第三十二話
◇
「どうしたもんかなぁ……」
夕暮れの時間帯、とは言いつつも、実際には外の世界は暗い景色の中に包まれている。秋という季節が過ぎ去ろうとして、そこそこの冷たさを空気の中に孕ませる中、私はそんな独り言をつぶやいていた。
この声を聞く人は誰もいない。母はいつも通り夜遅くまでパートに出ているし、お姉ちゃんも最近部活のほうを頑張っているようで、しばらくは帰ってこない。
いや、それについては実際いいことだという風には理解している。正直、お姉ちゃんにオナニーや性的な行為を禁止した時には、部活にも身が入っていなかったようだし、私と関係を続けているうえで、それでもきちんと部活動に取り組めているのは本当にいいことだと思う。わかってる、わかってますとも。
でも、それはそれとして──。
「──最近、お姉ちゃんとの時間が作れてないっ!」
大げさなくらいに、私はさらにそんな独り言をつぶやいてしまった。
◇
最近、お姉ちゃんと身体を重ねる機会がとことん減ってきたような気がする。……気がする、というか、確実に。
今までは多くて毎日、少なくても二日、三日に一回はお姉ちゃんのあそこに触れてきた。もうそれは欠かせない習慣のようなものであり、そんな時間があったからこそ私は日常に勤しめていたというところがある。
けれども、最近の行為の頻度としては、だいたい週に一度か、多くて週に二度くらい。しかも、一回ヤった日の数時間後にヤる、というくらいで、結局週一でしかお姉ちゃんとの情事には励めていない。
いやあ、それはもうムラムラして仕方がないってやつだ。
だって、この前まではほとんど毎日お姉ちゃんの愛液をすすっていたわけで、お姉ちゃんの身体で遊んでいたわけで。さらに言えばお姉ちゃんの中の温度を指で理解していたわけで、指がふやける感触を覚えるほど彼女の中に指を入れていたわけで。
それなのに、今はそんな時間も週に一度。
……しかも、あのカラオケの日からずっとこんな感じ。
せっかくお姉ちゃんに勝ちを譲って、何をお願いされるのかなぁ、とか期待していたのに、お姉ちゃんは結局何もしてこない。
私がお願いについてお姉ちゃんに聞けば「それは今度、ね?」と微笑を含めた声でそう言ってくるもんだから、少し期待してしまう自分がいたのに、そんな期待を裏切るようにお姉ちゃんは本当に何もしてこない。
……やっぱり、あの時のカラオケで私が負ける選択肢をとったのは誤った判断なんじゃないか。やっぱり、ポリネシアンセックスというものを無理やりにでも敢行して、その上でお姉ちゃんの身体をむさぼればよかったんじゃないか。そう思ってしまう自分がいる。なんなら、今からでもお姉ちゃんに撮っておいた写真と動画を見せてやって、それで──。
「……でも、拒絶してるわけでもないんだよなぁ」
頻度は確かに減りはしたものの、それについてはお姉ちゃんがやりたくない、と声に出したわけじゃない。なんなら週に一度、部活動が休みの時には私の声に積極的に応えてくれるし、お姉ちゃんからも私に声をかけてくれることがある。だから、別に拒絶をされているわけではないのだ。
……あと──。
『──私も、蜜柑が大好きだよっ』
──あの時にお姉ちゃんから自然と出てきた、愛の告白の言葉。
私から言わせたわけではない、確かにお姉ちゃん自身から生まれた言葉。
それがあったからこそ、お姉ちゃんを無理に襲う、ということは気が引けてしまう。もしかしたらお姉ちゃんにはお姉ちゃんなりの考えがあるのかもしれないし、もし部活動で疲れているんだったら、さらに無理をさせてえっちをする、なんてこと、私はしたくない。
「……お姉ちゃんの動画でも見ながら抜くか」
結局、私にはそうすることしかできない。
以前ラブホテルへ一緒に行ったとき、ひたすらに私の指を求めていたときに撮影した動画。
もう、決まってこのオカズでしか私は抜けない。
そうして私はお姉ちゃんの痴態を画面に表示しながら、今日も寂しい身体を独りで慰めることしかできなかった。
□
「なんか、最近調子がいいね?」
バレー部の活動の休憩中、私が壁にもたれながらゆったりとしていると、部活仲間がそんな声をかけてきた。私は実際そんなことはないなぁ、と思いながら「え、そうかな?」と返してみるけれど、友達はそれを「またまたぁ」とからかうように笑ってくる。
「バレーもそうだけどぉ、なんか肌に艶があるっていうかさぁ? なんか、ちょっとだけ大人っぽくなったっていうかぁ?」
「なにそれ」
冗談のようにつぶやかれる友達の発言を耳にして、正直図星をつかれたような気がしたけれど、それを誤魔化すように言葉を選んでみる。
「……まあ、でも確かに調子はいいかも?」
「ほらー! やっぱり柚子だって自覚あるんじゃーん」
「へへ、そうですねぇ、ありますねぇ?」
……そりゃ、調子がいいことも、なんとなくその原因についても自分で分かり切っている。
ただ、わかりきってはいるものの、それでも彼女らにその原因を語ってしまえばどうなるか、くらいは想像に難くないから、あえて誤魔化すような言葉しか選ばない。こんなことを話せる人間は、結局のところ蜜柑しかいないだろうから。
「それで、なによ? ……彼氏とかできた?」
「ふふ、なにそれ。彼氏なんてできたことないよー」
これは本当。実際に彼氏なんてできたことはない。……もしかしたら彼女、というか、なんというか、まあ表現をするのは難しいけれど、ともかくそういう関係性しか今はいない。だから嘘はついてない。
「えー? それじゃあなにー? エステ? マッサージとか?」
「……ま、まあそういうやつかな!」
……これも、別にうそじゃない、はずだ。……基本的に、身体のマッサージ、というよりかは身体の中、心のマッサージに近い部分はあるかもしれないけれど、まあ、嘘はついていないはず。だから、うん、この返答で間違ってない、よね。
そんな私のあいまいな返事を聞いて、部活仲間は「やっぱりー!」と大げさな声を出す。
別に、そこまで劇的な変化が私にあったわけではないと思うけれど、それでも友達はその理由を知りたいようで、「やっぱりマッサージって効くよねぇ」なんて相槌を打ってくる。「う、うん、そうだね」なんて誤魔化しながら笑みを浮かべているけれど、それでも私の言葉に納得してくれた友達はそれ以上に話題を広げることはしなかった。
(……あっ)
そんな頃合いで、なんとなく思いついた単語、引っかかった言葉。
(……ふふ、今度蜜柑ちゃんに
ようやく決まった蜜柑ちゃんへのお願いに、私はどこかすっきりとした気分になった。
というわけで、レズエステ・マッサージ編開始です。不定期ではありますが、なるべく頑張って書くのでよろしくお願いいたします!