◇
お姉ちゃんは確かにそう言った。
『してほしいなら、自分からお願いしなきゃ。……ね?』
さも当然というように、当たり前のことのようにそう言ってのけた。それは、私が知っているいつものお姉ちゃんの言葉ではなかった。
──だからこそ私は、なにそれ、って少しだけ悔しい気持ちを抱いてしまった。
なんでそう思ってしまったかって誰かから聞かれるのであれば、それは私だけが行える特権というか、権利というか。私だけがお姉ちゃんにやっていいことだと、そう思っていたから。
淫らに快楽を懇願するための言葉、おねだり。
それは私が可愛いお姉ちゃんを指でよがらせながら、その上でお姉ちゃんにしてもらう行為であって、私がするものではなかった。少なくとも昨日まではそうだった。
そりゃあ、カラオケの時はお願いした。だって、たまには攻守交替があってもいいな、ってそう思ったから。私を攻めてくれるお姉ちゃんがいるだけで嬉しかったから。
でも、だからこそノーカンだ。いつだって私はお姉ちゃんの身体を攻めていたいし、弄っていたい。
そんな気持ちがあるせいか、どうしたって納得できない気持ちがある。私がいつもお姉ちゃんの身体を好き勝手にしているのに、今日はお姉ちゃんが私の身体を好き勝手にしている。
──でも、それでも。
「……い、いじって、ください」
その指先を求める衝動を抑えることはできないのだけれど。
◇
私は恥ずかしくなりながらも、それでもおねだりをした。声が上ずりながら、震えた視線でお姉ちゃんの指を見続けていた。
お姉ちゃんはそれを理解しているように、くいくい、と指を動かすふりをする。こういう風に膣壁をこね回すんだよ、と示しているようで、さっさと私の中に入れてほしかった。
ずっと生殺しだ。お姉ちゃんに弄ってほしい、弄ってほしくない。お姉ちゃんに負けたい、お姉ちゃんに負けたくない。でも気持ちよくなりたい、お姉ちゃんが私のことを気持ちよくしてくれるのであれば、それでいい。もう攻守とか関係ない。お姉ちゃんが私のことを好きで、その上で身体を好き勝手にしてくれるのであればなんでも許せる。早く、早くその指でこねくり回してほしい。
そんな気持ちが、そんな淫らな欲が心の中で止まらない。もう心も身体もお姉ちゃんの身体に屈服していて、その指先に視線が釘付けになってしまっている。ねえ、さっさと指を入れてよ、膣の中で指を広げてほしい。欲しいところを強く押し込んでほしい。あわよくば引っ掻いてくれてもいい。爪は嫌だけど、でも、それくらいの刺激が欲しい。舐めてほしい。私の性器を舐めて味わってほしい。そんな気持ちが止まらない。
けれど、指は入ってこない。
「な、なんで……」
おねだりはした。ちゃんとおねだりした。いつも強がってお姉ちゃんを弄っている私が、みっともないお願いをした。恥ずかしかった。お漏らしと同じくらい、いや、それ以上に心が傷ついたような気がする。いつもであれば私がお姉ちゃんをこうさせているのに、それだけで私は嬉しくなるのに、そんな私がお姉ちゃんにおねだりをしてあげたのだ。
でも、指はいつまでも私の視線の先にいる。くい、くい、と挑発するようにしながら、だんだんと下腹部に近づいてはいる。けれど、それでもあそこに近づくことはない。
ただ、お腹の表面を撫でるようにした。へその下、その辺りで手マンをするような動きを繰り返している。へその奥にある子宮にかすかにその動きが伝わってくる。けど、それだけ。もどかしい気持ちは止まらない。
「ね、ねえ? お、おねだりしたよ? したでしょ? だ、だから──」
「──まだ、言ってないよ?」
「……え?」
私はお姉ちゃんの言っていることがわからなかった。だって、私は確かに言った。いじってください、と確かに声を出したはずだ。声は小さくなかった。恥ずかしいけれどちゃんと言葉にした。上ずってしまった部分はあるけれど、聞き取れないほどのものでもないはずだ。だから、もうその指は私の中に入れる義務がある。
けれど、それでもお姉ちゃんは指を入れてくれない。いつまでもいつまでも、ただお腹の上で手マンの真似事を私に示すだけで、それ以上のことはしてくれない。せめてお腹だけでも押してくれればうれしいのに、そうすることもしてくれない。膣が、膣内が、子宮から空気が失せたような苦しい感覚。その苦しさをほぐすために、指を入れてほしいのに、いつまでもお姉ちゃんは入れてくれない。
「い、言ったよ? ちゃんと、いじって、っておねがいした、したじゃん!」
もうお姉ちゃんの真似事が嫌になって、私は大きな声でそう言った。いつもなら私が攻めている、という事実からの反骨精神も手伝って、確かに大きな声でお姉ちゃんに言った。
それにお姉ちゃんは頷く。
「確かにそれは言ってたね? ……でもね」
くすくす、とニヤニヤした微笑を浮かべながら、揶揄うみたいに言葉を続ける──。
「──お姉ちゃん大好き、ってまだ言ってないから、入れてあーげないっ」
◆
人が変わったようだ、と私は思った。
ああ、そうだ。ここ最近のお姉ちゃんは確かに少し変だった。
確かに回数は夏に比べて減ってしまっていたけれど、それでも以前よりも行為に対しては積極性があった。たまには私のことをクンニしてくれるし、喜んでシックスナインもしてくれる。お姉ちゃんから私にしてくれることも増えていたし、いい傾向だな、と思っていた。
でも、それでも私が欲求不満のような状態になった。そして、今、その原因がなんとなくわかった。
──ああ、私っていつの間にかネコにされてたんだ。
そうだ、わかった。今になってようやくわかった。
ここ最近、ずっとお姉ちゃんとえっちしているとき、お姉ちゃんの身体に触れる時間がだんだんと短くなっていった。それでも行為には応えてくれるし、イかせてくれるし、イかせることもある。けれど、それでも以前と比べれば、私が九割タチでお姉ちゃんを攻めていたのに対して、今は五分五分といった具合。
──あのカラオケの日から、私はお姉ちゃんに攻められる人間になってたんだ。
やだ、やだ。悔しいから言いたくない。言いたくない。言ってしまえば負けてしまう。
これはお姉ちゃんの身体を弄る私だけの特権で、この前のカラオケは特別に解禁してあげただけで、本当は私だけがやっていいことで、私が言ってはいけないことで。
お姉ちゃんが大好き。大好きだけど、それでも私が上である、というように私はお姉ちゃんをイかせ続けたい。姉妹で、レズで、攻めとか受けとかで上下関係なんてないけれど、それでも私はお姉ちゃんを攻めていたい、タチでいたい。そうすることで好き勝手にしていたい。
ここで、お姉ちゃんの言葉通りにおねだりをしてしまえば、大好きと素直に気持ちを吐き出しながら、そうして彼女の指にすべてを委ねてしまえば、それで私は心の底から堕ちることになる。それは快楽というだけではなく、人間のランクというかなんというか。ともかく、お姉ちゃんの上には立てなくなる。
でも、やだ。触ってほしい──だめ、触ってほしいって思ったら負けちゃう──お姉ちゃんにほぐしてほしい──絶対に言っちゃだめ、言ったらもう戻れなくなる──お姉ちゃん大好き、お姉ちゃん大好き、私のほうが大好きだもん──私の方がお姉ちゃんを先に好きだったのにずるい、だから私が攻めていたいのに──。
──恥ずかしい気持ち、それでも言わなければいけない気持ち。お姉ちゃんに触ってもらいたい気持ち、確かにお姉ちゃんが大好きである感情、そのすべてが、早く言え、って背中を押してくる──だめ、抗わなきゃだめ──。でも気持ちよくしてもらえるよ──そうだけど、だめ。私がお姉ちゃんを気持ちよくしてあげたいんだから──。
──でも──でも──。
「──お姉ちゃん大好き! 大好きなお姉ちゃんの指で、私のおまんこいじってくださいっ!」
──もう、いいよね!
だって、私、妹なんだもん!
お姉ちゃんの妹なんだから、お姉ちゃんの言うこと、聞かなきゃだめなんだもん!
「──よくできました」
お姉ちゃんが私の頭を撫でながらそう言って──。
──待ち望んでいた、大好きなお姉ちゃんの、その指が……。
──ずにゅ、にゅるるるる。
……私の中に入ってきた! 入ってきてくれた!
蜜柑ちゃん、──堕ちる。
タチ(攻め)にもタチなりのプライドがありますからね、それがいつの間にか逆転していることには相応の衝撃があると思ったので、きちんとこれを書いておきたかったのです。
次回、激エロにします。お楽しみに。