◇
そうして乗り気になったはいいものの、そのあとに至った状況について不思議な気持ちを抱いてしまう。
「え、ええとさ? マッサージなのはわかってるんだけどさ? ──裸になる必要はないんじゃない……?」
お姉ちゃんの部屋、ベッドの上、裸、うつ伏せで。
一応、肌を隠すように茶色のタオルが私の身体には置かれている。私が横になっているベッドの上に一枚、そして肌を晒している背中に対しても一枚。
いや、割とノリノリで裸になってしまった私も問題ではあるけれど、普通のマッサージだったら裸になる必要はないのでは? 脱いだ後になってそう思ってしまう自分がいる。
率直に思ってしまった疑問をお姉ちゃんにぶつけてみると、横目にした彼女は首をきょとんと傾げながら「え? そうかな」と返してくる。
まるで本当に何もおかしくはない、というような雰囲気。……いや、そんなわけないでしょ。
「ええと、ほら。マッサージって肩揉みとか、ほら腰揉んだり、とか? そういうやつじゃないの?」
「うん? そうだけど……」
私がいちいち説明するように言葉を選んでいるけれど、それでもお姉ちゃんは何も不思議ではないように返答してくる。
いや、だったら尚更裸になる必要性なんてないはずだ。……正直、こういうのも新鮮味があって面白いような気もするけれど、なんか普通のことをするのに裸でいる、っていう状況はどうしたって違和感があって恥ずかしい。そりゃえっちなことをするのならば恥ずかしさなんて少なくなるけれど、こうまじまじと見つめられる状況に関してはどうしても恥ずかしさを思い出してしまう。
一応、お姉ちゃんの部屋の中は暖房が効いてくれているから暖かい。ただ、それはそれとしてもしお母さんが帰ってきて部屋を覗いてきたら、という状況を想像すると、どうしたって焦燥感も心の中に蟠ってくる。
けれど、お姉ちゃんはそんな私を他所に、ふふ、と微笑みを浮かべている。どこか得意げ、ともいえる様子に私は少し胸がドキドキする感覚を違う意味で覚えた。
「ええとね? 今回やるのは本格的なマッサージ、というか、エステ? みたいなことをしたくてね? ……この前、バレー部のお友達とも話したんだけど、実際のエステのお店だと裸になるんだって。だから、私もそんな感じでやろうかな、って……。……嫌だった?」
「ぜ、全然? 嫌じゃない、嫌じゃないよ?」
また卑怯としか言えない不安そうな顔をお姉ちゃんは浮かべながら私に聞いてくるものだから、私はそれに堪えられずに気丈な振る舞いをして返してみる。
……というかなんだよそのエステ店。行ったことないけど、そういうのってアダルトビデオの世界だけの話じゃないの? 知らんけど。
私の返事にお姉ちゃんはそれからにっこりと微笑みを浮かべながら、それから言葉を並べていく。
「思い立ったら吉日、ってことでね。今日色々買ってきたんだー。ほら、蜜柑ちゃんにかけているタオルでしょ、加湿用のアロマオイルでしょ、エステ用のオイルに、ツボを押すための棒とかも買ってきたの。……これ、ただの棒なのに高かったんだよね。あんまりお小遣いとか使ってなかったのに、結構持ってかれちゃったっ」
「そうなんだ……」
そうして横目に見える道具のそれぞれ。お姉ちゃんの勉強机に乗っかっているものは、確かにそういったエステ店にありそうな代物ばかり。いや、行ったこともないし、映像で見たこともないから知らないとしか言いようがないけれど。ただ、それでも特に目がつくものとすれば、なんか樽? みたいな容器に入れられている何かと、そして実際にもう使っている加湿器、くらいだろうか。
……マジでこれ、本当に本格的なエステマッサージを施す気じゃん。
そう思うと、ここまで本気でやろうとしているお姉ちゃんに対してちょっと引き気味になってしまう自分もいるけれど、それはそれとして初めて体験することにワクワクしてしまう自分も少なからずいる。
ま、気持ちいいことには変わりないか! ……性的な快楽、というよりかは身体的な快楽でしかないけれど。
ここはお姉ちゃんの手さばきに身を委ねて、とりあえずマッサージを味わうしかないな、と私は気持ちを切り替えることにした。
◇
部屋の中は心地のいい空気に満たされている。
お姉ちゃんのベッドの上、というのもあるけれど、お姉ちゃんの匂いが鼻腔を包んでいたり、もしくは加湿器でアロマというものを使っていたり、いろいろと、いいなぁ、と思う要素で私の心を満たしてくる。
正直、マッサージというものを受けたことがないから、どのような心地なのかはわからない。たまに両親をマッサージすることくらいは小学生の時にはあったけれど、マッサージをされる、ということは本当にない。強いて言うのなら、女友達の間で悪戯みたいに肩揉みをされたくらいだろうか。それでさえもあんまり心地よさは感じなかったけれど。
「それじゃあ、始めていくね」
お姉ちゃんはそう言いながら、私の方へと近づいてくる。
まだマッサージオイル? らしきものは使わないようで、それらはお姉ちゃんの勉強机に置かれている。……というか、あの樽みたいなやつ、よくよくコンセントみたいなものがついている。どういう用途でついているんだろう、とそう思ったとき──。
「──うぃひっ?!」
──素っ頓狂な声が、自分の喉から漏れてしまった。
……別に、変なところを触られたわけではない。変なところ、というか、えっちなところというか、ともかくそういった場所を触られたわけではない。
お姉ちゃんが触れてきた部分は、首。
ちょっとひんやりした肌の感触が首に触れたから、そんな声が出てしまっただけだ。
「大丈夫? 痛かった?」
「い、いや、違う! ちょっと冷たいな、ってそう思って……」
私がそう声を返すと「あ、そうだね? ごめんね?」と謝罪をするお姉ちゃん。
「でも、蜜柑ちゃんの身体温かいねぇ。ずっと触っていたくなっちゃう」
もみ、もみ。
首の付け根の部分、骨しかないような部分を、少し冷たく感じるような肌が、少しだけ強めに揉んでくる。
「お、おお……」
お姉ちゃんの台詞をちょっとえっちな感じに変換しながら、その上で首のマッサージを受けると、なんか昂る部分が出てくるような気がする。……いや、至極まっとうなマッサージでしかないんだけれど。
「結構首の横とか張ってるね? 携帯の見過ぎとか、なのかな?」
「ん、んんん、……どうなんだ、ろう。確かに、ちょっと見すぎかもぉ……」
……結構、悪くないかもしれない。
ただ首の付け根とその左右の部分を揉まれているだけなんだけれど、確かに張っている部分を柔らかくするように、揉み解すお姉ちゃんの手が、指が気持ちいい。
「あんまりスマホばっかみちゃだめだよー? ……まあ、ここは勉強とかしていてもなるらしいからね。仕方ないと思うけど」
「そ、そうだねぇ……。なるべく気を付けるぅ……」
もみ、もみ。もみ、もみ。
揉まれるたびに、あー、とか、うー、とか声が漏れてしまう自分がいる。ただ揉まれているだけなのに、そんな声を出してしまうやつなんているかいな、と昔マッサージをしていた時には思っていたものの、そんな思いを裏切るみたいに結構気持ちがいい。
だんだんと首の周りが熱くなってくる感覚。なんだろう、血液が回っている、みたいな、そんな感じと言えばいいのだろうか。
「うんうん、結構ほぐれてきたね。それじゃあ次は肩とかいっちゃうよ?」
「……ああ、うん。ええと、お願いします」
結構心地がいいものだとは知らなかったから、眠たげな声で返答をしてしまう。というか、このまま眠ってしまいたいような、そんな感覚が近づいてきている。……いや、せっかくお姉ちゃんがマッサージしてくれているのに眠るなんてもったいなさ過ぎるから起きますけれども。
そうして言葉通りにお姉ちゃんの手は肩に触れていく。先ほど感じていたひんやりとした手は私の体温に絆されていて、特に声をあげることもなかった。なんか、自分の温度がお姉ちゃんにもうつっている、と思うと、心なしか嬉しい気持ちになる、気がする。
「結構肩も凝ってるね……。これもスマートフォンのやりすぎとか、ずっと同じ姿勢でいると凝るって言われてるから、適度に運動した方がいいかも……」
「……確かにぃ。最近あんまり運動してないから、なぁ……」
お姉ちゃんとの性行為を運動として捉えたら、もしかしたらいい頻度になるのでは、とか一瞬思ったけれど、それさえも週一だし、適度な運動とは言えないかもしれない。……なんなら、指の動きがメインだし。うん。
もみ、もみ。もみ、もみ。
お姉ちゃんの両手が肩に触れてくれる。上側にある筋肉。それから背中の骨の付け根、というか肩甲骨。それらを全体で円で刺激するように、ゆっくり、ゆっくりと──。
「──ちょっと立ってるままだとやりづらいから、蜜柑ちゃんに乗っかってもいいかな?」
「え、あ、うん。いいよぉ……」
まあ、ベッドの位置が高いわけでもないし、お姉ちゃんが立ちっぱなしでやるのはしんどいかもしれない。私はお姉ちゃんの声に返事をして、それからやってくる衝撃に少しの心の準備をして──。
──もみっ、もみっ。
「──ひぇっ?!」
──乗っかってくるお姉ちゃんの体重、そしてつかの間にもまれる臀部、お尻の部分。
「あっ、ごめんね? 体重どこにのせればいいかわからなくて……」
そう、背中から聞こえてくる言葉。
「う、うん。大丈夫。ちょ、ちょっとだけびっくりしただけだから」
……うん、ちょっとびっくりしただけ。そこらへんはマッサージされないよな、って思っていたから、ほんの少しだけびっくりしただけです。……でも、なぜ揉んだし。
そんな誰に言うでもない言い訳を心の中で並べていると、お姉ちゃんは再び肩の方へと手を運んでくる。
……うん、わざとではないっぽい。まあ、お姉ちゃんだしな。
私は後にその思いを
おっと、柚子ちゃんの様子が……?