私は心の準備ができていなかった。だからこそ、まともに歌うことに意識が向かなかった、という部分はある。……いや、それ以前に点数勝負なのに触ってくる、ということにびっくりした部分はあるけれど──。
「──静かな──」
「──今から、耳、ふー、ってするね……」
一応の注意喚起。彼女の歌を妨害しないように、私は囁くような小さい声で蜜柑に伝えてみるけれど、蜜柑はそれだけで「ひゃいっ」と息を漏らした。
……ちょっとかわいいと思ってしまった。
でも、それはそれとして──。
「──ふー……」
「──んでぇ、……ぇた──」
確かにくすぐったさを感じていることを示すように、彼女の歌声が大きくなったり小さくなったり。もしくは動揺しているだけかもしれないけれど、それでも音程は震えていて、きちんと私がやっていることが間違いではないのを示しているような気がする。
……ええと、それで──。
「──はむっ、はむっ」
「──うすぁっ、じの、ポテトの──」
──私は、彼女の耳を食んでみた。
いきなり彼女の耳を舐める、という行動に移ることには抵抗があった。これに関しては汚い、とか、そういうことではなくて、人間としての本能というか、その、何とも言えない部分でためらいがあった。だから、代わりに耳を唇で挟むような甘噛みにしてみたのだけど。
「はむっ、はみっ」
「──しおっ、……すぎた、パスタの──」
私が思っている以上に蜜柑は私の行動に声で反応してくれる。
──ちょっと、楽しいかもしれない。
新しく感じた新鮮な心地に、私はそうして指を彼女の胸へと──。
受けが攻める側に立った時の目覚めって、なんかすごくよくないですか?
僕がそう思うので皆さんもそう思いますよね、ね?!