◇
「本当にごめんね」
お姉ちゃんはそう言いながら私の頭を撫でてくれる。その頭を撫でてくれる手の心地よさ、そして口の中にあったお姉ちゃんの唾液が、頭をさらにぼうっとさせてくる。
さっきまでは恥ずかしさだけがあって苦しかったのに、お姉ちゃんか『よくできたね』なんて誉め言葉をもらって、感情がわからなくなる。慰められているわけでもないのに、それでも、お姉ちゃんは誉めてくれたのだから、お漏らしをしてもいいんだ、という気持ちになった。
「とりあえずタオル変えよ? このままだとマッサージも難しいし、蜜柑ちゃんも変な感じしちゃうもんね」
「……」
呆然としながらお姉ちゃんの言葉に頷いていく。そんな頷きをしながらも、結局はその言葉をきちんと理解することはできていなくて、ただ促されるままにされていく。
お姉ちゃんはベッドと私の身体の上に敷いていたタオルを取り払っていく。裸のままだと少し寒さを感じてしまう部分がある。一度お風呂に入りたいな、という気持ちもあったけれど、それは心の中でだけ思って、口にはしないでおく。なんとなく、私がお風呂に行ったらお姉ちゃんが悲しんじゃうかなって、そう思ったから。
そうしてお姉ちゃんはベッドの上を少しだけ片付けていく。幸いシーツまで私のおしっこは沁みていないようでよかった。もし沁みていたら、後処理が面倒というだけでは済まないだろうから。
「じゃあ、今度は仰向けになってもらっていい、かな?」
「……うん、わかった」
ぼうっとした頭で返事をする。もうマッサージをするところなんて正直ないって思っていたけれど、お姉ちゃんがそういうのであれば従うしかない。きっと、ほかにもマッサージをする箇所があるのだろう。私にはわからないことは、ぜんぶお姉ちゃんに任せてしまえばいい。
──そんな反面、私はお姉ちゃんに期待していた。
だって、こんなマッサージおかしいもん。最初こそは順当なマッサージではあった気がする。裸ではあったけれど、納得できた。確かに筋肉をほぐすという意味合いでは気持ちよかったし、マッサージされている、という実感があった。
……でも、さっきのは?
それがお姉ちゃんによる悪戯であったとしても、それでもあそこまでするのだろうか。
くすぐって、そこから私をおもらしさせて。
正直、まあそこまでは理解できる。悪戯をやり過ぎてしまう子供みたいに、そんな感じで行き過ぎてしまった結果がアレならば理解できる、けど。
『──よくできたね、みかんちゃん』
『……ごめんね? 私、みかんちゃんの可愛いところが見たかったから──』
『──本当に可愛いよ、みかんちゃん』
そんな声掛けとともに行われた、優しいキス。
あれは、絶対にマッサージじゃない。
だからこそ、私は期待を強く抱かずにはいられないのだ。
◇
お姉ちゃんの言葉の通りに従って、私はベッドで仰向けになる。
裸の状態で、しかも仰向けで寝転がることには少しだけ抵抗がある。一人でオナニーをするときだって、全裸でやることはない。そんな違和感からソワソワとした感覚を抱いては、私はお姉ちゃんがこれからすることを想像しながら、ただ唾を飲み込んでいく。
「うんうん、みかんちゃんはえらいね」
お姉ちゃんはそう言いながら、私の頭を再び撫でる。
まるでペットを甘やかすような、そんな振る舞い。もしくは姉の振舞いという風にも感じるけれど、それでも甘やかしすぎているその声音に、私はへその奥が窮屈になる錯覚を覚えずにはいられなかった。
……きっと、私が犬だったら尻尾がたくさん振れてるんだろうな。
それくらい、純真な期待を抱きながら、私はお姉ちゃんの手にその身を委ねていく。
……けど。
「じゃあ、次は鎖骨部分から始めていくね」
「……え、あ、……うん」
そこから始まるのは、いたって普通のマッサージでしかなかった。
◇
首元からほぐしていくようなマッサージ。背中からだけでは押されなかった部分、そこを揉まれては熱くなる感覚。
首元から肩に移って、そこから言葉の通り鎖骨の部分を重点的に。少し痛い、と声に出せば、そうだよね、と言って肩へと手が伸びていく。
(なんで、なんでそっちなの……? もっと触りたい場所、あるんじゃないの……?)
私は胸に手が伸びると、そう思っていた。
あのままの空気であれば、そのまま胸へと手が触れて、そのまま卑猥なことをされると期待していた。
胸を揉まれて、乳首をつままれ、引っ張られてこすられる。
そんなマッサージではない性的な行為を期待しているのに、それでもお姉ちゃんは胸には触れずに、ただ普通のマッサージを繰り返している。
「二の腕柔らかいねぇ」
「……」
「やっぱ、ぷにぷにしてるところって、ずっと触りたくなるよね」
「……そう、だね」
それだったら、もっと触りたい場所があるはずでしょ。
そう声に出したかった。声に出して、お姉ちゃんの指で触れてほしかった。
でも、それでも声にすることはできない。もしかしたら、焦らしてから私の期待通りにしてくれるかもしれないし、それとも次こそは触れてくれるのかもしれない。そんな思惑が頭の中にあるからこそ、言葉にはせずお姉ちゃんの指をただ見つめていく。
二の腕、肘、手首、指先。最初は私の左腕から触れていき、それから右腕の方へと移っていく。順番はやはり変わらないままで、肩の付け根からゆっくりと下に移るような、そんなマッサージ。
(なんで、なんで、なんで……)
──いつまでも、いつまでも私の触れてほしい場所に触れてくれない。なんで? なんで?
お姉ちゃんは私の身体に触りたいんでしょう? えっちなところに触りたいんでしょう? 私の胸、そんなに大きくないけど、さっきは触りたいって言ってくれたじゃん。さっきは触ってくれたじゃん。胸をこねるようにして、乳首をつまんで引っ張ってくれたじゃん。ねえ、なんで? えっちなことしたくないの? 私の身体のえっちなところ、柔らかいところを触りたいんじゃないの?
だんだんと憤りが目に宿る。私が勝手にお姉ちゃんへと期待しているだけなのに、先ほどのお姉ちゃんの行為が悪戯でしかなかった、とわかるたびに、胸が苦しくなる。
なんで、さっきはキスしてくれたの? 頭を撫でてくれたの? 好きって言ってくれたのに、なんでえっちなことしてくれないの? やだ、触ってほしい。お姉ちゃんから触ってほしいのに。
「──ずっと、私の手を見てどうしたの? みかんちゃん」
「──え……」
そんな憤りの視線は、そのままお姉ちゃんの指先に言っていたらしい。
その視線に気づいたお姉ちゃんは、純粋な疑問を浮かべるようにそう声をかけてくる。
「ずっと、ずうっと私の手を見てるね? なんかあった?」
「……」
なんで、そんなこと言ってくるの。私をどうしたいの。
そう声に吐き出したい。吐き出したいけれど、勝手に期待した私がばかなだけだし、それで私のことを大好きって言ってくれたお姉ちゃんに嫌われたくない。
だから、なんでもない、って返そうとした。
返そうとした、けれど。
「なんでもな──」
「──自分で、お願いしてみて?」
「────」
「────してほしいなら、自分からお願いしなきゃ、……ね?」
「──────」
お姉ちゃんは確かにそういった。
小悪魔みたいなかわいらしい笑顔で私の心をくすぐりながら、確かに『おねだり』を要求してきたのであった。
柚子、覚醒。
……え? もともとしてたって? こまけぇこたぁいいんですよ!